14 EX エンターテイナー 4
「結局女は顔で男を選んでいるんだよ!!」
「ハハハハ!そういう人もいるのは確かだけど、その言い方すっごい失礼だよ♪それに飲みすぎ。ググル君、顔真っ赤!」
「うるせぇ!!やっと見つけた運命の女だと思ったら男だった俺の気持ちがわかるか!」
男だと正体を明かして現実に引き戻した後、改めて話をしてみると、ググルという人物は思いのほか面白かった。
恋愛素人で、色々と不器用。
シャリアを男だと知ってからも、必死に現実を受け入れようとはしたものの、シャリアの見た目があまりに整いすぎていて、どうしても信じたくなかったという経緯だ。
「可愛すぎてごめんね♪」
「チクショウ!!せめてもの抵抗で男物を着せても可愛いのかコンチクショウ!なんでお前は男なんだよ!!」
元々リベルタから仲良くなるように指示を受けていたこともあってか、シャリアは可能ならそのまま話を詰めようと思った。
最悪、お茶だけでおしまいかなと思ったが、シャリアの見た目が本当に好みだったらしく、ググルもこのまま縁が切れるのが惜しかったのか、こうやって個室を備えている酒場まで来て酒杯を交わしている。
その際にググルの抵抗で、「男らしい格好をしろ」と言われ用意された燕尾服に袖を通したシャリアだったが、男らしい髪型に整えても男装の麗人にしか見えず、逆にこの酒場に来ていた女性客の目を別の意味で釘付けにしていた。
「そんなに僕が好みだったの?」
「ああ!結婚するならお前みたいな女だって電気が走ったんだよ!」
「ハハハハ!まぁ、僕、可愛いからね」
「チクショウ!否定ができないぞ!おい!酒のお代わりだ!!」
「あ、僕もお願い!」
ここが個室でなかったら、もっと視線が集まっていただろう。
ハイクラスのステータスを持っているシャリアとて、アルコールが入れば頬は赤く染まる。
おまけに、暑苦しいということでネクタイを緩め、鎖骨が見えるほど着崩した姿は、目に毒と言わんばかりの色気を醸し出している。
「ちくしょう、なんで俺の理想が男なんだよ」
「まぁまぁ、将来きっといいお嫁さんが貰えるさ」
「将来じゃなくていまなんだよ!今年で30になる俺の気持ちがわかるか!親父とおふくろに結婚を諦められそうになっている俺の気持ちが!!」
そんな色気があるからこそ、シャリアが男であることが悔しくてたまらないググルは、酒杯の中身を飲み干し〝ダンっ〟と強く机に叩きつけた。
「ふーん、そんなに結婚したい?」
「したい!」
「どんな子と?」
「美人で気立てが良くて、あとは山が大きければ文句なし!」
「あははは!高望みだぞ♪」
「うるせぇ!それは俺が一番わかってるんだよ!」
自棄酒と形容するしかないググルの荒れっぷり。
だが、それだけ本音を吐き出せるくらいに、シャリアに気を許しているとも受け取れる。
ググルの女性の好みを聞くと、いかにも女性に夢を見ている男が言いそうな理想像が出てきて、シャリアはケラケラと笑う。
「そういうお前はどうなんだよ!そんな恰好して、まさかその姿が理想の女とか言うつもりはないだろうな?」
「うーん、家庭的な子かな?ほら、僕って冒険者やってるから色々なところに行くんだけど、やっぱり帰れる居場所ってほしいんだよね♪だから、帰った時に暖かく出迎えてくれる優しい子がいいね」
「見た目は?」
「うーん、あまり気にしたことないね♪」
「絶対モテてた!この格好させてわかったけど、こいつ絶対モテてただろ!!」
片方がカエル顔、もう片方が絶世の男装麗人という妙な組み合わせながら、酒に酔った男同士の腹を割った話なのに、話している内容は思春期の男子の会話。
非モテ男子とモテ男が仲良くなったらこんな会話をするだろうという内容に、ググルは絶望した様子で机に突っ伏す。
ググルの脳裏では、シャリアに近づいてくる女性の容姿レベルが平均以上であること、そしてその中から「優しい子」を選べる立場にいることが瞬時に理解できてしまった。
「いやぁ、僕、昔は女の子と距離とってたからね。こんな見た目だったし」
「ウソだ!」
「いや、本当♪」
選り取り見取りだったんだろ、とググルが指摘すれば、シャリアはグラスを傾けながら「ないない」と手を振って否定した。
それが信じられないと叫ぶググルを、シャリアは笑顔で受け流す。
「くそぉ、俺も、お前みたいにモテる人生を送りたいぜ。それで笑顔で、『モテてない』って謙遜したいぞ」
「どういう夢を持っているかはよくわかる言葉だね」
しみじみと嘆くググルの願い。
テンションの上がり下がりが激しいのは酒のせいだろうか。
「シェリーよぉ。どうやったらお前みたいにモテるんだよ」
そして人生相談のようなノリでシャリアに質問してきた。
モテるモテないという分野において、実はシャリアは経験豊富というわけではない。
実際、中性を通り越して女性寄りの顔立ちのおかげで、男には揶揄われ、女性からは「可愛い」と愛でられ、異性として意識された経験は意外と乏しいのだ。
こうやって男装麗人の格好をすると妙に女性受けがいいというだけで、実際そこまでモテているというわけではない。
「モテる、モテる……」
自分の経験があまり参考にならないため、身の回りで女性にモテている人間を思い浮かべると、雇い主の顔が出てきた。
「うーん、頭がいいとか?」
「勉強はしてるぞ!実際に、学校では成績上位だった!だが、モテない!」
「行動が、下心丸出しだからだね♪」
リベルタがなぜモテるのかは、なんとなくわかっている。
ネルやアミナの夢を全力で叶え、エスメラルダの窮地を命懸けで救い、イングリットを主従関係を越えて大事にしている。
シャリアの推測では、クローディアも怪しい。
おそらく、対等に戦えるライバルという存在から、次の段階に移行しようとしている。
そういう点で、リベルタは溢れるような知識を駆使して破天荒な行動していても、身近な女性たちには見返りを求めない真摯な姿勢で接し、そこに下品な下心を添えないからこそモテるのだと判断できた。
ただ賢いだけではだめなのだと、ググルを見るとよくわかる。
「くそぉ!服だってな!高い金を払って王都の最高級品を取り寄せているんだよ!なぜだ!」
「そもそも、その服が似合ってないからだぞ♪」
「ぐは!?」
改めてググルの格好を見ると、高い服を買ったというだけあって、過剰な装飾が施された手間のかかった代物だとはわかる。
勝負服なのだろうが、キラキラと輝きすぎていて逆に下品に見える。
客からお金を分捕ることしか考えていない服屋の仕立て品だとなぜ気づかないのか、シャリアは心底不思議に思った。
「に、似合ってないか?服屋の店員は絶賛してたぞ」
「それは、服屋も商売ってことだよ♪」
「ぐは!?」
その疑問の答えは至ってシンプル。きっとおだてられて、その言葉を真に受けたのだ。
哀れなり。シャリアが現実を突きつけると、ググルは再び崩れ落ちた。
「自分の目で服を探せば、もう少しマシになると思うぞ♪」
「そういうセンスは昔からないんだよ!出来たら苦労しねぇって」
「周りの服を参考にするとか?使用人に聞いて見立ててもらうのも手だぞ♪」
「そういう服は恰好良くないんだよ。使用人が持ってくるのは無難な物ばかりで、なんていうか『モテる』って気がしない」
「わがままだぞ♪」
彼なりに努力はしているのだろうが、努力の方向性が間違っている。
すべてが無駄というわけではないが、やることなすことすべて裏目に出ている。
ここまでググルに接して得た情報は、どれもこれもリベルタが事前に教えてくれていた内容と一致する。
絶対にリベルタだけは敵に回さない――。改めて心に誓う機会をこんなタイミングで得られるとは思わなかったシャリア。
「無難な服なら、ひとまず似合わないということはないんだから、そこを基準に服選びをすればいいんだぞ♪」
「そういうんだったら、お前が俺の服を見立ててくれよ!そういうの得意そうな顔してるし」
「うーん、顔は関係ないと言っておくけど、できるかできないかで言えばできるよ。ただし、無報酬は嫌だね」
「金か?」
そしてリベルタからの情報の中には、「誰でもできるググルのモテ男への魔改造プラン」というのも入っている。
まさかこうなることまで想定していたのか?と、リベルタの予測精度に冷や汗をかきそうになりながら、シャリアはググルの頼みを引き受ける流れを作り出した。
「光明苔の口添えで手を打つぞ♪」
「そうだよなぁ!わかっていた。けど、口添えかぁ。そう簡単にできないから、お前の選んだ服で嫁ができたら……っていうのはどうだ?」
「ぶっ殺すぞ♪」
「ひぃ!?冗談、冗談だよ!その恰好でその笑顔をされると、何か出そう!?」
悪ふざけで踏み倒そうとするググルに釘を刺しつつ、変なものを出されても困るので、ひとまず殺気は抑える。
「だ、だけど、ただ服を選んでもらっただけで、うちの商品を売る口添えをするのはボリすぎだろ!それに親父たちを説得するにも、『シェリーのセンスのおかげで嫁ができた』くらいのインパクトがないと意味がないんだ」
「うーん、それもそうだね」
ググルの言い分も一理ある。
実際、服を選んだ程度の理由で、光明苔の独占販売を維持してきた一族が品を譲ってくれるとは限らない。
なにより、ググルとの関係が悪くなる可能性もある。
「よし、それじゃぁ、女性にモテるための立ち居振る舞いも監修して、恋人ができるまでサポートしてあげるよ。僕のアドバイスで恋人ができたら口添えしてもらう、っていうならどう?」
「……ついでに、近寄ってきた女の身辺調査もしてもらえないかなぁって……」
「高くつくぞ♪」
「できるのかよ!?」
目的を果たせなければ意味がないと判断したシャリアは、アレイヤに転移のペンデュラムの座標を登録したことを思い出し、定期的に通うことを視野に入れ始める。
リベルタに理由を説明すれば、サポートもしてくれるだろう。
「うぐぐぐ、背に腹は代えられないか。少しまけてくれないか?」
「仕事はきっちり、対価もしっかり。商売の基本だよ♪」
「わ、わかった」
「ひとまず、お酒はここまで。明日の朝、宿の方に迎えに行くから、しっかり起きててね」
「明日からか!?」
「モテ男の朝は早いんだぞ♪」
長々と時間をかけるのは得策ではない。
ぐいっと男らしく酒を飲み干したシャリアは、勘定をググルに任せ、彼を連れ立って店を出た。
宿屋にしっかりググルを送り届けてから、シャリアも自分の宿に帰還。
肌の手入れを済ませ、ストレッチを行い、その日はすぐに眠りについた。
翌朝。フルーツを食べてビタミンを補給し、化粧水でお肌を整え、ナチュラルメイクを施して姿見の鏡の前で服の点検を済ませる。
くるりとその場でターンをして。
「今日も可愛いね」
自画自賛で自信を高めてから宿を出る。
今日も今日とて、周囲の視線を集めながら宿屋にググルを迎えに行った。
「ちゃんと起きてたね」
「お前との約束を破ったら大変なことになりそうな気がしたからな」
「約束を守る男はモテる。まずはそれを学べたぞ♪」
「もう始まってるのか」
向かう先はすでに決めてある。さっそく移動しようと、護衛を連れて目的地へ向かう。
「ここは、仕立て屋か」
「そうそう、事前にどういう店か調べておいたから入るよ」
「お前、いつ調べたんだ?」
「企業秘密。綺麗になるには努力が必要なんだよ」
そこはリベルタが教えてくれた、派手な格好を好む貴族は寄り付かなそうな、落ち着いた雰囲気の仕立て屋だった。
この店でどのようなことが起きるのか。少し怯えるググルを引き連れ、シャリアは入店するのであった。




