第7話 『最強』の記憶
謎の黒い感情が内から溢れてきた俺は、正気を失いかける。
〈――お前は昔から甘いな。〉
(誰だ……俺の声……?)
頭の中に謎の声が響く。俺によく似た声だ。
その声と同時に、体からは赤黒色と青白色のオーラが混ざりあった、禍々しいオーラが吹き出する。
「な、なんだよ……お前……」
俺のあまりの圧と恐怖に、ローズもマヨも、その場にいるみんなが圧倒される。
(怒りが……抑えられない!! 落ち着け、落ち着け、落ち着け!)
俺は何とか深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
そして、
「警告はした。容赦はしない……」
と、少し怖い声でそう言うと、俺は技を発動させた。
〔暗・滅紫電〕
俺が勢いよく踏み込むと、体が青紫色の稲妻で包まれる。
そして、大気を切り裂く稲妻のごとく駆け抜け、剣士と戦士の意識を一瞬で刈り取った。
2人の頭からはバチバチと電気が漏れ出している。
「……は?何が起こって……」
気づくとローズのツルが切られており、ミリアも解放された。
「……テンコ?」
「テンにぃ、なんだよね?」
あまりの変貌ぶりにマヨとミリアも困惑している。
〈いいぞ、その調子だ。〉
そんな中、未だ謎の感情と戦っている俺は、
「消えろ……今すぐ我の前から消えろ!!」
と、ローズたちに叫ぶ。すると、さらに大量のオーラが溢れ出し、大地が轟き、天が雲で覆われ、雷が鳴り始めた。
そのあまりの迫力に、ローズと弓士は倒れている2人を抱え逃げていった。
4人がいなくなると、ようやく怒りや憎悪が消え、俺はその場にへたり込む。
「ハァ……ハァ……今のは、一体……」
謎の声も聞こえなくなった。
「テンコ!大丈夫なの?」
「あぁ、なんとかな。」
昂った感情がすうっと引いていくにつれ、視界が明るく戻ってくる。
すると震える俺の手を、ミリアがそっと握った。
「もう大丈夫なの、テンにぃ……」
「あぁ……心配かけて悪かったな。」
マヨも心配そうに顔をのぞかせる。
「すごく怖かったけど……でも、あれがテンコなんだよね?」
「まぁ、あれは俺の中の、力の一部だと思うけど……」
自分でも説明できない。
何かが引き金になって、封印された領域が勝手に開いたような、そんな感覚。
"この魔神王"の過去に何があったのか、この時の俺は検討もつかなかった。
そのとき、
「……魔神王陛下……?」
と、弱った声が、俺たちの後ろから聞こえた。
振り返ると、カタルシアが地面に座り込んだまま、目を丸くして俺を見つめていた。
恐怖ではなく、確信と敬意が混ざった眼差しで。
(まぁ、勘づかれるのも無理ないか。)
「どうしてそう思ったんだ?」
俺は一応聞いてみる。カタルシアは答えるように話を続けた。
「貴方様から感じた力は、普通の冒険者とは規模が違う。どれだけ抑えていても、隠していても、あの瞬間だけは本質が滲み出ていた。魔力と神力が混ざりあったあのオーラ。あれが全てを物語っています。」
「なるほどな。」
(本質か……自分の過去を知るという、冒険の目的が1つ増えたな。)
俺がそんなことを考えていると、カタルシアはそっと頭を下げた。
地面に膝をつき、深く頭を下げる。
「命を救っていただき、本当にありがとうございます。」
「や、やめてくださいよ。顔をあげてください。」
それを見た俺は、慌てて頭を上げさせ、
「そうそう、気軽に接していいのよ? あなたを助けたのは、たまたま同じ冒険者だったからで——」
と、マヨも続ける。その言葉に、カタルシアは小さく首を振った。
「ですが、私はもう冒険者ではありません。追放され、所属もない……私のような者が、どんな顔で街に戻ればいいのか……」
「それは——」
と、マヨが言いかけたところで、俺は一歩前に出た。
「カタルシア。」
俺の声を聞いてカタルシアが顔をあげる。
俺はその手を取ると、はっきりと言った。
「なら、俺たちのパーティに入れ。ここから先は一緒に行こう。」
「えっ……?」
その言葉を聞いた瞬間、カタルシア瞳が大きく揺れる。
「バフ技が使える奴、俺たちにはいなかったしな。それに、君を追放した連中は許せない。理不尽な扱いを受けたまま終わるなんて、絶対に良くなよ。」
マヨとミリアも微笑んだ。
「歓迎するわ、カタルシア。」
「これからは仲間だよ!」
カタルシアは唇を震わせ、ぽろりと涙を落とした。
「あ……ありがとうございます……こんな私を仲間にしてくださって……」
「テンにぃが選んだんだもん、当然だよっ!」
「そうよ。これからよろしくね。」
俺はその肩に手を置く。
「よし、まずはオリンに戻って、ギルドで手続きをしよう。あと、ローズたちのことも改めてギルドに報告しないとな。」
カタルシアは涙を拭いながら、大きく深呼吸し、まるで決意を固めるようにうなずいた。
「はい! どうか、よろしくお願いします!」
こうしてカタルシアが、新たに仲間として加わった。
「それで、カタルシアはどんなスキルを持ってるんだ?」
オリンに向かってる途中、俺はカタルシアに色々と質問をする。
スキルなどは解析を使えば1発だが、元コミュ障の俺にとってコミュニケーションの尊さは計り知れないものだった。
それに、能力を無駄遣いするのも、勝手に人のプロフィールを覗き見するのも好ましいことではない。
「私は魔導士なのでスキルは持っていません。」
「魔導士?」
「魔導士というのは、魔力は持っているけどスキルを持っていない人が魔導書などから魔法を学び、扱う人のことです。魔法使いと違い、詠唱や魔法の杖が必要となりますが。」
「杖……あぁ、アイツらが持ってたの君のか!?」
俺はカタルシアの元仲間が持っていた装備を思い出した。
「えぇ、一応簡単な強化魔法は詠唱のみで発動できるので何とか耐えれました。」
そして、
「魔導書に書かれている魔法を扱うのは魔法使いでもできるんだけど、スキルにリソースの大半を割くから難しいんだよね。」
と、マヨも補足説明をする。
「へぇ〜、色々あるんだな。」
「あたしが使うのは獣魔法で、獣人の固有魔法だよ!」
「そうか。種族によって、固有魔法なんてものもあるんだ。」
そんな話をしているとオリンの街が見えてきた。
「さて、まずはギルドに戻って報告と再登録だな。」
そして、俺たちはギルドの再登録を済ませた。
「これから何するか。」
「カタルシアちゃんの装備は取り返したけど、服がボロボロね。買いに行きましょうか。」
カタルシアの服を買うため、俺たちは街の仕立て屋へ向かった。
店員に案内され、カタルシアは試着室へ。
「ど、どうでしょうか……?」
おそるおそる出てきたカタルシアは、淡い紫の衣装に身を包み、まるで別人のようだった。
「おぉ、似合ってる!」
「可愛いよ、カタルシアちゃん!」
マヨとミリアが盛り上がり、カタルシアは恥ずかしそうに頬を染める。
「これから夜まで暇だし、仲を深めるためにもこの辺を散策でもしましょ!」
「賛成!」
そして俺たちは自然のある場所へ行き、癒され、カタルシアとの交流も深めるのであった。
「あ〜、お腹すいたぁ〜。」
「そうだな。そろそろ戻るか。」
辺りも暗くなり始め、お腹も空いた俺たちは、街角の食堂へ向かった。
テーブルを囲み、スープの香りと鉄板の音に包まれながら、今日あった出来事を振り返る。
「あぁ、そうだ。言い忘れてたんだけど、俺たちはこの世界を旅してまわることにしてるんだ。」
そんな中、俺は不意にカタルシアに話しかける。
「目的は自分たちのレベルアップと、この世界を知ること。そして――世界を救うためかな。」
「世界を……バグと戦うのですか?」
「……まぁ、そういうことだな。それよりもう一つ、俺のことはテンコでいい。俺は正体を隠してるし、陛下呼びされるのはなんかムズ痒いから。」
俺はニコッと笑ってみせる。
「……テンコ……さん。」
「まぁ、自分のペースでいいさ。これから長い付き合いになるんだし。」
カタルシアも少しずつ表情が和らぎ、仲間の輪へ自然と溶け込んでいった。
(こんなにヒロインが増えるのは、主人公補正ってやつなのか?)
その日の夜。俺はいつものように考え事をしながら、スピーカーと会話をする。
「なぁ、スピーカー。昼間のあれはなんだ?なんで俺に過去の記憶が設定されてないんだ?」
〈設定されていない訳ではありません。〉
「……そうか。」
(記憶喪失ってことか?やっぱり、自分の過去を知るという目的も果たさないとな……)
俺は丘のような場所に寝転んで、そっとため息を着く。
そして満天の星空を眺め、静かに夜が明けるのを待っていた――。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




