24 EX 邪神司祭 2
世間一般では邪神教会と呼ばれる彼らだが、当人たちは邪神教会とは名乗っていない。
それはFBOでも語られている。
〝原初神教〟
遥か古代にこの世界を生み出した原初神が、彼らの信仰する唯一の神であり。
今この世界を管理する神々は原初神からこの世界を奪った邪神である。
それが彼らの真理であり、信仰。
今は闇中に潜む存在であるが、原初神の復活する未来では自分たちこそ光の下に輝くと信じている。
「ねぇねぇ、トルク」
「どうしたどうした、タルク」
アレイヤで落書きし続けていた、この小人族の双子の兄弟もまたその〝原初神教の司祭〟であった。
彼ら兄弟は赤子のころに原初神教に売られ、そこから教えを与えられた生粋の信者。
「なんであの悪い奴らは、僕たちの絵を落書きだっていうんだろう?」
「あいつらが悪い奴だからだよ。父上が言ってたよ、あいつらは悪い神を信じている愚か者だって」
薄暗い、地下水路で手をつないで歩きながら、今日も今日とて絵を描く。
「さぁ、トルクここに描こう」
「ああ、タルク、ここに描こう」
昼間の街の中で描く、荒々しい筆とは違い。
この空間では静かに正確に魔法陣を描く。
それは崩壊を印す、破壊の魔法陣。
歩いている道中も大きな筆で一本の線を描き続け、魔法陣と繋がるように線を引く。
「もうすぐ、もうすぐだ」
「うん、この真っ白な街も僕たちの神様の街になるんだ」
その手の動きに迷いはない。
正確に描かれた、その魔法陣は着々と完成に向かう。
このままいけばあと三十分ほどで完成する。
そう思っていた矢先のこと。
「いたぞ!!」
「「!?」」
この狭く、暗い空間に光が差した。
そして直後に響く、怒鳴り声。
双子は光の方向に振り向くことなく走り出した。
「逃がすかよ!!」
直後に響く警笛の音。
この地下空間であれば音が響きすぎてどこから聞こえるかわからなくなるはずだが、それは普通の警笛の話。
「どうするトルク、あれ魔道具だよ」
「大丈夫だタルク、俺たちがここで捕まるかよ」
双子を見つけたドワーフの警備兵が吹いた警笛は、魔力を帯びている。
魔力を帯びた音波を発して、地上から自分の居場所を発見させる魔道具だ。
双子は魔法陣を描くのをやめて、全力で走る。
警笛に引き寄せられて、たくさんの足音がこっちに向かっているのがわかるからだ。
「ねぇねぇトルク、なんで俺たちが地下にいるってわかったんだろ?」
「わからないわからない、なんで俺たちが地下にいるのがわかったんだろ?」
双子は逃げた。
頭の中には何度も何度も通った下水道の地図があり、逃げ道を探して走るが、相手も道を理解しているようでどんどん包囲網を狭めていく。
「どうしよう、どうしよう。このままだと逃げられないよトルク」
「うん、戦うしかない?でも、俺たちはそこまで強くないよタルク」
追い詰められているとわかった双子、かくなる上は戦うかと覚悟を決めそうになったが、勝ち目がないとわかっているからそれはしない。
「でもでも、トルク。俺たちの役目って引き付けることだよね?これって敵をいっぱい地下に引き込めたってことだよね?」
「うん、そうだな。だったら今やってもいいかも?」
「でも大丈夫?準備が半分もできていないよ?」
「大丈夫じゃないけど、全部だめになるよりはいいんじゃない?」
必死に頭をひねって、出した結論は計画の前倒し。
準備も何もできていないけど、無駄になるよりはいい。
そんな浅はかな考えで行動を起こす。
「じゃぁ、こっち!」
「うん、俺はこっち!」
そうして初めて、双子は分かれた。
途中の道で分かれたことによって、追手も二手に分かれざるを得なくなった。
包囲網は完成手前だった故にギリギリ逃げられるという展開になる。
本来であればこの作戦はバレるはずはなかった。
昼間に暴れ、夜には静かにする。
それを繰り返していて、アレイヤの街の住人には、落書き犯が暴れるのは昼間だけという認識ができた。
だから、夜は誰の目にもつかないように下水道という暗闇で静かに絵を描いていた。
双子が絵と呼ぶ魔法陣。FBOの原作では描かれていないが、過去ストーリーの真実とは完成間近の魔法陣を下水道の点検で入った作業員が偶然発見し事件が発覚するという流れになる。
この魔法陣の効果は炸裂。つまりアレイヤ全域の下水道を崩壊させて街の機能を破壊することが目的とされている。
しかし、偶然にも魔法陣は発見され、緊急に対処する必要が生じた。
結果としては、この邪神教会の魔法陣によるアレイヤの街へのテロ行為の対処に、大神殿は神山からの増援を要請せざるを得ないほど追い詰められつつも撃退には成功。しかしその隙を狙った邪神教会の精鋭の山頂神殿への襲撃を許し、多くの結界の巫女を失う結末となっている。
対してリベルタが助言をした現実はどうだ。
結論から言えば、邪神教会側が準備不十分で行動を起こさざるを得なかった。
これに尽きる。
準備段階、それも場合によっては撤退も視野に入れるような中途半端なタイミングでのテロ計画の露見。
しっかりと原初神教の教育を施された双子は、聖戦に失敗などありえない、なにがなんでも信仰に殉じないとダメだと認識しているがゆえに、撤退ではなく行動を選ぶ。
結果としては計画と同じことが引き起こされているが、差としては想定よりも街の被害が少なくなってしまうのもまた事実であり、それでもあちこちに通信の魔道具で計画を実行するという連絡を飛ばしまくっている。
それに呼応する邪神教会の教徒もいれば、まだ時期ではないと撤退する連中もいる。
同じ狂信者ではある。だが狂い方に差が出る。
考え無しに狂う信徒もいれば、狂った思考を実現するために考える信徒もいる。
その結果、中途半端なテロ行為になり、神山から増援を願う必要性が無くなった。
「あ」
そしてトルクと呼ばれていた双子の片割れは、この爆発の起点となる場所にたどり着いたが、そこはすでに神殿から派遣された術師たちが魔法陣の解体と魔道具の解体を始めていた。
咄嗟に体を隙間に差し込んで隠れたが、これ以上どうしようもなくなった。
爆発の起点は念のために、二つ用意している。
「タルク」
こっちがダメなら、向こう側ならと思った折に、ドンと大きな音が響き下水道が揺れた。
「ああ、タルク羨ましいなぁ」
予定よりも規模は小さいけど、それでもこの下水道が揺れて作業の手が止まるほど豪快な爆発を引き起こしたのは事実。
これを合図に同志たちが動き出す。
それがわかったトルクは相手が動揺しているうちに、小さな体を隙間に通して、下水道から脱出を図る。
自分も大神殿への襲撃に加勢するためだ。
本来の歴史であれば、自爆テロのような形で下水道に生き埋めの運命だったトルク。
彼は死を恐れない。
死んでも原初神の元に行くだけだと信じ込んでいる正真正銘の狂信者。
弟であり、兄であるタルクは原初神の元に旅立ったと、心配するどころかうらやましがる。
だから、彼も原初神の教えに殉じるために表のテロ行為に加担するために行動を起こす。
もう1つの爆発基点は無理だ。
あれは完全に無効化され、さらに敵の数も多い。
無駄死にだけはダメだと、判断したトルクはまだ敵に把握されていない道にたどり着き、何とか地上に出ることができた。
「あ」
「あなたは・・・・・その格好」
しかし、原初神はトルクを見放した。
両手に男を引きずっている顔に傷を持った女性。
その女性ことクローディアは、テロ行為を聞きつけた途端に鎮圧に乗り出していた。
縦横無尽に、邪神教会のテロ行為の現場に到着しては、そのステータスを駆使し現場を鎮圧していく。
暴れているのなら蹴り飛ばし、人質を取っているなら殴り飛ばし、自爆しようとするのなら締め落としと八面六臂の活躍を見せている。
今も、とある宿屋を襲おうとしていた邪神教会の信徒を殴り飛ばし気絶させ、近くにいた騎士に引き渡そうとした際中だ。
「えっと、失礼しました」
「どこに行くのですか」
トルクが感じる直感はヤバイの一言。
筋骨隆々な邪神教会の男の信徒を両手に一人ずつ引きずっている、鍛え抜かれた女性。
引きずられている教徒の入れ墨の場所は、顔。すなわち今回の騒動に協力してくれているベンド派の武闘派教徒。
戦闘能力では邪神教会の中ではトップ層のはず。
トルクが所属するアルダゴン派のトップが、ベンド派の伝手を使って派遣された今回の襲撃での主力。
「クローディア様!こっちも終わったわ」
「周囲を見て来たけど、ここら辺はもういないよ」
「私の方も終わりましたわ」
「こちらも無事終了いたしました」
まだだとトルクは思った。
ベンド派の主力は2人だけではない、派遣されてきた武闘派は12人。
たった2人が倒されただけなら、まだ挽回はできると素早く計算したが、後を追うように狐耳の赤髪の少女が大きなハルバードを肩に担ぎながら一人運んできた。
その背後には赤い鎧を着こんだ侍集団がいて、何人かの手には同じ入れ墨をした教徒がいる。
そして別方向からは、メイド服姿の女性とドレス姿の貴族らしき女性が歩いてきて、その背後にも侍の集団。
そこには捕らえられたベンド派の教徒がいる。
目線でトルクが、その人数を数えてみると合計十二人。
依頼した武闘派は全員ここにいるということを示した。
空から降りて来た鳥人の少女の言葉が真実であるなら、ここら一帯の教徒は全て鎮圧されたということ。
その事態に気がついて、危機感を感じたトルクはまた地下に潜り込もうとしたが、いつの間にか両手に掴んでいた教徒を放り捨てた顔に傷がある女性に襟首をつかまれ、そのまま地表に引きずり出された。
「放せ!」
じたばたと暴れるが、びくともしない。
服を脱いで脱出しようにも、がっちりと掴まれているから脱ぐこともできない。
防具だから切ることもできない。
「地下の方にもまだいそうですが・・・・・すでに警備兵を派遣しているようですし、彼も騎士団に渡して他の鎮圧に協力しましょう。この調子でいけばすぐに鎮圧できそうですので」
万事休す。
そう脳裏によぎった瞬間、トルクは作戦の失敗を悟った。
だけど、それはこの街での作戦が失敗しただけで、まだ終わりじゃないとわかっている。
「ハハハハ!この街の同志たちを鎮圧したからってなんだ!!」
そうしたら、この街での教徒たちの活動を止められて安堵している目の前の連中の顔が馬鹿らしく見える。
せいぜい一時の安心を得ろと心の中でトルクは蔑む。
「お前たちの大事にしている山の上の神殿は今頃壊滅しているだろうな!!これは神罰だ!!俺たちの正義は勝つんだ!!」
最悪、陽動さえできれば目的は達することはできる。
今回の騒動でそれなりの注目は集められたはず、今からこいつらが山の上に向かおうとも、すでに教会の精鋭が送り込まれていると聞いている。
救援に向かう頃には、山頂の神殿は全滅している。
そう確信しているトルクの発言を聞いた、顔に傷のある女性は。
「あなたは運がありませんね。いえ、この場合は貴方たちと言うべきでしょうか」
困ったような苦笑を浮かべる。
その表情はおかしい。
トルクの想像していた表情は、慌てふためき怒りに染まり、感情のまま無様な姿をさらす。
そんな敗者のような顔のはず。
しかし、彼女たちはどうだろうか。
慌てるどころか、困りはしているけど、笑っている。
それは傷のある女性だけではなく、周囲の女性や侍たちも一緒だ。
「そうね、運がないわね」
「リベルタ君もある意味じゃ運がないんじゃないのかな?」
「そうですわね。リベルタならまたか!って怒ってそうですけど」
「そうですね。リベルタ様ならそういう反応をします・・・・・これですと再会できる時間が遅れるのでは?」
なぜそんなに安堵できるのか、トルクが逆に困惑する。
鍛え抜かれた女性の腕に宙ぶらりんと吊るされたまま、何故と疑問符が脳裏によぎり続ける最中、神山の方で大爆発が起きる。
その轟音の発生源は山頂ではなく、山の中腹。
計画とは異なる場所での戦闘開始。それでもトルクは作戦の成功を信じて狂喜するはずなのだが。
「やってるわね」
「やってるねぇー」
「やっておりますわね」
「やっていますね」
「まぁ、すぐに静かになるでしょう」
この女性たちの緊張の欠片もない言葉を聞いて、彼の脳裏は不安に染まるのであった。




