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第十五話 サービス?

「かすみ、ここに大、中、小の三つの人の形を模した紙がある。それぞれにわしが呪を掛けて居って、呪者の力量に因ってこの人形ひとがたの紙が式神へと変化する。小さいのと大きいのでは、式神に変化する時に必要な霊力が違って居ってのぅ。大きい紙の人形を式神とするには、相当な霊力が要る」


 かすみは道玄に陰陽師としての力量を計るため、境内の広い庭に呼ばれていた。

 今日は出掛けないと聞かされていたので、ニー足袋は装備しておらず、天女のような真っ白で無地の極短の丈の着物に淡いピンクの色で縁取られた白い帯を合わせていて、細く綺麗な生脚には短く白い足袋と草履。髪はいつものツインテールで、根本に白い布をリボンのように括り付けていた。


 その全身真っ白なかすみが境内に出てきた時、

 道玄は片膝を突き、「私の女神様イエス・ヨア・ハイネス」と言いながら深々と頭を下げた。


「あのじじぃ、本気でやべぇな……」とその姿を見た勇次は呆れた。



 海道と勇次は縁側に腰掛け二人の様子を見ていた。


「道玄和尚が、ここでかすみ殿の力量をどの程度のものと判断するのか、とても興味深いです」


「あのロリコン坊主が判断してどうにかなるのかい?」


「本来は、四年に一回都で行われる陰陽師位階認定の儀という試験に参加して判定を受けなければ、陰陽師として正式な位階は認められませぬ。しかし、従一位の陰陽師が認めた場合は、いつ何時なんどきでも、その位階に達していると公言しても良いことになって居るのです」


「へぇぇ、あの少女愛好家が、そんな権力ちからを持ってんのかい? この国は大丈夫なのかねぇ」


「勇次殿、道玄和尚は変態ではありますが、従一位陰陽師というのは、この国に二人しか居りませぬ。拙僧なんぞから見れば、あの御方は雲の上の存在なので御座います。……酷いロリコンですが」


「おい、海道。今わしの悪口を言って居ったか?」


「め、滅相も御座りませぬ。道玄和尚の凄さを勇次殿に伝えて居っただけの事に御座います」


「地獄耳だなァ、ロリコンのくせによォ――」


 とその時、突然強い春風が吹き、砂塵を巻き上げた。

 皆が一様に目を伏せ、砂埃が入らないように手で顔や目を覆う。しかし道玄だけは、このチャンスは逃せぬばかりに、突風で捲れ上がるかすみの着物を注視していた。


 ――パンツも白で無地とは……。流石はわしのかすみよのぅ。やりおるわい……。


 勇次には何故か道玄の呟きが聞こえた気がした。


 今の突風で道玄が用意した人形の紙が宙に撒い、飛び散ってしまった。


「あぁ、紙が……」かすみが両手を拡げて、飛んでいく人形の紙を追いかけようとする。


「かすみ、すまんが拾ってきてくれるか」


 道玄は少し厳しい顔をしているように見える。


「はい、判りました」


 かすみが境内に散らばった紙を集めに行く。すると何故か道玄も少し離れて後を付いて行き、かすみがしゃがんで紙を拾おうとすると、地面に禿頭を擦り付けて必死に何かを見ようとする。かすみが紙を拾って次のを拾おうとしゃがむと、また道玄も頭を地面に擦り付ける。


「なァ、海道。従一位の陰陽師ってすげェんだよなァ?」


 勇次は境内でかすみを追いかけ回している道玄を見て、呆れた顔をして海道に訊ねる。


「はァ……左様です」


 海道も道玄を見て、何だか申し訳無さそうにしている。


「確か二人居るんだろ?」


「従一位の陰陽師で御座いますか……? まぁそうですな……」


「それならさァ、一人居なくなってもいいんじゃねぇのかい?」


 勇次は懐からドスを取り出すと、ゆっくりと鞘から短い刃を抜き出す。


「そ、それは……」海道が少し焦った声を出す。


「おっと、手が滑っちまったぜェェェ!」


 勇次が投げたドスがクルクルと回転して飛んでいき、頭を地面に擦り付けていた道玄の顔の正面に突き刺さる。


「ぎょえぇぇぇ! 勇次、危ないじゃろ! わしに刺さったらどうする!」


「悪ィ、悪ィ。今度はちゃんと刺さるように投げるわ」


 驚いて尻もちを付いている道玄を見て、歪んだ笑顔を見せる勇次。

 かすみが道玄の驚いた声を聞いて何事かと振り向き、道玄の目の前に突き立っている短刀を見る。


「どうしたのですか、道玄和尚様。あ、これは勇ちゃんの……。勇ちゃん、危ないんだからこれはちゃんと仕舞っておかないとだめですよ!」


「済まねぇな、かすみ。変な虫が居たからやっつけようと思って投げたんだ」


「そうなのです? ありがとうです、勇ちゃん」


「違うぞ、かすみ、勇次がわしをいじめるのじゃぁぁぁ」


 そう言いながらかすみに抱きついた道玄は、禿げた頭をおっぱいにぐりぐりと擦り付ける。


「本当ですか? では後でかすみがよく勇ちゃんに言っておきますね」


 かすみは道玄の禿頭を撫でながら、厳しい目で勇次を見る。


「かすみはいい子じゃのぅ。早うあんな腐れ外道と離縁するのじゃ。わしが死ぬまで幸せにしてやるでのぅ」


「もう、道玄和尚様ぁ。メですよ、そんな事言ったら。それより早く試験をするのです」


「判った判った。でも後もう少しだけこのままにしておいてくれんかのぅ」


 道玄はずっとかすみのおっぱいに顔をひっつけたまま恍惚とした表情になっていて、少し涎が垂れていた。


 ――ガン!


 勇次がかすみの元まで来て、投げた抜き身の刃を受け取り、その鞘で道玄の頭を小突く。


「い、痛い! 何をするんじゃ!」


「あァ、エロ虫を退治しようと思って投げたドスが手が滑って命中しなかったからさァ、今度はきっちり潰しちまおうかと思ってさ」


「腐れ外道め……」


「なんでもいいから、さっさと試験しやがれ、ド変態坊主」



 ――――――――――――



「――では、始めるかのぅ。かすみ、まずその三つの人形の紙から、一番小さいものを手にとって、呪を唱えてみよ」


 道玄は大きなたんこぶが出来た禿げた頭を摩りながら、かすみに命じる。


「はい」


 かすみは、一番小さな人形の紙を人差し指と中指で挟み、そのまま口の前に持ってきて目を閉じて詠唱をし、紙を投げる。


 ――オン・アロリキャ・ソワカ……。


 するとブワっと煙が立ち上り、その中から一人の小僧が現れた。


「あっ、小僧さん。えっと、こんにちは、かすみです」と自分が呼び出した式神にペコリと挨拶をする。


 かすみに呼び出された式神の小僧は、両手を合わせてお辞儀を返し、そのまま寺の奥へと歩いていった。


「うむ。見事じゃ。今の式神は今日の夕餉ゆうげを作るように呪を掛けておいた。献立は任せてあるがな。さて、次もやってみろ」


「はい」


 同じように次に中程の紙を手に取り、かすみは詠唱をした。


 ――オン・アロリキャ・ソワカ……。


 再び煙が立ち上り、先程より大きな小僧が現れる。その小僧も同じように両手を合わせてお辞儀をした後、本堂の方へ向かって行った。


「うむ、見事。今の式神は従七位下じゅしちいのげ以上の力量がないと呼び出せぬはず。大したものじゃ。これ程とはのうぅ……。さて次じゃが……」


 道玄は一番大きな紙を屈んで拾い上げながら、チラりとかすみの方を見る。


「かすみよ、もしもこの紙から式神を呼び出せれば、お前は既に四品並の位階の陰陽師という事になる。これはそこに居る海道ですら出来ぬ技じゃ」


「そうなのですか?」


「じゃから、簡単には式神を呼び出せぬであろう。自分の中の御霊に語りかけ、今出せる最大の力を持って式神を呼び出してみぃ」


 そう言ってかすみに紙を手渡す。


「はい、やってみます」


 かすみは受け取った紙を指で挟み、じっと念を込め始める。するとかすみの回りに緑色のオーラが現れ、それがメラメラと燃えるように揺らめき始める。


「おぉ、アレはあの天神組とやった時の感じじゃねぇか……。かすみいけそうかい?」


 勇次が少し期待を込めて海道に訊ねる。


「拙僧には何とも申せませぬ……」


 海道はじっとかすみを見ている。


 ――オン・アロリキャ・ソワカ……。


「とぅ!」と言ってかすみが紙を投げた――。しかし……人形の紙は地面に落ちたまま、何の変化もしない。


「……だめ、みたいです」かすみは悄気げて俯く。


「うむ、そうじゃな。今はそれで何もおかしくはない。陰陽師の修行をしたことがないものが、従七位下以上の力がある方がおかしいのじゃからな」


「はい……」


 項垂れているかすみの頭を撫でながら、道玄は海道に命じる。


「海道和尚、この式神呼び出してみぃ」


 急に道玄に言われて驚いた海道が、すすっと駆け寄ってきて地面に落ちている紙を拾い上げる。


「では、及ばずながら……」


 海道もかすみと同じように詠唱をする。


 ――オン・アロリキャ・ソワカ……。


 そして紙を投げる――が、その紙は地面に力なく舞い落ちるだけだった。


「申し訳御座らぬ……」と海道は深々と頭を下げる。


「かすみ、見たであろう。この点鉱寺を守る住職の海道でさえ、この紙に封じ込めた式神を呼び出す事は出来んのじゃ」


「はい。見ました」かすみは少し気を持ち直した表情をしている。


「じぃさん、実はその紙は誰がやっても式神ってのは出ないんじゃないのかい?」勇次が横槍を入れる。


「勇次、お主は判って居らんのぅ。まァ見ててみぃ」


 道玄が落ちている紙を拾い上げ、詠唱をして紙を投げる。


 ――オン・アロリキャ・ソワカ……。


 するとボーンと大きな音がして、モウモウと煙が吹き上がり、その中から巨大な鬼が姿を現す。


「お、鬼っ!」


 勇次がドスを抜こうと懐に手を入れる。


「勇次、焦るな。これはわしが呼び出した式神じゃ。鬼と言うても悪いことをするばかりではない。術者の言うことを聞くだけのこと」


 ――オン・アロリキャ・ソワカ……。


「戻れ!」再び道玄が詠唱をすると、鬼は煙となって消え失せた。


「おぉ、すげぇな、じぃさん。ただのロリコンじゃねぇんだな」


「当たり前じゃ、戯けが。わしを誰だと思っておる」


 道玄は少しドヤって満更でもないといった顔になる。


「でも、さっきかすみに紙渡そうと屈んだ時も、パンツ覗いてたよな?」


「う、うるさい! わしはそんな事しとらんぞ!」


「そうなのですか? 道玄和尚様はいつもかすみのパンツをチラチラ見てますけど、そんなに見たいものなのですか?」


 かすみは胸の前で指を絡め合わせて、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめモジモジとしている。


「な、な、な……」道玄は焦って耳まで真っ赤になっている。


「な? だからバレてんだって」勇次は最高にニヤついた顔で道玄を見る。


「うるさい! かすみ、それは誤解じゃぞ。とんでもない間違い、勘違いじゃ!」


「そうなのですか? でも、今日は試験をしてくれたので……はい、サービス!」


 そう言ってかすみが短い着物の裾をパッと捲ってみせる。


 ――ブハァー!


 道玄は鼻血を盛大に噴き出してその場に倒れた。

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