ぱきぱきぽっきん
黎明ちゃんは胃腸が強いが、限界までお腹いっぱい食べようとする特性があるので、結局お腹を壊してのたうち回る。
怪しげな黒魔術の儀式会場か、子供がよくやる遊びの代表格、『かごめかごめ』をやっている真っ最中のように、妃嬪達が円を描いて地面にしゃがみ込んでいる。
それだけでも十二分に珍妙な絵面だが、揃いも揃って暗い顔をしているのが奇妙さを加速させている。
というか、暗い顔を行きすぎてもはや死んでいるような顔をしている。
みんな元々目鼻が整っているので、シュールさも相当なものである。
「なにしてるんですか!?ここは葬式会場か何かですか!?」
自分でも客観的に見たらなかなかツッコミどころ満載な一言だったが、珍しいことにいつもならキレキレ、もしくはノリツッコミをかましてくる先輩達が何も言わない。
数秒遅れてから、油の切れたゼンマイ仕掛けの玩具かなにかのようにギリギリとこちらを向いてきた。
ホラーだよ。普通にホラーだよ、この生気のない顔でぎこちなく振り返られるの。
「何があったんですか…?」
生気のない顔に圧倒され、少し尻すぼみしながら問いかけると、自分の目で見て理解しろと言わんばかりに無言で輪に空間を作られる。
その隙間から輪の真ん中にあるものを見て、なんでこんなことになってしまったかを理解してしまった。
「あちゃああ〜〜…」
縁の真ん中には、バッキバキに折られた扇が大量に放置されていた。
全員分綺麗に破壊されてしまっているし、貼っていた紙ではなく扇の骨の部分を破壊されている。絶妙に嫌なことしおってからに。
「何てことしてくれるのよぉ……紙の方ならまだ何とかなったのに!」
「私なんて昨日おろしたばっかりなんですが!?給料数週間分が消し飛んだんですけど!」
「あ、良かった思ったよりも元気だった」
「「「どこが!!」」」
「そういうとこが」
私を除く妃嬪全員が、示し合わせたように一斉にこちらを向く。何君たち、打ち合わせでもしてたの?服も髪も化粧も装飾品も全部全部統一してる集団が一斉に振り向くって、結構壮観だ。ちょっとびっくりしてしまった。
私をねめつけて少し落ち着いたらしい彼女たちは、悪魔洋館の偽果ないかを行っているような雰囲気はそのままに、その場でブツブツと作戦会議を始めた。
私はその輪に入れてもらえなかったので、すぐそばで耳を澄ましてみる。
すると聞こえるわ聞こえるわ。可愛らしい顔に似合わぬ復習計画が。
「犯人見つけたらどうしてやろうか……」
「部屋に虫投げ込んでやりましょう」
「ぬるい。ぬるいわ。もっと過激な仕返ししてやらなくちゃ」
「なんたって糞高い人の扇を骨からバキバキやってくれちゃったんだからねえ」
「しかもこんなに大量に」
「今上陛下に言いつけるのは決まりでしょ?」
「話盛るのは忘れずにね」
「勿論ですよう、他には何します?」
「化粧品に砂入れてやりましょう」
「じゃあ私文箱を水没させますわ」
「お高いお茶器を持って手を滑らせてやりましょう」
「オーケー、じゃあ各自実行で。痕跡は残さないのよ」
「言われずとも」
「了解」
おわかりいただけただろうか、ここが後宮である。これが後宮である。
いかに真っ白であろうとも、長時間黒の色素につかれば黒に染まることは免れない。
むしろ白ければ白い方が染まりやすいまである。
日頃人の好い、優しく気さくな彼女らでも、逆鱗に触れかければこの通りだ。
え?じゃあ完璧に逆鱗逆なでしちゃったらどうなるのかって?思い出させるな寝込んじゃうから。
「でも、結局これどうします……?」
「ああああああ〜……」
新人ちゃんの一言によって楽しい楽しい報復相談会から現実に引き戻された妃嬪たちが、一斉に奇声を上げながら顔を降下させていく。
うーん、まあね、確かに必要な確認ではあったけどね。
でもこの人たち、テンション下がってる時はとことんメンタル弱いんだよ。
もうちょっと言い方どうにかならなかったのかなぁ〜?……口にはしないけど。
だって、ここでしょぼくれ星人が増えると面倒臭いことになるのは私だもの。
しばらくの間、
「本当にどうしろってのよ」
「いっそ扇なしでやれば良いのかしら」
「でも途中に扇投げて交換する振り付けありますよね」
「変な間ができちゃうわ……」
「かんざしか羽織で代用しますか?」
「それ良いわね!見栄え重視でやる予定だったもの。いけるかも……!」
「じゃああんた、練習してようやくできるようになったってのに、扇以外のものを思い通りの場所に無回転で投げれるって言うの?」
「今は無理だけど、練習すれば……」
「締め切り今日中だけど?」
「無理だわ、ごめん。これは無理だわ」
「分かればよろしいのよ、オホホ……ハァ……」
「「「どうしよう……」」」
うーん、これは悲惨。
そして全員そろって次にとるであろう行動が予測できてしまい、私はじりじりと後退する。
そしてそれによって生じるはずだった空間を強制的になくすように、皆もまたじりじりとこちらに詰め寄ってくる。
仮面〇イダーか戦隊シリーズの戦闘シーンにありそうな感じで、円形をえがくように動き、しばらく膠着状態が発生した。
数秒のにらみ合い、私は冷や汗をかき、皆はすがるような眼をしながらも舌なめずりをしている。
「…………ふうーーーーーーー」
3,2,1。
「お断りじゃあああああああああああああああああい!」
「まだ何も言ってないわよ!」
「捕まえるわよ!あっ、くそ!そういえば滅茶苦茶足早かったわあの子!」
「ちょっ!?黎明先輩令嬢にあるまじき速さなんですが!」
「陣形展開!囲め囲め!逃がすと面倒くさくなるわ!」
「フォーム綺麗すぎるでしょ、あの子運動選手か何かなわけ!?」
「ありがとう雅亮!確かに足の速さは令嬢に必須の技能だったぁ!」
しかし順調と思えた逃走を、予想外の人物が妨害する。
それは、この中で一番足が遅かったはずの後輩ちゃんだった。私の服の端をしっかりと掴み、肩で息をしている。
頭に葉っぱやらいろいろなごみの混合物がのっかっていることから、無理矢理最短距離を走って詰めてきたらしい。
葉っぱの山やらゴミ袋やらが経路においてあるので、相当肝が据わっていないと突っ切るなんて不可能だ。
だからこそ考慮していなかったのだが、奇麗に虚を突かれる形になってしまった。
「うっふふふふ……こう来るとは思ってなかった、って顔してますね?捕まえましたよ〜黎明先輩……」
ぜえはあ、ぜえはあ、と肩で息をしながら、にっこりと可愛らしい満面の笑みを浮かべる後輩。
なんとかその手を引き剥がしての逃走を試みるが、か弱い女の子にあるまじき圧倒的握力で握り込まれているので、引き剥がせない。
「というか握力どうなってるのぉ!?」
「今だけ多分170くらいあります!」
「令嬢にあるまじき握力!ジャガイモ潰せちゃうんですが!自分の立場に準じた身体能力にして!?」
「先輩にだけは言われたくないです!」
「「そーだそーだ!」」
「外野はだまらっしゃい!」
「誰が外野よ!ガッツリ当事者よ!」
「そうよそうよ!」
「あああああもーっ!分かりました!分かりましたよ!なにして欲しいんですか」
そういった瞬間に、先輩たちを含め全員が綺麗に目の前に跪く。
元々今上陛下の前に出ることも前提にして鍛え上げられた集団行動だ、異様なまでに綺麗に揃っている。いっそ怖い。
「黎明様、黎明様、どうか私たちに扇をお恵みください」
「あのー、なんで私が扇複数個持ってる前提で話してるんです?」
「え、持ってないの?内ポケットか何かの中に入ってるでしょ?」
「あなた達もしかしなくても、私が未来から来た猫型ロボットか何かだと勘違いしてませんこと?」
「黎明、キャラが迷子になってるわよ。あなた今悪役令嬢みたいな口調になってるから」
「お黙れ……ヴヴンッ、ゴホンゴホン」
先輩たちを黙らせつつ、喉を軽く鳴らしてから指を鳴らす。
♪《てれれれってれー》(件のBGM)
「す〜ぺ〜あ〜の〜お〜う〜ぎ〜(ダミ声)」
懐からドサドサとスペアの扇を雪崩のように取り出す。
しっかりとした作りの舞扇だ。機能として元々の扇に劣るということはないだろう。
「やっぱりあるんじゃない!!」
「このドラ○もんめ」
「質量保存の法則無視しないでください先輩」
「助けてもらっておきながらこの言いようよ」
……まあこれで、問題はないだろう。
さて、扇はどうにかなった、後はメンタルをどうするかだ。
次も月曜日ですね……会話に力を入れようと思ってました、こうなった。




