12
「でーきたわ」
そう言われて、アイメイクをされるのに瞑っていた目を開ける。
鏡に写ったのは、黒い真っ直ぐの髪に一房だけ淡い金色の長い髪、闇の力で髪を染めようとしてこの一房に気がついた…シラーの光とは違う淡い金色は多分ルーニア、クロエはこれを消さなければたぶん大丈夫ですねと髪の色を染めなおしてくれた。
先日と同じホルダーネックで、今回も袖はないけれど胸と背中はしっかり隠れていることにほっとする
艶のある薄い水色の地にキラキラとした糸で刺繍が縫い込まれており、、下は珍しく同じ布地のゆるいパンツだった。
何もしないと良く童顔だと言われる私の顔も、今日は念入りなアイメークで少しキツめの歳相応の顔で、鏡で見ていても何となく自分の顔だと云う気がしない。
耳元でシャラリと涼しげな音を立てるイヤリングは、服はシラーに任せるのですからとこれくらいはと、クロエに渡された。
繊細で美しい作りのそれをおそるおそる触ってみると、受け取ってくださいね、返品不可ですと言われて
「シラーからのは受け取っているのにこれは駄目なんて言いませんよね?」
そう、にこにこと言われて断ることができなくて、当日クローネに見せたら、軽く驚いたような顔をして、いい趣味だわといった後、てきぱきと服を揃えてくれた…
ノックの音が響き、クローネの返答にに入ってきた、今日もピンク色のふわふわとしたかわいらしいドレス姿のマリエルは
「お…ねえさまですの?本当に?」
驚いたように呟いている。
「私だ、変装は成功のようだな」
「素晴らしいですわ…でも、その口調ではバレはしなくても目立ってしまいましてよ?」
そう言われて
「極力口を開かないようにするしかないか…、マリエルも、今日の私はシャーラだ」
「そうでしたわね、お兄様とクロエ様が玄関先で待っていらっしゃいます、向かいますわよ?シャーラ様?」
「その「様」居るのか? どうしても?」
「今日のお姉様は、クロエ様の親戚でしてよ?呼び捨ては無理ですわ」
「判った…」
「アイシャ…よく似合っている」
「……化けてはいるが、本当に分からないか?」
玄関先で私を待つ二人の前に立つ
「おかしく無いかな? まぁ、クローネは信用しているけれど、いつまで経っても落ち着かないな…」
そう言うと、大丈夫ですと笑うクロエにほっとした
「お兄さま? 今のお姉様を見て気がつく人は、よほどいつもお姉さまの近くに居る方のみだと思いますけれど? 私でも確認してしまったほどですもの」
隣でマリエルがシラーにそう重ねてくれると、シラーは不機嫌そうな顔で
「向かうぞ」
そう言って、マリエルの手を取り馬車へを向かった。
すると、クロエがにこりと笑って手を差し出す
「アイシャと呼べないのは寂しいですけれど、馬車までエスコートしますよ」
私は笑ってその手に自分の手を預けた。
クライスの家に着くと、やはり広大な敷地に、何だか祭りのような様子に少し驚く、招待状を渡して邸内に入るけれど、屋台まで出ているのに思わず見回してしまう
「シャーラだっけ? 良いね」
突然横から声をかけられ驚くと、クライスがいたずらっぽく笑っていて
「一刻ほどうろついたら正面の階段を登って、右に曲って一つ目の角を左に、階段を登ったらその先の部屋に入って?」
突然言われて焦っていると、隣のクロエが判りましたというのにほっとする。
「うちのパーティーは商品の博覧会みたいな形式なんだ、色々な関わっている店が宣伝のために格安で品物を出したりしている、勿論料理や飲物はうちで振舞ってはいるけどね、色々あるから面白いよ、じゃぁ、あとで!」
そう言って人ごみに紛れていった
「……まさか、なの?凄いのね」
ローラとアシュレイが人ごみの中からこちらにやってくると、私を見てそう呟く、シラーが抜けてしまうと、マリエルが一人になってしまうので参加を頼むと快諾してくれた。
マリエルも含め信用できる人間だとは思っているけれど、問題が大きすぎてうかつに理由を告げることもできない、けれど今日、この場所に付き合って欲しいと頼んだら、皆、話せるようになったら云うようにと何も聞かずに手を貸してくれた。
「クロエが一緖じゃなければこれは無理ね、シラーは?」
「私たちの後で受付を済またはずですので、多分後方に…」
「判った」
「すまない」
そう、少し頭を下げると、今日も砂糖菓子のような外見で凛々しく笑って
「こういうパーティーは新鮮で楽しいわ、大丈夫」
そう笑ってくれた。
「シャーラ、ほら、綺麗なカクテル、飲んでみて」
「でも、ちゃんと食べないとね、この前菜なら一口で食べやすいし」
「綺麗な腕輪だね、君に似合いそう…シャーラ付けてみて? …あぁ、やっぱりよく似合う…」
「うん、良い香りだ…でもどうしよう? 君の香りが消えるのも寂しいね」
時間を潰すことにして、邸内の出店のようになっている中を歩きまわることに決めた
のはいいが、何だかクロエがいつものクロエではなくて…
優しげな風貌はいつも通りなのに、それに加えてどこか熱っぽく私を見て、様々な世話を焼かれて…。
シラーに付き合わされて、パーティーや夜会は参加していたけれど、いつもシラーは忙しくて、会場では一緒にいる時間は少なかったから、パートナーにこんなふうに接されたことはなくて、どんな顔をしたらいいかよく分からない。
「ク…クロエ?いいんだぞ?そこまで頑張らなくても?」
小さな声でそう言うと、いつもよりも優しい声で
「いいえ、楽しいですよ、次は何を見ましょうか?」
そう耳元で囁かれて…
乗りすぎだクロエ…と、思い柱にある時計をにらみつつ、砂糖菓子のようなクロエの甘やかしにきっちり乗った一刻弱だった
時計を確認してぴったりクライスの言う部屋につくように逆算して、少し前にクロエを連れて階段に向かう。
「魔法の時間が解けますね…」
そんなことを寂しそうにクロエが言うから
「楽しかったのか?」
聞くと、どこか切なげな瞳で頷かれた
「そんなパーティー好きとは知らなかった…」
「違います、貴方とこんな時間を過ごすのが、楽しかった…」
「いつも一緒に居るだろう?」
そう答えると、そうなんですけどね…と、諦めたようにため息をつくから
「シラーとの約束があるから、そうそうは無理だが、体が空いてれば私だとバレなければ問題ないんじゃないか?」
そう言うと、先ほどのような甘い表情で笑う
「だが、あんなに甘やかさなくていいから」
そう言うと、クスクスと笑いながら、はいとクロエは答えた
「遅い」
クライスの指定した部屋に入った途端、これ以上ないほど不機嫌な顔をしたシラーが既に居た。
「遅いか? 時計は見ていたから時刻は丁度だと思うんだが?」
「うるさい、何が目的だか忘れてるんじゃないだろうな?」
「シラー?」
普段から口うるさくはあるけれど、こんなふうに刺々しくそんなことを云うのが不思議で声をかける。
と、同時にカチャリと音がしてドアが空いて
「あ、皆来てるね、じゃ行こうか……って、どうかしたの?」
私達が入ってきたドアの逆にあるドアが空いてクライスが顔を出す、部屋に流れる雰囲気に眉を潜めて居る
「何でもない、行くぞ」
シラーがそう言ってさっさと部屋を出るから、思わずクロエを見たら、ちょっと困ったような顔をして
「行きましょう」
背中を押された。
そのまま長い廊下を通って、更に階段を上がる
「納屋って言ってなかったか?」
「うん、そうなんだけどね、彼の荷物って凄く少なくて、一つの箱に収まる程度だったんだ、ただ、あんな研究してた人だしちょっと納屋は無用心かなって僕のフロアに移しておいた」
そう言いながら階段を登り、すぐの扉を開くと広いスペースとそこに置かれた、男二人なら持てそうな位のサイズの箱。
「見ていいのか?」
と聞くと頷かれて、シラーがつかつかと歩み寄り箱を開ける
取り敢えずは中の物を全て出して一通り並べる作業をして…
「アイシャ、申し訳ないですが…」
予定通り、私物の点検にルーニアと変わる為、クロエは私に手のひらをかざし
私は意識を手放した。
異世界の話だと単語の使い方に毎回迷います…
ちょこちょこおかしいところがあるのは判ってはいるのですが…
精進します。