第12話 竜星神殿
竜星外殿中央。俺たちが境界を越えた瞬間、足元の感覚が消えた。
落ちるわけでも、浮かぶわけでもない。ただ、空間そのものに迎え入れられるような、不思議な感覚。
光の渦に包まれ、やがて視界が開けると、そこに広がっていたのは"楽園"と呼ぶ以外にない、神秘的な世界だった。
空は高く、左右で夜と昼に綺麗に分かれている。
「な、なんだ...ここ...」
夜側には星と月が輝き、昼側には雲一つ無い蒼穹が広がっている。
広大な森が果てしなく続き、葉の一枚一枚が微かに光を宿している。風が吹くたび、星屑のような粒子が舞い、空間そのものが呼吸しているようだった。
「...すご......」
思わず、声が漏れる。
俺たちの目の前には、巨大な湖が広がっていた。水面は鏡のように澄み、空と星と森を映し出している。
そして、その湖の中央。まるで星そのものが地に降りたかのように、白亜の神殿が、宙に浮くように静かに佇んでいた。
「...あれが。」
「真なる竜星神殿...のようですね。初めて見ました。」
レプリカや外殿とは、まるで格が違う。威圧感ではない。ただ、存在しているだけで正しさを感じさせる重み。
そんな中、俺の胸が微かに疼いた。
懐かしいような、知っているはずなのに思い出せないような、そんな感覚。
「よし、行こう。」
俺の言葉と共に湖の縁に近づくと、水面が静かに揺らぎ、一本の光の道が浮かび上がった。
4人で、ゆっくりと湖を渡る。
「きれいな水だね!」
「そうね。エメラルドグリーンに澄んでるわ。」
ミリアとマヨの言葉が、静かな湖面に溶けていく。
水は透き通っているのに、底が見えない。覗き込むと、空の星と昼の蒼が溶け合い、どこまでが映り込みで、どこからが本物なのか分からなくなる。
俺たちが踏みしめるたび、水面が柔らかく揺れ、淡い光の波紋が広がる。
「夢のような空間だな。」
湖を渡る間、奇妙な感覚があった。歩いているはずなのに、距離の感覚が曖昧だ。
現実離れした異空間は、俺たちの感覚を狂わせた。だが、それがこの上なく心地よかった。
やがて、神殿の外縁へと辿り着く。
神殿の壁は、近くで見るとかなり荒れていた。白い石材には無数のひび割れが走り、そこにつる植物が絡みついている。
「...年季を感じますね。」
カタルシアの言葉に、誰も否定できなかった。神殿というより、役目を終えた遺跡。それが第一印象だった。
「ここが、おじい様たちが儀式を行う場所...」
神殿の中に入ると円形の広場があり、その中央に祭壇があった。
そして、その周囲を囲むように、七つの石碑が立っている。
「これは?」
近づくと、石碑の表面に刻まれた文字が、微かに光を帯びる。
「七位星将の石碑ですね。」
カタルシアがゆっくりと口を開く。
「伝承によると、魔神王に仕えた七人の守護者のようです。」
「側近兼将校みたいなものね。」
「はい。実物をみれるなんて、感激です。」
石碑には、それぞれ異なる称号と象徴が刻まれていた。
焔、水、樹、雷、翼、星、影。
「天恵七属性ね。」
マヨが指でなぞりながら、そう口にする。
「てんけいしちぞくせい?」
「魔法や加護の根幹にある属性よ。火、水、地、雷、空の五大元素と、光、闇の七つの属性が存在するの。獣魔法みたいに、魔物や亜人が持ってる、属性に寄らない固有魔法もあるけどね。」
「へぇ~。」
「まぁ、そんなに重要なことじゃないから、豆知識程度に留めておいていいわよ。」
マヨの話に相槌を打ちながら辺りを見渡すと、天井に天ノ川らしき模様が描かれていることに気づいた。
「気になったんだけどさ、この皇国ってやたら星がでてくるよね。」
俺が天井を見上げながらそう言うと、
「この皇国にはとある伝説があって――」
と、カタルシアが語り始めた。
「『夜空に輝く星天河、これ宇宙を守る竜天神様なり。地上を支配する虎、これ竜天神様の化身なり。』と言った感じで、昔の人は空に架かる天ノ川を、世界を護る竜天神だと思い、星は竜天神が撒いた恵みの光だと言われているんです。」
その話を聞いて、マヨも続く。
「七夕伝説ね。竜天神は魔獣――ドラゴンではなく、神獣――サーペントの姿だったと言われているわ。そして地上にいる虎は、毛皮の下に鱗があって、獣ではなく竜の仲間だとされているのよ。」
(七夕伝説...)
マヨの話を聞き、俺は少し頭を捻る。
(俺のいた元の世界と同じだな。現に俺は七夕生まれで、天虎もここから来てるって、じいちゃんが言ってたしな。でも――)
俺の心に何か引っかかる。
(竜はどこに行ったんだ?七夕由来の竜のつく名前を知っている気がする...親戚にいたっけ?)
元の世界でも記憶喪失をしていた俺は、モヤモヤを残しつつ、どうせ思い出せないので考えるのをやめた。
「まぁ要するに、俺に関する伝説に星が関係してるからってことだな。」
「そういうことです。」
そんな風に俺たちが話をしていると、突如☆が淡く光を放った。
「☆が反応してる...」
光は昼側と夜側の両方へと引かれている。
「すごい光ってる~!」
「こ、これはなんでしょうか?」
「とにかく行ってみよう。」
俺たちは、光が共鳴する夜側の森へ足を踏み入れる。
そして、光の元へ進んでいくと、何やら小さい祭壇のようなものがあり、その中央に光るものが浮いている。
「これ...鍵?」
それは竜を模した金属片だった。
触れた瞬間、指先にひやりとした感触が走る。
「鍵の欠片のようですね。」
「よし、あっちも見てみよう。」
俺たちは、昼側でも同じように探索を進める。
白い光の中、小さな祭壇の上に、もう一つの欠片が同じように光っていた。
こっちは虎のようだ。
「くっつけてみよう。」
俺は欠片を手に取り、二つを近づけると、自然と引き寄せ合い、ひとつの鍵へと形を変える。
「...完成か。」
そして鍵を持った瞬間、神殿全体が低く鳴動し、光りだした。
「し、神殿が...」
「行ってみましょう。」
俺たちが神殿に戻ると、中央の祭壇、その上空に鍵穴が浮かび上がっていた。
空間そのものが歪み、ひび割れている。
「...さ、差してみるか?」
「か、仮にもテンコさんの神殿ですし、大丈夫でしょう。」
「そ、それじゃあ――」
俺は一度深呼吸をすると、ガチャッと鍵を差し込んだ。
すると次の瞬間、音もなく世界が反転し、暗転した。
――気がつくと、俺たちは闇の中に立っていた。
「なんだここは...」
空間の中心で、何かが輝いている。
「御神体...?」
カタルシアが口を開く。
それは星のようで、人のような、不安定な形をした七つの御神体だった。
それぞれ、焔の赫、水の碧、樹の翠、雷の黄、翼の皎、星の金、影の黎に輝き、ゆっくりと回転していた。
光は一定ではなく、脈打つように明滅している。
「...御神体があるということは、ここは伝説の聖域...『竜星神殿・裏』でしょうか?」
カタルシアの声は、闇に吸い込まれるように小さく響く。
「裏?よくわからんけど、なんか凄そうだな。」
俺はそう言いながら、導かれるように、一歩、また一歩と御神体へ近づいた。
その瞬間だった――突如世界が白飛びし、視界が砕けた。
闇が割れ、無数の光景が流れ込んでくる。
星空を見下ろす視点。無限に広がる星天河。その中心に佇む"何か"。
跪く七つの光。焔、水、樹、雷、翼、星、影――それぞれが頭を垂れ、その"何か"の方を向いている。
『――すまないな。』
誰かの声がした。それは俺の声だったのか、違う誰かのものだったのか、分からない。
次の瞬間、場面が切り替わる。
逃げ惑う人々。崩れ落ちる光の柱。大地を埋め尽くす青白い化け物。
叫び声と、祈りと、怒りが混ざり合う。
(これは...記憶の断片?あの青白いのはなんだ?)
頭に流れ込んできたのは、かつて魔神王が見ていた記憶。
そして再び、七つの光が跪く場面に戻る。
「陛下...」
静かな声が、闇の中に響いた。
「我ら、七位星将が目覚めるその時まで、もう少しお待ちください。」
七つの光は俺の方を向いている。
俺は戸惑い、口を開こうとするが声が出ない。
そして、真意を理解する前に、視界が急激に暗転した。
「――テンコさん!!」
「ッ!?」
誰かが俺の名を呼んだ。次の瞬間、強い浮遊感に包まれ、俺の意識は引き剥がされるように闇から放り出された。
気づけば、俺たちは竜星外殿の境界に立っていた。
「あぁ、気がついたみたいね。」
「ふぅ、気がついて良かったです。」
どうやら、俺は意識が完全に飛んでいたらしい。
気がついた俺を見て安心したのか、3人は俺を見てホッと胸を撫で下ろす。
「どうして境界に戻されているんだ?」
「テンコさんが御神体に近づいてすぐに、視界が弾けて、気づいたら戻されていたんです。そして、テンコさんだけ、立ったまま心ここに在らずといった感じで、意識が遠くに行っていたんですよ。」
「なるほど...」
(さっきのはなんだったんだ?俺以外にも封印されていた仲間がいるってことか。過去の大厄災...魔神王...七位星将...俺の過去に一体何があったんだ...?)
俺は先程の光景を朧げながら思い出し、頭を抱える。
そして、一息つくと、
「まっ、聖書に繋がるようなことはなかったけど、なんだか不思議な体験ができて良かったな!」
と、みんなに笑いかけた。
「そうですね!伝説の聖域なんて、おじい様でも知りませんよ!」
「おもしろかった~!」
「フフッ、そうね。」
みんなもその言葉に、笑顔で答える。
今回の出来事で、俺はこの世界が、より広く、より深いことを認識した。
冒険はまだ始まったばかり。そんな、俺たちの心情に呼応するかのように、カタルシアの胸元の☆は静かに輝いていた。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。
ブックマークがいただけると、大変励みになります。
〈主な登場人物〉
テンコ:神のゲームの主人公に選ばれた、普通の高校生。性格は厨二病で、抜けてるところもあるが、意外と頭はいい。
マヨ:大魔ミルキーウェイ神皇国の第一皇女。性格は真面目だが、皇女として過ごしてきた反動で素が出る場面もある。意外と間が抜けている。
ミリア:獣人の少女。とても活発で食いしん坊。強い。
カタルシア:紫髪のエルフの少女。人間で言う14歳くらいの見た目。とても誠実で真面目。




