第四話:俺たちと同業者は呪いに振り回されている
冒険者チーム
眠り姫たち:ジェイカー他リーダー含む四名
トリス・プラス:バップ、ペイラー、ラッターの三名
『別宅・安らぎの辺』に入り、依頼斡旋窓口に進む。大勢の冒険者たちでごった返している。ローブの生地越しでも、開いてる席がほとんどなさそうなことはわかる。
「よぉ、トウジ。元気だったか?」
「ランス、もちっと痩せてくれ。お前がくると通りづれぇわ」
「あ、さっちんとミリアだぁ。久しぶりー」
「マイトー、なんか余分なアイテムねーか?」
方々からファイクルに声がかかる。逆にこちらからもあちこちに声を掛けることもある。
だが、必ずしも友好的な者ばかりじゃないらしい。
「……またあいつらか」
「どっかに行ってほしいな、特にミリア」
「あいつの持ってるあの道具、何とかならないかしらね?」
嫉妬の言葉が多いな。そしてミリアへの言葉が住民よりはるかに露骨すぎる内容が多い。
「大丈夫、気にしてないよ」という声が俺の心の中にかけられた気がする。
「ぃよお、トウジ!相変わらずだなぁ~?」
その声を聞き、適当にあしらおうとする様子が俺でもすぐわかる。
「ミリアちゃ~ん?なんか新しい物手に入ってるみたいねぇ」
最初の声のそばから女の声。その男の仲間か?
「特に何も」と短い返事で、やはりトウジと同じく聞き流してあしらおうとする様子。
「何か用か?」
凄むつもりはなかったろうが、それでも迫力のあるランスの声。普段から割と声に力を感じる分、こんな空気には有効だろう。
「用がなきゃ声を掛けちゃいけねーわけじゃねーだろ?そんなピリピリすんなって。お前ただでさえデカい図体なんだから、普段からニコニコしてなきゃだろー?」
「慣れ慣れしいんだよおめーは」
「あ?」
そういえばマイトの怒気を込めた声を聞くのは初めてか。
「ミュールさん、どっか会議室使える?」
雰囲気を切り替えるような明るい声のトウジ。
「会議室は予定入ってるので二階ではどうでしょう?料金は第六と同じでいいですよ」
「でも二階の部屋でしょ? いいの?」
さっちんの声だ。二人で窓口にいるらしい。
「お泊まりならば宿泊料金いただきますが、使用目的は会議でしょ? 問題ありませんよ」
にこやかな窓口からの声で二階に案内される。
階段を上る音とそんな重力を感じる。
誰かの舌打ちの音が後ろから聞こえた。
二階の案内された宿泊室に入ったようだ。
「防音術お願いします。それとちょっと参考にしたいので今日の依頼一覧を見せていただけます?」
と言うスタンの声に案内役が応答。何か、術がかかった気配。
「ごめんね」
ミリアがそう呼びかけながらローブを脱ぎ、ホルダーを外す。暑さは感じたがのぼせることもないし熱射病なんぞとは無縁だし、そっちの入り口のゴタゴタに比べれば、こっちは何の問題もない。
「さすがさっちん。俺じゃわからんかったわ」
「いいのよ。そのためのあたしでしょ? スタンも急にごめんね」
「俺には一々気にしなくていい。それより警戒ご苦労さん」
「急に言い出すから何か引っかかったんだ。こういう引っかかりには素直に従うのが吉」
「さすがトウジ。これからの話し合いもロビーにしたらどうなっていたか。さっちんもよく部屋使用窓口
で合わせてくれた」
「ランスはその声だけで威圧感充分だからね。ミリアのそばにいてくれるだけで助かったよ」
「うん。でもみんな頼りになるよ」
「けどこれからは俺らもミリアを頼りにすんぜ?スタンもよろしくな」
そうは言うが、何かまだ引っかかるんだよな。
「ここにはいろんな人が集まる。夜は宿泊客は来るが、冒険者の長期滞在や俺らみたいに住み家とする目的で泊まる者もいる。食事のためだけに来る客もいる」
「そして依頼をする客もいれば引き受ける冒険者もいる。個人で来店する者もいれば、パーティを組んだりチームを組んでくる者もいる」
「パーティ?チームとどう違う?」
「俺たちは最低このメンバーで依頼を受ける。人手が足りないときは顔見知りの冒険者と合流することもある。ミスラスもたまに一緒に動いてくれる。だがこのメンバーの何人かだけで依頼を受けることはない。チーム内で相談して分裂して動くことはあるがな」
「パーティは、その依頼限定で組むチームのことね。依頼達成したら解散するの。同じメンバーが別の依頼で結集することはあるけど、それは結果論だからね」
「普段も一緒ってのがチームってことか。そういえば異界の倉庫がどうとか言ってたな。チーム内ならば自由に使えるが、パーティの場合はメンバーの誰かが管理して、自由には使えないってことか?」
「そそ。もっとも財宝は自由に使うことは難しいのは昨日説明した通り。それ以外の物品はみんな自由に使える。ただし使う品の種類と量は明確にすること。モノによっては無駄遣いも構わないけど、残数の管理はしとかないとまずいからな」
「パーティだとそんなことはできないからね。あたしたちは管理者はチームになってるから。だから管理者がパーティになるってのはトラブルの元になることが多いのよ」
「了解した。ところでさっきの連中は?」
「トリス・プラスというチームの三人組だ」
「前線なら何でも引き受けるバップ。魔術関係ならすべて担当のペイラー。補助やアイテム使用など、それ以外をすべてこなすラッターの三人」
「ミスラスの話から推測するに、ミリアの呪いの影響をモロに喰らった連中の一組ということだな」
「ファイクル結成して間もなく知った連中。前々から突っかかってきた連中だけど、敵愾心むき出しになったのは濁龍の件が落ち着いた辺りかな」
「こっちだって全滅するかもしれない不安と恐怖をこらえながら立ち向かったってのに、その結果だけしか見ずに嫉妬ばかりしてる連中だよ。腕前はそれなりにあるのにな」
「ところでお前らはミリアの呪いの影響ってないのか?」
「ミリアの両親の最後目の当たりにしたからな」
「あんなふうな強さに憧れるけど、無理だなあれは。あの強さには追いつけない」
「恩返しの意味もあるけど、あたしはこの町に育ててもらった気持ちがあるから、同じようにミリアにもいつもニコニコしててほしいんだ」
「年下の女の子には優しくする主義なのさ。と照れ隠し」
「マイト、スルーするよ? いいよね?」
「いやそれはちょっと待て」
仲がいいことで。しかし宿に入る前に俺の存在を隠すと言うことは……。さっきの引っ掛かりはそこか。
「さっき俺を隠したよな。俺が術具だから横取りされたり、さらに狙われたりしないようにという防衛策か?」
「あぁ、犠牲者を出してでも手にしたがるやつもいるかもしれない。やりづらいかもしれないが我慢してくれ。毎回とはいかないが、俺たち以外に話を聞かせないような時間を作るようにするし」
「呪いに嫉妬か。難題が揃ってるな」
「敵愾心も度を過ぎるとな。我々を越えようとする気持ちよりも、足を引っ張ることだけしか考えなさそうな傾向が強くなりつつありそうでな」
「嫉妬するやつの中にはそう考える連中も増えてきてる。その対象は俺らに限らないようだが」
「それに敵ばかりってわけじゃねぇ。危機の時に俺らを助けてくれたチームや先輩たちもいる。気を遣ってくれる人達もいる」
「だが冒険者ってのは基本的に住民のために活動してるわけだから、露骨に足を引っ張ると逆に批判されることが多いよね」
「だから依頼達成の行動中に狙う事を考えたりするんだよ。敵は幻獣だけじゃないってこと」
「それが成功すると、全滅した上に叩かれるということもある」
「死者に鞭打つなんてレベルじゃないわよね、それ」
「だが依頼した側からは、実力不足のくせに依頼受けるな、とも言いたくなる」
「返り討ちにすりゃいいんじゃ?」
「ライバル蹴落とすのは競争社会の一つの現象だから仕方がないにしても、依頼人が、俺の依頼を人気取りのダシにすんな という受け止め方もされる」
「襲う方は細工しやすい。さらに、別件の依頼を受けたがヘマして襲撃目標はそのとばっちりを受けただけという言い訳もできる。襲撃に失敗しても、その依頼自体は存在しないから批判はない」
「依頼受ける方に何のメリットもないってことか? 誰も引き受けるやつがいなくなるじゃねぇか」
「依頼達成したら報酬があんだろ。そのチームを襲撃しても、襲撃した方には報酬はねぇからな」
「チーム襲撃の依頼なんてのはあり得ん。あるとしても無報酬。もっとも別件を依頼して報酬をやりとりするということはあるかもな。我々が詳しく知る必要はないからわからんが」
ふーむ……話を聞けば聞くほど
「結論とすりゃ、持ち主が健全なチームのメンバーで、俺は幸せもんだな、うん」




