第6話 魔道士カタルシア
オリンに来て2日目。
「昨日はなんの成果もあげれなかったから、今日はしっかり稼ぐぞ!」
「あの本のことはあくまで無かったことにするのね。」
「そりゃぁねぇ、絶対騒ぎになるしな。」
「まぁねぇ...」
魔物退治の依頼は入ってなくて、今日もダンジョン攻略だ。
今回行くところは中級の近代系ダンジョンらしく、しっかりマップももらった。
「『このダンジョンはとても広いため、2パーティ入ることができる。』...か。なるほど、主な資源は魔鉱石と薬草だな。」
「住み着いた魔物の部位や装備でもいいわね。」
そんな話をしながら、俺たちはさっそくダンジョンへ向かう。
「ダンジョンには別パーティがいるかもしれないんだよな。揉め事になんなきゃいいんだけど。」
そう不満を言いながらしばらく歩いてると、遠くにダンジョンの入口らしきものが見えてきた。
「はぁ〜、近代系だから、昨日みたいに未知の魔物とか古代の宝物とかないのかぁ。」
俺たちが入口に向かっていると、中から4人の男女が出てくるのが見えた。どうやら先客がいたようだ。
そのパーティの会話が微かに聞こえてくる。
「はぁ〜、邪魔者もいなくなったし、誰か来る前にずらがろうぜ。」
「アハハッ!これがなかったらアイツなんて、10分も持たないわね。」
俺たちとは逆方向に歩いていっているため、ハッキリは聞こえないが、何となく怪しい会話だということはわかった。
(4人パーティ...珍しいな。昨日オリンで見かけたパーティは漏れなく5人だったはず。)
俺は嫌な予感がした。
「2人とも、少し急ぐぞ。」
「どうしたの?テンにぃ。」
「...さっきの4人が持ってた装備、明らかに多くなかったか?魔法使いは1人だけだったのに、ローブを余分に持ってたし。それに4人ってのも引っかかる。」
「一人、いないってこと?」
「ああ。これはもしかしたら、裏切りや追放の可能性があるな。」
そう言うと、マヨとミリアと共に、俺たちは走り出した。
近代系ダンジョンはトラップがわかりやすい上、道中の魔物がそこまで強くないので、どんどん先へ進んでいく。
マップを見る限り、一本道が多いが、奥に行くほど分岐が増えるらしい。
「あっ!なんか聞こえた!」
しばらく走っていると、耳のいいミリアが何かを聞き取った。
「どこからだ?」
「奥の方から女の人の悲鳴みたいなのが...」
「よし、いくぞ!」
そして、さらに奥に進むと、そこにボス部屋のような空間があり、大きな扉が開いている。
その向こう側に、巨大なケルベロスのような魔物が、1人の少女に向かって牙を剥いていた。紫色の髪をしたエルフだ。
見た目はミリアよりは年上だが、俺よりは年下っぽい。
服はボロボロで、息を切らして地面に座り込んでいる。その傍には割れたメガネ。今にも気を失いそうだ。
「はぁ...はぁ...だ、誰か...」
少女が倒れ込んだその瞬間、魔物が飛びかかる。
「マヨ、ミリア!いくぞ!」
「まかせなさい!」
「はーい!」
俺は地を蹴って少女の前に躍り出ると、
〔ライトニングシールド〕
と、魔物の突進を雷の盾で受け止めた。
――バリバリバリッ!!
重い衝撃に腕がしびれる。
「くそっ!皮が厚くて電撃が効かねぇ。」
「あたしにまかせて!」〔魔獣の爪〕
続いてミリアが左の首を攻撃する。しかし、少し怯んだだけであまり効いていない。
「レベル35...かなり厄介な敵だな...」
(くそっ。今の俺は格段に出力が弱まっている。本来の力なら弱体化してるとはいえ、余裕の相手なはずなのに。)
出力が弱い俺にとって、大量の天賦力は無用の長物でしかない。
「くっ!威力の弱い水魔法じゃ歯が立たないわ。」
マヨも水を纏った剣で攻撃をするが、攻撃特化ではない水魔法ではまるで効果がない。
「コイツは首を同時に切り落とさないといけない。」
「でもこの中で切り落とせるのはテンコくらいしかいないわよ。」
「どうしたものか...」
俺たちが魔物に苦戦していると、
「生命を巡る力の根源よ。その封ぜし枷を解き、潜む力を呼び覚ませ――。」
と、後ろから声が聞こえてきた。それと同時に体が淡く光り始める。
振り返ると、目を覚ました少女が俺たちに強化魔法をかけていた。
「こ、これは!?」
「な...長くは持ちません...」
「わかった、助かる。よし、2人とも!!」〔ライトニングソード〕
俺は掛け声と共に盾を剣に変え、一気に踏み込み魔物に飛びかかる。
それに続き、2人も攻撃を仕掛けた。
〔魔獣の爪〕〔瞬雷〕〔ウォータースラッシュ〕
そして、真ん中の首を俺の稲妻が切り裂くと同時に、2人も左右の首を切り落とした。
鈍い悲鳴をあげながら、魔物は崩れ落ちる。
少女はその場に倒れ込み、震える唇で言った。
「あ、ありがとう...ございます...」
涙をこぼし、必死に言葉を紡ぐ。
「少し待ってろ。」〔創造:オムニポーション〕
俺はすぐに薬を生成し、少女に飲ませた。少女は少し元気になったが、全回復はしてないようだ。
どうやらこのオムニポーション、HPは回復するが、MPは回復しないようで、MPがほぼ0になっているこの少女は、魔力分の力が出せない様子。
「貴重な薬をありがとうございます。」
「いや良いんだよ。」
俺はそういいながら、ついでに壊れたメガネも解析と創造の能力を応用して再生させる。
なんだか神力がごっそり持っていかれたような気がしたが、気にしない。
「こちらこそ、先程はありがとう。俺が不甲斐ないばかりに君に無理をさせてしまった。」
「そんな!貴方たちは命の恩人です。この御恩をどのように返せばいいか...」
少女は頭を下げようとした俺を慌てて止める。
「どうしてこんなところに独りでいたのか、あなたのこと教えてくれる?」
そんな少女にマヨが優しく尋ねると、少女はゆっくりと話し始めた。
「私の名前はカタルシア。2級パーティに所属していた元2級冒険者です。私たちのパーティは貴族の令嬢が結成したもので、私はバフ役として勧誘を受けましたが、私を快く思わない令嬢によって追放されたのです...」
俺たちは互いに顔を見合わせた。
(やっぱり、あの4人の仕業か。いわゆる追放モノの真っ最中って訳だ。)
「安心しろ。もう大丈夫だ。」
俺はカタルシアに手を差し伸べる。
「事情はあとで聞く。まずは安全な場所に移動しよう。」
「そうね、ひとまず退散しましょ。」
カタルシアは震える手で、俺の手を掴んだ。
俺たちはカタルシアと共にダンジョンを出た。
すると、
「あーあ、やっぱりな。」
と、声が聞こえてきた。見るとさっきの4人がなぜかこっちに向かってきている。
「だから2パーティ入れるダンジョンでやるのは反対だったのに!嫌な予感がして戻ってみたらコレだよ。」
「まぁ、確実に殺るなら広くて魔物も強い方がいいかと思ったんだよ。」
「で、てめぇらその女をどうするつもりだ?」
そいつらが俺らの前に来ると、嫌に威圧してくる。
(こいつら、そこそこに強いな。イカつい戦士にアサシンみたいな剣士、弓士、それに魔法使い...レベルは30前後...今の俺たちで互角くらいか?)
男が3人、女が1人。この女が『令嬢』であることは言うまでもない。
「誰かと思えば、こんなガキ共の来るところじゃねぇぞ!!」
「いやぁ、ガキと言われましても、俺は立派な2級冒険者なん――」
「ローズ!?」
俺が話していると、突然マヨが大声を出した。
「まぁまぁ、マヨちゃんじゃない!皇族の犬だった子が、今は冒険者ごっこ?本当に落ちぶれたわねぇ。」
「あんたこそ、落ちるところもないくらい落ちちゃって、可哀想に。」
「え、え!?2人、知り合い!?」
(まぁ、貴族ってことは皇族と繋がりがあって当然か...)
急な展開に俺が困惑していると、
「こいつはローズ。皇族反対派の貴族よ。」
と、マヨが説明し始めた。
「貴女たち、こんなことして許されると思ってんの?」
「あらぁ、バレてしまってはまずいわねぇ。いいわ、ここで口封じしましょ。」
「やってやりますぜ、姉貴!」
「最初からそのつもりだったくせに。」
相手は俺たちを殺る気満々だ。俺は混乱していたが、既に考えは決まっていた。
「おい、やめろ!」
俺は睨み合う2人の間に割って入った。
(俺は一応この国のトップだ。事態を収める責任がある。)
「もし、やるというのなら容赦はしない。」
俺はそう言うと、少しだけオーラを解放してみせる。できるだけ戦いは避けたいところだ。
しかし、相手は怯むどころか、
「へぇ〜、ガキにしてはいいオーラしてんじゃねぇか。」
「俺たちの仲間にでもするか?」
と、むしろ煽ってくる。
「あら、その獣人の娘、なかなか可愛いじゃない。奴隷商に売れば、いい値段で買ってくれるわよ?」
「きゃぁっ!?」
しかも、あろうことかローズは植物魔法でミリアを拘束した。
そしてそのミリアを戦士の男が押さえつける。
「ミリア!?」
俺が一瞬目を離した隙に剣士の男がマヨの後ろに回り込み、剣を首元に突き立てる。
「くそっ、お前ら。」
「あなたたち死にたいの!?あの人は――。」
「なんだ?うわさの魔神王とでも言いたいの?」
「ッ!?」
抵抗するマヨにローズがそっと口を開く。そして、
「アッハッハッハッハ!ウワサでは聞いてたけど、やっぱそんなわけないじゃない!そこそこ力のある加護使いを連れて魔神王だなんて、皇族の衰退は思ってた以上みたいねぇ!」
と、ケタケタと笑い始めた。
(皇女に手を出すとか、どういう脳みそしてんだ?くそぉ、すげぇムカつくけど、ここからどうする?)
俺がそう考えていると、
「魔神王なんて本当にいるわけないだろ!もしいたとしたらバグなんてとっくに倒されてるんだよ!他の国にいる魔神王もどうせこんなもんなんだろ?」
と、戦士の男がバカにするように言ってきた。
「ほら、助けろよ。なにやってんだ?命乞いでもしてろ。仲間が死ぬ瞬間を見ながらな!」
「ねぇ、聞こえてる?自分が何も護れない無能だって、胸に刻んで死んでいきなさい?」
剣士の男もローズも罵声を浴びせる。その瞬間、俺の奥で何かが切れた音がした。
かってないほどの異常な怒りと憎悪が、堰を切ったように溢れ出してくる。
(!?なんだ、この感情は!俺のじゃない...いや、俺の...魔神王としての俺の感情。なぜか設定されていないはずの過去の記憶...まずい、怒りに飲まれる...)
そして、俺の意識は静かに深淵へと落ちていった――。
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




