第七話:俺たちは異常な日常に振り回され始める
初登場の主要云々
乱舞シュート:接近戦厳禁の遠距離攻撃専門チーム。六人編成。
ポイル:リーダー。割と穏健。
ジャバー:副リーダー。ファイクルに難癖をつけたがる。
「全員、装備は万全だな?」
出発当日早朝。特別に朝ご飯を通常営業より早い時間に注文し、すでに終えている。
十分に食休みを取った後、トウジが全員に確認を呼び掛けている。。
「もこもこー」
「もこもこー」
全員普段の装備の上に防寒具をつけている。見るからに暖かそうな毛でおおわれたコート。
マイトとさっちんがその毛の感触で和んでいる。だがしかし。
「もこもこー」
ランスが後に続く。うん、その表現を口にするのが似合わねー。だがしかし。
「もこも」
「うるせぇ! どうせ俺にはもこもこねーよ!」
俺には防寒具が不要だった。
使用後の影響を考えると俺の能力の使用は控えるべき。俺を含めた全員の判断。とはいえ、いざというときには使えるようにしておきたい。防寒具で覆われた時に俺の能力が発揮できない場合がある ということだ。
ミリアの防寒具の上からホルダーを装着している。当然厳しいと思われる自然環境を直に受ける。
いや、言い方を変えよう。厳しい自然環境の直撃を受けるのは俺だけだ。やむを得ない処置ではあるが、俺だってもこもこしてーよっ!
「えーと……ごめんね……」
「別にミリアが悪いわけじゃねーけどさ……」
なんか釈然としない。
「帰ってきたら一緒に抱っこして寝てあげるっ!」
「スネてるわけじゃねーからっ!」
「じゃあ俺とー!」
「マイトは外で寝てても気にしないよっ」
ニコニコ顔で言う言葉じゃねぇよな、それ。
「遠風山脈麓行きの馬車が宿屋前から出発する。下車してから昼食その他を済ませて、それから濁龍確認ポイントまで出発。ただし途中で襲われる気配があったら即下山。向こうがこちらに気づかれないなら、適当に素材を拾いながら下山しよう」
「でも今からもこもこ着てるのってどうなんだよ? 暑苦しそうだな」
「別に日差しがきついわけでもないし、到着する前から冷える感じはあるからな」
部屋を出て玄関に向かう。
「よぉトウジ、最近食堂で見かけなくなったじゃないか。何か悪だくみか、普通じゃねー恰好してるもんな。それとも人に言えない宝物でも見つけたか?」
誰かがトウジに寄ってくる。
また変な奴に絡まれそうな。
「誰だっけお宅? 最近ミョーに絡まれること多いから一々覚えてらんねーんだよ。仲良しになりたきゃ依頼窓口通してくださーい? こっちはこれから出発なんだよ」
「随分でけぇ口叩くなぁ、マイト。おめ・・・・・・ちょ、何しやがる!」
絡んできた奴らの口調が急に怖気づく。うん、ミリアさん、また魔法杖のフルパワーなんですね。最近よくキレませんか? 怖いんですけど。怖くて俺の口調も変わってるんですけど。
「大丈夫。建物も備品も壊しませんよ。凍らせるだけでもダメージ与えられることに気づきましたから」
片やミリアさん、新しい発見をしたかのような、楽しそうな口調がなお怖いんですけど。そして凍らせた後に壊すつもりなんですねわかります。
「目に入ったからって絡むなよジャバー。ほら、戻るぞ」
「ちっ」
ふぅ……なんだあいつら?
「乱舞シュート。戦場に出たら接近戦厳禁の遠距離攻撃専門の六人チーム。絡んできたのはサブリーダーのジャバー。止めたのがメインリーダーのポイル」
「仲がいいチームもいるけど、先に絡んでくる連中がくるからな」
「それに依頼の出動前には基本的には声を掛けたり掛けられたりはしないんだ。一日の計画が起床時間から始まることがあるからな。その邪魔をすることは依頼未達成にもつながるし、下手すりゃ住民に被害が及ぶこともある」
「チームの邪魔をするためなら、住民に被害が及ぶのも構わないってやつらもいたりする。ミリアの機転は、そんな意味でのファイクルの窮地を救うことも多々ある」
「機転じゃないよね?」
「頭いいでしょ、フフン」
「本音だよね?」
「頭いいでしょ? フフン」
「本性だよね?」
「頭イイデショ フフン」
「杖を光らせて俺に向けるな。杖の分際で術具に盾突くんじゃねぇ」
「ワタシハツエデ、タテジャナイ」
杖がしゃべったー とでも言わせたいのかミリアは。最初の頃の、か弱い女の子のイメージが消えてイタい娘キャラが俺の中で定着しつつあるぞお前。
「ミリアとスタンのやり取りが面白いんだが、そろそろ馬車がくるから停車場まで急ぐぞみんな」
ぼーっとして待つよりは退屈しなかったな、うん。
今回は特に期限を決められているら依頼じゃねぇし、俺らが好き勝手に動いてること。だから馬車の中ではのんびりしながらファイクルからの案内に耳を傾ける。
町から外れるとさらにのんびりとした風景。果樹林、花畑、草原。そこで暮らし、働く人々。人里離れた地域では野生の動物までのんびりとしている。
麓に近づくにつれ、風の冷たさが強くなってきた。
「到着だよ。遠風の村って名前の村。麓に一番近い集落で馬車もここから折り返しよ」
緩やかな坂の山道が目の前から約五百メートルほど先にある。こっちの単位では五百イーンか。山道の両側には、林につながる木々がそこかしこに点在している。
「もうここから希少素材があちこちに落ちてる。全部拾ってもいいけど、いくら無限っていっても限度があるから何でもポンポン入れられるとちょっと困るんだ」
「さっちん、俺に説明はありがたいが、手がないから拾えないぞ? 見つけることはできるが」
そういえばそうだっけ と言うような顔。まぁ見つけることならできなくはないか。
しばらく進むと急にさっちんが立ち止まる。
「トウジ、ヤバいよ。ちょっと止まって」
「どうした?何かいるのか?」
雪が所々見える山道を数百イーン進んだ地点。さっちんの顔がこれまでになく引きつっている。
「殺気がある。ここから五人くらいいるのがわかる。向こうはまだこっちを気付いてない。もう引き返すほうがいい」
さっちんの報告の小声が、さらに緊張感を増している。
まだ山道の坂まで百イーン以上ある。
「はえぇな。じゃ、帰りますか」
いいのかよ。濁龍がどの辺にいるかすらわからねぇ。
「こういうときのさっちんはすんごく頼りになるから、素直に従うべきなの」
「では最初の指示通り、散策を楽しんでるってフリしながら帰り道がてらに素材収集だな」
「ここからそいつの姿は見えるのか? 見に行ったらまずいだろうが」
体を動かさずに視線をギリギリまで後方に動かす。
「肉眼で二人確認。黒装束。頭の先から見える範囲すべて全身真っ黒の動きやすそうな服。ローブみたいなヒラヒラはなし」
「上出来。急ぐなよ。ゆっくりでいい。収集しながらでいいから気づかれないように撤退」
俺にはよくわからんが、ファイクル全員の様子を見ると間違いなく希少価値の物体がごろごろしてたっぽい。トウジからの指示が一気に変わるが、みんなの動作に変化はあまり感じられない。
ミスラス依頼の雪綿の抜け毛もちらほらと見かけたようだ。
きっと何も知らない人から見たら、山菜取りでもしているかのようなほのぼの感たっぷりだったろう。
しかし内心は焦りと落ち着きのせめぎ合いなのがすぐわかる。
「トウジ、おそらく圏外だよ」
「確実か?」
「下の方見て。民家があちこちに見える。襲撃食らうより、奴らが住民に見られる方が先になるかも」
「だが目立ったことをして俺らを覚えられるのはまずいし移動のルートもチェックされるのも危険だ。もう少しこのペースで撤退を続ける。それでも問題ないな?」
「あぁ、大丈夫だと思うよ」
さらに連中から遠ざかる。やがて……
「トウジ。十分だよ。ランスでさえ向こうからは視認されないと思う」
「全員採集終了して撤退。ただし走るな。察知されるなよ」
「なんか俺のわがままで意味のない事させちまった。すまん」
「収穫はゼロじゃないさ。結構色々拾ったし。そして謎の危険人物と思しき黒装束が最低五人と判明した。むしろこっちのほうがでかい」
「それもでかいが、もっとでかい収穫もある」
「何かあったっけ?ランス」
「もこも」
「「「「「やかましい」」」」」
もこもこー




