10 EX リベルタの居ない時に 3
「そう言えば、リベルタ君と離れるのって、すっごく久しぶりな気がする」
入山許可をもらった翌日、神山のふもとの宿屋で登山の準備をしている最中、護衛を除いたパーティーメンバーの面々で荷物の最終チェックをしているとアミナが呟いた。
「そうね。いつも一緒にいるのが当たり前だったわ」
リベルタがいない。
その一言に返事をしたのは、ネル。
そして、ビクッと反応したのはイングリット。
手を止めて、振り返るのはエスメラルダに荷物の詰め方を教えているクローディアだ。
今回の神山への登山はアイテムバッグが1つしかないので、登山用の道具を各自で運ばないといけない。
そのために旅の経験が豊富で登山経験もあるクローディアの部屋に皆で集合したわけだが。
「・・・・・」
「あ、イングリットさんがリベルタ君成分が足りなくて震えてる」
「まぁ、気持ちはわかるけどね。なんだかんだ一緒にいることが当たり前になってるから」
いつもなら旅と聞いて、楽しむ気持ちが湧き出るのだが今回はどこか物足りない。
リベルタが楽しんで来いと好意の気持ちで言ってくれたのは理解しているし、実際に楽しもうと納得もした。
けど、この場にいる全員が物足りないという感情を感じている。
「試練って、どれくらいかかるんでしたっけ?」
「一番簡単な試練で一週間ほどですね。リベルタが挑んだ最高難度の試練は過去に攻略成功者が建国の英雄など数名しか出ていない難関です。攻略に掛かった期間は最短で四カ月、最長だと三年ほどと差がありますね」
「・・・・・四カ月もリベルタ様にお会いできない!?」
一番リベルタの欠乏感を感じているのはイングリットで、いつもの無表情は何処へやったのか「な、なんだと……」とどこかの漫画に出てきそうな劇画調の表情を晒し、周りも話は聞いていたが改めて聞くと長いと感じてしまう。
「ご安心なさってくださいまし、リベルタなら絶対に一週間程度で帰ってきますわ。何せ、リベルタですもの」
しかし、その空気を一掃するようにエスメラルダが、荷物整理から立ち上がり微笑む。
それはリベルタの実力への信頼と、これまでの実績を信じてのこと。
「むしろ歴代の記録をぶっちぎって攻略して見せて、神殿から驚かれてどうやったのかと問いただされる未来が見えますわ」
「「ああー」」
「あり得ますね。ナタルにその点を踏まえた書状を送っておいた方がいいですね」
「リベルタ様なら、三日で攻略します」
そのエスメラルダの発言に、ネルとアミナは納得して、神山を登って降りてきたら麓でリベルタが待っていて『よっ』とあいさつする姿が見え、そして苦労話の最後の締めに神殿からの質問が一番きつかったと愚痴る光景まで見えた。
「三日ですか・・・・・」
「リベルタなら、あるいは……?」
「でも、歴史に名を残す英雄たちでも四カ月以上かけて攻略したのよ?」
「うーん、でも不可能って思うのは僕たちだからで、リベルタ君ならとんでもない方法で攻略するかも?」
さすがにイングリットの言う三日は短すぎると、皆で揃って苦笑をこぼすが同時に、脳裏に『ヒャッハー!!』とテンション爆上げで暴れまわるリベルタの姿が思い浮かぶ。
クローディアから試練の内容を聞いているので、試練に挑んだリベルタが最初は装備も貧弱な初期装備、食糧も最低限、スキルにもステータスにも制限がかかっているのにもかかわらず、なぜか今は充実した装備を着こんで万全な体調で大暴れしているイメージを思い浮かべてしまうのは、リベルタという規格外の存在に全幅の信頼を置いているからだ。
「「「「「・・・・・」」」」」
「え、そこまで考えることなのかな!?」
アミナの言葉に一同沈黙して、考え込んでしまうのはリベルタならありえないとは言い切れないからだ。
そんな悩んでいる最中に、トトトと廊下を小走りで走る音と会話の声が聞こえる。
このフロアは安全のため丸ごと貸し切り、階段付近と廊下にはそれぞれ御庭番衆とエンターテイナーの護衛がついている。
そんな彼らが話し込んでいるということは、この部屋に伝えないといけないことがあるという証拠。
「何かあったみたいですわね」
廊下から漏れ聞こえる話し声から、ただ事ではないと判断したエスメラルダの纏う雰囲気が変わる。
それとほぼ同時に、全員の雰囲気もさっきまでののんびりしていた空気を一変させる。
その空気を察してか、素早く部屋のドアがノックされた。
『ゲンジロウです。皆様、入ってもよろしいか?』
襲撃とかの喫緊の状況ではないようで、ゲンジロウは入室の許可を求めてくる。
着替え中の可能性も考慮できる余裕のある状況ということで、急ぎではないということか。
「はい、どうぞ」
代表して、部屋の主であるクローディアが返事をすると扉が開かれる。
入ってきたのは、ゲンジロウと顔見知りのエンターテイナー。
「今さっき、彼から情報が入りましてな。どうやら邪神教会の尻尾を掴んだようで」
いつもは脱ぎ癖のある彼だが、今日ばかりはしっかりと服を着て仕事を全うしたようで、持ってきた情報はこのアレイヤを悩ませる落書き事件。
「それは、お手柄ですね」
「といっても、本当に協力している連中の末端を押さえたって感じですがね」
「アレイヤに潜伏している邪神教会の協力者ということですか」
その解決の手がかりになるかもしれないという情報を得たということで、一旦共有しようと戻ってきたようだ。
「それでも貴重な情報ですわ。それで、どことつながりがあったのですか?」
「どうやら奴ら、いくつか隠し通路を建物に作っているみたいで、建物ごとで見張りがいて助けに入っているようです」
「道なき道を通り抜け、通り抜けた後に家宅捜索をしても当人たちはおらず、壁から壁に移動するなら隠すことも容易・・・・・そうやって追っ手を撒いていたということですか」
アレイヤといってもすべての住民が敬虔な神殿の神々の信者というわけではない。
中には利に聡く、後ろ暗いことに手を染めるという輩も一定数いる。
この街を治めている大神殿と敵対しているのなら、密偵の一人や二人潜伏させていてもおかしくはない。
「最後の方は追っ手を撒ききってから下水道の方に逃げました。なので、自分たちもそこで追跡をやめましたね」
「下水道、あそこは古代の遺構が使われているので、地図が消失した部分もあります。下手に追って迷う可能性もありますからその判断で正解です」
敵対している人員の出入りする場所は、下水道。
「下水道から侵入されている可能性は考慮されていませんの?」
「考慮されていますが、全ての出入り口を把握しているというわけではないのですよ。重要な施設に繋がっているところや、大勢の人が出入りできる場所はさすがに警備の兵士を配置していますが、細かい点検口は建物の建て替えとかで情報が消失していることもあります。それに世代を隔てて増改築も行っていますので、記録にない物を探すという点で、完全に管理できていないのが実情ですね」
「やろうと思えば、街の外から検問を経ずに出入りできるということですか」
「出来るかできないかで言えばできる可能性はあると言ったところでしょうね。それでも下水道の中は手狭です。記録によると、敬虔なドワーフの職人が緻密に計算して作ったものです。大柄な体格の種族は入ることはできても動き回ることはできません」
「そうなの?うちの村の下水道は綺麗で広いけど」
「あの村が異常なんです」
その下水道の通路は点検はできるようにしているが、人が快適に通るということは想定していない。
おまけに、古代に作ったために明確な地図が存在しない。
軍勢を大挙して押し寄せることはできないが、それでも数名程度なら街に侵入できる可能性は秘めている。
そんな明確な抜け穴は神殿に把握され見張られていないわけではないが、さらに知られていない抜け道を使って侵入しているという情報が入ってきた。
対比された、リベルタが作った村を異常の一言で一刀両断したクローディア。
「ひとまずこの件に関しては、私がナタルの方に情報を共有しておきます。少なくとも今後の事件において多少なりとも対策がとれるようにはなるはずです」
「わかりました。あと、シャリアさんなんですけどリベルタさんの頼んでいた人物と無事接触できたのでしばらくそちらにかかりきりになります。なので、山の方には同行できないと伝言を預かってきました」
「わかりました」
今も地下の下水道で邪神教会が活動していると考えれば、近いうちにドワーフや小人族で編成された神殿騎士が派遣されるだろう。
そうすれば今回の騒動はある程度収まるはず。
解決できずさらに潜伏される可能性もあるが、被害を抑えるかどうかの判断はクローディアではなくナタルたちがするべき判断と割り切った。
「リベルタに頼まれていた人ってどんな人だった?」
なので邪神教会に関しては、ナタルに判断を任せるという流れになったので、残った気になる部分、リベルタがネルたちにも伏せた人物の特徴をネルはエンターテイナーの部隊員に聞く。
「どんなって、申し訳ないですけどこれは自分が答えられない質問っす。今回ばかりは、勘弁してください」
「ええー」
「ネルさん、無理強いをしてはいけませんわ」
しかし、情報の管理はリベルタから諜報機関としてのエンターテイナーに与えられた重要な役割だ。
身内であっても許可なく教えることはできない。
ジッとゲンジロウがにらみを利かせていることにも気づいたので、ネルたちには言えないと素直に頭を下げた男に向けてネルは少し不満を見せるが、エスメラルダが言ったひと言も相まってその不満を抑える。
「追加で落書き騒動に関連した情報があれば共有をお願いしますわ」
「わかってます。神山を登っている最中でも問題なく伝えに行きますんで」
「頼みますわ」
「はい、それでは自分はこれで」
そうしたやり取りが終わって、エンターテイナーの男が立ち去った。
「さて、私は一旦神殿の方に行ってこの情報を伝えてきますが、皆さんはどうしますか?」
「私は荷物の準備がありますので」
「私も残ってます」
「僕も!」
追加で動かないといけなくなったが、クローディアは気にせず、次の予定を伝えてくる。
エスメラルダは準備ができておらず、同行しない。
ネルもアミナも神殿に行く用事はないので待機を選択。
「イングリットさんはどうしますか?」
「私は少し市場の方を見てこようかと思います。保存食を携帯していくにしても当日の分でしたらお弁当を用意できると思うので、その食材を見てきます」
イングリットは登山の準備は終わっているので出かけるとは言うが、それはクローディアと同行するのではなく市場への買い出し。
この宿屋に頼めばキッチンを貸してくれるのは確認済み。
なので、山登りの弁当作成のために食材を買い出ししたいと申し出た。
「わかりました。では途中まで一緒に行きますか。ゲンジロウさん、申し訳ありませんが、護衛を二人ほどお借りしても?」
「構いませぬ」
市場はこの宿から神殿に向かう道中にある。
なので一緒に行くことになり、2人で移動するのではなく護衛も連れて移動する。
「皆さま何か食べたいものはございますか?」
ゲンジロウの快諾を得られたのなら早速と買い出しに出かける準備をイングリットは始める。
その間にリクエストを聞くが。
「お肉!」
「僕も!」
獣人の少女二人は、即座に手を上げ食べたいものをリクエスト。
「私は果物があれば嬉しいですわ」
「私は、とくにはありません」
エスメラルダは果物を所望し、食にこだわりのないクローディアは特になしを答える。
「拙者もでござるか?」
「はい、護衛の皆様の分もおつくりします」
そして視線は護衛のゲンジロウにも向けられ、一瞬戸惑う彼に向けて頷くイングリット。
「で、では、何か力がつきそうなものを・・・・・」
リクエストをされ慣れていないゲンジロウの戸惑う言葉を聞き、考えること数秒。
「かしこまりました。では、買い出しに行ってまいります」
イングリットはクローディアと護衛と一緒に外に出かけるのであった。




