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アイシャ  作者: 萌葱
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「エストの光の注入はお前か?」

例によっての髪への光の補充、けれど最近は先日起こった校内での魔の出現のこともあり以前よりはまめに通っている。

「いや、同期の人間だ、入りたての聖剣術士へ光を補充する光の術士は同期の中から選ばれるのはお前も判ってるだろう」

そう言ってシラーに笑われて思い出す…。

 当時いくら喧嘩をしてもそりが合わなくても、もともと少ない光の術士は同期には彼しか居なくて、だから、私の髪を金色に染めるのはシラーと決まっていて、喧嘩した翌日などは気まずかったけれどシラーのもとに通うしか無くて

「あぁ、確かに、けれどあのシステムが無かったら今はなかったかもな」

「そうかもしれないな……、と、お前、明後日の夜空いているか? また頼みたいのだが」

「明後日?空いてはいるが……夜会か?」

 若干ひきつりつつ振り向くと、ちょっと困ったような顔をして頷かれる。

 私は基本的には、夜会やパーティーなどは縁がない、けれど貴族階級のシラーはどうしても参加しなければいけないことが多いらしく、数年前からパートナーを頼まれることが増えた。

 最初は遊びでやったポーカーで負けたのが切っ掛けだった、何でもすると言う賭けだった以上、断ることが出来ずに参加はしたものの、それ以降も途中で変える方が面倒になるなど色々言われ…。

 シラーはとても女性に人気があると思う、端正な顔立ち、術士としての才能、高位の貴族という地位、幾らでも頼めば相手はいるだろうとため息を付けば、そういう相手に頼めばどういうことになるか本当に分からないのかと睨まれ…そして、現状に至っている。


「でも、この前の髪の編み方とか練習とか頼んだりしたら同じことになるんじゃないのか?」

 ふと、先日思ったことを呟くと

「なんのことだ?」

 と怪訝そうに聞かれ、先日クロエと話した私の髪型についての話をしたら

「メイドに目の前でやらせて一回で覚えた」

 そう驚くような返答を受けてしばし固まった。

 この、無駄に高性能な完璧主義者は……。

 とは言え、こうして補充も助けてもらっているし、付き合いも長い、ほんとうに困っように頼まれると嫌とは言えずしぶしぶ承諾すると、ほっとしたように笑って

「明後日いつもの所で」

 と言われた。


「さて・・と、そろそろ行くかな」

 一日の修行が終わり、自室で軽く汗を流した後は大抵クロエの所でぼうっとしていることが多い。

 剣術士という仕事柄どうしても外での稽古が多くなるのだけれど、私はどうも日の光と相性が悪く、浴びなくて良い時は極力日陰に居ることにしている。

 クロエの部屋、と言っても研究用にあてがわれた部屋であるが、そこは、闇の術士という仕事上闇の気に満ちておりとても居心地がいい。

 ずっと、ここに居たいと起こる誘惑を振りきり、思い切り伸びをする

「今夜の夜会ですか?」

「うん、化けてこないとね、クロエは?」

「私は今夜も当番ですね、職務としてですが参加はしますよ」

 シラーほどではないけれど、やはり貴族出身のクロエも夜会やパーティーの参加は必須であり、けれど闇の術士で医術も修行中の身である彼はその手の集まりには緊急時の要因として仕事として参加していることが多い。

 その方が簡単でいいのですよ、制服で行けますしねとクロエは笑っている。

 私たちは、スクォーラで術士とは認められてはいるが、未だ師について学んでいる身である、そのような生徒が仕事で外部と関わる時は制服の着用が義務つけられて居て、修業を終えて一人前と認められて初めて、その制服を脱いで外部と関わることが許されるのである。


「たまには、思いっきりめかしこんだ姿も見てみたいな」

 これだけの美貌である、さぞや映えることだろうと笑って言うと

「招待されていく場合はパートナーが必要ですからねぇ・・・なってくれますか?」

 そう微笑まれて、うっと詰まる。

 クロエが招待される会であれば、まずシラーの参加は必須で、シラーが本当のパートナーを決めるまではきっとこの関係は続くのだろう。

「クロエもシラーもモテるんだから早く本当のパートナーを探せばいいのにな…」

するとクロエは物憂げにこちらを見つつ

「私はモテませんよ?大抵の女性は自分より美しい男など嫌だと言って逃げてしまいます」

 などと、大抵の人間では嫌味になりそうな言葉を呟いているが、クロエの場合は真実だからたちが悪い。

 それに、そんな事を言ってもクロエを熱のこもった瞳で見つめる人間は多いのも私は知っているのだが…。

「それより、いいのですか?遅刻をしたら……」

「うわ、まずい!では、会場でっ」

 そう言ってクロエの部屋を飛び出した。


 スクォーラの中には生徒や教師、また修業を終えた後もスクォーラと契約し、そこに残る人間の生活や娯楽のための場所もあり、メインストリートは、この国の主要都市の一等地に店を構えているような店も出店をしている。

 この一見豪華な一軒家にも見える建物もそういう店の支店で、巨大な門の前で、もう顔見知りにもなった警備の人間に名前を告げると、中に取り次がれ、出迎えの人間が現れる。

 最初にシラーに連れてこられた時は、これが店だとは思わず、一体何処に向かっているか判らず混乱したのを思い出す。

「よく来たわね、アイシャちゃん、久しぶりだわねぇ~、腕が鳴るわぁ…、うふふ…」

「クローネ、今日はよろしく頼む」

 迎えに出てきた、もの凄く派手な迫力のある美女。

 けれど、その低い美声は男性のもので、最初に私を担当するものとして紹介された時は吃驚した。


とはいえ、その派手な色彩を決して下品にも煩くもならずにまとめ上げて着こなすセンスは流石で、会に向かう私をまさに化けると言うにふさわしい変身をさせてくれる。

「アイシャちゃんは腕のふるいがいがあるから大好きよ、今日は何を着せちゃおうかしら~、丁度今日特注品のカスクのネックレスが届いたのよねぇ…、ミネア産ドレスの最高級品もあそこにあるし…」

「ク、クローネ…、あまり高価すぎるものは…」

 最初に連れてこられた時から、ここでの支払いはすべてシラーに行くことになっていて、私はその値段を知らない。

 最初は着るものくらいは準備すると言ったのだけれど、おかしなものを着られては俺の恥になると言われ、この店に来てからは、確かに自分の財布ではまかない切れないと思い諦めている。

 世界が違うとため息をつく私にシラーは、必要経費だと笑う、会に出てしっかり顔を繋ぐ事で出来る人脈や情報、それは装飾品の何倍にもなって戻ってくる、だから黙って受け取ればいいんだ。

 シラーはそう言うけれど、中々慣れることは出来なくて、高級品を羅列するクローネには思わずストップを掛けてしまう。

 すると、クローネは迫力のあるその美貌を楽しげに近づけて

「だぁめ、いくらかかってもいいから磨き上げとけとのシラー様の注文よ」

 と片目をつぶった

「出来るだけ、動きやすくシンプルに・・・」

 私はもう、それだけ告げて観念するしかなかった。


「よおっし、で・き・た」

 そう言って鏡の前に立たされて思わず絶句する

 シラーにたっぷり補充してもらった為、キラキラと光る金髪は幾つかの束を下に垂らしつつ緩く上のほうで纏められ、仕事の割にはそれ以外では室内に篭っているために余り焼けていない肌は、しなやかな目の詰まった少し光沢のある深い青い布で覆われている。

 ホルダーネックのロングドレスは、上から下までかなりの分量を覆うはずが、胸元と背中は大胆に開けられており、横には深いスリットまで入っていて…。

 大きく開いた胸元には、細いキラキラする鎖が束になったようなネックレスと、それと同じ材質のブレスレッド、靴はドレスと同じ生地で作られたように見える深い青のハイヒール。


「こ…れは、ちょっと開き過ぎじゃないか…?」

 戸惑いがちにクローネを見ると

「なぁに言ってるのよ、そろそろこういう服を着なくてはいけない年頃でしょう?

 よおっく似合ってるわよ! アイシャちゃんは身体が引き締まっているから、こういうドレスがピタッと決まるのよね、ずっと着せてみたいと思ってたんだからぁ」

 と、満面の笑み。

「出来たか?そろそろ時間なんだが」

 シラーのノックに、はぁいとクローネが答えて開くドア、そのまま、私を見て目を丸くするシラー。

「ア…イシャか?」

 戸惑いがちに問いかけられて、頷く私。

「んふふふふ……さぁいこう傑作でしょう?」

 満足気なクローネには悪いが、私はこれではどうにも落ち着くことができない気がして

「シラー、頼む…もう少し何か……」

「クローネ、出来はわかったが、慣れない奴にはこれは無理だ、せめて何か薄物を…」

 シラーの言葉にクローネは、はいはいとため息を付いて、薄いスカーフを出してきて私にクルッと巻いた。

 頼りない薄い布一枚ではあるけれど、これで深く開いた胸元と背中の半分が覆われて、ようやく一息つくことが出来た。

「いらないと思うけどねぇ…」

 と、ため息をつくクローネに心からありがとうと告げて部屋を出て、シラーの準備した馬車に乗り込む。

「ありがと、シラー」

「いや…今日クロエは来るのか?」

「仕事で出席するって言ってたが」

「お前、俺が挨拶して側に居ない時は極力クロエの所にいろよ」

 今までそんな事を言われた事の無いことを言われ、驚き

「そんな、仕事できているんだから邪魔できない」

 と、反論したけれど

「どうせ、万が一の時のための要因だ、あいつが仕事じゃないとこないからという理由で招待している奴らがほとんどなんだ、いいから、極力側にいろ!」

 妙に言い返すことを許さない雰囲気に、取り敢えず頷いておいたのだった。



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