続・職業斡旋の間
フリーの敵はこちらに一直線だが、どうも護衛の血が騒ぐのだろうか。乙姫が悲鳴を上げる度に、魚人の片割れは気もそぞろな様子を見せている。
その隙を逃さず、こちらは短槍で攻撃を仕掛けるのみ。何しろ相手の方が格上である、しかも数の優位は向こうにあるのだから舐めプなど出来ない。
ファーよ頑張れと、心の中で声援を贈りながらこちらはひたすら殴り掛かる。まずはSP貯めにと、チマチマと相手のHPを削って行く。
それにしても、相手の魚人は両者とも良い装備を着込んでいる。当たり所が悪いと、こちらの攻撃はダメージがほぼゼロと言う悲しさ。
逆に向こうの槍だと、掠っただけであわや2桁ダメージだと言うのに。そして土壁は案の定、思いの外早くその使命を全うしたっぽい。
駆け付ける増援に、今度は《Dタッチ》の目潰し退場を願いつつ。これも効果あり、魔法耐性は案外高くない連中なのかも。
そんなこんなで、数の不利はあるけど徐々にこちらのペースになって来た。などと思った瞬間、マッチョ魚人の特殊技が炸裂した。
まずは《力水》と言う名の、魔法系ハイパー化のエフェクトはちょっと不気味かも。いや待て、これ以上攻撃力を上げられたら不味いんですけど。
それに呼応して、目潰しを喰らっている魚人が《破水の陣》と言う地面から水を呼ぶ技を使用。なるほど、相手に適応力が無ければ、移動能力を奪う良い策ではある。
俺には『水中適正』があるから、全く関係無いけどね。
それでも相手は水を得た魚のように、生き生きして来た感は否めない。能力に関しても向こうが上なのに、これじゃあジリ貧に陥ってしまいそう。
目潰しや足止め系の魔法も、何度も同じのを掛けていると相手に耐性が出来てしまう。そうこうしてる間に、案の定魚人の片割れが復活して来た。
これは不味い事態だ、何とか数の不利だけでもチャラにしたいんだけどなぁ……そうだ、思い付いた! ってか思い出した、それ系のアイテム持ってたよ!
以前の冒険で獲得したお助けアイテム、幾つかベルトのポーチに入れていたんだっけ。水系の奴も確か入ってた筈、使うのは実は初めてだけど。
さっき入手した奴とか、海賊の洞窟でゲットしたのとか種類も豊富だ。持っているままでは勿体無いもんね……よし、さっそく使ってみようか。
まずは《フラッシュ》で時間稼ぎ、そしてポーチの呼び鈴を取り出してと。この形からして、鈴を鳴らせば使用条件を満たすでいいのかな?
そんな訳で『海豚の呼び鈴』を使用、チリンと音が鳴った途端に意外と大きな影が出現。うん、確かにイルカだな……色は何故かピンクだけど。
問題はその強さだけど、何とか魚人を1匹引き受けて貰いたい。希望としては5分程度、そしたらこっちもその間に片割れとの戦闘に集中出来る。
そんな感じでの、局地戦の第2ラウンドがスタートの運びに。召喚されたピンク海豚だが、実際にはそれほど強くは無い感じを受ける。
それでも体力はそこそこあるらしく、マッチョ魚人の攻撃にも怯む様子は見せない。こちらもほとんど削れていない相手に、短槍で反撃を開始する。
ハイパー化した相手にすこぶる形勢は良くないが、とにかく今は我慢の時だ。ってか、こちらももっと強化しないと全然互角に持ち込めない。
仕方ないので、再びベルトのポーチの確認作業。時間稼ぎに水の水晶玉を2発投げ込んで、魚人達に嫌がらせのダメージと足止めを行ないつつ。
おっと、そう言えば効果だけは凄い、炎の神酒と闇の秘酒が1本ずつポーチに入っているな。これらは酔っ払うから、封印一歩手前に指定してたよ。
どうせ長期戦になるとこちらの負けだ、ここはお酒パワーに頼ってしまおうか。そんな訳で、まずは闇の秘酒を初使用してみる事に。
こいつの効果は、確かSPの溜まりが早くなるだったっけ? ってか、飲んだ途端に満タンになってる俺のSP、凄いなさすが秘酒!
すかさずこれも、初使用の《四段突き》を目の前の魚人に見舞ってやる。堪らず後退するマッチョ魚人、追いかけるように《落とし突き》での追撃が炸裂する。
さすがにこれは効果があった様子、護衛魚人のHPが初めて目に見える程減って行った。よしよし、この調子で順次畳み掛けてやる!
幸い、SPはまだ半分以上残っていて、しかも今現在もグングンと上昇中と言う。凄い効果だな、さすが神様のお酒系の威力は半端無い。
まぁその分、反動も目に見えて酷いんだけどね。そう、だから短期決戦を自分に課して戦闘に挑んでいるのだ。そして相手もタフ過ぎな前衛職、まだピンピンしてる。
その証拠に、こちらの怒涛の攻撃を凌いだと思ったらすかさず反撃の素振り。そして《白垂飛泉槍》と言う水系の特殊技が飛んで来て、俺は逆に吹き飛ばされる破目に。
長槍の貫通攻撃に加えて、流れ落ちる水圧と言う怒涛の威力の二重奏。こちらの体力はあっという間に半減以下、何と言うか吹き飛ばされて逆にラッキーだった。
今追撃を喰らったら、マジで何も出来ずに倒されてしまってたよ。しかしそれを防いだのは、相手の情け心でも躊躇でも何でも無かった。
乙姫が悲鳴を上げていて、どうやらファーが髪を引っ張って悪戯している様子。さすが護衛だ、その声にマッチョ魚人両者が反応して動きを止めている。
すかさずその間に、こちらは素早く態勢の整え直しを行なう。ポーションPに加え、水魔法の《Pヒール》の詠唱は長いが回復量は凄かった。
これが何とか通って一安心、そして都合の良い事に乙姫様が無茶に暴れてスッ転んでしまっていた。凄いぞ、ファー……ってか、相手はエリアボス仕様の筈では!?
良く分からないが、命の獲り合いとは違う闘いみたいである。
それはこちらにとって良い情報ではある、確定では無いのが少し怖いけど。そして護衛魚人達も、どうも向こうのキャットファイトに参戦もしくは仲裁に入れない様子。
本当に何なんだろうね、ただオロオロするマッチョはちょっと可愛いかも。いやいや、今はそんな事を言っている場合では全く無い。
この隙に、またもや鞄の中から役に立ちそうなアイテムを取り出す事に成功。今度はコレだ、酔っ払いの症状が出る前に猛襲あるのみ!
まずは削り役の追加だ、この際ケチってなどいられない。そんな訳で、この戦闘で2個目の呼び鈴『辰の仔の呼び鈴』を使用する事に。
その呼びかけに出て来たのは、割と獰猛そうなタツノオトシゴだった。ってか、その形状は馬に近い気もしてサイズ感も人より大きいかな。
顔は辰で水ヒレもあるが、身体は馬っぽい助っ人モンスターが俺の隣に出現した。そして物凄い鼻息を鳴らして、いきなりの突撃体勢。
これは便乗すべきかも、俺は思わず短槍を構えてその背に跨る構え。乗馬の経験などもちろん無いが、そこは短距離だし根性でしがみ付くのみ。
そしてその体当たりの衝撃は、さっきの敵の水系槍スキルに勝るとも劣らない勢いだった。思わず吹っ飛ばされたのは、俺もマッチョ魚人も同じだけど。
辰馬は尚も獰猛振りを見せ、転がった相手を蹄で踏んづけていた。その隙に立ち上がった俺は、ポーチから炎の神酒を取り出して一気飲み。
この機を逃したら後は無い、まずは駆け寄りながら膝立ちの相手に《落とし突き》を敢行。更にあり余るSPにかこつけて、《二段突き》から《四段突き》の連続スキル技をお見舞いする!
これはさすがに効いた様子で、どうと倒れ伏すマッチョ魚人。相変わらず炎の神酒のハイパー化は凄まじい、今までとは段違いのダメージを叩き出している。
しかしさすがマッチョ前衛職、まだ体力に余裕を残している。転回して再び突っ込んで行こうとしている辰馬の向こうでは、ピンク海豚が倒されてしまっていた。
なかなか一気呵成とはいかない、ってかコイツを倒してももう1匹いたんだっけ。むうっ、かなり辛いが最後まで諦めては駄目だ。
嫌がらせに雷の水晶玉での範囲ダメージ、そして辰馬の轢き逃げに乗じてこちらも再度の連続スキル技を見舞わせてやる。
向こうが2匹揃ったら、勝算は思い切り遠のいてしまう。そうなる前に、どうしても弱った魚人を倒し切ってしまいたい。
ところが事態は思わぬ方向へ……何と弱り切った片割れの魚人が、腰を落としたまま参ったの仕草を見せたのだ。
HPはまだ2割程度残っているのに、諦めが早過ぎない?
しかも近付いて来た魚人も、降参のポーズで仲間を攻撃しないでと哀願している。辰馬も何故か再チャージの途中で止まって、恐らくはこちらの判断待ちっぽい。
ふむっ、コイツを倒さないと経験値もドロップ報酬も貰えない。だけど戦闘を続けるって事は、酔っ払い状態でもう1匹のマッチョ魚人と戦う事を意味する。
それはちょっと不味いな、ってか助っ人がいても劣勢は否めないよね? そんな訳で、俺は了承の合図を送って武器を仕舞う構え。
こちらの戦闘解除に合わせて、勇ましいバトル音楽も止んでしまった。そして戻って来た辰馬は、俺の目の前で再び呼び鈴に戻って行った。
拾ってみると、『壊れた呼び鈴』と表示されたのでさすがにもう使えないっぽい。それは残念だな、かなり強い助っ人だったのに。
どこかで修理とか出来ないかな、後で琴音にでも訊いてみよう。向こうも戦闘の続行意思は無い様子で、武器を収めてお礼を言って来た。
それに加えて、アレを何とかしてくれと魚の瞳で意思表示をして来た。つまり彼らは、ファーと乙姫のじゃれ合いの終止符を希望らしい。
それに応じて俺が相棒の名を呼ぶと、素直に飛んで来るリトルレディ。
護衛魚人ズのホッとした安堵の空気は、恐らくは本物だったのだろう。何と言うか、気苦労を掛けてしまって申し訳無かったなと素直に思う。
とは言え、こちらも訳も分からず襲われたのだし、あいこだと思わなくもない。その迷惑料代わりなのか、それぞれにアイテムを差し出されてしまった。
弱った魚人からは『複合技:短槍・水《白垂飛泉槍》』と言うスキル技を貰えた。ってか複合スキル技って何だ、初めて目にして意味不明。
一応は、こちらの所持してる短槍に適ったスキルをくれたのは有り難い……ああっ、これはさっき俺が喰らって吹っ飛んだ技だな。
つまりこの技の威力は俺の保証付きだ、良いモノを貰った気がする。何だか激闘の後だけに友情が芽生えそう、それは冗談だけど。
そして元気な方の魚人は、俺に近付いて額に手をかざす仕草。
――おめでとうございます、称号『竜宮の遣い』を得ました!
あれれっ、これって乙姫様が必死にプレゼンして来てた職じゃないの? 称号で貰っても良いモノなのかな、それだと職で選ぶ旨みがまるでなくなるけど。
その辺はどうなのと訝しむ俺を、追いたてるように部屋から追い出す護衛魚人ズ。その様子から、やはり乙姫にバレたら不味いらしいと推測出来る。
何だかお互いに、パートナーの奇行には苦労してるよね? それはともかく、取り敢えずこの『職業斡旋の間』はクリアでいいのかな、良く分からないけど。
つまり、これで4つの部屋を回り切った事になる筈。
――乙姫の怒声が背後に響く……これこれファーさん、反応しない様に!




