2 教師
「さてと、無事にこの都市の名前が決まったので次の議題に移る」
「でも、決まらなかったのってリベルタ君の」
「アミナ、おしゃべりは後で」
「はーい」
俺が色々と錯綜している所為で、この開拓村改め学園都市フライハイトの名前が決まるのが遅れたのは申し訳ないと思う。
だけど、今はそれを突っ込むタイミングじゃないとネルの手によってアミナの言葉は遮られた。
「おっほん」
その会話によって会議場の空気が変わったので、少しだけわざとらしく咳ばらいをして話を仕切り直す。
「このフライハイトに、神殿が出来上がり、まもなく神殿から大司教をはじめとした神官たちが派遣されることも正式に決定をしている。そうなれば、神殿内の設備も使用できるということになる」
議題にあげるのは、難航していた人材確保だ。
今までは契約という縛りが簡単に設けられなかったから慎重に慎重を期して、スカウトは控えめだった。
「これでわざわざ王都の神殿まで行って契約を行う必要が無くなって、今後はフライハイト内で新たに迎える人材と契約できる。なので、エンターテイナーに下調べしてもらっていた人材のスカウトを開始する」
しかし、その縛りがすぐに設けられるようになったのなら、もはや積極的に行動するのみ。
「まず最初にだけど、シャリア。ググルとの関係はどんな感じだ?」
「順調って言って良い感じだよ♪身だしなみ、マナー、しゃべり方と色々と変えていったら周囲の女性からの視線も変わって来て、縁談の話も来るようになっている。その変化の報告を実家の方にも伝えているからこっちの印象は良いんじゃないかな?」
「わかった。シャリアはそのままググルの方に専念してくれ。進捗があった時と援護が必要な時は教えてくれ」
「了解♪」
まずは現在進行形のググル関連。
光明苔の入手は急ぎじゃないけど、ググル関連はとにもかくにも時間と根気が必要なクエストが多い。
シャリアが順調だというのなら、そのまま任せておいた方が良いだろう。
ググルもある意味で、農地関連の教師に転用できる人材でもあるし、育てれば薬学にも精通できる。
なんだかんだやる気さえ出せば真面目に取り組む性格だ。
ここで関係を深めておいて損はない。
「シャリアはよろしく頼む。ジュデス。調べてもらっていた人材に関してはどうだ?」
「頼まれていた身辺調査の資料は手元にある奴を見てくれ」
次に、ググル関連で動けなかったシャリアの代わりに動いてくれたジュデスの報告だ。
この世界では紙は貴重だが、このフライハイトではすでに量産体制が整っている。
無駄遣いすることはできないが、こうやって資料を人数分用意することはできる。
「重要度の高い人材として、教育者に適応できそうな人物のリストだ。読み書き、計算といった基礎能力を前提として、そこから性格、専門的知識を持っているか否か、そして立場的にスカウトが出来そうか否かで分けている」
「やはり北の旧ボルドリンデ領出身の人が多いですわね」
「あの土地は、俺たちの地元だからな。調べやすいっていうのもあるし、復興途中で失業している奴が多いからスカウトもしやすい」
資料には、名前と、出身、年齢、性別、種族、平民か貴族か、読み書きができるかなど、事細かく調べてある。
北の領地の人材が多いのは、地の利があるのとスカウトしやすいということだ。
「逆に王都やほかの領地だと、そういった優秀と言われる人材の確保は難しいな。基本的には職に就いているし、立場的にも満足している。そうじゃないのは、野心が高すぎて能力はあるが扱いづらかったり、貴族の力関係で立場が冷遇されている奴だったり、借金で商売がうまくいっていなかったりと、人物としては問題ないが立場として問題ありの人が何人かってところだ」
技能項目や、性格項目の脇に丸、バツ、三角と表記されていてエンターテイナーたちの調査でどういう評価を下したかがわかりやすくなっている。
「まずは優先すべきは、人格面だな」
前の方の紙に記載されている人材程、ジュデスたちエンターテイナーたちの評価が高い。
その項目の中で、人格面で丸の上、二重丸を貰っている人物を幾人かピックアップする。
「ジュデス、この八人の評価を現場から見てどう思う?」
「その八人のうちに俺が見たのは五人だ。性格は堅物って程じゃないけど真面目で罪も犯していなさそうだ。ただ、技能面で言えば、本当に読み書きと計算を教えられるくらいのことしかできないが、いいのか?」
「問題ないな、この学園の最初の生徒は孤児がメインだ。第一期生に下手に権力者の関係者を入れたくないし、教え込む内容も戦闘よりも農業、工業、建築業そして運輸業がメインだ。読み書きと計算ができるようになれば、職人たちの元に送り出せる」
読み書きくらいなら、商店街の面々や御庭番衆の家族、ドンたちやパーシーたち職人から教師を募っても良いが、彼らはすでに職務を持っている。
仮に教師をやるにしても、基礎教育を教える時間よりも専門知識を教育する方で活躍してほしい。
だから、学ぶための基礎を作るため教師としてその五人は確保したい。
「どうだろう、俺は資料を見た感じこの五人を確保すべきだと思うんだけど、何か気になるところはある?」
ここで、俺が確保しろとジュデスに命令すればすぐに行動に移してくれる。
だけど、ここで急がず意見を募れば、クローディアが手を上げてくれる。
「無理矢理は良くありませんね。あくまでスカウト、本人の意思で協力を取り付け雇い入れるというのを徹底した方がいいですね」
「確かにな、ジュデス。エンターテイナーの中で交渉が得意そうな人はいるか?」
「そこの可愛らしい顔をした奴だな」
クローディアの懸念はなにを当たり前なことをと思いがちだが、ここであえて言っておくことで共通認識を持ち俺が肯定することで徹底される。
もし、勘違いで急ぎだということが先行して強引な連行まがいの事件に発展しようものなら、とんでもない黒い噂が独り歩きしてしまう。
「んー、となると手が足りないか。ジンクさん。商店街の人から何人かエンターテイナーの支援で交渉が出来そうな人を派遣してください」
「わかった。すぐに手配しよう」
「スカウトするときの条件は行く前に俺に確認しにきて、予算に余裕はあるからできるだけいい条件でスカウトできるように。ジュデスとジンクさんですり合わせて」
「わかった」
「君がバックにいると交渉が楽で助かるよ」
「無駄遣いは無しですよ」
「もちろん、そこは商人の腕の見せ所だよ」
それを避けるという意志を見せることが重要なのだ。
「リベルタ。人を増やすことは良いのですが、治安維持部隊の増員はよろしいのでしょうか? 今はなんとかゲンジロウさんの御庭番衆とエンターテイナーの方々、そしてドンさんたちの有志の自警団で何とかなっていますが、これから人が増えるということならそちらの方も対処した方がよろしいかと」
「エスメラルダの懸念はもっともだ。その点に関しては、少し考えがあってな。アミナ、精霊たちに例の件を頼んだがどうだ?」
「うん!闇さんに頼んだら夜間の警備で精霊さんたちを派遣してくれるって!」
そしてただ人を増やせばいいというわけではない。
当然だけど、人を増やせばトラブルも増える。
その点を解消するための手段を考えないといけない。
ゲンジロウたちやジュデスたちが優秀なのはもちろんわかっているが、それでも手が足りなくなり忙しくなりすぎることもある。
「と言うことで、臨時バイトと言う形で精霊たちに警備の依頼を出している。これでひとまず、信頼できる戦力を確保できるまでのつなぎにする」
「・・・・・拙者の予想をするのなら、つなぎではなく、そのまま居ついてしまう可能性もあるのではないかと愚考するのですが」
「その可能性も十分にある!というか、やる気があるならそのまま正式雇用してもいいとも思ってる!アミナ、実際どれくらいの精霊がくるんだ?」
「えっと、いっぱい?希望者が多すぎるから、選別中だって。あ!雷の精霊三姉妹は絶対来るって!あと闇さんかな?こっちの職人さんたちと交流したいって言ってた!」
「うん、最低でも上位精霊が四人くるから、治安維持に関しては問題ないと思うぞ」
信頼できる戦力というのには心当たりがあるから、その伝手を辿ってしまったら予想以上の過剰戦力が来てしまった。
上位精霊の知り合いだと風さんとかも来るかもしれないと思うと、治安維持という点においては十分かもしれない。
戦争に精霊たちを繰り出すと精霊王の逆鱗に触れるから、あくまで治安維持のための警備員としての雇用になる。
「ゲンジロウ、アミナと連携して精霊たちに警備のノウハウを教えてやってくれ。精霊との交流の仕方はアミナに教われば大丈夫だと思うから」
「承知しました。アミナ殿、ご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます」
「あははは、そこまでかしこまらなくても」
お給料は、お金で渡しても良いけどそこら辺の教育を施す必要があるだろうな。
その点はアミナにネルを付けて、サポートしてもらおう。
「話が逸れたな、残りの三人の方は資料を見る限りでは大丈夫そうだけど、ジュデスは何か懸念があるか?」
「いや、特にはないな。仲間たちからも変な話は聞いていないな」
「一応、八人全員ジンクさんが派遣してくれた交渉役がおかしいと思ったらスカウトは保留にしてくれ」
「わかった」
これで治安維持に関しては問題がなくなったから、残りのスカウトの話に戻る。
え?戦力が過剰すぎないか?それでトラブルを引き寄せないか?
そんなの今さらだと自分に言い聞かせて、話を進める。
「他にはないか?」
「後は、俺の家族やエンターテイナーたちの家族をこれを機に連れて来たいがいいか?」
「いいぞ、貴族関連の手続きは終わったのか?」
「ああ、やっと地位の返上が終わったよ。国からは地域復興のために力を貸してくれないかって散々引き留められたけど」
人が増えることに舵をきった今なら、ジュデスたちの家族をこの都市に連れてくることは問題ない。
ジュデスの家族がこれなかったのは手続きが進まなかったからだ。
それがようやく終わって、一安心しているとジュデスが肩をすくめている。
「そうか、希望の職業があれば言ってくれよ。あ、貴族とかの権力者は無しな」
「そんなの望まない。父さんも母さんもあの騒動で貴族はこりごりだって言ってる。読み書きと計算を教えられるから、教師として雇ってもらえれば十分だ」
「そうか、そっちの方はジュデスが進めてくれ」
一応元貴族ゆえ権力を求めるかと思えば、これを機に平民に戻るとのこと。
それを聞けたのなら問題ないな。
下地が整えば一気に、話は進んでいく。
採用と書かれた判子をぺたんと押して、一気に八人のスカウトが決定した。
「それじゃ、この調子で他にもスカウトできそうな人材の審査を進めよう!」
エンターテイナーたちが集めてくれた情報はまだまだたくさんある。
皆の賛否を聞きながら、スカウトをする人、しない人と次々に選別していると。
「うーん、この人かぁ」
事前に読んでいた段階から、悩んでいた人物の番になっていく。
「リベルタ、この人をスカウトするの?」
「正直、かなり悩んでいる」
ここまでで、スカウトする人材は三十人を超えている。
目標はその倍以上の人数をスカウトしたいと考えている。
この人でちょうど百人目の候補。
スカウトするかしないか悩んでいる対象の資料を見ればそこに名前がある。
『ペトラ・ローン』
俺の知っている限りだと、間違いなく優秀なネームドの名前がそこにあった。




