表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

エピローグ

乃亜は一人、港に立っていた。

潮の香り、穏やかな波の音。

かもめが一声鳴いた。



───皇乃介と峰子が姿を消して、一年が経つ。



草原を襲った、大洪水。


兵士も、巫女も、皆が流された。




そして洪水がおさまった後、二人の姿は無かった。




邪神の起こした災いだとか

最高神があの二人を滅したとか

ラヴァゴート国民は、まことしやかに語る。



「・・・城に帰ろう」

そう呟き、ザリは帽子を今までで一番目深に被った。




乃亜は空を見上げた。

(───地獄のようなあの光景が、一瞬にして元に戻った)


空は青く、水面は輝き、木々は青々と茂る。


「きっと邪神が死んだからよ!」

巫女たちは歓喜の声を上げ、兵士や国民も手を取り合い喜んだ。


歓喜に満ちる彼らを背に、ザリはその場から立ち去った。



洪水は城壁を破り、城下町や城にまで届いた。

大規模な損壊があったが、修繕が順調に進んでいく。


エリザ女王はその様子をバルコニーから見ていた。

その顔には翳りが落ちる。


「女王という立場は、どんな時でも自分の感情を出せないの」


彼女は乃亜にだけ、ぽつり、弱音を吐いた。


「でも、いつも考えてる。私は、君主失格よ。

こんな大事件になる事を想定しないで、指をくわえて見ていたんだもの」



ある少年が言った。


「僕は見たんだ!!

原っぱから、キラキラしたおーーーきな階段が出てきたんだ!

その階段は空に続いてて、てっぺんにはおーーーきな扉があった!」


周りの大人たちはそれを笑い飛ばす。


「夢でも見たんじゃないか?」

「遊びながら立ったまま寝てたんだろ」


それでもその子供は

「違うよ!絶対見た!!あれは、最高神様が作った天国への階段だよ!」


「じゃあ獅子神と邪神は『天国』へ行ったって言うのか?

あいつらが、天国へ行けるとでも?」


話を聞いていた大人が嫌味を言うと、その子供は黙りこくってしまった。



_________________




礼拝堂は焼け落ちた。


ラヴィリアは一人、がれきの残るその焼け跡に立っていた。


白いブラウスに、茶色のサスペンダーのついたズボン。

手には大きなトランクと、愛用のライフルを持つ。



彼女は『女神像』を見上げていた。



(この女神像だけ、焦げた跡すら無いや・・・)


「峰子・・・。アタシさ、故郷に帰るよ

巫女なんて、やってらんねー。結局、人間なんだ。神職者だってさ。」


あの時峰子は、”この場から離れて”と言った。

これからあんな屈強な兵士たちが、自分を殺しにくるというのに。


「・・・少しは、アタシの事・・・信用してくれてたのかな・・・」


ラヴィリアは女神像の台座の、小さな文字に気づいた。

「ん?」


手で煤を払い、指でなぞりながら読む。


「女・・・神、ブラッ・・・ディ・メア・・・」



───巫女たちは、この像に祈りを捧げていた。

   峰子に制裁を与えるために。



あっはははは!

ラヴィリアは声を上げて笑った。



「あいつらの目は節穴か!!」



ひとしきり笑った後

「じゃーな!」

背を向け、歩き出した。


邪神”ブラッディメアリー”像は静かに佇む。

そして遠ざかって行くラヴィリアの後ろ姿を、ただ、見守っていた。



_________



海を眺めていた乃亜は、一つ伸びをし、努めて明るく言った。


「さーて!大和村に帰って、また給仕の仕事がんばるかー!」



彼女は騎士長を解任となった。

皇乃介と共に研究室に押し入り、最後まで峰子の肩を持ったというのが理由らしい。


片腕を骨折し、首から三角巾で腕を吊り、頭に包帯を巻いた兵士長が

額に青筋を立てて怒鳴っていた。


乃亜は言った。

「望むところさ!こんな国こっちから願い下げだ!!」


そういえば、あれからザリの姿を見ていない。

だがそれも、彼女にとってはどうでも良い事だった。



港に船が着く。


「あばよ!くずどもめ!!」


着物が入った鞄を下げ、乃亜は船に乗り込んでいった。






神は 舞い降りた


空は暗雲垂れ込み 稲妻が襲う

金色の盃に盛られた 葡萄酒ならぬ液体 それは



───生き血



神は 舞い降りた

意味のある 偶然の一致


地面から無数の(ひる)のようなものが這い出し

次から次へと体を登ってくる


その蛭はやがて体を覆いつくし

私を化け物へと変えた


私が人間であるときに 最後に見たものは

恐怖で顔を歪ませ 私を拒む人間の顔


待って 置いていかないで 助けて

体が黒く染まる 助けて 誰か


泣き叫ぼうと 助けなどこない


待っ て置い ていかな いで



─────私の姿は 蜘蛛

     目の前の景色が 八つ見える


     逃げ惑う者 そして 私に武器を向けるもの

     やめて 私は 危害を加えるつもりはない


     囲んだ兵士は 次々に飛びかかり 剣で斬りかかり

     矢を飛ばし 術を浴びせてきた


     痛いよ やめて

     私は手を振り上げ しがみつく兵士を振りほどく


     一人の人間が叫んだ



     こいつ!

     俺たちを殺す気だ!


     

     ただ 平穏に暮らしていきたかった

     誰とも比較されず

     誰にも刺激されず

     誰にも勝らず

     誰にも劣らず───



     怖い 怖い 怖い

     私は 森の奥に逃げた


     うずくまり震える 私の目の前に



     ぽとり



     木登りしていた蛇が 落ちてきた


     蛇は私を見た

     でも 噛むどころか 威嚇もしない

     私に寄り添って 眠り始めた



     怖くないの? 私のこと

     八つの目から 涙がこぼれる



     死ねるまで 森の奥で

     ひっそりと ねてよう

     しあわせな ゆめをみながら


     はやく このからだが こわれますように






空まで続く、七色に光る透明な階段。

頂上には美しく、荘厳な扉がそびえる。


過去へ戻る、回帰の門。


邪神を抱く獅子神は 扉に手をかけた。






【終】

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ