第十一話:俺は振り回されることがないように、かき回される
客間に移動し、俺たちはミスラスに一連の報告をする。ミスラスはこれ以上ないくらいのしかめっ面。
「話に聞くと、かなりまずいな。情報をどうやって新たに手に入れるかという、第一歩から問題だな」
「ミスラス。今思いついて、みんなに相談なしに依頼したいのだが」
全員俺に注目する。
「ちょ、何かするの?いなくなるのはやだよ?」
「慌てんなよミリア。トウジ、素材持ってきてんだろ?それを使って、俺の体あちこち変えてほしいんだが」
「詳しく聞かせていただきましょうか」
「まず第一に、俺は今まで音筒としてほとんど活動していない。理由は濁龍の眠りを妨げることになるかもしれないからということでな」
「ふむ」
「第二に、術具という希少価値があるゆえに、俺から無関係なものに接触できないということだ」
「しかし変えたところで、術具と呼ばれることには変わりありません」
「ところが手はある。無関係なものに接触できる機能を持たせることで、術具だと知らせないまま接触することができるようになるはず」
「といいますと?」
「俺の体ができた時にお前言ったよな? 折り紙だって。紙なんだよ。だから、ミリアや俺の意志でメッセージが書けたりできるようにならねーか? それと俺とミリアが見たことを俺の体に映写できねーか? 術具じゃなくそういう道具だ の一言で済ませられるはずだ」
「なるほど。しかし素材がなければ変化させることは難しいのですが」
「これで間に合わないだろうか?」
みんなで山道までの間に拾った素材を、トウジが異空間倉庫から取り出す。
「まだ一部だ。全部ここにいきなり出したら片付けが大変だろうから」
「ならばそれを依頼にして、合成して余った素材全てを報酬にしてもらおうか」
「スタンは消えちゃわない?」
「心配するな。別の精霊と入れ替わることはない。ただ時間は必要だ。今日一日精霊殿を預かることになる」
「じゃあ我々は今日は骨休めだな。事態を知ってしまっただけに気休めにもなるかどうか」
「わたしはスタンのそばに居たい。ただ、なんとなくだけど……」
「私は構わないよ。術の邪魔にならなければね。お茶などは自分で出して飲みなさい。自由にしていいから。まずは素材選びからだな」
それぞれの、今日一日の予定が始まった。
「なかなか珍しいものを採ってきたじゃないか。調合の方は十分間に合う。失敗もないな、うん」
満足気なミスラス。その言葉で安心するミリア。
「まず音筒の素材である紙。それに文字や絵、画像を浮かび上がらせることだな。そしてその前に、精霊殿の意志で一枚の紙になり、音筒に戻るようにすることか。今回は工程は複雑じゃないから一日で済みそうだ」
「最初の時は何日もかかってたのか」
「日? なんですかそれは。期間のことを表してるのでしょうか? それならばまぁ、生成には朝を十回くらい迎えましたでしょうかね」
日の単位がないのは意外と不便だな。十日かかったってことか。
「日ってどっかで聞いたことがあるような気がするなー」
「ご両親からじゃないのかね?」
「違うと思う。スォーダイでの話を聞いたことあるけど、そういうのは聞いたことがないから」
「ふむ。……紙が広がり、また戻るための素材はこれでいいな。紙に物を映すための素材もこれで良し……。あとは溶炉にあらかじめ……いや、まずはこれだけを入れてから調合、そして残りを同じようにするやり方で間違いなしだな」
「そうだ、言い忘れた。ホルダーと繋がっている紐なんだが、もうちょっと一工夫できないかと思うんだが」
「ふむ。ですがそれは精霊殿本体自身とは別の調合になりますな。後回しにして、後で取り組んでみましょう」
「あぁ、頼む」
「では素材を先に溶炉に入れた後、術をかけた後に本体を溶炉に入れます。痛みや苦しいことはないようにしております。ご安心を」
「とかいいながら実際痛い思いを……」
「は? なんですそれは? それより早速とりかかります。いいですね?」
冗談とかと縁がないらしいな。後は任せるか。
ミスラスは素材を溶炉に入れて術をかけながら中の液体をゆっくりかき混ぜる。
一区切りついたとき、俺は彼の手で溶炉の中に静かに入れられる。
後ろからミリアが俺を不安そうに見守る。
すべてを忘れてもなお俺の心のどこかに引っかかっている、水色の淵で囲まれた茶色の、あの瞳で────
第三章の始まりが近くなりました。
物語の流れが結末までほぼ決まってますし、最後まで書ききるつもりでいたのですが
実際に書き続けて、ここまで続けられるとは思いませんでした。
できるかできないかは、やる気次第なんですね。




