第16話 力の解釈
「あぁそうだ。手合わせの前に、まずは魔法を使う上で重要なことを聞いとこう。なにかコツ的なもので」
ミリアとの手合わせの前に、俺はそう言うとカタルシアに視線を向ける。
「ま、魔法のコツですか?」
カタルシアは少し考えると、
「そうですねぇ……」
と、口を開いた。
「魔法を扱う上で一番重要なのは、やはりイメージですね」
「イメージ……技術とか魔力量とかじゃないんだな」
俺の言葉に、カタルシアは一度うなずいてから、話を続ける。
「例えば、この杖。魔導士が杖を持つ理由は、これ自体に特別な力があるからというより、"魔法を発動するためのイメージを補完する装置"だからなんです」
カタルシアはそう言うと、自分の杖を軽く掲げた。
「補完……なるほど。確かに、杖を持っていると、何かを"操る"イメージがより鮮明になる気がする」
俺は内心で納得してうなずく。
「詠唱も同じです」
カタルシアは静かに言葉を続ける。
「詠唱は、魔法を起動するためのスイッチであると同時に、術者自身にイメージを固定させるためのものなんです。だから、詠唱を省略すると、制御が難しくなることが多いんですよね」
「まぁ、魔法系のスキルを持っている人は、体に能力が刻まれているから必要ないんだけど、イメージが重要なのは変わらないわ」
マヨは、カタルシアの言葉に補足して言う。
「その通りです」
カタルシアは少し嬉しそうに微笑んだ。
「でも慣れてくると、杖がなくても魔法を使えるようになりますし、詠唱を省略、または簡略することもあります。戦闘中に、『〜〜魔法』って言ってる人がいたら、それは詠唱の簡略ですよ」
「へぇ〜、意外と奥が深いんだなぁ」
俺はカタルシアの話を聞いて、魔法の奥深さに感心する。
「そうなんですよ! 魔法の一番の長所は、拡張性と汎用性です。例えば、同じ炎魔法でも、"燃やす"イメージなのか、"爆ぜる"イメージなのか、"包み込む"イメージなのかで、まったく別の魔法になります。
つまり――イメージ次第で、能力はいくらでも伸ばせる、ということです」
その言葉に、ミリアが目を輝かせた。
「じゃあさ、あたしの〔魔獣の爪〕も、もっと変えられるってこと」
「はい!」
カタルシアははっきりとうなずく。
「おぉ……!」
ミリアは、完全に乗り気だ。
「加護系のスキルは、基本的に"できること"が決まっています。もちろん、使い手の熟練度で差は出ますが、根本的な性質は変わりません。これは魔法使いや、神聖魔法使いの特権です」
「魔法系は個性に応じて、自分に合った技を"生み出す"ことができるんだよね」
「おもしれぇ……要は"力の解釈"を拡げれば良いんだな!」
俺は興味深い魔法の本質に高揚した。
イメージ――想像することは誰よりも得意だ。
日々、白昼夢の世界で生きていた俺にとって、力の扱いをイメージすることは朝飯前だった。
「そうです! それを、手合わせを通じて学んでいきましょう」
「なんか、難しそうだけど、面白そう!」
「ええ」
ミリアとマヨも、意見に同意する。
「よし。じゃあ改めて、手合わせを始めようか」
「うん!」
「フィールド作成は、私にまかせてください」
そして、俺たちは手合わせのための準備に取り掛かった。
「結界はこんな感じでいいですか?」
カタルシアが森や観戦組に攻撃が行かないように、結界を張る。
空き地の中央に、縦、横、高さがだいたい20mほどのキューブ状の結界が、青緑色に淡く光っている。
「おっけーだよ」
「それでは。自然魔法」〔大地創成〕
そして、結界に合わせ、地盤を少し隆起させ、簡易的なフィールドを完成させた。
「おぉ~。やっぱ戦うからには武道会方式が一番だよな」
「早くやろ~!」
俺たちはフィールドに上がると、互いに構える。
「ふふん、テンにぃ。手加減はいらないよ?」
ミリアは軽くステップを踏みながら、楽しそうに笑う。
「言っとくけど、そっちもな」
俺は肩を回しながら答えた。
「急所突きとか危険な攻撃はなしで、場外か降参で敗北ね。制限時間は5分にしましょうか」
結界の外からマヨの冷静な指示が飛んでくる。
「はーい!」
「それじゃあ――」
そして、カタルシアが手を挙げる。
「準備はいいですか?」
「おっけー!」
「いつでも来い」
「では……始め!」
その合図と同時に、ミリアが先に動いた。
「いくよっ!」
ミリアは地面を強く蹴り、一瞬で距離を詰めてくる。
「速っ――!」
その攻撃に、俺は思わず声が出た。
〔魔獣の爪〕
紫のオーラを纏った爪が、俺の目前に迫る。
「っと!」
俺は横に跳び、間一髪で回避した。
爪が地面を掠め、
――ズザッ!
と、土が抉れた。
「うわ、えぐっ! 当たってたらやばかったかも」
そんな軽口を叩きながら、俺も反撃を開始する。
「じゃあ、次はこっちの番だ」〔ライトニングソード〕
俺が踏み込むと同時に、ミリアがにやりと笑った。
「来た来た!」
「うおっ!?」
ミリアは正面から来ると思いきや、直前で地面を蹴り、斜め前に跳んで、俺の背後に回り込む。
「そっちか!」
俺の剣は空を切る。
「甘いよ、テンにぃ!」
その直後、背後から声が聞こえ、反射的にしゃがんだ。
その瞬間、爪がものすごい速度で頭上を通り過ぎ、髪が少し揺れた。
「ちょ、近っ!」
「ミリアちゃん、いい一撃ですね!」
「そのままテンコを場外に吹き飛ばしなさい!」
外から、観戦組の声が飛ぶ。
「おい、ヤジを飛ばすな!」
俺は立て直しながら、息を整える。
(やべぇ。経験が圧倒的に足りない)
ミリアの動きは速いだけじゃない。獣の動きをイメージしてるから、軌道が読みにくい。
「まだまだ!」
ミリアは少し距離を取ると、
〔魔獣の爪・弾〕
と、無数の爪を周りに出現させ、一気に飛ばしてきた。
「なッ!?」
俺は予想外の攻撃に対応が遅れ、もろに攻撃を食らってしまった。
――ズドォン!
衝撃が、背後に広がる森の木々を震わせる。
だが、膨大な天賦力を持つ俺には大したダメージにはならない。
「え〜、今ので無傷は反則じゃん!」
「ミリア、こうなりゃ金的よ!」
「おい! 急所突きは反則だぞ!」(俺は無性だけど)
外野の声に惑わされつつも、俺は冷静に、
「イメージか」
と、分析する。
(イメージ……かっこいい雷魔法のイメージだ)
俺は指をパチンと鳴らす。
すると、俺の周りに雷剣が無数に現れた。
「ミリア、手本ありがとな^^」〔雷電剣・流星〕
そして、ミリアにお返しの攻撃をする。
「え、テンにぃ――きゃあ!」
無数の雷剣がミリアを襲う。
「いったーい。ちょっとピリピリする〜」
何とか避けたミリアだったが、少しかすめたようだ。
それでもミリアは引かずに、
〔魔獣の咆哮〕
と、次の攻撃を放ってくる。
俺はその攻撃を防ぐと、
「少し、強めに行くよ!」〔雷光〕
と、俺は雷のオーラを一気に解放し、無差別の広範囲攻撃を放った。
「うぐぅ!」
逃げ場のない攻撃を食らったミリアは、全身が痺れてその場に座り込む。
「ま、参った〜」
そして、ミリアはそのまま降参し、俺の勝利で手合わせが終了した。
「いや〜、大人気ないんじゃないの?」
フィールドを降りると、観戦していたマヨがそう言ってきくる。
「まぁ、いい試合だっただろ。ミリアも思った以上に強かったし、これなら、これからも問題ないだろう」
「さすがテンにぃ。疲れたぁ」
ミリアはフィールドを降りると、その場に寝転んでしまった。
「ミリアちゃん強かったわよ! 私なら負けてたかもしれません」
カタルシアは、そんなミリアに優しく声をかけた。
「じゃあ、次は私とマヨさんですか」
「そうね」
そして、次に2人がフィールドへと向かった。
「よーい、始め!」
合図と同時に、先制攻撃を仕掛けたのはマヨだった。
「先手必勝よ」
マヨは一歩踏み込み、剣を水平に構える。
刃に水がまとわりつき、流れるように形を変える。
〔ウォータースラッシュ〕
剣を振り抜くと同時に、水の刃が飛翔し、一直線にカタルシアへ向かっていった。
「――ッ! 防御魔法!」
カタルシアはすぐさまバリアを展開し、攻撃を防いだ。
ザァッと、水がバリアにぶつかり、四散した。
「さすが、反応が早いわね」
マヨはそのまま距離を詰める。
「自然魔法」〔植縛〕
しかし、カタルシアが技を発動すると、地面からツルが伸び、マヨの足を絡め取った。
「ッと!」
マヨは急いで剣でツルを断ち切り、体勢を立て直す。
「――行きます!」〔大地の手〕
しかし、その間に詠唱を済ませたカタルシアの攻撃が、マヨを襲った。
拳の形をした土の塊が、マヨ目掛けて飛んでくる。
「これは厄介ね」〔激流突き〕
マヨはそれを高威力の突き技で貫き、爆散させた。
水しぶきが舞い、陽光を受けてキラキラと輝いている。
カタルシアは杖を構え直し、再び詠唱に入る。
だが、
「詠唱中は、隙ができる!」
と、マヨは一気に踏み込み、接近戦に持ち込む。
剣に水を纏わせながら、連続で斬りかかる。
〔流水乱斬〕
流れるような剣撃が、次々と襲いかかる。
「これはッ……!」〔防護結界〕
カタルシアはバリアで斬撃を防ぎつつ、その隙に結界を展開する。
淡い光の膜が彼女を包み、剣撃を弾いた。
――キィン!
「防御魔法より強力な結界……やるわね」
「詠唱が必要ですが、守りには自信があります」
だが、マヨは攻撃を止めない。
剣を振るうたび、水が形を変え、斬撃の軌道が微妙にずれていく。
「剣技と魔法の組み合わせ。さすがだな」
外から見ていた俺は、思わず感心する。
「マヨは近〜中距離が得意、カタルシアは中〜遠距離が得意か」
「2人とも強〜い」
ミリアも真剣な表情で見守っていた。
フィールドでは、カタルシアが距離を取ろうとし、マヨがそれを詰めにいく展開が続く。
「自然魔法」〔岩槍〕
地面から岩の槍が突き出し、マヨの進路を塞ぐ。
マヨはそれを、水を足元に流し、滑るように横へ回避する。
そして、カタルシアの懐に潜り込むと、剣で攻撃した。
「くっ……」
結界が軋み、カタルシアが後退する。
「結界、限界が近いわね」
「ええ。でも――」
しかし、マヨがカタルシアへの追撃をしに一歩踏み出すと、地面に魔法陣が現れ、地面がマヨの足を掴み、動きを止めた。
「しまっ……!」
その瞬間、カタルシアは杖を振り下ろす。
〔自然の牢獄〕
木やツルなどの植物が絡み合い、即席の檻を形成する。
「……参った、かな」
マヨは肩をすくめ、剣を下ろした。
「降参よ」
「おぉ、勝者はルシねぇだ!」
結界の外から、ミリアの声が響く。
「お疲れさまです」
フィールドを降りたカタルシアは、少し息を切らしながら頭を下げた。
「いい戦いだったわ。まさか罠を仕掛けてるなんて。今回のは完全に、貴女が一枚上手だったわ」
マヨは微笑みながらそう口にする。
「マヨさんも凄かったです! 近接ならミリアちゃんやテンコさんに劣らないくらいですよ」
2人は、どこか満足そうに笑い合う。
「よしっ、少し休憩したら、次は2vs2でもするかぁ」
「さんせー!」
俺たちはその後も特訓を続け、その日は結局、日が暮れるまで手合わせをしたのだった。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
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〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




