11 精霊王との密会
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邪霊救済に必要なことは基本的に三つ、アイテムの準備、儀式の用意、そして何より重要なのが。
「ということで、俺たちが邪霊ケラスの救済をやることになりました。精霊王には、なにとぞ協力をお願いしたく」
精霊王から、協力を取り付けること。
『うむ、我も彼は助けたいと思っておったが・・・・・できるのか?』
精霊の救済はかなり危険が伴うイベントだ。
下位の精霊とかなら気軽にできるかもしれないが、中位から上になるとその難易度が上がる。
「できます。その手段に関しても現在進行形で仲間が素材を集めています。残す要素はただ一つ。精霊界にある、元祖の湖に立ち入る許可を頂きたい」
『・・・・・お主なら知っていてもおかしくはないとは思うが、どこでそれを知った?』
特に今回のように何かが混ざり込んだ形で邪霊に堕ちた場合だと、助ける難易度が跳ね上がる。
「すべては、自分の努力の結果とだけ」
『・・・・・あの地は代々精霊王にのみ口伝で伝えられる、精霊界でも精霊が立ち入ることを禁止された特別な地だ。それを知るのは我と代々の精霊王たち、そして神のみだ。知恵の女神様はお主にそれだけの知識を与えたか』
難易度が高くなれば、当然だが要求される素材の質も高くなり数も要求される。
今は精霊界に来て、クローディアたちは、精霊を引き連れて手分けして素材集めのダンジョン周回を行っている。
お願いした時、ネルとアミナはまたかと、諦めた笑みを浮かべ、クローディアはこれも修行だと受け入れて、イングリットは無表情で承諾、そしてエスメラルダは覚悟を決めてダンジョンに挑んでいった。
ちなみに俺はドロップ率はいいが、代わりにとんでもない量を要求される物を担当して、誰よりも効率的に実行してすでに終わらせていたりする。
「そう思ってくだされば、幸いです」
『答えられぬということか・・・・・分かった。おぬしの元祖の湖への立ち入りを許可しよう。これまでの実績もある。そして此度は邪霊に堕ちた同胞の救済が目的というのであれば、我が立ち合いの元入れるようにしよう』
「ありがとうございます」
一仕事終えてから、精霊王に謁見しているというわけだ。
『ふむ、用件はそれだけか?』
「はい、そうですが」
『うむ、なら、少し話さぬか?アミナちゃんを含め、他の仲間たちもまだ時間がかかっているようだ』
「・・・・・少しだけでしたら」
そして精霊王への謁見の目的である元祖の湖の立ち入りを許可してもらえば、ここに用はもうなかったりもする。
NPC相手であれば、用事が済めば『ハイさよなら』と立ち去ることもできるが、相手は生きている精霊王だ。
ふむ、と顎に手を当て、考え込んでから談話の申し込みくらいはしてくるか。
『では、泡沫のダンジョンのある花畑が見える場所で話そうか、それならアミナちゃんたちがダンジョンでの仕事を終えたらすぐにわかるであろう?』
「お心遣い感謝します」
そしてそれを断る理由が無いので、その誘いを受けて精霊王の後について行けば、見晴らしの良いバルコニーに案内される。
そこには何もなく、ただ見晴らしの良い空間だけが存在し、そっと精霊王が手を振りかざすと、そこに木が生え、椅子とテーブルの形になって育つ。
さらには、花が咲き、実がなり、そっと取りやすいような位置に垂れ下がるではないか。
『甘花の実だ。我はこれが好きでな。こうやって、もいで上を少し剥くと中から甘い果実の水を飲むことができる』
精霊らしいお茶会だ。
ファンタジー植物に実る果実の、果肉がそのままジュースになっている。
「・・・・・美味しいですね。それに、思ったよりも冷えています」
精霊王が先に座り、そして自ら飲み方を教授してくれたので、それを参考に俺も飲むと、口の中にさっぱりとした甘酸っぱさが広がる。
リンゴとオレンジの中間のような味わい、そして自然の物だから温いかと思ったが、そうではなく程よく冷えている。
『我が用意したものであるからな。当然である』
普通なら冷えていないと、口元を笑みに変えた精霊王が教えてくれる。
飲み物だけを冷やすためだけにスキルを取ることができない俺からしたら、こういうちょっとした便利能力は正直羨ましい。
この世界に来てわかったが、生活するだけなら戦闘能力よりも、FBO時代にはネタスキルと称された生活スキルをふんだんに盛り込んだスキル構成の方が間違いなく快適に過ごすことができる。
衣食住は魔道具とかで快適にしているが、ふとした拍子でこういうのがあればいいなぁと思うこともある。
「それで、精霊王様、わざわざ二人で話したいということでどういったご用件でしょうか?」
『なんだ、もう少し雑談に付き合ってくれてもいいであろうに』
しかし、それに関しては追々ということで、今は精霊王からの用件を聞いておきたい。
雰囲気的に悪いことではないとは思うのだが、それでもこうやってわざわざ二人きりになれる空間に案内されたのだ、何かあると考える方が無難だ。
『まぁ、良い。主にひとつ聞きたいことがあってな』
「はい」
精霊王という立場上、俺のような客にこういう席を用意すること自体がかなり特別なことだ。
FBOでもかなり好感度を稼いでようやくといったところで発生するかしないかというレベルの現象だ。
『主は、精霊術を覚える気はないか?』
「・・・・・ないですね」
そんな空間で、精霊王は少々真剣な表情になって、質問を飛ばしてきた。
その内容を聞いてみれば、俺に精霊術のスキルを獲得しないかという打診だった。
『やはりか・・・・・』
「俺のスキル構成上、精霊術が入る隙間が無いんですよね。なので、申し訳ないですけど、精霊術を覚えることはできません」
その質問に関しては、こっちもしっかりと計画を立てて方向性を定めて育成しているので頭を下げて断るしかない。
「ぶしつけな質問で申し訳ありませんが、なぜそのような問いをしたか教えてもらっても?」
『ああ、いきなりの質問で不思議に思ったであろう。当然、その質問に答える』
しかし、なぜ今さらそんな質問をしてくるかという疑問は浮かぶ。
『最近、リベルタと契約したいという精霊が増えてな。お主との関係性は良好ではあるが、我としても精霊と契約してくれて繋がりを持ち、さらに深い関係になる方が良いと思った』
「俺と?アミナではなく」
『そっちは、アミナちゃんファンクラブの方で規制している。無闇に押しかけるのはファンにあらず、アミナちゃんから勧誘されるように精進するようにしておる。ちなみに、我もいつでも契約打診を待っている』
「・・・・・そのことに関しては聞かなかったことしておきます」
言っちゃなんだが、精霊関連では俺よりもアミナの方が人気が高い。
俺も俺で、精霊たちとは友好的な関係を築けているとは思うが、それでもアミナには敵わない。
そんな認識であったがゆえに、精霊王から俺と契約したいという精霊が多いというのはいささか意外だった。
その意外と思った驚きも、精霊王のウインクとともに放たれた言葉で一瞬で消し飛んでしまった。
FBOでは仲間にできない存在で五本の指に入る精霊王と契約できるって、どんなチートだよ。
使える場所は限られるだろうけど、相性次第ではクラス10のラスボスクラスの敵とも互角以上に渡り合える強キャラだぞ。
場合によっては、ベテランの廃人プレイヤーですら負かす可能性も秘めている。
『一言くらい、推薦しても罰は当たらないと思うのだが?』
「ファンクラブ会長として、公平にしないといけないのでそこら辺は却下です」
『むぅ、確かに。しかし、我、精霊界から離れるのが難しいからアミナちゃんにアピールする機会が少なすぎるのでな。そこは、ちょっと大目に見てくれんか?』
「今度、ファンクラブ主催のBBQの大道芸大会にアミナを審査員にするのでそれに出てください」
『なんと!任せろ!皆の度肝を抜くような芸を披露してやろう!』
そんな存在とこんなあっさり契約できて良いのか?と心の中で過去の努力は何だったんだと涙を流しつつ、それを受け入れずに別の機会を用意しておく。
精霊王が見せる大道芸、すっごく気になるから俺も見に行こうと思いつつ。
「はいはい、そちらは頑張っていただくとして、話を戻しましょう」
『おっと、そうであったな。我の隠し芸に関しては後日見せるとして、なぜ多いかという話であったが、やはりお主といるのが楽しいからであろうな。新鮮な景色、新鮮な経験、そして長い精霊の生で飽きていた過去の経験を新しく更新してくれる。そんな存在であるお主と契約し『名を』授かりたい。そう願う精霊は多い』
本題の方を深堀すると、優し気な表情となり、精霊として一番名誉なことを望んでいると精霊王は俺に伝えて来た。
精霊王のような特別な存在を除けば、精霊には本来名はない。
その理由は、精霊は契約した相手から名を貰うことで人と深い関係を結ぶからだ。
名は一生の物、その名を与えてくれるにふさわしい人としか契約しないという精霊もいるくらいだ。
「そうですか、そう言ってもらえるのは嬉しいですし、名誉なことですけど」
『やはり、難しいか』
「はい」
そんな精霊の思いに応えてやりたい気持ちもあるにはあるが、ここで捻じ曲げることはできない。
スキルの枠というのはそれだけ重要なことで、ここで中途半端なことをすれば間違いなく後悔することになる。
そしてそんな後悔の理由を、自分の生涯の名前を欲しがる精霊に与えたくない。
だから、ここは非情になり頭を下げる。
『ふむ、仕方なし。気が変わったらいつでも申し出てくれ。おぬしにならいつでも精霊術のスキルを授ける』
「はい、その時はよろしくお願いします」
その感情を察してくれた精霊王は、少し寂し気な顔で頷いてくれた。
精霊術というスキルは、この世界に来てから俺も評価を変えたスキルだ。
FBO時代では使い勝手の悪いスキルで、ネタ止まりでしかないスキルだ。
しかし、この世界では使い方次第では最強格に上がるほどの性能があるのではとは思ってしまう。
そういう、過去は微妙であったが今になったら強いのではというスキルが今後も現れるかもしれない。
スキルビルドの見直し、それを考えることも視野に入れておかないと、今後危ない場面が出てくるかもしれない。
『時間を取らせたな。ちょうどアミナちゃんとネルちゃんがダンジョンから出て来たようだ。疲れているようだ。この果実を皆に振る舞ってやってくれんか』
「差し入れ、感謝します」
そんなことを考えさせてくれた、精霊王が再び甘花の木をバルコニーに生やし、そしてその枝で籠を作り、多くの果実を入れて俺に差し出してくる。
それを受け取れば、籠がひんやりとしていてアミナたちに差し入れるころまで冷たさが保持されているだろうとわかった。
『うむ、ケラスのこと、よろしく頼む』
「はい、お任せください」
最後に挨拶を交わして、精霊王の居城を後にする。
城門まで見送りに来てくれた、精霊王の視線を背に浴びつつ、泡沫のダンジョンの方に向かう。
途中途中に、精霊たちとすれ違いながら、泡沫のダンジョンを目指す。
楽しそうに生活する精霊たちは、俺を見ると手を振ったり挨拶したり、さらに遊ぼうと誘ってくれる。
仲良くなった、そんなことを感じ取れるほど精霊たちとの距離は近づいている。
「うーん、まさか俺がスキルビルドに悩むとは」
それを感じ、気づけば頭の中でどうにか精霊術を組み込めないか、それを考えている。
いやはや価値観というのは簡単に変わるものだと思うのであった。




