26 邪霊 3
人間もそうだけど、いきなりすっと指で指されて方向を示されるとついそっちを見たくなるよね。
それが強力な攻撃が用意されているぞ、という前置きを置いて、嘲るような笑みを添えてやればどうなるか。
多面の頭部であっても真上には顔はなく、視線を向けるには見上げるしかない。
「はい、馬鹿がいた」
こんな戦闘中に視線を逸らすやつがどこにいると言うのか。
こうも見事に首を晒す馬鹿がいるとは思わなかった。
真上には何もない。
御庭番衆もエンターテイナーたちもそこにいない、ただの空が広がり。
空中に滞空できる闇さんと次女さんは別方向で攻撃をしている。
あるように装っただけで、実際には何もない。
挑発って、こういう思考誘導もできるから便利なんだよね。
「その首、置いていけ」
そんなことを思いつつ、無様に首をさらけ出したドーラスにめがけて思いっきり振りかぶるように鎌槍を構えてマジックエッジで巨大な刃を作り出す。
大ぶりな攻撃を当てるにはフェイントの小技からのスタートが常道だ。
「首狩り」
横一閃。
喉から首の骨までを真正面から断つ、断頭の一撃。
『ウゴ!?』
喉を切り裂かれて、叫べぬドーラスの口から出てきたのは異音。
これで倒せれば一番楽なんだけど、切り裂いた首でもすぐに再生し始めている。
まったく、タフな敵は倒すのが面倒でよろしくない。
『無様を晒したな!ドーラス!』
しかし、最初と違いこちらには魔法攻撃が加わっている。
首を切り割かれ、動きが一瞬といえど止まれば闇さんが動き、その隙をついて再び闇の杭が喉を貫通して、串刺し刑のような光景を生み出す。
『雷だ!』
『指図しないで!』
その杭の前に現れる次女さん。
全力の雷を放つ直前故か、その体から稲妻が迸り、近づくこともできない。
俺が距離を取った直後に光る稲光。
『■■■■■■■■■■!?』
杭を伝って中から雷に焼かれるドーラス。
普通ならこれで死ぬんだけど、ギロリとドーラスの顔の目が動き、次女さんを睨みつけ、筋肉が稲妻で痙攣して動けないはずなのに動き、鉄槌を振り下ろそうとしてきた。
『当たらないわよ!!』
だが、相手は雷を司る精霊。
その身を雷にして、素早く後退してその攻撃を回避した次女さん。
それによって雷から解放されたドーラスは、そのまま喉に突き刺さった闇の杭を引き抜いてしまった。
「ほんと、タフだねぇ」
『だが、多くの魔力を消費させたはずだ』
『ええ、私たちと違って自然から魔力を補給できていないからもう後はないはずよ』
生き物なら即死級の攻撃を受けてなお、動くドーラスに呆れと感嘆を含んだため息を吐きだしつつ、それでも残りの命は少ないはずと構えをとる。
『おのれ、貴様らぁ!!』
「あーあ、完全に頭に血が上ってらぁ」
『俺は精霊たちのことを思って立ち上がったというのに、それなのになぜ貴様らは俺に歯向かう!!』
「と、申していますが精霊のお二人のご意見は?」
そんな窮地になって叫び出し、出てきた言葉は何ともお約束な大義名分による自己肯定。
これもお約束だけど、一応出てきた言葉であるから、その真意を隣に立つ2人に聞いておく。
『ふん、人類支配が我らのためか。ふん、愚かだな』
『あんたの思想が嫌いだから邪魔してるのよ』
「闇さん、闇さん、もしかしてドーラスって人類支配主義のタカ派か?」
『うむ、人類融和派の精霊王と異なり人類を支配して精霊による世界統一を掲げていたな』
精霊界にいる精霊は、人間と距離を置いているように見えるが全員がそういうわけではない。
中には自然を破壊し村や町を作り、環境を汚染する人間を蛇蝎のごとく嫌う精霊だっている。
今の精霊王は人類との距離を適切に保とうとする融和派で、そして基本的に精霊たちは温和だ。
だからこそ、人類を敵視している精霊の存在はあまり見ない。
邪霊に堕ちやすいのはこういう過激思想タイプの精霊が多く、ドーラスが精霊王と争ったのもこの論点が主軸だったのだろう。
「支持してたお仲間さんとか普通にいそうだな」
『いたにはいたな』
『ただ、あそこまで拗らせて、人類撲滅!みたいなやつは本当に少ないわね』
FBOでもたまに、本当に嫌悪感を向けてくる精霊はいた。
その手のタイプは、精霊術を使っても契約することはできなかった記憶がある。
『その精霊たちも今や改心しておるがな』
「え、改心してるの?」
近寄らなければ問題ないし、大勢の友好的な精霊に囲まれていたからタカ派の精霊は近づけないしな。
『ああ、アミナちゃんのライブを見てな』
「ああ」
そもそも、タカ派自体が消滅しかかっていたか。
「となると・・・・・」
過去ドーラスがどんなことをしていたかはわからないが。
「完全にボッチ?」
その志を一緒にしていた精霊たちも、今ではアミナのライブに参加してサイリウムを振っている。
そしてその波に乗れていなかったドーラスは、ただ一人野望を叫ぶ。
『『プッ』』
俺の素直な言葉が思わず零れ落ち、闇さんと次女さんが同時に顔を背けて口元を押さえた。
笑うのを必死に堪え、肩を震わせている姿は戦場には似つかわしくないが、どうやらツボに入ったらしい。
『ボッチ・・・・・ああ、そうだな。クククク』
『なぜかしら、笑いが止まらないわね』
煽りスイッチの切り忘れによる、追撃。
『貴様らぁ!!!好き勝手を言って、ただで済むと思うなよ!!』
それによって再び怒りが沸き上がり、ドーラスはチンピラのようなセリフを吐き出し暴れはじめる。
「これ以上の狼藉は私が許しませんわ」
しかし、その暴れるのを阻害するように吹雪がドーラスを襲う。
火の精霊に対して氷属性の魔法は効果が高い。
加えて、スキル使用者である人物は、並大抵の存在ではない。
「リベルタ。遅くなりましたわ。避難は無事完了。これより戦線に合流させてもらいますわ」
クラス8の我らがパーティーの魔王様の登場だ。
是非ともBGMで処刑ソングを流したい。
「いいタイミングだ。今日の主役はエスメラルダかな?」
「そのように期待されるのでしたら、ええ、応えましょう!!」
勝ち筋は元々あったが、それが強化され、さらに前倒しとなる。
ドーラスにとっては一番登場してほしくない人物の登場。
魔力を滾らせ、冷徹な笑みを浮かべるエスメラルダ。
その背後に現れるのは氷の砲塔。
「私たちの街に土足で踏み入り、荒らした罪をここで清算させますわ!!」
遠慮なく、そして全力で打ち出される氷の砲弾。
弾速は遅いが、火力は出るアイスカノン。
避けることはドーラスでもできるはずだが、周囲を御庭番衆とエンターテイナーたちに囲まれている現状、躱すことができない。
『グア!?』
怒りの熱をも冷ますような、気付けの一発は、見事に腹のど真ん中に直撃。
『ふむ、エスメラルダ殿も来た。なれば温存する必要も無し。久方ぶりに本気を出すぞ!!』
『ええ!』
その威力を見て、決着が近いと判断した闇さんは大きな闇を纏い始めてその体を巨体化していく。
その隣で、次女さんも雷を纏いその姿を変容させていく。
闇の中から現れるのは暗黒竜。
いつぞやの牢屋の前で披露した時よりも、大きくそして艶やかな黒い鱗を纏った竜がそこに顕現する。
『行くぞ!!』
そして口から吐き出される、ブレスは黒いレーザーのような物だ。
そのブレスを放った直後に大きく広げた翼を羽ばたかせて、闇さんは天に舞い上がる。
異形の巨人と黒い竜という怪獣大決戦のような光景の中、蹄の音が響く。
『リベルタ、乗りなさい』
「次女さん」
俺の隣に現れた、黄金のたてがみをなびかせる綺麗な一角の馬。
一瞬、ユニコーンかとも思ったが、違う。
敢えて言うなら、神々しい馬の神獣と言えばいいだろうか。
そんな存在に背に乗れと言われ、迷わず飛び乗り。
「御庭番衆はエスメラルダを守れ!エンターテイナー!そのままかく乱!エスメラルダは攻撃を続行!!」
槍を構え、指揮を執る。
「「「「「おう!」」」」
「「「「任せろ!」」」」
「承知しましたわ!」
そして俺が跨ったのを確認した、次女さんはそのまま走り出す。
蹄が地面を蹴ったのはたった一度。
その後は足元に雷が迸り、空を駆ける。
『このまま正面に出るわ!』
「わかった!」
その速度は並みの馬ではどうあがいても出せない。
精霊は別の姿を色々な形で持つが、馬といった騎獣に向いた姿は珍しい。
迸る雷は俺の体を傷つけることなく、俺を守るように纏われて、ドーラスを目指す。
空を蹴るのではなく、雷を踏みしめて駆ける彼女の背に乗り、槍を構え、竜へと変化した闇さんとの交戦に忙しいドーラスの顔の前に躍り出て、マジックエッジで刃先を伸ばした鎌槍で両目を横一閃に切り裂く。
『っ!まだ!』
その傷も、通り過ぎた際に走った雷によって焼かれ再生を遅らせる。
『そこか!』
通り過ぎようとする俺たちにめがけ、別の面の口が開き、そこから炎が吐き出された。
しかし、その攻撃を一瞬次女さんはちらりと見ただけで、それよりも早く駆け抜け炎から距離を置き、旋回して躱し、再び突撃体勢に入った。
『まだまだ速度を上げるわよ!!』
「おうとも!!もっと速くていいぞ!!」
『ええ、上げていくわよ!!』
騎馬戦は初めてではない。
むしろ、そういうビルドを作って、使っていたこともあったが、その経験を踏まえて言えば。
次女さんの背中の上はすごく戦いやすい。
槍を振るタイミング、攻撃後の離脱、そして敵との距離感。
すべてを絶妙な調整で俺に合わせ、尚且つ自分のスペックを十全に発揮している。
雷の嵐を纏い、突撃する姿は次女さんらしいなとは思うけど、そんな荒々しい姿の中で、繊細さが垣間見えるのは正直ずるい。
精霊王に契約する気はないかと言われ、断ったことを少し後悔するくらいに、この戦闘方法がしっくりきている感覚を味わっている。
俺と次女さんの攻撃はどんどんスピードが上がり、空から闇さんのブレスや闇魔法が降り注ぎ、地上からはエスメラルダの魔法が打ち出され、エンターテイナーたちのかく乱が行われ、この戦闘空間はいつも以上に複雑になっている。
だが、その中でも次女さんは即座に進路を確保、そして最大速度で突撃している。
攻撃の飛び交う空間にあるわずかな隙間に雷の道を作り出し、最短距離を最速で、かといって危険を最小限にした状態で突き進む。
口元のニヤケが止まらない。
ゲームでのAIという制限がかかった騎獣もなかなかの性能になっていたが、こうも阿吽の呼吸で合うことはなかった。
どこまでも高性能な相棒であっても、どことなくこっちが合わせている感覚がぬぐえなかったが、次女さんとは互いが支え合っているように感じることができる。
こんな状況だと言うのに、楽しいと感じてしまうのは不謹慎か?
いや、仕方ないか。
人馬一体ならぬ、人と精霊の一体化。
さしずめ、人精一体か。これを味わってしまえば、興奮せざるを得ない。
その手ごたえに俺の戦闘スタイルの新しい方向性を、可能性を実感してしまった。
正直いくつか、スキルの見直しを考慮する価値を感じてしまっている。
次女さんが空を駆ける度に、俺の槍がドーラスを切り裂き、そして向こうの攻撃が届く前に離脱して再び突撃している。
ゲーム時代を含めて、いままでの俺にはない圧倒的な速度、そして走破性。
それを体験する機会をくれたドーラスに感謝の念すら湧いてくる。
どんどん削られていく様を見ている側からしたら、おかしな感情であるのは確かだが。
『認めぬ!断じて認めぬ、こんなこと、こんなことがああああああ』
だからこそ、その可能性を感じさせてくれたお礼として。
叫び、必死に抵抗するドーラスを葬ろう。




