第57話 魔のドッヂボール
「くっはぁ〜〜……食った食った!」
昼食を食べ終えた頃には、草原全体がすっかり穏やかな空気に包まれていた。
ライオスが、満足そうにお腹を擦りながら草原へ寝転がる。
「のどかだなぁ〜」
俺もシートに座ったまま、午後の風を全身で浴びていた。
初夏の日差しは暑いものの、高原であるため比較的涼しく心地よい。
「他のクラスも、かなり盛り上がってるね」
視線の先では、低級クラスや中級クラスの生徒たちが集まって遊んでいたり、談笑していたりしていた。まさに、親睦会といった雰囲気だ。
そんな中、
「テンにぃ〜!」
と、聞き慣れた声が遠くから飛んでくる。
振り返ると、こちらへ手を振りながら歩いてくる集団が見えた。
「お、ミリアじゃないか」
見ると、ミリアがこっちに向かって走ってきている。その後ろには、マヨ、カタルシア、そして見慣れない少女が2人いた。
1人は長い桃色の髪を風に揺らす、どこか気品のある少女。もう1人は茶髪の活発そうな少女だった。
「お隣、よろしいですか?」
カタルシアが笑顔で聞いてくる。
「別にいいぞ」
「ありがとうございます」
マヨたちはそのまま自然にシートの近くへ腰を下ろした。
「なんだ、知り合いか?」
ライオスが不思議そうに尋ねる。
「俺の冒険者パーティのメンバーだよ。そこの2人は知らないけど……」
「お前、ハーレムじゃねぇか!」
「いや、そんなんじゃねぇよ」
そんな会話をしていると、桃色髪の少女が軽く会釈した。
「初めまして。私はアスカです」
落ち着いた声。育ちの良さが滲み出ている。
「メイだよー! よろしくね!」
もう1人の少女――メイも明るく笑った。
「お、おう。オレはライオスだ!」
「アルトです」
「カイスです。よろしく」
それぞれ軽く自己紹介を交わす。
その流れのまま、自然と雑談が始まった。
「アスカさんって、確か公爵家の令嬢でしたよね? すごい有名人じゃないですか」
カイスが思い出したように口を開く。
「おぉ! さっきお前が言っていた貴族の御令嬢か!」
「すごい……あまり粗相のないようにしないと。特にライオス」
みんなの反応に、アスカは微笑むと、
「ふふっ、でも貴方たちの目の前にはもっとすごい人がいるじゃない」
と言って、視線をマヨに向けた。
「マヨちゃんは、ミルキーウェイ皇国の第一皇女なのよ」
それからふと、アスカがそんなことを口にする。
「……ん?」
ライオスたちが同時に固まった。
「え、皇女? ん? ってことは、テンコお前!」
「皇女様の従者なのか!?」
アルトが目を瞬かせる。
「え、あぁ、うん。そうだよ」
(普通に忘れてたけど、そういやコイツ皇族だったわ)
俺はあっさりとそう答える。一瞬の沈黙。
そして――
「はぁぁぁ!?!?」
ライオスの叫び声が草原に響いた。
「マジかよ!? あの大陸一の帝国の皇女とその従者!?」
「そう言えばウワサで聞いたことがある。普段表に出ないで有名な皇女が、従者と共に世界を巡る旅に出たと……まさか、それが君たちなのか!?」
ライオスとアルトは酷く動揺している。
「うん! テンにぃはすごいんだよ!」
ミリアは無邪気に答えた。
「ハハハ……」
カイスは苦笑しながら額を押さえる。
「いや……確かに、雰囲気は普通じゃなかったけど……」
そんな中、ライオスは一息つくと、
「……なるほどな!!」
と、大きくうなずいた。
「いや、めちゃくちゃ納得した! そりゃ強いわけだぜ!」
「それで納得するのかよ……」
カイスも小さく笑った。
「ま、まぁ。この学院、貴族や王族も珍しくないからね。にしても、限度があるけど」
「それもそうか……」
俺は苦笑いしながら肩をすくめた。
それからしばらく雑談していると、メイが周囲を見回しながら声を上げる。
「あ、なんか向こう騒がしくない?」
その言葉につられて視線を向けると、草原の中央付近に教師たちが集まっていた。
そして、そのうちの一人が魔法で声を拡張しながら叫ぶ。
「これより、新入生交流競技を開始する!!」
その瞬間、周囲が一気にざわめいた。
「競技内容は――ドッヂボールだ!」
「……は?」
俺は思わず間の抜けた声を漏らした。元世界の競技が、急に出てきたからだ。
「競技大会か! 面白そうだな!」
「スポーツは交流の醍醐味ね」
みんなは乗り気の様子。
やがて、草原の中央に作られた特設コートの周囲に、生徒たちが自然と集まり始めていた。
コートは端から端まで100m近くあり、かなり大きい。
それから、みんなが集まったところでチーム分けがされた。力の関係か、低級から上級と、超級・天星級同士でランダムにチームを作られる。
13人1組で計7チームだ。
「それでは、赤チーム対緑チームの第一試合を開始する!」
やがて、教師の声が響く。
コートの左右に、それぞれのチームが並ぶ。
こちら――緑チームは、俺、アルト、メイ、カタルシア、そして他数名。
対する相手側には――
「よぉぉし!! 絶対勝つぞぉ!!」
燃え上がるように拳を突き上げるライオス。
「テンにぃ! 本気で行くからねー!」
元気よく手を振るミリア。
そんな中、教師が改めてルール確認を始めた。
「能力使用は禁止。使用可能なのは天賦力のみだ。身体強化、属性付与、防御強化までは許可する!」
教師の言葉に、生徒たちはそれぞれうなずく。
「よし、それでは――始め!!」
開始の合図。ボールが高く上げられる。その直後。
「うおぉぉぉぉッ!!」
ライオスが地面を蹴った。
「高っ!?」
アルトが思わず声を上げる。
身体強化。しかもかなり高出力。
ボールは相手コートに転がっていく。
ライオスはそれを掴むと、そのまま炎属性を纏わせた。
「喰らえぇぇ!! ファイアボール!!」
――ドォン!!
空気を裂くような豪速球。
「うわっ!?」
こちらの男子生徒の一人が反応しきれず、腹に直撃した。
「ぐぇっ!?」
そのまま後方へ吹っ飛び、場外へ転がる。
「アウト!」
「っしゃあ!!」
ライオスがガッツポーズを決めた。
「お前、最初から飛ばしすぎだろ……!」
「遷音速くらいは出てましたね」
俺は呆れながら前へ出る。
「はっはっは!! こういうのは勢いが大事なんだよ!!」
「いや絶対違うだろ……」
そんな会話をしている間にも、ボールは次々と飛び交う。
そんな中、ボールはミリアに渡った。
「いっくよーー!!」
ミリアが両手でボールを抱えると、そのまま思い切り投げ放った。
「まっずい! みんな、伏せろー!!」
それを見た俺は、そう叫んだ。
次の瞬間。
――ドォォン!!
ほぼ砲弾のようなボールが、一直線に飛んできた。
「速ぇぇぇぇ!?」
アルトが慌てて身を引く。ボールはその横を凄まじい勢いで通過し、そのまま地面へ激突。
――ドゴン!!
土煙が舞い、ボールは外野後方の結界にで跳ね返った。
「相変わらず規格外だな……」
俺は苦笑しながら肩をすくめた。
「あいつ、超級の力じゃねぇ!!」
アルトは怯えたような声を出す。
「まぁ、アイツは筆記が取れなかったから……」
「ミリアちゃんは獣人だからねぇ」
メイは特に驚く様子もなく、静かにうなずいていた。
そんなやり取りをしていると、風を切る音と同時に横からボールが迫っていた。
外野にいたアスカだ。
アスカの投げたボールは、空間属性を纏いながら不自然に軌道を曲げている。
「うわっ、曲がった!?」
生徒の一人が慌てて身を捻る。
だが、ボールはさらに軌道を変えながらこちらへ迫ってきた。
「任せて!」
その瞬間、メイが前へ飛び出す。
神力を纏わせた手でボールを弾き、その軌道を強引に逸らした。
ボールはそのまま高く跳ね上がる。
「ナイス!」
「テンコさん! お願いします!」
メイの声に合わせ、俺は地面を蹴った。
身体強化で一気に跳躍し、空中でボールを掴む。
「お返しだ」
雷属性を軽く纏わせ、そのまま一直線に投げ返した。
――バシュッ!!
「うおっ!?」
ボールは凄まじい速度で飛び、相手側の男子生徒の肩へ直撃する。
「アウト!」
「よしっ!」
こちら側から歓声が上がった。
「やるじゃねぇかテンコ!!」
ライオスが笑いながら再びボールを拾う。
直後、ライオスと俺の視線がぶつかった。
「次はオレの番だぁ!!」
ライオスは炎を纏わせた豪速球を放つ。
だが今度は、俺が正面から受け止めた。
――ドンッ!!
衝撃で足元の草が舞う。
「マジかよ!? それ取るのか!?」
「お前の球、真っ直ぐだから読みやすいんだよ」
「言ってくれるじゃねぇか!」
ライオスが楽しそうに笑う。
「それじゃあ、お返しだ!」
俺も笑うと、雷のオーラを解放した。
「くらえ! ライトニングアロー!!」
俺は中央線に向かって駆け出し、そのまま全力で投げ返す。
――バリバリッ!!
青色の雷を纏ったされたボールは、音を置き去りにしながら一直線に突き進み、回避しようとしたライオスの脇腹を掠めた。
「ぐはっ!?」
ライオスはそのまま転がるように場外へ出る。
「ライオス、アウト!」
「くっそぉぉぉ!! 速すぎるだろ! 直撃したら死ぬぞ!」
ライオスは、悔しそうな表情をしながら外野へ回った。
そうして、主力を失った相手側は、一気に崩れ始めた。
そこへメイとアルトの連携が決まり、最後の一人にもボールが命中する。
「試合終了!! 勝者、緑チーム!!」
教師の声と共に、周囲から歓声が上がった。
1回戦の勝利で緑チームが沸く中、すぐに第二試合の組み合わせが発表された。
「第二試合! 緑チーム対青チーム!」
俺たちは軽く休憩を挟んでコートに戻った。対する青チームには、マヨとカイスがいる。
「容赦はしないわよ、テンコ」
マヨが涼やかな笑みを浮かべ、カイスは眼鏡を軽く押し上げて会釈した。
「始め!」
教師の合図で試合開始。
青チームは動きが素早かった。マヨがボールを拾い、カイスにパスする。カイスは身体強化をかけながら素早く踏み込み、勢いよく投げてきた。
――ドンッ!
見かけによらず、かなりの速度だ。メイが前に出て手を伸ばしたが、ボールは彼女の指先を掠めてアルトの胸に直撃した。
「アウト!」
「くっ……キャッチは苦手なんだよ」
青チームの連携が光る。
だが、こちらも負けじと反撃する。
カタルシアがボールをキャッチし、こちらにパスを寄越した。
「テンコさん!」
「ああ」
俺は身体強化をかけ、ボールに軽く雷属性を纏わせて投げ返した。ボールは鋭い音を立てて飛ぶが、青チームの後列生徒が反応してキャッチする。
試合は一進一退だった。
中盤、メイが神力を纏った強烈な投球で一人をアウトにするも、直後にマヨの正確な返球がメイの肩を捉えた。
「アウト!」
人数が減る中、俺とマヨの視線が何度かぶつかった。
終盤、残ったのはこちらが俺とカタルシア、青チームがマヨとカイス含む4人という状況になった。
カイスが再びボールを拾い、素早いステップで投げてくる。
俺は身体を捻ってかわし、跳躍してボールを掴んだ。
「お返しだ」
全身の強化をかけ、雷属性を強く纏わせて全力で投げ返す。ボールは風を切り裂き、青チームの生徒の腕に直撃した。
「いってぇ!」
「体が痺れてキャッチできないなんて、ちょっとズルいわね」
マヨはそんな軽口を叩きながらも、水のように流動的で滑らかな動きでボールを交わしていく。
その後、俺たちは人数不利を打開できず、徐々に追い詰められていった。
カイスのボールがカタルシアを捉える。
「アウト!」
そして最後、俺一人となったところで、試合終了の合図が響いた。
「試合終了! 勝者、青チーム!!」
教師の宣言に、青チームから歓声が上がった。
俺がコートの外へ出ると、マヨとカイスが汗を拭きながら近づいてきた。
「負けちゃったな」
「でもテンコ、手加減してたわよね」
カイスも眼鏡を直しながら笑った。
「1試合目の技を見せなかったしな」
それを聞いて、俺は静かに微笑んだ。
「だって、これは親睦会だろ? やっぱりみんなが楽しくできないといけないしな!」
俺の言葉に、近くにいたアルトたちもうなずく。
「よしっ、3試合目も頑張るぞ!!」
「「おー!」」
こうして、魔のドッヂボールは、能力を封じられた中でも熱く、笑い声の絶えない交流の場となっていた。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。
ライオス:テンコのクラスメイトで、前期選抜首席の実力者。暑苦しいが、見た目に反して魔法使い。
アルト:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。風魔法使いらしい。
カイス:テンコのクラスメイトで、ライオスの友達。スキルの模倣は加護。
アスカ:桃色髪の女の子。マヨと同じ超級クラスで、フォルティス王国公爵家の令嬢。使う魔法は空間魔法。年齢は17歳。
メイ:茶髪の活発な女の子。持っているスキルは加護。一応上位階級の家の娘。13歳。




