第一話:振り回されることになるなんて夢にも思わなかった
「よし、生成に続いて合成も成功した。あとは色々使ってみて経験積ませること。そしてランクアップにつながるアイテムを合成することの2点。それでこいつの能力が伸びていくはずだ。さすがは私。」
「依頼するあたしたちの称賛より先に、自画自賛する請負人ってどうかと思うわ。確かに錬金術師としての腕前は世界一だけども」
何者かが俺のそばで会話をしている。
どうやら俺は微睡んでいたようだ。
「そんな請負人より反応が遅い依頼者の冒険者たちもどうかと思うぞ、さっちん。それに謙虚さとは、大勢に囲まれてこそ人徳を感じさせるものだ。大勢に囲まれるためには宣伝は確かに必要だ。だが宣伝したあげく他人のわがままに振り回されることも真っ平ごめんだ」
どこからか聞こえてきた男女の言葉で俺は意識を完全に取り戻した。
「確かに依頼件数は少ない。だがほかの工房では手に負えない依頼ばかり。ミスラスにかかればもれなく滞りなく解決だ。生活費なんて野暮なことは言うなよ。生活必需品や健康を維持するものですら自給自足。つまり宣伝する必要はないわけだ。それほどの腕前を持つこの私に、君たちは誠心誠意の感謝の言葉を捧げ、畏敬の思いを表するべきと思うがね」
どこの誰だか知らんが、随分とご高説垂れてくれるものだ。そろそろいい加減俺のことに……。なんだ? 声が出ない! というか、口が開かない!
しかも目も開かない。瞼が閉じっぱなしのようだが、それでも所々に外界からの光を感じ取ることはできる。
眠っていたのか? どこかに寝かせられているようだ。だが起き上がることができない。金縛りのような感じではない。起き上がる体力が全くないような感じだ。
一体俺に何が起こった? そこにいるお前らは何者だ? 俺に何かしたのか?
当然問いかけることもできない。普通なら誰にでもできる動作が今の俺にはほとんどできない。
身に迫る危険を想像する。動けないから危機が迫っても逃げることができないし、助けを呼ぶこともできない。俺はここにいるのに誰も気にも留めない様子。
全身に冷や汗を感じる。しかし汗が流れ出る感じはしない。水を浴びたような感覚があるだけだ。
だからといって諦められるか!
何度も何度も体を動かそうとした。目を開けようとした。声を出そうとした。
言うことを聞かない自分の体。自分の体を思う通りに動かせないようにしている力がどこからか加わってるのか?
俺はこいつらに何かをされたのか? そしてこれから俺はこいつらに何をされるのか?
落ち着いて考えろ。会話が聞こえるということは、耳は機能している。鼻も利いているようだ。
会話をしているのは2人。しかしほかに数人いるようだ。体を動かす音や何かの擦過音が、その2人ではないところから聞こえてくる。
それだけ人数がいて、なぜここにいる俺に誰も気づかない?
それにしてもかすかな音だけで人数と位置を把握できるとは思わなかった。随分感覚が鋭敏になったものだ。
以前は……
以前……?
以前っていつの話しだ?
そう言えば今はいつなんだ?
俺は…気を失う前はどこにいたんだ?
何をしてたんだ?
そして……
俺は自分の名前が分からない。
俺は自分のことを何と呼べばいいんだ?
そばにいる連中に、何と声を掛ければいいんだ?
いや、口が利けないから何も伝えられない。
得体のしれない恐怖が心の中に占めようとしている。自分のことが分からない。なのにそれ以外の言葉や物事なら覚えている。
その時に気が付く。心臓の鼓動が感じられないことに。そして呼吸をしていないことに。
俺、誰にも気づかれないままこんな状態でどうなるんだ?!