12 知られざる事実
「ヤーダ様って、シャリアお前精霊だったのか?」
「もう、リベルタ君ってば。精霊みたいに可憐で可愛いのは事実だけど、こんな変な奴らに知り合いなんていないぞ♪」
ヤーダと言えば、フェーダ族が崇める闇の精霊の名前だったはずだ。
その存在そのものはFBOには登場せず、その姿がフェーダ族の遺跡の壁画に描かれているだけ。
それ故に、ヤーダという闇の精霊に関しては、絵を描けるプレイヤーたちが想像を膨らませてデザインしてきた。
そのデザインは様々で、幼女からお姉様、母性豊かな女性から老婆、さらにはギャルだったりと、もう想像に任せて好き勝手に描かれていた。
そんな中にシャリアそっくりの絵があったかと記憶を掘り返すが、あいにく思い出すことはできなかった。
「じゃぁ、そこで感涙を流している男どものことをどう説明する?」
「知らねぇぞ♪そういうことってリベルタ君の方が知っていることじゃないの?」
「わからないから、頭を抱えそうになってるんだよ」
ヤーダという闇の精霊は空想の存在とされていた。
精霊関連のクエストでも登場しないし、話題にすらならない。
フェーダ族関連のクエストを進めても、壁画の内容や伝承で語られる情報くらいしかわからないのだ。
「闇さん、ヤーダっていう闇の精霊を知らない?」
『ヤーダ・・・・・うむ、同じ闇の精霊、それも名前持ち、そして某と同格。そのような存在がいれば知っていてもおかしくはないのだが』
そして肝心の同胞たる精霊たちが知らないというのなら、存在しないと考える方が妥当な気がする。
闇さんも首を傾げ、記憶を掘り起こすが、そこから情報が発掘される様子はない。
となると余計に「実在しなかった説」が濃厚になるのだが。
「って、目の前でこんな話をしてたら怒りそうなものだけど・・・・・怒ってないな?」
「こやつら、シャリア殿に夢中で拙者たちの声が聞こえなくなっておりますな」
「これだから狂信者って嫌なんだよ」
その説を否定しようとしても、シャリアという実像があるのだから「いない」というのはありえないと言われそうで、しぶしぶフェーダ族の男たちの方を見たら、涙を流しながらジッとシャリアの方を見つめ続けている。
端的に言ってホラーである。
「いっそのこと、シャリアを教祖にしてこいつらを取り込むか?」
「とんでもないこと押し付けようとするんじゃねぇぞ♪」
ここまで信仰心が高いならワンチャン、シャリア専属の部隊として運用できるかと考えたが、こういう輩は自分の思想と信仰対象の行動で齟齬が出たら、真っ先にヒステリーを起こしかねない。
シャリアも「そんなことするな」と笑顔で脅迫してくるから、さすがにやるわけにもいかない。
「もう、こっちはこっちでクローディア様からの伝言を伝えに来たんだから。それを聞いて返事をもらってこないといけないんだぞ?」
「それって、他のエンターテイナーでも良かったんじゃないか?もしくは御庭番衆でも。なんでわざわざシャリアが?」
感動で思考が停止しているフェーダ族たちは一旦放置。
危急の用件である可能性のある、シャリアの件を片付けた方が良いだろう。
腰に手を当てて前かがみになる姿が、完全に幼馴染に怒る少女みたいな構図になっている。
日に日に可愛らしさに磨きがかかっているシャリアの動作を前にして、御庭番衆やエンターテイナーたちどころか、ちょっと闇さんまでも見惚れているのを横目に、俺は伝言内容を聞く。
「ちょっとクローディア様が気になることがあるって言っててね。例の盗賊集団の頭領の一人が情報を漏らして、そこから調査したらこれが出てきたんだよ」
「これは、アクセサリーか・・・・・」
聞いた内容はやはり、陸路の襲撃事件のこと。
夜なので調査は一時中断しているとは思うが、それでも何かしらの手は打っているのだろう。
こうやってシャリアをわざわざ派遣したということは、それなりに重要な品ということだ。
一見すれば木彫りの人型のペンダント。
不気味な様相を見る限り、呪物の類だ。
「クローディア様の判断で重要そうだからって、こうやって聖水に浸した布で包んで僕が運んできたってわけさ。これがどこかの組織とつながりがある証拠にならないかって。向こうの責任者の人に説明しないといけないみたいでね」
「なるほどね」
しげしげと眺めてみたが、すぐにピンとくるようなものではない。
こういうアクセサリー系は特徴的なシンボルでも描いていない限り、どこかの組織と関係のある品物だと断定するのが難しいのだ。
おまけに素材が木だ。
どこにでもありそうな素材を使われると、余計に手がかりとして情報を絞り込むことができない。
さらに加えて、この「人型」というのが何ともいやらしい。
呪物として使うにしてはありきたりな形、はっきりと言えば量産品のように見えてしまう。
ガリガリと頭を掻いて困り顔を披露すると、シャリアも「そうだよね」と苦笑を漏らす。
俺は知っていることは多いけど、わからないことももちろんある。
この量産品がどこで作られ、誰が持っていたかなんてピンポイントな情報があるはずがない。
「うーん、それだと困ったなぁ」
情報源という分野では俺のホームグラウンドであるはずなのに、そこで協力できないことに申し訳なさを感じる。
「ヤーダ様、困ってる?」
そんな俺たちの会話に入り込む声。
普通にシャリアがこぼした言葉だが、さっきまで表情を感涙で固定していたフェーダ族の一人が再起動した。
「だから、僕はヤーダっていう精霊じゃないよ。まぁ、困ってるのは事実だけど」
彼らから向けられる視線があまりよろしくない類のものだから、シャリアの口調は少し厳しいものになる。
されど、ちゃっかりと本音も混ぜているのが彼らしいが。
「・・・・・俺たち、それ知ってる」
そんなシャリアの反応に、フェーダ族の男たちは顔を見合わせた後、俺たちが何を聞いても答えなかったのに、彼らの方から話しだした。
「な、んぐ!?」
それに咄嗟にゲンジロウが反応しそうになったが、俺はここでゲンジロウが間に挟まると厄介なことになると思って手で口をふさいだ。
目線で「静かにしろ」とゲンジロウと周囲に送り、皆が頷いたのを確認して、シャリアに会話を続けるよう促す。
「え、それ本当?」
「ほ、本当だ」
「僕、嘘をつかれるのがとっても嫌いなんだけど?僕の気を引こうとして適当なことを言ってるなら許さないぞ♪」
「嘘じゃない!俺たち、三日前にそれを配ってる男たちを見た。商人たちだ。間違いない!」
どういう形で情報を抜き出すかはシャリアに任せた結果、お前たちのことは信用していないぞと視線で告げる冷徹な目に変え、Mな属性の人たちにとってはたまらない表情で聞き返すと、信仰対象に似ているシャリアに嫌われるのは世界の崩壊だと言わんばかりに必死に信じてくれと言い始めた。
その形相、態度は嘘を言っているようには聞こえない。
「・・・・・ふーん」
「お、俺、絵が上手い!その馬車と一緒にいた男の顔を描ける!」
「俺、場所を覚えるのが得意だ!どこにいたかわかる!」
「俺は耳がいい!何を話してたかわかる!」
しかし、そこですぐに食いつくのではなく「それだけ?」とあえて突き放すような態度をとるシャリア。
足りていないと言われて、他のフェーダ族の男たちも慌てて自分の持っている情報をひねり出し、シャリアのご機嫌取りに走る。
「そう、じゃあ紙と地図を用意させるからそれに書いてみせて。嘘だったら・・・・・僕、君たちのこと嫌いになるぞ♪」
「「「「「!?」」」」」
否定も肯定もしていない。
されど、フェーダ族の男たちにとっては完全にシャリアが精霊ヤーダになってしまった。
信仰対象から告げられる「嫌い」という言葉は、彼らフェーダ族にとっては「死ね」と言われたのと同義。
もし仮に、その事実が里に知られたらどうなるかわかったものではないと心の中で悲鳴を上げている彼らは、必死に頭をぶんぶんと振り、何度も頷いた。
「・・・・・なぁ、ジュデス」
「なんだい?」
「シャリア、毎回あんな感じで情報を引っこ抜いてるのか?」
「んー、ああいう感じで攻めているときもあるね」
妙に手慣れている人心掌握術。
ヤーダではないとしっかり否定しつつ、相手の心を揺さぶりながら自分の意のままに操る様が妙に似合っている。
こっそりと顔をジュデスに近づけて小声で聞くと、「よくやっている」という返答が返ってくる。
「他にもめちゃくちゃぶりっ子して酒で相手をベロベロにして情報を引っこ抜いたり、明らかに童貞っぽい貴族の男の心をがっちりと掴んで情報を引っこ抜いたり」
「俺、とんでもない怪物を生み出しちゃったんじゃ?」
「今さらだろ」
さらに深掘りすれば、お前に良心はないのかと言わんばかりに、自分の容姿をフル活用して遠慮なしの情報収集をしていると教えてくれる。
「・・・・・ちなみにジュデスやほかのエンターテイナーたちはどうやって情報を集めているんだ?」
現場の情報収集方法の確認を怠った故に、遅れて知った真実。
ため息を堪えつつ、拘束を手だけ解除されても逃げるそぶりを一切見せず、必死に情報を書くフェーダ族の男たちに同情の視線を送る。
「俺たちも基本的に、酒場で噂話を集めてそこから情報を持っていそうな男と酒を飲んで」
「酔わせて情報を吐き出させるのか」
「ああ、ガードが緩い奴はこれでいける。男同士の方が話しやすいっていうのもあるしな。たまに全裸になって踊れば、それで面白い奴だと思われて接触してくる奴もいるぜ?」
「・・・・・まさか、そっちの方面で役立つのか」
そんな手段で得られた情報がどこまで役に立つかはわからないが、何かを調べるきっかけにはなるだろう。
期待半分でフェーダ族の男たちを見ながらジュデスに手法を聞くと、「何をやっているんだ」と今度は我慢できずため息を吐く。
「ガードの固い奴は?」
「それは、そこでいま可愛い顔でヤバい目をしている奴がだいたいどうにかする。俺たちはそれをサポートしてるってわけ」
「でも、情報を持っている奴が全員女になびくってわけじゃないよな?ほら、情報収集する相手に女もいるだろうし」
「そこは使い分けだな。女性相手にはシャリアが親身になって相談に乗るふりをして話を聞いたり、身持ちの固い男には家族の話とかで盛り上げたり」
「・・・・・何でもありだな」
「ああ、正直容姿がいいっていうのは本当に武器になるっていう見本だよ」
そうなってほしいとは思っていたが、本当に情報収集のプロフェッショナルが着々と育っているようだ。
化粧の練習をしたり、職人たちにウィッグを作ってもらっていたり、俺に化粧の仕方を学びに来たりと努力をしているのは知っていたが、このままいくと「傾国の美女」とかで歴史家に語られるような存在になるのでは?
「そのサポートで、全裸になる男が一定数いるのが面白いよな」
「自分で言うか?」
「やっている当人たちだから笑いながら言えるんだよ」
俺の信頼している諜報部隊は、本当に色物集団だ。
そんな集団に溶け込める逸材は果たしているのだろうか。
少なくとも、シャリアに睨まれて半泣きで情報を必死に書くフェーダ族の男たちでは荷が重い。
仮に仲間に迎え入れたとしても、シャリアにこき使われる未来が待っている。
「人員補充って難しいなあ」
「頑張れよ、リーダー。早く俺たちの負担を減らしてくれ」
そのフェーダ族の男たちの処遇も考えないといけない身として、胃がキリキリと痛み出し、お腹をつい押さえるのであった。




