開幕
黎明は自覚がないが、超真面目な時の表情ははーちゃんに、ブチギレだ時の言葉遣いは雅亮に似ている。
幼少期よく見ていたから覚えたのだが、何度でも言おう、無自覚である。
色々な衣装に身を包み、されど所属する集団ごとに色は統一された妃嬪達が一同に会する。
それぞれ歌や詩吟など、それぞれ披露することに合わせて衣装の特徴が異なっており、衣装を見れば大体何を披露するかが予想できた。
まあ、その時点で舞を披露するグループが圧倒的に多いということもわかってしまったわけなのだけど。
ほとんど同時にそれを理解した女官達が露骨に硬直する。
今彼女達の額にデコピンかましたら、ヒビが入るのではなかろうか。
「あーあーあー……」
なんとなくチラリと賢妃様の方を見てみるが、賢妃様は特段動揺している様子は見せていなかった。
ある程度は想定していたのだろう、もしくは目の前の事象に手一杯でそのことに思考を割くほど余裕がないか。
なんせ今彼女は、四夫人全員の顔合わせに身を投じていた。
お互い微笑こそ崩さぬものの、第三者が見てもわかるレベルで水面下の争いが起こっている。
絶対あそこに行きたくない。だって炎の如き暑さと氷のような悪寒が同時に襲ってくるなんて経験したくもない。
問われるまでもなく願い下げだ、あの場にいるだけで温度差で風邪が引けるだろう。
そんな氷点下な空間など我知らず、桜は俺を見ろと言わんばかりに狂い咲いている。
まあ一応、名目上はこの集まりの主役は彼なので、特段文句を言うつもりもないのだが。
その桜の下で、花と競えるほどに美しい娘たちが必死に自分に視線を集めようとしている。
くしくも自分の素晴らしさをアピールするその行動は、花が美しく、そしてかぐわしくなったのと同じ理由を抱いていた。
そんな彼女らが芸の合間にちらちらと送る熱視線の先には、この国で最も強大な権力を有する男が微笑をたたえて悠々と座していた。
一見……一般人にはいくら凝視してもただただ優しげな表情を浮かべているようにしか見えないだろうが、私にはその男がつまらなそうに虚空を見ているようにしか見えなかった。
こいつ、お前の為(正しくはお前に気に入られて更なる権力を手に入れる為に)に、異様なまでに誇り高いお嬢さん方が我先にと必死こいて見せ物になってるというのに。いい度胸しておるではないか。
(ま、純粋に考えすぎかもしれませんけど)
警備の人間なんか、妃嬪たちの美しさ(しかも花との相乗効果でいつもより二割増し程度でお送りしております)に骨抜き、心ここにあらず状態だ。
この状態を見ると、前任のおじいちゃんたちの素晴らしさが再認識できる。
だって彼ら、「わしらはもう枯れとるからのう」とか、「いくら綺麗でも身内の娘っ子の嫁入り姿程奇麗なもんはないからのお」とか言って、超淡々と警備をこなしていたのだ。
むしろ芸を披露しすぎて疲れ始めた妃嬪に「これ飲みぃ」とか「これ食えばすぐにようなるわ」とか、色々滋養強壮や水分・塩分補給に良い物を与えていた始末だ。
今更分かったが、イケメン過ぎないか。だって明らかに自分が摂取する必要量の倍以上を持って来ていたのだ。
つまり最初から、ある程度無理をしてへばる妃嬪たちのことを予測し、彼女ら用に持って来ていたという事だろう。やだかっこいい。
さて閑話休題、現状にもう一度目を向けてみよう。
もともと後宮は超々優れた女性たちの巣窟なわけだが、何分今回は活躍できる選択肢や趣味特技が大幅に絞られている。
つまり、だ。この場では平凡なお嬢様に成り下がってしまっている妃嬪も多い。
因みに芸の披露の順番は、各集団の責任者が濁り酒で杯を交わして一杯呑みきり、その底に書いてあった数字で決まる。
ようするに古き良き風習という名の運任せだ。効率?知るかそんなもの。私に聞くな。
ここは風習形式その他もろもろ非効率が第一とされる後宮じゃい。
そしてその運が結構大事だ。実力に自信があるならば初手を分捕って圧倒し、ほかのグループの印象を蹴飛ばしたいだろうし、逆に自信がないのならば最後を狙いたい。
団栗の背比べが起きたなら、十中八九覚えられるのはより新しいものだろうから。
そして今回栄えある一番手を勝ち取ったのは、淑妃が率い、細充媛が中央を務める実力派グループだ。
舞の輪の中心には、のびやかに、かつ異常なほど飛び回って躍動感を演出しながら踊っている細充媛がいる。
なるほど体のあちこちにあざが出来たのはこの舞を習得するためか。確かにこんな動きをしようとすれば体のそこかしこにあざが出来る事は免れない。
確かに習得すればインパクト十二分だが、よくこんなことをしようと決断できたものだ。甘たれの世間知らず令嬢だと思っていたが、甘たれの部分は若干撤回しようではないか。
因みにほかのグループは青通り越して真っ青な顔をしている。
自分たちが、先ほど言った「一番最初にとんでもないもの見せられて印象が消えてしまう後続」になることを察してしまったのだろう。
なんと言い表せばいいのか……取り敢えず真っ先に出てくる言葉は『哀れ』だなあ。
幼少期から呪いのように、親から「お前はほかの子より優れているから」と言い聞かされ、世間という名の現実から遠ざけられてきたからだろうか。
彼女らはたったの一部分であろうとも自分より優れた女を見たときに、うまく感情を鎮めて平静を保つ方法を知らない。
その集大成のような光景が、今私たちの目の前で展開されていた。
何とも完成度の高く美しい舞が完璧に終わった後、細充媛らは静かに即席の舞台を降りていく。
先ほどの素晴らしき舞手の表情はどこへやら、すっかり単なるお嬢様に戻っている。何とも素早い変わり身である。
そしてしばらく休息兼準備の時間が設けられてから、負けを悟りハイライトのない瞳と生気のない表情を携えて次のグループがだらだらと舞台に上がっていった。
うーん、生贄というべきか、公開処刑というべきか。どちらで言い表すのが適切であろうか、甲乙つけがたい。
一応、体裁やら、何かの間違いで選ばれる可能性を気にして、芸という形は崩さず、自分たちが必死こいて練習していたであろう結果の披露を始める。
しかし、まあ、これは泣いても許されるだろう。
彼女らが披露するための芸として用意していたのは、あろうことか舞踊であった。
これで闘いを表した剣舞であったり、祈りを捧げるための祈祷舞で有ればまだマシだったのだろうか。
彼女達の選択した舞は、自分たちの前に舞われたものと同じく、宴会や、祭ごとで好まれる華々しいその名の通り『華舞』だったのだ。
悲惨ここに極まれり、こんなの印象に残りっこない。
だって、一切歯に衣着せずに言って仕舞えば、初心者に毛が生えた程度だ。
本人もわかっているのだろう。
ちゃんと披露してはいるものの、仮面やらかづき布の中でボロボロ泣いていた。
そんなしょっぱなからなかなかの地獄絵図と化した花見会、そろそろ私たちも自分の準備をしなければいけないと思いながら振り向くと、何故か私と賢妃様を除く全員がかごめかごめか黒魔術の最中のように、手をつないで円になった状態で膝から崩れ落ちていた。
「いや、何があったし」
次は6/28予定です(*'▽'*)




