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ミックスブラッドオンライン・リメイク  作者: 鳥井雫
始まりの森編

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ログイン8日目



 なにぃ、ログインボーナスが無いだとっ……!? てな感想から始まった『ミクブラ』ことミックスブラッドオンライン、限定サーバ8日目のログインである。

 何やら世間では(世間と言うもおこがましい、実は一部のスレ板だけらしいね?)限定イベントの、サーバが増えると騒いでいるみたいだ。


 だが俺には関係ない、ってか俺とクライフ師匠と相棒のファーには意味のない話。今日も黙々と、自分に課された(おのれ)の試練に挑むのみ。

 てな訳で、ログインボーナスは1週間の限定だったみたい。別に良いケドね、でも装備の修繕だけは受けておきたい……後で安全地帯に寄る暇あるかな?


 それだけが心配、そしてファー母さんは、今日も幸せそうに自分より大きな卵を温め中。俺のログアウト中も、ずっとそうだったのかねぇ?

 その努力が、ちゃんと報われるかは神のみぞ知る。


 そして俺はと言えば、今日も師匠に付いて貰って弓矢の稽古に励んでいる。いつもの小さな庭先での修練、こんなに熱中したのはいつ以来だろう。

 中学の部活動でも、こんなに熱心に打ち込んで無かったかも。何せ人の時間を奪って見て貰っているのだ、その教えを無下(むげ)には出来ない。


 そんな思いで熱中しながら挑む訓練、その前に昨日の顛末を少し語っておこうか。あの後俺たちはゴンドラに乗って、水中神殿から無事に外に出られた。

 そこまでは良いのだが、湖の真ん中に浮かぶ島にファーが行こうと言い出して。どうも水の(ほこら)に用があるらしい、さっきちゃんとお参りしたと言うのにね?


 もう一度が必要らしいので、ファーと一緒に手を合わせた所。水中神殿でゲットした、冒険スキル『水中適正』を何故かラーニング出来た。

 精霊ラマウカーンの妹さんが、わざわざご教授してくれたと言う認識でいいのかな? とにかく有り難いので、丁寧にお礼を言った次第。


 冒険スキルも武器や補正スキルと一緒で、探索内容を見越してスロットを交換出来るらしい。なので、覚えられる時に覚えた方が断然お得なのは間違いない。

 最後に良いプレゼントを貰えた、本当に感謝しかないよね。



 それとは全く別に、限定サーバにある騒動が持ち上がっていた。現状は日本サーバ1つで稼働していたこの賞金イベント、急きょ1⇒15サーバに増えるらしい。

 琴音が何か騒いでいたが、ネット内でもその喧騒は同様に起きているらしく。とにかく参加している冒険者達に、少なくない衝撃を与えている最中なのだとか。


 俺に関しては、さっきも言ったが本当に余所(よそ)事でしかない。ライバルが増えるとか言っても、そもそも本気で賞金をゲット出来るとも思ってないし。

 外人さんが加わるらしいが、狩猟民族にこのバーチャル世界は合っているのかどうか。そこら辺の適性について、ちょっぴり気になる程度かな。


 何しろ俺は、あちこちから“冒険者適正”について言及されてる身だから。外人さんとバーチャル世界で交流ってのも、考えてみればオツなのかもね?

 琴音に関しては始終、この仕様変更にプリプリ怒ってたけど。まぁ、幼馴染のこんな態度は、いつもの事なので俺は軽く受け流すのであった。


 それより時期的に、この森もそろそろ卒業が迫っている。たくさんの人が闊歩(かっぽ)する冒険者の街も、入り口が見えて来たかなって感じ。

 不安もあるが、琴音たちと合流出来る楽しみも大きい。


 考えてみれば、俺はゲーム内で他のプレーヤーと交流した事が一度も無いぞ? まぁ、NPCとはあるけど……そして皆が揃って、濃い性格だったけど。

 ゲームを初めて1週間も経ってるって言うのに、何か変な感じだ。VRMMOらしからぬ事態ではあるかな、まぁそれだけこの限定イベントが特殊なのかも。


 とにかくあと少し、師匠の元で研鑽(けんさん)を積みたいと思う所存。弓矢スキルもそうだけど、実は木工の技術も教えて貰いたいと願っている。

 そのお願いを切り出すタイミングを、クエ依頼の報告時にしようかなぁと。それは今は関係の無い話、何せ余計な事を考えている余裕が無い。


 何しろ弓矢の特訓も、日を追うごとに難易度が上がっているのだ。今日も後半は、師匠に新しい課題を出されててんてこ舞いな状態である。

 ちなみに前半は、昨日の復習を言い渡されて予習をこなしていた。つまりは立ち膝の構えで、(まと)に向けて二連射をひたすらこなしていた次第。


 そして訓練の後半に待ち構えていたのは、左右に揺れ動く的と言う難易度の高いモノ。いやいや、確かに実践的ではあるんだけどね……訓練の日にちも、そんなに長く取れない訳だし。

 どんどん実戦形式になって行くのは、当然と言われればその通り。最初は戸惑って動く的を目で追ってたけど、今は段々と慣れて来た。


 コツを押さえれば、最適なポイントで弦を離すだけだと判明した。それで的に何とか当たるようになると、今度は動く的に二連射を言い渡された。

 これがなかなかに難しい、最初の射撃はこちらの都合で撃てるけど二射目は感覚に頼るしか。その感覚を磨くための訓練なんだと、師匠の厳しいお達し。


 それにはひたすら、感覚を手に入れる為に数をこなすしか無い。その過程の修練で、的を外しまくる自分にもどかしさを感じてみたり。

 いやいや、本当に弓術って大変だ。




 そんな訓練もようやく終わって、さて今日はどこを探索しようかと言う話に。師匠は南の海辺の果実取りに行くのなら、ついでにハーピーから素材を取って来てくれと依頼の提示。

 願っても無い状況だが、まずはクリアした依頼の報告を先にやってしまおう。そんな訳で、ゴブリンを倒した数に応じて幾つか水晶玉を貰えた。


 それから肉や鳥の羽根を渡して、保存食や矢束を幾つかゲット。それから水の(ほこら)へのお供えクエは、報酬が豪華でこちらもビックリ。

 何と剣術指南書だ、お遣いクエには過ぎた報酬なんじゃ無かろうか?


 師匠はどうせ野盗から盗んだモノだから、遠慮せずに使ってくれとの(おっしゃ)りよう。それなら有り難く貰っておこうか、何にせよ嬉しい報酬には違いない。

 そして早速、両手棍に使ってスキル2Pアップ! 両手棍は昨日の冒険で、ドッペル君から新しい強力な武器スキルを分捕(ぶんど)っているからね。


 師匠が何より喜んだのは、クエ依頼の探し物の穀物の種を渡した時だった。半壊馬車からの拾いモノなので、こちらも恐縮してしまうけれど。

 喜んで貰えて何よりだ、ついでに手製の案山子(かかし)もプレゼント。


「ほおっ、これを畑に……そうしたら獣の類いが寄って来なくなるのかい?」

「案山子と言って、人間型のガーディアンですね。知恵の働く害獣だと、人が番をしていると勘違いして寄り付かなくなるんですよ」

「なるほどねぇ、これは良いモノを貰った……ありがとう、早速使わせて貰うよ」


 こちらも喜んで貰えて何より、お代に貰えたのは『南瓜の呼び鈴』と言う召喚用アイテムだった。そして肝心の木工の弟子入り交渉だが、これにはふむぅと難しい顔をされてしまった。

 それから思い付いたように、ああっと手をポンと叩く素振り。どうやら俺と師匠の間に、木工や骨工細工の交錯の概念に齟齬(そご)があったらしい。


「何だ、お前が言っているのはひょっとして魔石を使った合成の事かな? 確かにあれは、誰かに師事しないと修得は難しいかもな。

 ふむ、それじゃあハーピーの落とす素材を集めて来てくれたら、その報酬で教えるって事でいいかな?」

「おおっ、本当ですかっ……!? 凄い楽しみにしてます、まずは何を作ろうかな……矢の自作は必須(ひっす)ですよね、師匠?

 後は手甲も造りたいなぁ、素材は割とあるんだよなぁ」


 浮かれる俺を、ほのぼのとした温かい目で見ているクライフ師匠。師匠は実際若くは無いけど、髭を蓄えている割にはそんな老け顔では決して無い。

 師匠の狩りを一度だけ拝ませて貰った事があるけど、あれは最早(もはや)芸術の域だった。(ひそ)やかに気配を消して、森の中を移動も()ることながら。


 それからの、狙いを定めて必中の弓矢での遠隔攻撃は呆れて声も出ないレベル。たった一撃で、急所を射抜かれた雑魚ゴブリンは昇天と言う。

 俺も初期より強くなったけど、未だにゴブリン相手では4~5撃は殴らないといけない。ステータスの差なのか、いや多分武器スキルの(きわ)め度の違いなのだろう。


 そう思ったら、やっぱり1つの武器の精度を高めるのは正解だと思う。でもそれでは倒せない敵と出遭ってしまったら、呆気無く詰んでしまうのも確かだ。

 師匠に訊ねてみたところ、どっちも正解だよと笑って答えてくれた。



 ちなみに、師匠のもう1つの武器は知識と逃げ足だそうな。敵わない敵だと判断したら、身を潜めてそのままバックれるのだそう。

 もちろんその為には、敵より先に相手を発見する必要がある。弓矢はある意味、敵と正対しない卑怯な武器でもあると師匠は口にしていた。


 圧倒的優位な距離からの一方的な攻撃、その意義と正義を常に考えろとも言われてしまった。意義は分かるけど、正義って一体何だろう?

 正義の味方の出て来る番組は、確か子供の頃は良く見ていたっけ。そのテレビの中の矛盾点は、確かに幼い自分でも何となく気付いていた。


 何で大勢で1匹をボコるのとか、悪い奴らをある程度野放しなのは迷惑じゃないのとか。勧善懲悪(かんぜんちょうあく)など単なる大人の都合だ、そう気付いたのはもう少し年を取ってからだった。

 一方的に悪い存在ってのは、正義のヒーローに都合のいいテレビの中だけ。他は大抵グレーの色合い、都合の良し悪しで善悪の判断も傾いて行く。

 それを(かんが)みて、さて正義って一体何だろう?





 ――師匠の言葉に、ゲーム内と言えど深く考え込む俺であった。








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