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御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第九章 春、なのに

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第七話 バレンタインデー②

 翔也と結仁は、施設にいた頃から将来一緒になろうと約束していた。施設を出て二人きりの生活を始め、やがて結仁の妊娠がわかった。


「あいつ、バイクなんか乗っとったらあかんやろ」


「今日は走り納めやって。もう乗らんで売りに行くって言うとったわ」


「そっかあ、翔也もとうとう父親(おとん)かあ。ほんなら、こんなこと頼むんやなかった、ごめん。もう帰ってええで」


「何言うとるんや。おまえと俺の仲やないか。今さら水臭いぜ」


「いやあ、おまえはもう施設出て新しい生活築き始めとる。仕事も理解ある人んとこ勤められて、結仁と順調やないか。もう昔の俺らとは違うんや」


「おまえかて同じやないか。今じゃ県高行って、お袋さんや兄貴とうまくいってるんやろ?高校で彼女できた言うてたやないか」


「それとこれとは話が別やろ。それよか、今日はいつもとは違うんや。やっぱ、おまえには危ない真似させられん。っていうか、俺、どうかしとったわ。大事な友達、こんなことに巻き込むなんて」


「何言うとるんや。もうすぐ、みんな集まるで。商業行った連中がシマにしとる工場跡に、最近工業の連中が来るんやって。そいつら東豊のガキや言うとった。多分、そいつらちゃうかって、ヤー公ついとるでブイブイうるさいらしいわ」


 ぶつかる気満々の翔也を前に、浩徳はいつになく慎重だった。

 浩徳はしつこいくらい繰り返した。


「今夜はケンカ無しやで。女の子助けたら、すぐ帰ってくれんか」


「なんかあるんか?」


「ああ、警察来る予定やで」


「そういうことか、わかった。みんなにおまえから言うたって」


 翔也は少し不思議に思って聞き返し、それから思わず笑った。

子供ができたと知って、浩徳が自分を心配してくれている。それが素直に嬉しかった。


「わかった、わかった。さあ行こうぜ。みんな集まってきよる」


 川沿いの緑地帯にある駐車場に、堤防沿いの道を通ってゾロゾロとバイクが集まってきた。皆、浩徳の中学時代のツレだった。


「ウーッス! 柏木ィ! 元気やったか」


「チーッス! ヒロッ!」


 皆、バイクを停めると浩徳に近寄って、挨拶しながら腹に一発ずつ拳を入れていく。彼らなりの仲間内の熱い挨拶だった。


「今夜やけど、ワザワザありがとう!」


「何言うとるんや。こっちこそ、そのうちシメたろう思うとったんや」


「翔也、連絡ありがとうな。なんやガキできたんやってなあ。おめでとう!」


「パパさんよう、こんなとこでケンカやっとる場合ちゃうんやないか」


「ほんまやで。俺たちが久しぶりに集まれたんも翔也のおかげや。今夜は翔也のケンカ納めやな」


「それなんやけど、みんな!今夜は女の子助けたら、すぐ帰ってほしいんや。警察来ることなっとるで」


「上等や! シバき倒してからやったら帰ったるわ!」


 浩徳は目の前で掌に拳を打ちつけると、パシンッ! といい音を立てた。


「今夜は帰れ。ヤバいんや」


「おい、ヒロがこう言うとるんや。今夜はぶつかり合いはナシや、ええな!!」


 翔也が全員に聞こえるように言った。


「倉庫や工場あるんは隣(こっち)県(がわ)や。ヒロの兄貴が警察におるやろ、忘れたらあかんで」


「わかっとる、わかっとる!」


 数人ずつで、別れて探しに行くことになった。

 案外と早く、目的の連中と、連れてこられた佑実は見つかった。


 空き家になった工場跡から、数人の男子の声と、そこに命令口調の女子の声が混じって聞こえてきた。

 そこへ浩徳を先頭に五人が殴り込んで行った。


 相手は七、八人。そのうち、二人ほどは年上に見え、刃物を持っていた。


「ヒカリモン持っとるで!」


「そんなもん、怖くて、番なんか張れるか!!」


 浩徳が相手の手首を思い切り、下から蹴り上げた。ナイフが出入口の方へ飛んでいく。仲間の一人が蹴って外へ飛ばす。

 翔也がすかさず、ナイフを奪われた相手めがけてカウンターを繰り出す。


「狂犬、復活やなあ!!」


 すぐ近くにいた仲間が茶化す。そこへ、他所を探しに行っていた仲間たちも戻ってきた。


 連れてこられた佑実を縛り、蹴り飛ばしていた香里は、後ろから髪を思い切り引っ張られ引きずり倒された。


「ヒロ、女の子助けたで!」


 翔也が仲間から、まだ縄を解かれていない佑実を託された。腹押さえ、痛そうに歩く佑実を浩徳の元へ連れてくる。


「よしっ! 引くで!!」


 浩徳の合図で全員が一旦引いた。そのまま仲間たちに後を任せ、浩徳は佑実を連れてその場を離れた。


 浩徳は縄を切った佑実を連れ、突入前に由良姫たちと連絡を取り合った場所まで走った。佑実は恐々「誰?」と聞いた。


「正義の味方、生徒会長でっす!」


 月明かりの下で顔を見れば、安心したのか、佑実は足がもつれ倒れそうになった。そこへ由良姫と宇羅彦がやってきた。



「ゆんゆ! もう大丈夫やから」


「ゆ、勇人が……!」


 佑実は工場の方を指差し、切れた唇でやっとの思いでその名を口にした。


「勇人が代わりに殴られて、まだ工場にいるの」


「大丈夫や、俺たちが行くで。田中は車で待っとって」


 由良姫と宇羅彦が猛ダッシュで工場へ向かって走っていく。浩徳も後を追って走ったが、嘘だろうと思うほど二人の足は速かった。


 三人で工場跡へ戻ると、中では一緒に助けに入った仲間たちが相手と乱闘になっていた。


「やめろって言ったのにっ!!」


 浩徳はケンカの真ん中へ走り込んで行く。


「翔也あーっ!! どこや!? 引けって言ったやろがっ!!」


 全員頭に血が上っている上、大声が倉庫内に反響して浩徳の止める声さえ聞こえない。


 そんな中、香里はボコボコにされた勇人を助けに行き拒否られていた。

 その瞬間、香里の中で何かが切れた。金切り声のような叫びが上がった。


その声を聞いた由良姫は、フラッとしてしゃがみこんでしまった。


「なんで? まだケガレにもなっとらんのに……」


 由良姫は、自分の中を血が逆流するような、激しいゆらぎを感じていた。


「宇羅彦!! 奥や、女子の足元に倒れとる男子がおる!!」


 倒れそうになる由良姫をかばいながら、浩徳が宇羅彦に助けに行くよう言った。

 由良姫は浩徳の手を振りほどき、乱闘を指差し必死に叫んだ。


「ヒロくん、友だち、逃さんと、もうすぐ……! モドキがっ!」


 由良姫の言葉を聞いた途端、浩徳は由良姫を置いて乱闘へ突っ込んでいった。


「やめろーっ!! やめるんやっ!!」


 殴り合うのをやめさせようとするのが、いかに難しいか。頭に血が上った彼らには、もう目の前の相手しか見えていなかった。


「翔也!! どこや!! みんな、引くんや!! やめろっ!! やめてくれえーっっ!!」


 香里の元から倒れた勇人を担いで連れてきた宇羅彦の背後に、一気にモドキが降ってきた。

 

 香里が何かを叫んでいるがよくわからない。金切り声が、倉庫中に響き渡っていた。


 それを合図のように、乱闘していた相手からもモドキが大量に放出された。乱闘していた仲間たちまで、そこへ巻き込まれていく。

 モドキに一気に集られて、仲間たちは身動きできなくなっていた。


 浩徳は動けなくなった仲間を一人ずつ引きずり出した。宇羅彦も同じように、二人、三人と外へ運んでいく。


「なんやあれは……」


 仲間たちは腰が抜けたように、モドキが飛び交い、大きな塊になっていく。


「翔也は!?」


 誰かが、翔也がいないことに気づいた。


 瞬間、浩徳が叫んだ。


「翔也っ!! 翔也ぁーっっ!!」


 浩徳は無我夢中で、モドキの塊の中へ突っ込んでいった。


 時すでに遅く、翔也は気枯れを起こしていた。


 それでも連れて行こうとする浩徳に、翔也が「ごめん」と言ったように聞こえた。


 宇羅彦が、モドキに呑まれかけていた浩徳を強引に引き剥がした。


 宇羅彦が祓おうとすると、浩徳は絶叫した。


「やめてくれぇぇえええーっっ!!!」


 宇羅彦の祓いの光が、翔也ごとケガレを呑み込んだ。


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