第五話:立場が悪くなりそうになっても、俺はまだ振り回す気でいる
ファイクル救出依頼の際、ミリアの術具の所持とスタンの存在も明らかにされる。
濁龍の脅威で、討伐に関しては停滞している雰囲気の中、全員無事に帰還するも、ファイクルの行動は独善的独断的という見方をする者も少なくない。
彼らの回復を待ってトウジたちからの説明を待つ宿内の冒険者たちの面々。
床に臥せっているファイクル全員が収容している部屋では、ミリアとスタンがつきっきりで看病していた。
翌日、ようやく体を起こせるまでに回復できた四人にミリアと俺が事情を説明する。
「スタンのこともバレちまったのか。方々に迷惑かけちまったな」
「でももう進むしかないんだけどね」
「俺がまだ濁龍を見てないのが問題なんだがな」
「手はあるさ。スタンの能力についてミスラスに依頼する」
「人の体をいじる依頼すんじゃねぇよ。けど俺もさらに能力を加えたいな」
「一度にあれこれとできるものか?こないだはスタン本人の依頼と、報酬が希少素材だったからな」
「俺からスタンへの能力の依頼は、誰でも見たものをスタンの体に投影する能力を加えたいという内容だ。これでスタンも龍の様子が見れるはず」
「俺の体に映ったものをどうやって俺が見るんだよ」
「鏡があるじゃないか」
「なるほど問題ないな。で、スタン本人からの依頼は?」
「俺も魔力持ちたいな ってな」
「魔力を持てたらどうなるの?」
「多分俺もこの体をミリアのように使える」
「ほぇ?」
「まず俺が単独でも発動できるから、お前らが俺を見失っても俺の居場所を知らせることができる」
おぉ!とミリアを除いて全員が俺に感心している。
「ちょっと待って!そしたらわたしいらなくなっちゃうじゃない!」
「だから、俺を見失ったらどうすんの? って話だろーよ。俺の居場所を見つけても、手に届く場所かどうかもわかんないだろ」
「そりゃそーだけど……」
「俺の存在価値があるのは、いつもお前のそばにいることが前提だ。その前提を覆される可能性がある。例えば盗難や紛失などだ。当然俺の価値は消える。存在価値を戻すために、お前の手元に帰るという修正作業が必要だ。その修正作業に必要な事柄として、俺に魔力が必要だってことが理由の一つ」
「ほかにもまだあるの?」
「あぁ。ミリア、次の一つが鳥肌ものだぜ? 俺がお前なしでも力を発揮出来てもなお、お前が必要な理由だ。その前提の上で通常通り俺の力を振るうときに……」
何事も演出ってのは大事だ。タメを作らないと感動ってのは起きないもんさ。
「演出はいいから続けなさい」
俺の考えてること読めるし低音も様になってきて、マジでちょっと怖くなってるよ俺。
「コホン。術具は魔力を発揮する手伝いをするってことも言えるんだろ? 例えばそうだな……井戸にするか」
井戸……何故か心が痛む。だが今はそれどころじゃない。
「ミリアは魔力という水をたっぷり貯めてある井戸だ。ただし桶がない。だからいろんな人に水を与えられない。徒手で魔法が使えないミリアの現状はそんな感じだろ?」
一同うなずいている
「桶が欲しい。作ってみたら水が入った桶ができた。なくなったら自然に水が湧き出る桶だ。これが今使ってる魔法杖」
「まぁ、そんな感じだな。例え上手いな」
「マイトからのまともな評価もうれしいな。だが井戸は、自分の水を汲んでほしい。そして音筒という桶を作り、井戸から水を汲む仕掛けを桶につくり、井戸が自分でその桶を使えるようにした」
「わかる。おもしろーい。それでそれで?」
さっちんはノせるのがうまいな。
「じゃあ桶が自分の意志で水を汲めるようになったらどうなる? ちなみに井戸の水は無尽蔵だぜ? 最初にミスラスが言ってたよな。ミリアは高位魔法を使える術師に匹敵するみたいなことをさ」
一同顔を見合わせる。
「桶が自分で井戸の水を汲めるようになる? 井戸が自分の意志で水を汲むのとどう違う?」
「飲みたい人が一人や二人じゃ、待ち時間は必要ない。だが地域一体水不足となりゃやっかいだ。みんなに水を飲ませるために長時間列を作って待たせるわけにいかねーだろ。井戸と桶、両方の意志で水が汲めるようにするんだよ。つまり一度に運ぶ量を増やすんだ」
「無理だ。音筒という桶の数は一つきりだ」
「変わるのは数じゃねぇよ、ランス。桶のでかさが変わるんだ」
「変わるわけねーじゃん」
「人の話聞かねーやつだっけなマイト。あんときゃミスラスに横から口出しをたしなめられたりしてたもんなー」
ここはドヤ顔で言ってよしっ!
ペシッ!
ミリアの間髪入れずの平手打ち。地味に効くよそれ。
「余計な事言わなくていいから続けなさい、ね!」
「ってぇなぁ。だからミスラス言ってたろ? 術具はお前の杖と違って、能力を変えられたり成長させたりできるって。まず俺に魔力を蓄えるようにすることと、術具が放出できる能力の上限あげる。その後で高位魔法術師並みのミリアと、術具本体の俺で同時に同じ魔法放ったらどうなるかって話だよ。術具は俺と一心同体だぜ? 契約なしでも能力発動できるんじゃね?」
流石に全員が驚いている。ミリアもそういう発想したことがなかったのか。
「想像したことすら……なかった」
「スタン、お前何てこと思いつくんだよ。すげぇよそれ!」
「さすがに……驚きしか出てこない。つくづくお前と一緒でよかったと思うよ!」
「なんだかんだ言って、あたしたちに尽力してくれてうれしいよ!」
「さすがにわたしもそこまで読めなかった……スタンすごいよ!」
「お前ら」
少し冷めたような声を出す。こいつら短絡的すぎる。
全員が、何?どうしたの? と言う目つき。
「誰がこれで俺の提案の理由が終わりっつった? まぁこの後はおまけ程度だけどよ」
「な……まだ何か……あるのか?」
全員の気持ちを代表するかのようにトウジが口を開く。
「そこにミスラスがいたらどうなるかなってな」
うわお。俺の体中に穴が開きそう。それくらい全員から見られてる。みんなして目がでけえよ。俺、今主人公してるよ、うんうん。
「す……すごいことになりそう……」
「想像が追いつかん」
「賛辞が追いつかねぇよ……」
感動のあまり、みんな立ち上がってやがる。もっと俺を褒めろー。
でも とミリア。
「そんな力、どうする気? 過剰な力は災いをもたらすことだってあるんだよ? 賛成できない」
それに同意するトウジ。
「ミスラスは何でもかんでも俺らのやることに同意してくれるとは限らない。それは皮算用過ぎる」
「バッカお前ら、一番賛成しろよ。そんな力でもまだ足りねぇかもしれねぇ相手がいるだろうがよ」
「そんなのどこにいるの! 町の人達、いえ、ひょっとしたら世界中の人達が災難に遭うことも」
「ミスラスだって、俺らの好き放題使われるつもりもないぞ」
「俺らの好き放題なわけねぇだろ! あんな災厄倒せるチャンスがあったら、町中総出で取り組むんじゃねーのか? それを素知らぬ顔でいられても、世界一の術師なんて、それこそ笑わせんなってんだ。 それに災難なんてすでに起きただろうがよ! 一時停止だろうけど、まだその脅威は続行中だってこと忘れんな! 六年前からずっとな! 」
全員が固まる。
動きを止め、眠らせるのが精いっぱい。そんな話を何度も聞いた。寝てるんだったらいつかは目ぇ覚めるだろうよ。いつ目を覚ますかわからねぇなら、災厄は今すぐは起きないなんて誰が約束してくれる?
寝た子を起こす気はねぇよ。だが寝てるからって放置する気もさらさらねぇな!
「スタン……お前……そこまで……」
女性陣はもう涙こらえられねぇでやんの。だが俺が欲しいのは泣き顔じゃねぇ。喜ぶ顔と俺への賛辞だ。
「今すぐ鬼退治に行こうぜ なんて言うつもりはねぇ。藪をつついて蛇を出す気もねぇ。だが初っ端から諦めて、指咥えて最悪の日を迎えるだけってつもりもねぇんだがな」
大勢の魔術師で一斉に攻撃するのも効率的だろう。だが息を合わせられるか? 意気が合うか? 同じ気持ちで、同じ姿勢で立ち向かえると誰が約束できる? 魔力と弱気強気は別物だぜ?
だが俺とミリアなら間違いなくできる。なんせ演出のタメのことすら気付かれるくらいだからな。それに加えて、説得できたミスラスも加えたらとてつもなかろうよ。なんせ世界一の術師だからな。
「言っとくが、ホンネはミリアの解呪が第一だ。それができれば文句なし。今のままじゃやっぱ日常に差し障り出てくるし、呪いが強まる可能性もあるしな」
「……ところで……」
ランスが口を開いた。重要なことを短く言う分こいつの言うことは侮れない。
「スタンの正体がバレた件はどうする?」
あ と一斉にみんなの意識が現実に戻る。
「正直に話して、それで解決じゃね?」
「だからみんな俺を欲しがって隠されたりしたらどうすんの? ってとこから魔力が欲しいって話になったんだが?」
「おまけの話がでかすぎる上重要な話だったから、そっちが本命っぽくなっちゃったじゃない」
「俺のせいかよ・・・・・・」
せっかく主人公してたのに、ボケ担当にされちまった気分。
「どっちが本命かわからんが、その二点をミスラスに相談しよう。ただし断られたから諦めるスタンスではなく、絶対受けてもらう依頼のスタンスだ」
リーダーにいいとこ全部持ってかれた。気持ちが折れた。
「大丈夫」
ミリアが俺を向いて俺にしか聞こえない声を出す。涙の跡がそのまま残し、あの瞳の笑顔を俺に向けてくる。
「わたしのヒーローだもん。ありがとう」
はン! 気にすんな。ヒーローなら、みんな一緒になれるさ。




