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御子母の惑星─みこものほし─第二部 改訂版  作者: 宮生さん太
第九章 春、なのに

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第二話 東高一年井上香里

 きっかけは、年賀状だったろう。

 しかし、付き合うに至るには、小さな《いいね》の積み重ねが、お互いにあった。


 そんな積み重ねもなく、ただただ一方的に思いを募らせ、したことといえば陰で恋敵をイジメただけ。

 その差は歴然だった。


 冬休み明けのある日、勇人は学校へ手編みのマフラーをしてきた。

 妹がクリスマスプレゼントにと編んでくれたものだったが、完成が少し遅くなったのだ。

 クラスの友達の男子にからかわれながらも、勇人は多くを語らなかった。


 ダンス部をやめた時も、本当は倒れた父親を手伝うためだったが、話すほどのことではないと、『ザ・祭り』が終わったからとだけ伝えていた。


 ある日、井上香里は駅前のショッピングモールで、一緒に買い物をする佑実と勇人を見た。


 二人は男物と女物の手袋を選んでいた。ちょうど今ぐらいの時期にピッタリの、厚手のもの。

 香里は、二人がお揃いで手袋を買っていると思い込んだ。


「佑実ちゃん、選ぶの手伝ってくれてありがとう。これでやっと両親にプレゼント渡せるよ」


「うん、よかった! いざってなると迷うよね。今年もあんまり積もらんといいね、雪」


 二人は喋りながらパン屋まで歩いていった。佑実は母親に頼まれた食パンを買って帰った。

 ついお喋りに夢中になり、佑実はショッピングモールの駐輪場に自転車を置いてきてしまっていた。


 取りに行き、乗って帰ろうとすると、見知らぬ女子数人に取り囲まれた。


「ちょっと、用事あるんだけど、一緒に来て」


 香里が東高で仲良くなった、元ダンス部のちょっとヤンキーな女子たちだった。


 佑実は、彼女たちのことを覚えていた。

 なぜなら、夏休みということもあって髪を染めパーマをかけ、『ザ・祭り』用にしては派手な女子のグループだったからだ。


「用事があるなら、ここで済ませてくれる」


 佑実はこういう女子たちが嫌いだった。一人では何もできず、何かというと徒党を組むタイプ。


「こっちに来いっつってんだろーがよっ!!」


 その中の一人が、前カゴに入っていたパンの袋を通路に叩きつけた。


「何するん!?」


 笑いながら女子たちはパンを踏みつけた。その中に、香里もいた。


「ちょっと、やめてよ! 一生懸命作ってる人のこと、考えなさいよ!」


 自転車置場に人は来ても、誰も止めに入ろうとはしなかった。


「おい、おまえら何しとるんや」


 男の声に、一瞬女子たちが驚いて振り返る。佑実を取り巻く輪が解ける。

 そこにいたのは、パン作りの作業着に着替え、踏みつけられたパンの袋を持った勇人だった。


「誰や、せっかく買(こ)うてくれたパン踏みつけたんは」


 女子たちは勇人が同じ高校の男子だとわかると、悪態をつきながらも去っていった。


「大丈夫か?」


 佑実は頷きながら、勇人に謝っていた。


「何を謝るん?」


「だって、一生懸命作ったパンが……」


「それより、ケガとかないか? 自転車貸して、俺持ってくわ。悪いけど、このパン持っとって」


 佑実は黙って頷くと、踏みつけられたパンを持って勇人の後について歩いていった。

 パン屋に着くと、勇人は大きなビニール袋を持って外へ出てきた。そこへ踏まれたパンを入れるよう佑実に言った。


 何があったのかと、勇人の父親が工房から出てきた。


「何もないで。大丈夫、大丈夫」


 勇人の母親は棚から食パンを取ると袋に詰め、おまけにメロンパンやクッキーを入れてくれた。


「俺、ちょっと送ってくる」


 ダウンジャケットを作業着の上に羽織ると、勇人は母親の自転車を借り、佑実と並んで走り出した。


 佑実の家まで来ると、勇人はパンを渡しながら言った。


「もう二度と、こんなことならんようにする。怖い思いさせてごめん」


「ううん、大丈夫。気にしんでええよ。うち、こんなことくらいなんとも思わんし」


 佑実は、にっこり笑ってガッツポーズをとると「頑張って!」と勇人を見送った。


 翌日の月曜日、勇人は踏みつけられたパンを学校へ持っていった。

 香里の姿を見つけると、目の前まで行き、それをビニール袋ごと投げつけた。


 なんだなんだ!? と人垣ができる。勇人は香里へ怒鳴りつけた。


「おまえ、いい加減にしろよな!! どんだけ俺のこと嫌いなんか知らんけど、中学ン時からずっと、俺が付き合う女子みんなイジメて回って!! そんなに嫌がらせして楽しいかよ!!」


 勇人は踏みつけられたパンを、香里に押しつけた。


「俺が一生懸命作ってるパンまでこんなにしやがって!!」


 周りからは、香里を見ながらヒソヒソと声が上がる。


「なんだコレ、ひどいな、マジか」

「親父倒れて手伝っとるんやろ」

「中学から? うわ、キモ……」

「井上さんって、こじらせ女子?」

「サイテー! 怖すぎるんですけど」


 この日を境に、今度は香里が静かなイジメの対象となった。クラスからもハブられたのだ。

 その噂を聞いた、香里と一緒に佑実をイジメた女子たちまで、香里から離れていった。


 しばらくして、学校から井上香里の姿が消えていた。


 その頃、佑実は学校で昨日の出来事をきゃやんたちに話していた。

 ケガはないと言っていたものの、つかまれた手首には爪の跡が残っていて、それを見つけられたのだ。


「ええーっ!! マジでっ!?」


「東高、ヤバい子いてるんや。そういえば、ダンス部にいたいた。そんなん」


 その話は、お昼の弁当タイムに何気なく宇羅彦の耳にも入った。

 もちろん、話は由良姫に伝わり、そこから浩徳の耳に入る。


「東高? 女やろ? 女子はよう知らんけど。東豊の男子やったら、女子とツルんどった連中は覚えとる。根性ないくせに根性悪で。今は県境の工業か商業か行って、天中からのヤツらにシメられとるんとちゃうか?」


「ヒロくん、昔の話する時、ほんま悪い顔になる」


「どこがや! 俺は足洗っとるんや。聞く方が悪い」


「ヤっちゃんみたい。完全(マジ)、輩(やから)やん」


「その辺の半グレと一緒にしんといて」


「チワワのくせに」


「豆柴です」


 由良姫と浩徳の会話を聞いていた、ツヤさんが笑いながら言った。


「犬も食わない、何とやらだね」


 しばらくの間、佑実はきゃやんたちからの申し出もあって、学校の帰りはみんなと一緒に帰ることにした。


 一月も後半になると、女子たちの話題は一年の一大イベント、バレンタイン一色になる。


 チョコをどうするか、チョコだけじゃなく何をプレゼントするか。もちろん、誰に渡すか。

 そして、男子にとってもバレンタインデーは、義理でもいいからチョコが欲しい過酷なイベントだった。


 きゃやんこと渡瀬(わたらせ)光代は、由良姫にこっそり相談し、とても重要な情報をゲットした。


 二月十四日は、宇羅彦の誕生日だった。由良姫もそうである。


「バレンタインデーが誕生日なん? 絶対、間違えんやん」


「せやろ? きゃやん、ガンバ! ウーちゃん、チョコは食べるで」


「誕生日やったら、他にもなんかプレゼントしたいんやけど」


「そうそう、誕生日来たらバイクの免許取りに行くん。これは激アツの内緒の情報」


「バイク!? 」


「ナイショな!」


 由良姫と宇羅彦は、学校では普段通りに日常を過ごし、夜間や週末にはケガレ祓いに出かける生活を続けていた。

 そんな中、宇宙依からいつもとは違うシチュエーションで、高グレードのケガレ発生予測が告げられた。


 県境の川向うの廃工場跡か廃倉庫かで、グレードB。

 予測日時は二月十四日午後八時頃。


 おそらく、バレンタインがらみだろうとは思われたが、場所が場所だった。

 ここはドロップアウト組の溜まり場と言われていた。


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