15 プッツン来ちゃいました
ゲームをしていると時には理不尽な目に合う時がある。
そういうのはだいたいがクソゲーか、対人戦のどちらかに当たるのだが、今回はどうかといえば。
「ハハハハ、OK、わかった。そっちがその気ならこっちも考えがあるぞ」
いい加減ファンブル続きの試練に、俺の堪忍袋の緒も切れた。
武器を消耗させるような悪意のある階層が続き、そして前階層の18階層でついに最後の武器が無くなった。
ポーションもあと一つ、防具も損耗が激しくなり、致命的なダメージを負えばマジで死ぬという一歩手前。
そんなタイミングで、繰り出されてきた最悪の階層。
『シュルルルル』
蛇の鳴き声が響き、ズルズルと重い体を引きずらせる音が聞こえる広い空洞が展開されている。
おまけに、壁や天井のあちこちに直径二メートルほどの穴が空いていて、その奥からも音が聞こえ、あちらこちらから響く音によって敵の動きが上手く掴めない。
加えて、この暗闇。
全くといっていいほど、光源がなく、さらに足場もごつごつとして気を抜くとこけてしまう。
灯りを灯せばそこに敵が群がってくるのは必至。
そして灯りを灯さなければ、まともに戦うことすらできない。
そんな悪意の塊の階層の敵は、這竜。
クラス5のモンスターで、試練の中でもよっぽど運が悪くないと出てこないボスだけの階層だ。
攻略まであと一歩、19階層まで進んだというのにこの始末。
こんな階層の配分をした輩が目の前に来たらぶん殴る自信がある。
知っているか?怒りって、一周回ると冷静になるんだぜ?
こんなもの、真っ当な試練じゃない。
悪意のある嫌がらせだと認定した。俺の頭の中で何かのスイッチが入る。
「影纏い」
這竜の試練の攻略はいたって単純。この空間で、這竜を十体討伐してゴールに到達すればいいだけ。
この、音が反響して、視界が真っ暗で、足場が最悪で、敵が立体的に襲い掛かってくるという詰んだ環境が用意されたこの階層で、スキルが制限されて、レベルもダウンした状態でだ。
クラス3でEXBPがあると言っても、防具はボロボロ、武器無し状態で這竜を一撃で屠るのはほぼ不可能。
常人プレイヤーがこれに挑んだなら、なんだこのクソゲーとクレームの嵐だっただろう。
しかし、俺はこの階層を何度も攻略したことがある。
だから大丈夫!とは言い難いがな。
廃人と呼ばれる、名人級を通りこして馬鹿と何かの紙一重の集団であっても、この階層を縛った状態で確実に攻略する手段は見いだせていない。
なにせ、この階層のゴール地点の配置パターンは全部で百三十七か所。
それに加えて、地形パターンが八パターン存在している。
それが完全ランダムで配置されて、ルートが固定できないのがまず第一の欠点であり最大の難所。
おまけに地図は基礎が一緒で微妙に変えてきているから、マジで絶妙に邪魔なのだ。
次に、安全地帯がないのだ。
この階層のクソ仕様なのは、這竜という闇夜ではヤバい性能を誇る難敵がボススペックで複数徘徊しているというのに、回復手段が存在しない。
休憩できず、神経を研ぎ澄ませ続けるのは常人ではまず不可能。
そして相手は音に敏感、熱にも敏感、そして此方からは見えない闇魔法と毒霧を使ってくる。
クソ通り越して、もはや笑うしかない。
「・・・・・」
呼吸は常に静かに、足音を消して影を纏い、暗闇に溶け込んだ俺は、かつて何度も何度もこけながら身に着けた感覚を記憶から呼び起こし、歩幅を一定にして距離感を把握し、歩数だけを頼りに頭の中に描いたマップを移動し続ける。
伸ばした手で、特徴的な岩があったらそれを確認して、自分の位置を把握。
このところまともに食事もできていないから、栄養が足りていない脳みそをフル回転させるのはマジでキツイ。
だけど、やらないと死ぬから、体には悪いけどフル回転で行く。
視界は役に立たない、使うのは聴覚と嗅覚、そして触覚。
十歩歩いて右、十五歩歩いて左、三歩進んで右と小刻みに移動するのは、今までの階層の移動速度と比べると牛歩と言っていいほど遅い。
だけど、まだ確実にどのパターンの地図か判断できていない状況では、走り回るわけにはいかない。
パターンがわかれば、一気に加速できるんだけどな。
そんな手探り状態だった時に感じる風の流れの変化、何かに遮られ風が弱まる。
何かなんて推測する必要もない、這竜だ。
風を遮る胴体が、洞窟のどれかを塞いだ。
それによって風の流れが変わったのだ。
この階層を攻略するにあたって風の流れというのは命綱と言っても過言ではない。
相手の位置把握はもちろんだが、毒を流し去ってくれるのにもこの風は必要だからだ。
風向きには常に神経を張り巡らして、そしてなおかつこっちが有利になるように立ち回る。
頭の中のマップを照らし合わせ、風の流入位置を常に背後にするように移動する。
そうすると、触覚にわずかな違和感を覚える。
この先にいる。
這竜もそのことを感じ取ったのか、それともたまたま止まったのか。
影纏いを維持している今の俺は、這竜の嗅覚にも音感センサーにも引っ掛からない。
音を出さずにじっとしていれば、視覚でも捕らえることはできない。
だからこそ、違和感はあっても確信はないという状況だ。
ゲームニュアンスで言えば、這竜の頭上に『?』と表示され周囲を警戒している最中だろう。
しかし、俺がジッとしていることでその異変も感じ取れず、気の所為かと改めて動き出したとき、這竜の頭の位置を俺は正確に把握し、空を蹴る音と共に一気に這竜の首の下。
逆鱗に向けてマジックエッジを纏わせた貫手を放つ。
『ギャアアアア!?』
洞窟に這竜の悲鳴が響き渡る。
瞬間的に洞窟内全てが殺気立つのがわかった。
さっきまで静かだった洞窟内に、竜の威圧というべきものが充満する。
クラス8になってからはアジダハーカといった強敵にしか感じなかった死ぬ予感。
流石に弱体化している状況だと厳しいかと、苦笑しつつ。
暴れる這竜の首を足で挟み込み体を固定、そして両手をマジックエッジで凶器と化し、連続で逆鱗を貫き続ける。
タイムリミットは這竜がのけ反った頭を振り戻し、そのまま顎の下にいる俺を無理矢理引きはがすために地面に叩きつけるまで。
しかし、こんな時ばっかりは運が味方したようだ。
ぶんぶんと頭を振って首の下に足でしがみついている俺を振り払おうとしているあたり、行動パターンとしては最良を引き当てた。
この行動で、この空間の近くにいる這竜たちが続々とやってくる。
そうなると、暴れている這竜がダメージを負わない毒霧を発動させて一気に俺の命を削ってくる。
影纏いがあるからと言って、毒が無効化されるわけではない。
なので、そうなる前に俺はただひたすら這竜の急所にマジックエッジで強化した貫き手を叩き込み続ける。
DPSは最高効率を維持、相手から反撃をされない間に一気に命を削りきる。
『グエァ!?』
頭を振り回され、体が揺れるが、足に力を籠めて首を絞めあげ貫手を叩き込み続け、一体何発目か。
奇声を発し、ビクンと体を揺らして這竜が黒い塵と化し始めた感覚を足越しで感じ、一気に跳び退き、迫りくる這竜が出てくる〝天井〟の穴のすぐそばの壁に張り付いた。
『キシャアアアア!!!』
開幕早々怒り心頭な這竜が、息を殺し、隠れている俺が潜むすぐそばを通り過ぎ、穴から飛び出してくる。
他の穴からも、次々に、這竜が飛び出してきて、この広い空間と感じれる場所に合計4体の這竜が集結し、そして暴れまわる。
暗闇の中に入り交じる這竜たちは、互いの体をぶつけあい威嚇しあうが、肝心の敵である俺の姿が見当たらない。
フレンドリーファイアで、攻撃しあってくれるのが一番理想だけど、さすがにそう簡単にダメージは重ならないか。
魔力で輝くマジックエッジはすでに消している。
あれを残したままだと、闇夜でサイリウムを振っているのと同じで、魔力も感じとれるから格好の的になる。
その代わりに、こっそりと息をひそめてその乱闘から脱出するために、天井から出て来た這竜の穴に体を潜り込ませ、暴れまわる音に紛れ空歩で一気に登る。
這竜の体格の大きさから、こういう移動用の通路には一体しか潜伏できない。
二体以上入ると穴が詰まってしまうので、這竜も別々の通り道を使う。
穴の大きさはおおよそ把握しているから、時折天井に手をついて移動しつつ一気に別空間に出る。
空間と空間を繋げる、横穴を抜けた先に這竜はいないと油断するのは禁物。
この階層のシステム上、這竜の数は一定。
一体倒したから減ることはなく、一体倒したら即座に補充される。
過剰に増えることは無いにしても、減ることもない。
あの空間に四体いるからと言って、この空間にいないとも限らない。
引き寄せられずに、とぐろを巻いて虎視眈々と待ち伏せする個体も当然いる。
直感的に、入り口付近で止まり見えないはずの闇の中を凝視すると、何かがいるような気がした。
こういう直感を無視するのは得策ではない。
なので、脳内マップでルートを選択し、その空間の地面に着地せずそのまま別の空間に繋がる道のある方向に壁を這っていく。
音を出さずに慎重に。
現状ここで戦闘したら、あの四体もすぐに移動してくる。
流石に距離が近すぎてここでの戦闘はリスクしかない。
「!」
そんな這っている最中に掴む、突起。
膨れ上がっているような形状をそのまま手さぐりで感じると、俺の口元はニヤリと歪む。
まだまだ、この試練を用意している輩も甘いようだ。
この階層は鬼畜のような環境ゆえに、FBOではいくつかの救済措置が取られている。
と言っても暗闇の中でそれを引き当てること自体が至難の業で、別名で「救済になっていない救済措置」と揶揄されることもしばしば。
ワンチャンあるかなと期待していたが、その中でも最高の物を引き当てたようだ。
「くくく」
最早隠れる必要もなくなったいま、俺は迷いなく左手にマジックエッジを発動する。
『キシャアアアア!!』
笑い声と魔力反応、その同時の反応に案の定下に潜んでいた這竜は威嚇の咆哮を上げるが、もう遅い。
「セイヤ!!」
思いっきり壁にマジックエッジで保護したその手を突き立て、そして細長い物体を掴む。
そして力任せに、壁に埋まっていた物体を引き抜く。
「さぁさぁ!やろうぜ這竜!真正面から正々堂々とな!!」
それは少し古ぼけたモーニングスター。
武器としては、ごくごく平凡なものかもしれないが、その武器は主を得た途端に禍々しい赤い光を放ち出す。
『・・・・・フシュー!』
その武器の輝きによって空間が照らされ、警戒してその場から動かない這竜が照らし出される。
何を隠そうこの武器は、いつの日か作った竜殺しの大弓の親戚だ。
こいつは過去の試練で志半ばに果てた英雄が残したと言われる、不壊のモーニングスター。
そこに、竜殺しの特効効果が付与されている。
嫌らしいのが、スタート地点に近いとはいえ、天井付近の這竜が出入りしている横穴のすぐそばに、柄が埋もれるように隠されていることだ。
トゲトゲの有る部分は一見すれば岩にしか見えないから、余計に擬態して見えていたのだ。
「死にさらせやぁ!!!」
そんないやらしい隠され方をされている救済措置だけあって、その火力は這竜であっても、殴られてしまえばかなりやばいダメージを負うほど性能はいい。
その存在を知らなければ探すこともないだろうが、これを見つけたら一気にこの階層はヌルゲーと化す。
竜殺しの武器を警戒して、周囲から仲間が来ることを待っている這竜という珍しい光景が見れるが、生憎と俺は待つ気はさらさらないので、空歩で一気に近づき。
「往生せいやぁ!!!」
避けようとする這竜の目の前に先回りして、その横っ面を思いっきりモーニングスターで殴り飛ばす。
ここまでの恨みを晴らすかの如く、殴り続けるのであった。




