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ミックスブラッドオンライン・リメイク  作者: 鳥井雫
始まりの森編

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鍛錬の間



 やっぱり時間ボーナスはあったようだ、こういう読みが当たると気分がいいね! 扉を出た途端にクリアボーナスの表示、そこそこ良いモノが貰えたみたい。

 半分は素材系なので、本当は良く分からないけど。とにかく報酬として、(クジラ)の髭×2と鯨の骨、金のメダル×3と『冒険者の心得:初級』が鞄の中に飛び込んで来た。


 素材系は色々と何だろうね、取り敢えずは貰っておくけど。この竜宮城のイベントで、かなり鞄の中身がすっきり出来たのが大きい。

 それから短槍の新調で、通常戦闘が以前より断然楽になった。ついでにアスレチックエリアの踏破、バーチャルゲームの醍醐味(だいごみ)も味わえたし面白かった。


 クリア報酬もそうだけど、エリア内でも貴重なアイテムをたくさん拾えたし。歓待の間に続いて、修練の間も充分に内容を楽しめたかな。

 そんな訳で地上に戻して欲し……あっ、やっぱり次の扉を選ばなきゃ駄目? とは言え、残されたのは『鍛錬の間』と『職業斡旋(あっせん)の間』の2つのみ。

 訳の分からないのは後回しで、それじゃあ鍛錬の間って事で。




 俺の読みだと、1個はガチバトルが入るんじゃないかなって思ってる。レア種と戦って勝利せよみたいな、単純明快で分かり易い部屋が1つはありそう。

 それがこの『鍛錬の間』じゃないのかなと思ったんだけど、予想はどうも外れっぽい。ここは六角形の造りの部屋で、入り口近くに小さな案内テーブルが。


 そこに鎮座しているのは、白髭の長寿亀(ちょうじゅがめ)だった。亀のサイズはとっても小型で、言ってみればA4原稿サイズ程度しかない有り様。

 だけどそのNPCは、否応にも関心を()くオーラを周囲に放っていた。何と言うか、小さい割には(あらが)えない存在感を漂わせている。


 ここの部屋の主なのは確実だろう、ってか部屋内には他の生き物の姿は全く無い。だからと言って、戦闘行為が無いとはまだ限らないけど。

 何と言うか……この部屋の不自然な広さと静けさが、かえって怪しいかも。こちらが油断なく構えていると、ようやく亀が口を開いてくれた。


「よく来たな、若いの……ここは鍛錬の間と(めい)打ってあるが、気分的には歓待の間と変わらぬ流れじゃて。そんなに緊張せんでも良い、ここはお主の欲望が何でも叶う間じゃ。

 何でも願うが良い、儂の手腕の許す限りお主の要望を形にして進ぜよう……最高の防具でも鞄に入り切らぬ富でも、忠実なるパートナーでも絶世のスキル技でも、はたまた絶倫のステータスでも唯一無二の魔法でも何でも構わぬぞ?

 ただし、この間の看板を汚さぬよう、少しばかり鍛錬はして貰うがの……?」


 驚いた、ようやく話が出来るNPCが出て来たよ! てっきり着ぐるみ達と同じ扱いと思ってたけど、さすがにこの存在感で話が通じないは無いか。

 まぁ鯨モドキも普通に話していたし、そんな驚く事でもないのかな? そしてその老亀の口にした内容の、まぁモノの見事に胡散臭(うさんくさ)い事!


 思わず鼻をつまんでしまいそうになる程だ、実際にやると怒られそうだけど。さて少し考えてみようか、この話と言うか提案の表と裏の部分を。

 まずはこの老亀仙の、実力は一体如何程(いかほど)だろうか? 例えば森の精霊のように、実際に望んだ事を実現出来るか否かが問題ではあるよね。


 うんっ、出来るのかも知れないな、ゲームのシステム的には可能な気がする。ただしそれをすると、ゲームバランスが思いっ切り崩れてしまうだろう。

 なので、何か提案と実行の間に(かせ)が入るのは想像の内だ。何となく、この亀モドキが最後にポロッと口にした、鍛錬の内容が気に掛かる。


 ひょっとして、こちらが相手の口車に乗って(らち)外の要求を返す程に、向こうの提示する鍛錬の度合いも酷くなる仕組みなのかも?

 いかにもありそう、欲深い奴は痛い目を見る的な。


「……どんな内容でもいいと言っても、上限はある訳でしょ? 例えば俺が100個の願いを叶えて欲しいって言ったら、それも可能なの?」

「もちろんじゃとも……もっとも願いは数でも良いし、強さでも良い。ただし具体的に言って貰わないと、儂の主観で決めさせて貰う事になるからの?」

「ふむふむ……ひょっとして数と強さで、鍛錬の内容も変わるとか?」

「ふぉっ、ふぉっ……お主、全くの阿呆(あほう)では無いようじゃな」


 やっぱりそうらしい、上げといて落とすとか(いや)らしい仕掛けだな! ここは下手に欲を掻かずに、無難にやり過ごすのが吉なのだろう。

 とは言え、アバターのリメイクをする機会と(とら)えれば、またと無い好機なのかも知れない。だからと言ってハイリスクは避けたいし、さてどうしたモノか。

 そうだ、それならこんな手は通用するのかな?


「それじゃあ、交換ってのも可能なのかな? こちらもステータスやスキルを犠牲にするから、別のモノを代わりに貰うってのは?」

「ふぬっ、お主……見掛けの割に若さが無いのぅ! 若い内はもっと強欲に、煩悩(ぼんのう)のままに欲しいモノを欲張らんか! お主の貧相な防具では、この先きっと苦労するぞ?

 どうじゃ、儂が最高の防具を見繕ってやっても良いぞ?

「その見返りに、俺は一体何をさせられるのかな? 例えばこの部屋の真ん中って、まるでバトルフィールドに見えないかな。

 それって、欲しけりゃ戦って勝ち取れってパターンでしょ?」

「ぐぬぬっ……まぁ、その通りじゃ……」


 あらら、あっさりと認めてしまわれました、(くや)しそうな表情の老亀仙さん。確かに欲にまみれた冒険者を引っ掛けて、慌てふためく姿を見ると言う悪趣味を見透かされた訳だが。

 だからって、そこまで急にヤル気を無くす事も無いじゃんかよっ!? こちらは交換の内容と回数を問われ、取り敢えずは安全マージンをとって4回と答える。


 すると長寿亀、前ヒレで案の定の部屋の中央を指し示した。そこへ進み出ろって事らしく、こちらの推測は完全に大当たりである。

 つまりは、この戦闘で勝ってようやくのご褒美らしい。


 さてさて、敵の種類と強さはどんなかな……何だ、小型の亀が1匹だけとか超余裕じゃ無いですか。ここは短槍よりも、ハンマーの出番かな。

 ってか、ほんの2回殴れば小型の亀モンスターは敢え無くぺっしゃんこ。酷いな俺、まぁ敵の行く末なんて気にしても仕方ないけど。


 続いて出て来た2匹目の亀型の敵だが、1匹目のよりもう少しだけ大きかった。そして恐らく、もうちょっとだけ強かったのだろう。

 こちらも一方的な戦闘で、何と言うか張り合いもない感じでこちらの勝利。ようやく手応えを感じたのは、4匹目の跳び箱2段サイズの亀からだった。


 時既に遅しな感じで、こちらの(きょう)が乗り始めた時には敵は同じく丸潰れ。粒子と化して戦闘終了、思わず顔を見合わせる俺と老亀仙だったり。

 しまったな、忠告通りにもう少し欲を()いても良かったかも?



「……このままじゃ、儂も面目丸潰れじゃわい! 仕方が無い、追加のこの敵を見事倒せばお主の願いにオマケを追加させてやっても良いぞ?

 負けたらペナルティで、願いは半分じゃ!」

「はあっ、それは余りにも後出しじゃんけんじゃん!」


 などと、俺の真っ当な批判は、向こうに相手にして貰えずの悲しい結果に。ちょっと、勝手に途中でルール変更とかズルくないっ!?

 全く勝手なご老人である、いやまぁ亀NPCだけど……しかし号令と共に出現した新たな敵、ソイツもやっぱりさっきと同じく亀だった。


 ただし顔付きがやけに厳つくて、肉食系で獰猛(どうもう)そうはあるけどね。しかもサイズは、いきなり3倍近くて俺より大きくて見た目からして手強そう。

 例えるならコタツどころか、雪で作った1人用のかまくらサイズ。ちなみに、そいつの甲羅は思い切り堅そうで棍棒で殴る気にもならない。


 取り敢えずは、さっきは手抜いてた強化魔法を掛けて挑むべきだな。魔法で付与された分は、甲羅に当たってもダメージにはなってくれる筈。

 いや別に、狙って甲羅を叩きたい訳では無いんだけどね?


 俺だって()き出しの顔部分を攻撃したいのだが、意外と素早く引っ込んで行く厭らしさ満載の防御。亀を飼った事のある人なら、恐らく知っているだろう。

 奴らは意外と素早いのだ……瞬間的な噛み付きとか、移動の際だって早い時がある。カミツキガメなんて種類もいるし、意外と獰猛さも兼ね備えている。


 そんな訳で、手古摺(てこず)るかなとも思ったが、闇魔法の《バグ(ボール)》の効きが凄く良い。向こうの攻撃は、噛み付きと体当たりがメイン。

 それから、水系の《ブレス》が魔法攻撃で割と強烈だった。ついでに難なくやっつけた、4匹目と体力の差が3倍以上あったモノの。


 こちらが右回りで、コツコツと周囲を廻り込みながらの攻撃にシフトしてやると。どうやら向こうは、その動きについて来れなくなった様子。

 結果、時間は割と掛かったけど敢え無くご臨終へと持ち込めてまずは一安心。こちらの得意の闇魔法と、それから雷魔法の《スパーク》がかなり効果的だった。




 そんな感じで何とか無事に戦闘終了、そして俺の勝ちっぷりに満更でもなさそうな老亀仙。何故かご機嫌そうで、お褒めの言葉まで頂いちゃった。

 ところが報酬の交渉に入ると俄然勢い付いて、こちらを丸め込もうとする海千山千の老獪(ろうかい)振り。こちらの構想なんて聞いちゃいない、向こうの趣味の方が優先って。

 いやまぁ、俺も確たる理想の戦士像なんて持ってないんだけどね?


「そうさな、最初は軽くステータスでも(いじ)ろうか……ふむぅ、お主は人間ベースだと言うのに、妙に数値が(かたよ)っておるなぁ。

 なるほど、最大種族ミックスの弊害か……」

「いや別にステータスは、特に不満など無いんですけど……」

「よしっ、それならば最低値の魅力を幾らか差し出すが良い! その分、他のステータスを上げてやろうじゃないか!」


 聞いちゃいない、何だその半分罰ゲームはっ!? 魅力と幸運値はなかなか上がらないってのに、それを削れとかどうかしてるぜ!

 えっ、これはサービスで回数には入らないって? う~ん、魅力値が8⇒7に減っても、そんなに変わらないか……いざとなれば、魅力の減るマントを交換すればいいんだし。


 よしっ、それじゃその方向で……えっ、交換は2Pからってどんな後付けルール!? 酷いな、強引にステータスを弄られてしまった。

 まぁいいや、幸運値とか素で20の大台に乗っちゃってるよ! 他も軒並み40前後にアップ、まぁ知力と精神は30手前だけどね。

 少なくともアバター強化にはなったね、そう思う事にしよう。





 ――ってか、そう思わないとやっていけないよ。








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