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別世界でも誰かに振り回されている件  作者: 網野ホウ
第二章 幻獣たちは町を、呪いは俺たちを振り回していた
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第六話:俺は気持ちよく、町の人たちに振り回される

今回初の主な登場人物

チョッカー(未成年男子):防具屋「錬壁庵」の店長の弟子。物納時の鑑定眼に優れる。

スラック(男)、カース(女):ティーバー(未登場)をリーダーとする、接近戦が得意のチーム「闘陣組」のメンバー


今回の主な用語

ペイス:お金の単位。円と同額。

「晩ご飯は六人でって話はなかったな」

「そういえばそうだね。四人で食べよっか」

「人目につく場所でなら何も食べなくても平気だぞ。つか、俺も一人に数えるのか」

「当然じゃん。術具でもこうやって会話できるからね。会話してても楽しいし」

「そこらへんは周りを見て決めよう。着いたぞ。まずは防寒具並びに装備で必要な物をここで買う」


「防具屋、錬壁庵……」

「防具が主だが衣類も扱って入る。品薄だがな」


 太い音をしたドアベルが鳴る。

「ランスとさっちんとミリアか。珍しい組み合わせじゃな。なんぞ用か?」

「明日チームで雪道進むんですよ。防寒具ないかなって。あります?おじーちゃん」

「明日なら並んであるもんしか売れんな。作るにしても時間がないわ」

「店長、この毛のついたコート、サイズと人数合わせてもらえないだろうか?」

「ランスは相変わらず堅苦しいの。若い時分からそんなんじゃ、後輩ができたとて誰もついてこんぞ。ちょっと待っとれ」


「そうだ、おじーちゃん、長靴とかもあったらほしいかも」

「ついでに探してくるわ。適当に休んどれ」


「……やっぱりあの人も人じゃねーよな?」

「三百才くらいになるおじーちゃんだね。ドワーフっていったっけ?」

「ぶっきらぼうな口調だが、してくれることは親切丁寧だ。ありがたい」

「優しいばかりじゃないよ。わたしたちのこといろいろ覚えてくれてる。例えば……」


「ぅおーい、とりあえず一式持ってきたわ」

 結構な量だ。ローブの隙間から見てもわかる。台車に乗せて持ってきた。


「帽子と手袋も必要なんじゃないのか? 一応持ってきたぞい。サイズは頭の中に完璧に入っとる。で、物納か? 金か?」

「サイズ覚えてくれてるなんてうれしい限りよね」

「覚えてることもあるがの。見た目で正しく測ることもできるからの。で、支払いはどっちじゃ?」

「物納でお願いします。だがさすがにこの量では持ち帰るのは難しい」

「ほんなら弟子に行かせるわ。物納の目利きはわしよりは優れとるからの。宿じゃろ? 今日の夜でもええか?」

「うん、お願いね。チョッカー君にもよろしく伝えといて」

「あいよ。ところで・・・・・・ミリアの腰のあたりから変な模様が見えるの。何か持っとるのか?」

「模様? 雰囲気のことかな。んと、特に変わったもの持ってないよ。じゃよろしくお願いしますね」

「ふむ・・・・・・ほいじゃそゆことでな。請求書と領収書は弟子に持たせとくからのー」



「お店やってる人って、やっぱわかるのかなぁ」

「いろいろ気配りが必要だろうからな。さて、後は食料か。保存が利く物がいいだろうな」

「市場がいいかな。今の時間ならすぐ悪くなる物はもうないんじゃない? 選ぶのに時間かからないと思うよ」


 いざこざが起こりそうだった道具屋もそうだが、宿屋の前にある大通り沿いにほとんどの店が揃ってるようだ。市場もすぐそばに見える。


「あ、スラックとカースだ。お久しぶりです。ミリアです」

「んぉ?おお、久しぶり。元気そうで何よりだ。買い物?」

「うん。明日朝一で出発。明後日の夜くらいまでかなー。久々のお出かけ」

「ランスとさっちんも一緒なのね。買い出しご苦労様。私たち久々に戻ってこれたから地元の物を味わいたくてね」

「でも目当ての物全部出ちまったっぽいな」

「この時間だと新鮮なものとか名産品とかは売り切れちゃってるんですよ。ところでティーバーさんたちは?」

「道具屋とか武器屋とかで戦利品鑑定に行ってるよ。今回も全員無事帰還ってこと」

「何よりだ。また一緒にそちらと食事したいものだ」

「今度はそっちが遠征なのね。なかなか都合が合わないものねぇ」


 和んだ雰囲気。気の合うチーム同士の会話だな。警戒心は必要ないな。


「あれ?誰かいるの?そんな気配がする」

 この女も鋭すぎる。そっちのアンテナ役か。


「そばに知ってる人いるんじゃないかな?こんな時間でもごった返してるからねー」

「ミリア、名残惜しいが買い出しを急がないと」

「おぅ、邪魔したな。じゃまたなー」

「はーい」


 二人の足音が遠ざかる。雑踏でも聞き分けられる耳を持たせてくれて感謝だな。


「にしてもカースさんもわかるんだねぇ。初めて知った。スタンもびっくりさせてごめんね」

「そこまで気にするこたぁねーよ。声出さなきゃ問題ないだろ」

「にしても、秀でている部分があれば誰かから必要とされるのは道理だな」

「わたしもそんなふうになりたいなー」

「ん? ミリアもファイクルに必要なメンバーよ? 気づいてないの?」

「え?」


 やれやれ、本人に自覚なしか。

「能力が高い低いって話じゃねーんだろ? できるかできないかっつー話だ。そしてそれを自覚してるかしてないかっつー話でもある。ミリアの場合は自覚してない分だけ、何しでかすか面白れーから飽きねーってところもあるだろうがな。今朝の食堂だって、杖の力そこまで出すかって話だよ」


 うん、こいつがいれば何しでかすかわからねぇ分面白れぇ。思い出し笑いで声まで出ちまうほどだもんな。


「いや、だが実際助かるところはある。だがこれからは助かる部分がかなり変わるかもしれん」

「どういうこと?ランスはわたしを持ち上げすぎだよ」

「おそらく術師としての力不足を無意識に補ってきたのではないかと思う。ところがこれからは十分力を発揮できるはず。その方面で我々も助かるだろう。だから今後は無意識に補ってきた部分が減るものと思われる」


「言ってることが抽象的でよくわかんないよ」

「あたしも聞いてて時々わかんなときある」

「ま、ファイクルに必要な人材であることは変わらんってことだろ?ランス」

「うむ。どうも俺は口下手でな……」


 いや、普通に口数が少ないやつが無駄に長くしゃべってるだけだと思うんだがな。


「あ、ここら辺にいろいろ揃ってるよ。どれがいいかな」

「食料は各自って言ってたような」

「保存は利くから多めに買っても問題なかろう。それくらいの所持金ならあるしな」


「ミリアちゃんにさっちゃんにランスさん。何か買ってくかい?」

 さっちんにはちゃんづけか。小さい頃から面倒見続けてるって感じがするな。


「明朝から出発するんですよ。明後日の夜には帰ってくるかな?」

「日程の見当違いで長引くことがあっても大丈夫なようにたくさん買っていきな」

「ありがとうございます、ラッセルさん」

「はぁ、相変わらずランスは几帳面だねぇ。子供の頃から見てんだ。おばちゃんでいいよ。ねぇ? ミリアちゃん」

「あはは。おばちゃんは誰にでも気さくですねぇ」

「ここに来る人達みんな馴染みだからねぇ。今更だよ。さっちゃんなんか、小さい頃から見てたしねぇ」

「いろいろお世話になったもんねぇ」

「そんなお礼なんか言えない頃から見てたから。あははは」


「じゃあこれを……」

「おやまぁ。よくまぁこんな短い時間に品物をたくさんかごに入れられるもんだ。あいよ、ちょっと待ってなよー」


「居心地いいな。宿屋みたいに絡まれることが少ない」

「こんなに広々としてるからあちこちに目が行く。仲のいいやつに声かけるより、見たくもない、文句を言いたい連中に声をかけたがるやつはいないだろう。俺ですらそんなやつを相手にするのは面倒くさい」

「それもそうだ」


「あいよ、五千八百ペイス。細かいのは負けといたよ」

「おばちゃん、助かるよ~。ありがと」


「ほかの二人は?」

「道具屋と食料調達。あ、武器屋にも行くかな? まだ見てないならこれから来るんじゃない?」

「じゃあ足りない分はあの二人にふっかけとくよ。あはははは」


「あの二人はいろいろとかわいそーな子たちなの。手加減してあげてね? あははは」

「では失礼します」

「堅苦しいのもほどほどがいいよ、ランス。あはは」



「なかなか家庭的だな」

「あのおばちゃんも、さっきの防具屋のおじーちゃんもいい人だよー」


 なぜか心が痛む。そしてミリアの瞳のことも思い出す。その眼の持ち主は俺に向かって手を伸ばしていた。

 何の幻のことだかわからない。どういう繋がりかわからない。


 とりあえず今は、濁龍のことに気持ちを向けてないと。




 出発当日は朝一番の馬車で移動と言っていた。それよりも前にロビーにいれば合流できる。調達終了後は特に何の予定もなかったのでその後は商店街の食堂で晩ご飯を食べる。


「飲み屋だと絡まれることが多いからね」

「絡まれることが多いの、わたしのせいだったのね。なんかごめんね」

「絡む方が悪い。それだけだ。気にしすぎ」

「いいやつ悪いやつのどっちでもそばに事情を知らない人がいる限り、俺は何もできんことには変わらんしな」


 飲み食いはできなかったが、ほかの仲のよさそうなチームが話しかけてきたり冒険談で花を咲かせたりで、気持ちいい時間をおすそ分けしてもらった感じだ。


「ちょっと早い時間だが防具屋の配達の件もあるしここら辺にしとくか」

「そうだね。まだ夜って時間じゃないし、チョッカーくんを待たせるのも悪いしね」

「んじゃ、帰りますか。スタン、なんかヒマさせてごめんね?」

「いや、問題ない。話を聞いてて退屈しなかった」


 店を出て宿に向かっている途中。

「ランスさん?ちょうどよかった」

「ん?あ、チョッカーくんだ。ちょうどよかったー。あたしたちも帰る途中だったんだよ」

「すれ違いとかにならずに済んで助かりました。宿まで一緒に行きますか」

「持ち合わせがあったらここで引き取ってもよかったんだが」

「気にしないでください、ランスさん。いつもごひいきにしてもらってますし」

「ごひいきも何も、防具屋はここしかないからねぇ」


 談笑しながら宿につく。精算を済ませ、一旦宿の窓口に預けてもらったようだ。

「トウジー、いるー?」

 ドアが開く音。

「さっちんか。あ、ミリアとランスも一緒か。どした?」

「調達してきたよ。ただ量が多くてさ宿窓口に預かってもらってるけど」

「じゃあミュールさんに朝まで預かっててもらおうか。朝一にはもう起きてるだろ? あの人」

「じゃあ伝えてくるね。防寒具、サイズばっちりだしあったかくて気持ちよかったよー」

「そりゃ楽しみだ。じゃ明日朝一の一時間半くらい前にロビーかな。マイトには俺から伝えとくよ。スタンもいるよね?忘れ物してないよね?」


「いーるぞー。宿にいる間はグダグダだったが、帳消しにしてお釣りがくるくらい楽しい時間過ごさせてもらった」

「そりゃ何よりだ。ランスもありがとな」

「問題なし。健康管理のためもう休ませてもらおうかな」

「うん、みんなもお疲れ」


 ミリアの部屋についたようだ。

「ミリアが呪いを気にしない理由が分かった気がする」

「でしょ?いい人たちばかりだもん」

「だが、それでも俺を必要とする理由もわかる。だが分からない部分もある」

「どういうことよ」

 ちょっと不満そうなミリア。分かんないんだろうなぁ。

「大丈夫。分かるようになるよ」

 きっと分かったときは、今よりもっとうれしい気持ちで心が一杯になるだろうよ。

 ふん、不思議そうなこっち見てやがる。世の中、分かってないのは自分だけだったりすることもたくさんあるんだよ。

書きたい順から書いていったら、ストックはあるものの投下ができない現象が起きてしまいました(汗)

マイペースで筆がすすむなら、今日はこの一回だけの投稿。仕事もあるので必死になれば、推敲、校正込みで三回が限度、夕方頃の投稿でしょうか。

登場人物が多くなりそうですいません。

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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。
勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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