1 来ちゃったかぁ
新章突入です!
そしてカウントダウン!
書籍第二巻とコミカライズ第一巻発売まであと7日!
出会いがある時は、割と連鎖して、出会いが続く。
新しい人が、新しい人を連れてきて、そのおかげで人間関係の幅が広がるというパターンだ。
フライハイトに神殿経由で孤児たちを招き入れたことで、そこからさらに人を招き入れるきっかけが生まれ、ちょっと追加で人を入れた。
そのおかげで、将来的には人手不足が多少解消される見込みができたが、それはあくまで将来的にということ。
現状は全く人手が足りていないことは変わらず、街中の人が増えて賑やかになったと思える程度だ。
そんな日々を送っていると、やはり即戦力が欲しいと思ってしまい、少し危険だけど行動に移そうかなと思っていた日にそいつは来た。
口約束でしかなく、そして嘘か本気かも測りかねていた男は、初対面の時とは打って変わった、少し見窄らしい旅姿でこのフライハイトに歩いてやってきた。
「お約束通り、バミューダ・オルトス、問題なく職を辞し、この地にやってまいりました」
「うん、本当にどうやって円満退職してきたの?」
ニッコニコと胡散臭い笑みを携えて、資産も何もかも投げ打って参上した男。
有能であり、実務経験豊富、即戦力間違いなしだが、信用という点で不安が残る男が本気ですべてを放り捨てて、俺の出した条件を守って参上した。
最初に出会った時は、東の土豚公爵の軍団を率いていたが、今回は身ひとつでやってきた。
念のため、フライハイトにいたエンターテイナーと闇の精霊と風の精霊に周囲を探らせたが、周囲に潜む人物は無し。
正真正銘独りだというのが判明した。
その姿恰好は当初着ていた軍服と比べればだいぶ見窄らしい革製の鎧に、丈夫そうな旅の服。
冒険者と言われれば納得できるような恰好でこの街に来たとゲンジロウから報告を受けた時は、思わず嘘だろと口から出てしまった。
だけど、こうやって応接室で出迎えてみれば、間違いなく目の前にいるのはバミューダだ。
一応、念には念をと、面談中は嘘を付けないように契約を結んだ。
だからこそ、わかる。
「それは資材とコネと、さらに言えば今までの実績を盾に上手く立ち回りました。色々と違法な手段を駆使すれば、もっと早く参上することはできたのですが、リベルタ殿が穏便にと条件を付けられましたので」
今のバミューダは真実しか言っていない。
俺の知らない方法で、マーチアス公爵に恨まれずに、そして遺恨を残さず辞職してきたのだ。
「その方法を聞きたいんだけど、聞いても良い?」
「問題ありません。さして、難しいことをしたわけではありませんので」
しかし、神の契約で縛って真実しか言っていないとわかっていても、円満退職したという事実を俺は受け入れられていない。
マーチアス公爵は、そもそも離職を許す人間ではないと俺は認識していた。
その認識が覆った瞬間で、理屈的には何かできる方法があるのかもと思っても、感情的にはどうやったとさっきから疑問符が飛び交っている。
裏切るのなら殺す。
それはいかなる理由でも例外なく、貫き通してきたマーチアス公爵の持論だったはず。
それこそ、いかなる理由であっても、表裏問わず手段を問わず、確実に殺しに行くのがあの男だ。
なので、神の契約で嘘を言えないバミューダの言葉であっても、内容を聞くまで信用することはできなかった。
「まずやったのは、宰相閣下への謁見ですね」
「宰相閣下に?」
「はい、陛下でもよろしかったのですが、あからさまに陛下と繋がりを持つとその手間で公爵閣下の怒りを買うことになるので、仕事上繋がりを持っても問題ない宰相閣下と縁を結びました」
ゲームとは違うのはわかっているが、土豚公爵ルートの攻略をしていても、その手段をFBOプレイヤーは終ぞ見つけることはできなかった。
もし仮にマーチアス公爵と手を切るときは徹底抗戦を覚悟しないといけないというのが俺たちFBOプレイヤーの常識。
システム上無理だとすら判断された、その常識を今からバミューダは崩すと堂々と言っている。
その話に興味がないと言えばウソになる。
なので、俺は姿勢を正し、聞く姿勢になる。
「まさか、宰相閣下に仲介してもらって退職に?」
その手段の第一段階で出て来た人物はこの国の国家中枢の権力者。
その人物を使えば、理論上はできそうな気がするが、俺は無理だと思った。
「いえ、その程度で閣下は辞職を許すようなお方ではありません。表面上、許したように見せて翌朝には私のところに暗殺者を送り事故死に見せかけるでしょうね」
「だよなぁ」
案の定その予想は正解のようで、バミューダが表情も崩さず首を振って、甘い幻想を否定する。
この応接室には俺と護衛の御庭番衆、そしてイングリットしかいないから2人での会話になり、テーブルに用意されたお茶は刻一刻と冷めていく。
「必要なのは、納得です」
「納得って、もろに感情面だよな?あのマーチアス公爵が腹心が自分の元から離れて他所に行くことを、感情と切り離して損得で理性的に判断するっていう流れに持っていくって言うのは予想できるんだけど、その納得部分が鋼過ぎて俺には想像できない」
「側に仕えていたからこそ見える部分もある、ということですよ」
そのお茶に手を伸ばし、一口飲んでそのままティーカップを持ったままバミューダは笑みを浮かべる。
この手の策略に関しては、FBOでも随一の才能を持っているキャラだと認識しているから、俺の思いつかないような方法でどうにかしたのだろとしか予想ができない。
「リベルタ殿のいう通り、あの方には他者にかける情というのは存在しません」
冷徹に感情を切り離し、結果を導き出し、引き寄せる。
それゆえに危険な思想に偏りやすい男が、考える円満退職法。
純粋に気になる。
「であれば、私が退職した方が利益が出ると考えさせればいいだけのこと」
静かにバミューダの話を聞き、先を促すと彼はにっこりと笑い。
「宰相閣下と交渉して、やってもらったのは全部で三つ」
その胡散臭い笑みは健在で、人差し指、中指、薬指と立ててやったことを説明し始める。
「1つ、宰相閣下主導の元私をスカウトしてもらうこと」
「ほう」
まさか初手から、マーチアス公爵の敵意を煽るような行為をさせるとは。
仮にもその当時はマーチアス公爵の右腕として働いていたバミューダを引き抜くというのは、国家権力の中枢の地位を持っている宰相閣下であっても、無理がある行為だ。
公爵家と王家が敵対するという流れが生み出されかねない危うい話だ。
それをあえてやった、いや、すでにこの場にいるということは、権力中枢と公爵家の敵対関係を作らずに宰相閣下を動かしたという証左か。
あとで、エスメラルダに頼んでエーデルガルド公爵閣下に裏を取ってもらうか。
「それは随分と危ない橋を渡らせたな。下手をしたら内紛になるぞ」
「そうしないようにしっかりと下準備をしましたのでご安心を。話の流れで、私はそのスカウトをマーチアス公爵への義理があるので一度断っています」
「まぁ、そういう流れになるよな」
「ええ、そうでしょう。それがあの時の私の立場としては当然の解答です。しかし、事前に密約を交わしている宰相閣下は私が欲しいと交渉を諦めない。であれば、あくまで臣下である公爵という地位としては、いかな手段をもってしても私を譲らない理由を作らねばなりません」
「・・・・・なるほど、見えて来たぞ」
「ええ、ここで、マーチアス公爵閣下の人格で欠点が出ます。エーデルガルド公爵閣下であれば、心情、感情、そしてキズナといった客観的に価値を付けづらい部分で断り、それで宰相閣下を納得させることができます」
そして、話を聞きながら少しづつだが話の方向が見えて来た。
宰相と公爵という関係性は、今は微妙なバランスにあるといえる。
ボルドリンデ元公爵が倒れた今、北の領地を復興中とはいえ、パワーバランスは王家側に傾いたと言って良い。
そのタイミングで有能な人員を求めて、バミューダをスカウトしたいと宰相閣下が公爵に求めた。
本来であれば、同じ国を率いる権力者同士であっても派閥的に微妙な間柄では、お互いの部下を引き抜くようなスカウトは心情的にも権力的にも良くない感情を抱きやすい。
しかし、マーチアス公爵家としては王家と敵対することが得策ではないという現状で、この話を突っぱねて王家との関係をこじらせるというデメリットを前にしたならば、公爵といえども交渉の席にすら立たず話を突っぱねるということは難しい。
となれば。
「ですが、マーチアス公爵閣下はそのような手合いの人間ではありません。公爵閣下が実利を重視した人柄であることは国内の貴族であれば常識。私もある程度長い年月公爵閣下に仕えておりましたが、使えるから側に置いて、働きに応じた報酬を支払っていたという関係でしかありません」
行動はおおよそ予想できる。
「かの公爵閣下ほど、情に絡んだ言葉が軽いお方はおりませんな。であれば、マーチアス公爵閣下から出てくる答えは無理難題。現状の王家では対応できないような物を要求するという流れです」
「なるほど、そこまでは予想通りだ」
エーデルガルド公爵であれば、信用や、信頼、そして忠誠に報いて手放すことはできないと言えば、宰相閣下は引かざるを得なくなる。
そこで強硬に進めれば、信頼を金で買った宰相と、金で売った公爵というレッテルが張られるからだ。
そういうことにはならない宰相とエーデルガルド公爵の関係は言わずもがな。
しかし、それがマーチアス公爵であれば話は変わる。
「で?マーチアス公爵はなにを望んだんだ?王家の秘宝か?血を求めてお姫様との婚姻とか?あー、でもそれくらいならどうにでもなるな。無理難題といえばモンスターの素材とかか?」
「中央大陸にある、港の使用権限の譲渡です」
「あー、なるほどなるほど、そりゃ既得権益の中では王家は絶対に手放さない権利だな」
もし仮にマーチアス公爵が断りの文句を選ぶとしたら、間違いなく利益重視の無理難題を吹っ掛けてくる。
その予想は大当たりだ。
「ええ、私も随分と高く買っていただいていたようで、私が欲しければ港の権利を寄越せと、公爵閣下は私に宰相閣下へ伝えさせました」
「当然無理だと、宰相閣下は断ったんだろ?」
「いいえ、宰相閣下はその話を飲みました」
「なに?」
しかし、その後の話の流れが予想外過ぎて目を見開いた。
中央大陸にあって南大陸の王家が権利を主張できる町と呼べるものは一つしかないはず。
その港の権利は歴代の王が地道に繋いで作り上げた物。
いかに宰相という高位の地位にいる存在であっても、そんなあっさりと手放せるものではないはず。
「・・・・・難しい話ではないって言ったよな?」
「はい、言いました」
「確かに難しい話ではなかった。かなり、ヤバい話ではあるがな」
「はい、ヤバい話です」
では、どうしてそれが成し得たのか。
「これが2つ目です。実は私、マーチアス公爵にも言っていないのですが中央大陸に今の方法よりも安全に行く術を持っているのです。それを譲る代わりに私を見受け(身請け)してもらいました」
「・・・・・」
代替案があるということ、そして比較的話が通じる人物に話を持っていくのはさすがというべきか。
「バミューダ」
「はい」
「お前、古代の遺物、持ってたな?」
「はい、こっそりと直した飛空艇を持っていました。いざという時の逃走用として持っていましたが、人生何が役に立つかわかりませんね」
「ガッデム!」
そしてこいつは、俺の欲しいアイテムをちゃっかりと持っていたことを暴露しやがった。
古代の遺物は、FBOではゲームスタートの段階でNPCがランダムで持っているようになっているから特定ができないんだ。
「そして3つ目で、しばらく城勤めしていることにしてもらい。その後に退職したということにしてもらいここに来ました」
まさかバミューダが持ってるとか思わないだろ!?




