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「夕刻にお前の部屋に?」
「うん、悪いが頼む……後、机と椅子を貸してくれないか?」
「何だそれは?」
師匠を部屋に招待することにして、気がついた…、呼んだ人数に対して椅子の数が足りないということに。
スクォーラではポイントでクラスが分かれるが、その中で大きく違うのは仕事での報酬の額と部屋の待遇だろう。
最近クラスアップするまで、下から数えたほうが早いような位置に居た私は寮住まいで報酬の額も多いとは言えなかった。
とは言え、そう多くの客を呼ぶ趣味もなく、上等の酒を常備して置くくらいしか使い道もなく、剣も未だスクォーラからの支給品を使っている私には、此処で支払われる額は十分で。
基本的に生活費のいらない寮生活をしているのもあって、特に不満はなかった。
当然、クラスアップした私は、部屋の引越しも打診はされていた、確かにこのクラスになればこの寮に住み続ける者は少ない。
ある程度のクラスになれば、あてがわれる館のランクも上がるし、差額を払えばもっと上等な部屋へ移ることも出来る。
実際、シラーやクロエの住む館は部屋数も広さも私とは比べようのない建物で、その上身の回りの世話をする人間なども居て、同じ寮と呼ぶのもはばかれるような建物だ。
…が、余り部屋が広くなることに執着の無かった私は、面倒くさいという思いもあってそのままにしていたのが此処で裏目に出た。
広さ的に言えば今回の関係者である、5人くらいの人間が居ることくらいは出来るであろうけど、そもそもそれだけの椅子もなければ、お茶くらいは出そうにも人数に見合うテーブルもない。
最初、クロエに相談しようかと部屋に行こうとして、夕刻まで薬草を摘みに行くと昨日言っていたのを思い出して、先にシラーを呼ぶついでに家具を借りることができないかと申し出たのだが…。
「おまえ…伝説の聖剣術師、閃光のグェインをあの部屋に呼ぶつもりなのか?」
来る頻度は多くないものの、私の部屋を知るシラーは私の申し出に眉間に皺を寄せて私を見た。
「仕方が無いだろう? 一応部屋もランクアップするとは言われているが、現状私の部屋はあそこだ」
「あの、壁も薄ければ、部屋も狭い、寝室と居間の二部屋しかない…、だから早く引っ越せといったのに! 大体、あの部屋に椅子が5脚にテーブル等入るわけ無いだろう」
「入るだろう? ちょっとした椅子でいいんだ、食堂の椅子のような小さめの」
「俺の部屋にそんな椅子置いてあるか! 何を考えているんだ」
そう言われて、気がつく、確かに贅沢嗜好のシラーがそんな安普請な家具を所有しているわけがなくて…
「悪かったな、そうか、食堂で借りれば良いんだ、ちょっと行ってくる」
そもそも『食堂のような』椅子が欲しければ食堂に行けば良かったんだ、寮の人間が全員入れるほどの数があるんだ、2.3脚くらいは貸してくれるだろう……、そう思ってシラーの部屋を出ようとすると
「ここで話せばいいだろう」
「は?」
「だから、お前の狭くて安普請な部屋に、無理やり椅子を持ち込んでせせこましく会話するくらいなら、この部屋を使えと言ってるんだ」
「それは…何だかおかしく無いか? 自分の師匠にしかも自分の問題を相談するのに友人の部屋を使うなんて言うのは…」
「お前は俺の補充の相方だろう? パートナーでもある、それに、お前の部屋の壁では周囲に聞かせたくない話をするには向いているとは言い難いだろうが」
言われて、自分がしなければいけない話の内容が余り人に聞かせたくない話も混じっていることを思い出す。
そして、私の部屋の壁が、隣の部屋の男が連れ込んだ彼女との口喧嘩が、時として聞こえてくることもあるような部屋だということも。
「済まない…シラー、甘えさせて貰っていいか? 茶と茶菓子くらいはこっちで準備して持って行くから」
「いらん、それよりお前はその頭と格好をどうにかしてこい、湯でも使ってさっぱりした格好で来ないと部屋に入れないからな」
言われて自分の格好を見下ろせば、そういえばさっきマルクと剣を合わせたままの埃まみれの状態だった為、返す言葉も無く私はシラーの部屋を後にしたのだった。
ただ、そう言いながら私を部屋に返すシラーはいつもの呆れたような顔ではなく、妙に嬉しそうで機嫌が良かったのが私には不思議だった。
「だったら、闇の珠をつつけば良かったんです! 一体何のためにあれを置いていると思うんですか」
シラーの所からの帰り、もしかしたらと思いクロエの部屋を覗けばクロエはもう戻っていた。
師匠の来訪と、夕刻にシラーの部屋に来て欲しいと告げると、不思議そうに何故です? と聞かれて…、先ほどのシラーの部屋でのやり取りを話すと、クロエは不満気な表情でそう私に言った。
「あれは緊急用だろう、そんなことに使うのは躊躇われる」
「躊躇わないでいいんです、大体緊急でしょう? あなたの師匠が相談しにいらしたんですから! それに、あなたは家具や部屋のことで相談をしたかった…私にとっては緊急です」
「まぁ、良いじゃないか、シラーの部屋を借りれることになったし、私も困らなかった」
珍しく感情あらわに不満を言うクロエにそう取りなすと
「それが気に入らないんです、何だか、重要な時ばかり向こうに持っていかれているような気がして…」
そう、切なげにため息をつかれて、良く意味がわからずに
「ん? 何のことだ?」
と、聞くも、質問には答えずに
「…いいえ、良いんです、湯浴みをするんでしたね、早く行かないと間に合いませんよ?」
そう言われて、慌てて時刻を見ればもう余り時間がない
『さっぱりした格好でないと入れない』
そう言ったシラーの言葉も頭をよぎって
「悪い、じゃぁ、頼んだ!」
クロエの部屋を飛び出した。
此処までお読み頂きまして有り難うございます。
実はリアルの方で少しやらなければいけないことがあり、そろそろまじめに向き合い片付けた上で、アイシャの続きに戻ろうと思います。
れんのほうは一応完結済みなのもあり、基本一日一話upを続けていこうと思っております。
よろしくお願い致します。




