第一話:俺たちは同業者に振り回される
ミリア、行儀悪いです……
翌朝。朝食を摂るために食堂に降りたミリアと俺。トウジとマイトが食事中だがそろそろ終わりそう。
「おはよう。よく眠れたか? って、眠らなくてもいいんだっけか。男女が同じ部屋で一夜を……って、スタンは男でいいんだよな?」
下ネタか? 元はどうだったかわからんが、今では無関心な話題。言わせねーよ。
「……男だろうな。だが俺には生物に必要な本能は持ち合わせてないようでな。あまり興味はないな。首を失った死体を見てミリアかどうかを判断する手がかりは必要になるだろうが」
「朝から縁起でもない事と気味悪い話を同時にしないでよっ! 何その器用な話題提供!」
「後で教えろよ~。ちょっとは興味ある」
「……自重しろ」
トウジの短い一言でその話題は終わる。
ミリアは同じテーブルの空いてる席に座り、残りの空席の位置のテーブルにホルダーごと俺を置く。続けて早々と朝ご飯の注文。
「すいませーん。朝ご飯のメニューお願いしまーす」
「はいよー」
「ところでトウジ。今日は何時出発する?」
ん?とトウジが顔を上げて俺を見る。
「そう言えば集合時間は昨日聞いたが出発時間までは」
「別に討伐遠征するわけじゃないんだ。出かける用意して集合。それでいいんじゃない? それまで食べ終わるだろ? ミリア」
「うん、大丈夫」
「お待たせ、何にしますか?」
「えーっと、いつものメニューに量をそれぞれ五割増し」
「はい、お待ちください」
……ミリアも意外とよく食うんだな。
あのあとミリアも俺を連れて一人でここで晩ご飯を食べた。混雑するかと思ってたが、食堂と比べて飲み屋の方は町の盛り場が賑わうのだとか。
冒険者たちが夕方から夜にかけて外食するとなると、依頼達成の打ち上げが多いらしい。
逆に出発前夜は、身体の調子を整えるためにここで食事を取ることが多いという話。だから晩ご飯のときは意外と静か。昨晩は、昨日のミリアと二人での外出時のような不快な思いをせずに済んだ。
それとミリアには理由がもう一つ。
「この宿の料理、町で一番好きなの」
今もですが昨晩も幸せそのものを表現した顔つきが説得力を増強させてましたね。ところで。
「ミスラスのところだけでいいのか? 町の人達からは聞かないのか?」
「今に続く後日談もミスラスの方がいろいろ詳しいからな。出発前の合流はロビーじゃなくてここにしよう。食休みも十分取れるだろ? ほかの二人にも言っておくから」
朝早い時間とはいえ冒険者たちで賑わっている食堂の喧騒は、俺の声を誰も気に留めないくらいの賑やかさ。
昨日食べたパン、野菜は煮物と生か。卵料理っぽいのと……朝から肉……。デザートも多い事。プリンとアイスと……思い出した。パフェっていうんだっけか。果物っぽいのもある。驚くことにこの量を見てもトウジとマイトが動じない! テーブルの上の俺の居場所が危うい。
「で、そのさっちんとランスは?」
「朝飯終わらせて依頼を見に行ってる。一通り見たらここに来るとは言ってたが」
「依頼窓口はここからロビー挟んで反対側。こっからはちょっと見えづれぇけど、入り口からはすぐ見える」
食事を終わったトウジは、すでに食べ終わったマイトと一緒に席を立つ。
「じゃまた後でなー」
「はーい」
ちょうど料理が運ばれてくる。運ばれた料理の皿は、テーブルに残っている2人が食べた跡の空の皿一人分と変わらなさそう。健康なのはいいことだが、見事によく食うなぁ。見る見るうちに皿が空になりつつある。見てて飽きねぇわ。
「スタンも……ってこんなに人の目があるとこじゃ無理か」
「気にすんな。ゆっくり食べても俺は気にしねぇ。どうせみんなここに集合だろ?」
「一緒に味わってほしかったけどなー。ま、しょうがないか」
「おぅ、ミリアじゃねーか。一人かよ」
「……食事中です」
突然かけられた声が、ミリアの顔を一気に険しくする。好ましからざる人物ってことか。チェックしとかねーとな。
「……トウジとか誰かがいたのかね?なぁ」
「食事中です!」
朝から酔っぱらってんのか? こいつ。
「ジェイカーさん、片付けの邪魔になるから。食事なら他の空いてるテーブルにしてくんな」
「あぁ、すまねーな。メシは済んだからここの空いてるとこでいーわ」
お、さっきの店員だ。助け舟はありがたい。にしても先入観ってのは好きじゃねーが、こいつゲスな笑い方って感じがするな。ランスに似たいい体格してるわ。
「座られると片付けの邪魔になるんだがね。まだ朝ご飯の時間帯だしね」
「ガタガタぬかすんじゃねーよ。機嫌のいいうちに他のテーブルの片付けしてきなや」
「じゃああんたの片付けから取り掛かるかね。戦場じゃあんたらには全く敵わねーけど、ここじゃ俺は無敵だぜ。かかってきな。カウンター一閃で決めてやるから。こないなら一撃で決めるよ。そしたらもう依頼頼む人もいないだろうね」
いきなり客に向かって殺気漂わせて、何この店員?! 場所限定で強さ発揮するって何者だよ?
痛っ! 何こいついきなり俺を手で払って床に落としてんだ! 俺に向かって八つ当たりかよ! だが文句一つ言えねぇもどかしさ。
ミリアが急いで俺の許に駆け寄り鷲掴み。って、ミリアの形相が怖えぇよ! しかも握りしめられて痛ぇし! 何で怒り狂ってんの?!
「わたしの物に何手を出してんのよ! 私の前からいなくなれっつってんの!」
ミリアってそんなキャラだったか?! 立ち上がっていきなり魔法杖全体を異様に発光させて、その男に向けて何しようとしてんの?! 間違いなく食堂壊しちまうよ!
「ジェイカー! 控えろ!」
「どしたーっ!」
店員が叫ぶと同時に、どこかから駆けつける女性は……さっちんか。さすが反応はえぇな。アンテナって役割は伊達じゃねぇんだな。
って、お前は何で刃物出してんださっちん! 一気に修羅場じゃねーか!
「ちっ! くそが!!」
大男がその場から離れる。そりゃそうか。殺気立った二人のうち一人はここ限定で無敵状態。もう一人は武器の全力解放寸前。駆けつけた戦士はすでに臨戦態勢。
「大丈夫だった? ミリア」
「わたしより! ス……わたしの道具が……」
「獲られるかと思った……」
俺を腕で抱え込み、店員に聞こえない、泣きそうな小声。
「そ、そんなに大事なモンだったのか? すまねぇ。俺の落ち度だ。早めにあいつ抑えときゃ」
「何があった!」
「さっちん!どうした?!」
「ヨッカーまでどうした? 何かあったのか?」
「駆けつけるの遅いよ男ども! ヨッカーさんも、こんな忙しい時間にトラブル起こされたんだろ? 店員さんに落ち度なんてあるわきゃねーじゃん」
「す、すいません、ヨッカーさん。つ……つい……」
「いやこっちこそあんたの食事中に不快な思いさせちまった」
さっき注文取りに来たこの店員の男はヨッカーってのか。いいガタイしてるが、向こうがさらに大きかったからな。
「こっちはみんな揃ったからいいよ。ヨッカーさんは仕事に専念してな。あいつもしばらくここに寄り付くのもバツが悪いだろーし」
恐縮しながら店員が片づけを終えて厨房に入る。助けに入ってくれてありがたかったが、部外者が遠ざかるまで声出しづれぇったらありゃしねぇ。
「ミリアもさっちんも、ただ事じゃない振る舞いっつーか……いきなり杖出して何やらかすかとハラハラしたぜ」
「ミリアの杖の効力が桁外れになりそうだったから、その力を削ぐにはこっちもそれなりに戦闘態勢整えないと」
「食堂が戦場って穏やかじゃないなんてもんじゃねーぞ」
「だっていきなりスタンが……」
勇ましいを通り越してアブないやつにも見えたが、いつものミリアに戻ってホッとする。
「俺を奪い取るなら手のひら広げるだろ。握りこぶしで手の甲見せたら遠くに飛ばすだけだろうぜ。けどまぁ、所有物としては頼りになる持ち主の姿を見られて安心したところだ」
「食事どうする?ミリア」
「あ……うん、食べるよ」
それでも食べるんか。
興奮冷めやらぬ空気の食堂とロビー一帯で、一番早く平常に戻るのが当人たちってどうなんだ?
現場を目撃した連中を、見える範囲で冷静に見渡す。俺たち、主にミリアを睨みつけているのが二割。五割以上がジェイカーと呼ばれた男が去った方向を向いている。残りが話題のネタを見つけた程度の感じか。
「ジェイカーと呼ばれてたな。何者だ?」
「ジェイカーがちょっかい出してたのか。『眠り姫たち』と呼ばれるリーダーが女性魔術師の五人組チームの、警備役だね」
「チームもいろいろあるんだな」
「わたしの何かの影響かも。こっち向いて睨んでる人達は間違いなくそうだね。いちいち気にしてらんないけど」
ミリアの食べるペースが早くなる。
「居づらいからって早食いはよくねぇぞ。もちょっと落ち着け」
「やけ食いなんだけどね」
「紐つけたんだね。でももうちょっと短くてもいいんじゃない?」
「俺もそう思う。だが別の方法も出そうな気がするがなぁ」
「ミリア、トウジから聞いた。飯、ゆっくりでも構わんからな」
「俺がこの町の色々な話を聞きたかった結果か。ランスにも手間かけさせてすまんな」
「気の回し過ぎだぜ、スタン」
トラブルはあの男が原因だから、確かに俺が謝ることじゃねぇが。それとも俺がチームに馴染んできたのかな。
「この町のことは何度聞いても問題ないからいいんじゃない?」
「んふぁ、はーふいはらは……ブフォッ!」
「「「「「食いながらしゃべるな!」」」」」
……ミリア、汚ねぇ……




