神様候補の独り言
人生とは侭ならないモノだ、例え会社のトップに立とうと全てを掌握など到底無理。具体的に言えば、自分の会社でも利益を度外視した運営には下から待ったが掛かる。
当然と言えば当然だが、それではこちらの計画に大幅な遅れが生じてしまう。参ったな、こちらの『神になる疑似体験』には、そんなに大人数のサンプルは必要無いってのに。
ひょっとして、本物の神様も似たような悩みを抱えているのだろうか? だから大洪水を起こしたり、天変地異を画策したりするのかな?
とは言え、今や世界の先進国の人口は減少傾向にあったりするからねぇ。そんな何かがきっかけで、新しい時代が突然にやって来るとか?
それとも神様も、今や分業制で各パートが決まっているのかな? 興味深い推察だけど、自称神様候補の自分には、さすがに全パート受け持ちは荷が重過ぎる。
少人数で良いのだ、具体的に言えばたったの1サーバ程度が丁度良い。それを筐体の売れ行きが良いからって、一気に15倍にするって。
そんなに面倒見きれないよ、どうせほんの1年足らずの限定サーバなんだ。全く人生は侭ならないな、俺が欲しかったのは魅力的なサンプルだけだったのに。
実はデータ班からは、既にピックアップされた冒険者の名前が何名か上がって来ているのだ。その書類は既に手元にあって、さて話し掛けるタイミングはいつにしようかと窺っていたのだけれど。
水を差されるように、このタイミングでサーバ増設案が浮かんで来た次第。社長と言えど、新規ユーザー確保のビックビジネスに待ったは掛けられないと来ている。
本当に参ったな、社の意向には逆らえない社長って何だ? 人は儲けの為には、喜んで社畜になる特性でも生まれながらに持っているのかね?
そうなったら、もう話が通じそうもない。何しろ相手は獣だから……経済と言う牧草を喰って、ひたすら肥え太る家畜って認識は当たっていると思うがどうだろう。
そんな感じの皮肉の1つも言いたくなるさ、一体何て状況なんだろうね。これが所謂、“神が与えたまう”試練って奴なのかな?
そうか、神はやはり今の限定イベントの現状を楽しんでいるらしい……それなら降りて来てくれ、俺と問答をしようじゃないか!
自分ばかり楽しんでないで、計画があるなら俺も混ぜてくれ!
人の歴史を紐解くと、結構面白い情景があちこちで窺える。人は神の名の元に領土を広げ、戦争を繰り広げる……皮肉な生き物を造りたもうたな、神よ。
そして神の名の元に免罪符を貰い、己の犯した罪を悔い改めようとする。罪も罰も、もとはと言えば神の与えたもうたモノらしい。
試練も同じく、そんな訳で迷える羊の集団はただ迷走するのみ。神の与えたパズルは、人類を混迷に陥れていると来たもんだ。
ふむ、皮肉はひとまず置いといて、もう少し建設的な話をしようじゃないか。神様は多様だ……つまりは人類は大まかに2種類に分けられる、知ってたかい?
一神教を崇める人々と、多神教の存在する地域と。
神様なんて存在しないと、まぁそんな議論もあるのは知ってるけどさ。存在しないモノに名前をつけて、更にそれを否定するって奴はバカなのかな?
それともそんな言葉遊びをする程、よっぽど暇なのか……或いは人類ってのが、全ての上に君臨する超突き抜けた存在だと思いあがっているのかな?
そんな訳無いだろう、自然を破壊し仲間同士で殺し合い、長年にわたって己の首を真綿で締め続けている哀れな存在でしかないよ。
少なくとも私はそう思うな、霊長類の頂点なんて聞いて呆れる程にはね。
それはそうと、日本は多神教って言われているね。つまりは人間より突き抜けた存在が、この小国内に多数に存在すると信じられて来ている訳だ。
いいねぇ、素敵だ……しかも色んな分野で手分けされて、御利益を振り撒いてるってさ。家内安全や健康運、恋愛成就に安産祈願。
そこで私は思ったのさ、隙間産業的に自分もその仲間に参戦出来ないかなって。とても面白い案だろう、そうは思わないかい?
何ナニ、思い上がりも甚だしいって? まぁ確かにそうかも知れないね……だけど日本に限っては、只の人間だった者が神格扱いされているのを知ってるかい?
知らないならもっと勉強したまえ、もっとも私に言わせれば勉強にも良し悪しがあるけど。例えば洗脳に近い様な一方的な知識の押し付けとかね、それは良くないな。
受け取った方も、知識が万能なんて思い上がっている輩の多い事!
挙句の果てに、俺のモノサシは優れているんだぞとネット内で振り回す始末。人は大抵が、自分の“モノサシ”を持っているのは知っているね。
つまりそれで常識を計り、それを偉そうに垂れ流している連中の事さ。現実じゃ相手にして貰えないから、否定的な意見をネットに書き込むんだろうね。
秘匿性が高いってのも考え物だね、ネット社会は幼稚な人間を助長させてしまう。おっと、話が横道に逸れてしまったかな、失敬。
要するに、私が言いたいのは世の中ってのは、人類が思っているより遥かに不安定だって事さ。つまり平和は束の間の幻想で、安定してるように見える大地は意外と脆いって事実を知って欲しいんだ。
絶対だと信じ込むから、それが壊れると途端に慌てふためいてしまう。常識なんてそんなモノなのさ、絶対と言うボーダーは人の定義で幾らでも上下する。
お年寄りに聞いてごらん、戦争や震災を体験した人の話を。
私はそんな体験データを取るのが大好きでね、そこから経営のアイデアを貰った事も何度もあったりする訳さ。商売は人とするモノ、大事なのは人の意見なのさ。
私なりの成功の秘訣、時勢を読むのが上手かったのかな?
今度はそれを、バーチャル世界でもやってみようとの目論見なんだ。お気に入りの冒険者を見付けて話を聞く、そしてデータを取って彼らの行動パターンを探る。
その後は私との類似点を比較しても良いし、インスピレーションを貰える可能性もあるしね。何だかそれに移る前に、乗っ取った会社が前年比2倍の利益に達しそうなんだけど。
筐体がバカ売れらしい、やることなす事全て上手く行くって怖いな。
ある意味、私の持っている強運の効果なのかも知れないね。賞金付き限定サーバの開始にあたって、私が乗っ取った会社はスタッフを倍にしてかなりの無理をしたんだけど。
それを含めて、このたった数週間で元が取れそうな勢いらしいね? 特に海外の筐体の売り上げと、ユーザーの増加は凄まじい勢いらしい。
それこそ、限定サーバの数を15倍に増やす程度には。
どうやらこの会社の経営陣は、とっても優秀だったらしい。私の我が儘の賞金付き限定サーバの開始を、見事に餌にして顧客増加に結びつけたみたい。
海外ユーザー獲得の布石も、かなり前から画策していたらしいね。本当に出来た経営陣だな、私の持ってた他社とのコネすら上手く有効利用される始末だよ。
本当に、どっちが経営者か分かりゃしない。
想像するに、連中にとっては乗っ取りは渡りに船だったのかも知れないな。何しろ話題性と面白い企画と、更にはコネを多方面に持ってる新社長が転がり込んで来たんだから。
私にしてみれば、引き寄せられたと勘違いしてしまう程度には縁のあるお話だったんだけどね。この会社の作るゲームは昔から好きだったし、上場している会社では比較的良好な経営だと分かっていたし。
後は金を注ぎ込むだけ、それでパズルが完成してしまったと言う訳さ。
やれやれ、これじゃ私が逆に運命に操られているって思われても仕方が無いな。まぁいいさ、こっちはまだまだ神様を名乗るも烏滸がましい存在だと理解している。
――私はゆっくり神様への階段を上るのみ、時間はたっぷりあるからね。
今日もよく頑張った、さすがに休日明けの学園生活は辛かったけどね。その後に琴音の部屋でのゲームのインも、すっかり慣れて既に1週間が経過してしまった。
考えてみれば、1週間連続して琴音の部屋へとお邪魔するのも異様な関係ではあるな。向こうは全く気にしてないし、むしろ最近はご機嫌なのはアレだけど。
男の立場としては、やはり気にしてしまうし家族の目だってある……そんな訳で、孝明老に密かに頼んでいたあの件が上手く進めば良いんだけど。
そうすれば、妹の楓恋と杏月も晴れてゲームに参加出来ると言うモノ。まぁ、長女の楓恋に限っては、来年は受験なので微妙ではあるけど。
その辺を考えながら、俺は自室にこもって就寝の準備を進めている所。学校の宿題は既に済ませたし、明日以降の学園生活への対処もバッチリだ。
兄としては、もちろん妹たちの気遣いも忘れてはいけない。最近は、そんなマルチタスクもすっかり慣れて自然に頭の中に対処箱が出来上がってしまっている。
それが負担かと問われれば、全くそうでは無いとは言い切れない。ただし、妹達の幸せが俺自身の幸せと同等に感じられるので喜びも2倍って考え方も出来る。
そんな頭の中の対処箱だが、最近新たに設置されたのが『ミクブラ』関連のモノだった。つまりはもう1人の俺、ゲームのアバターの“ヤスケ”である。
「う~ん、相変わらず琴音に見付かったら叱られそうな奔放振りだな。何でこうなった、さすがに武器スキルはもうこれ以上は取らないとして。
ただし魔法に関しては、うっかりコンプしちゃいそうな勢いだな」
何しろスキルは、ポイントを振り込めば威力も増すと来ている。それは武器スキルも同じで、要するに1点伸ばしが強い成長のマストではある。
それを無視して、たくさん魔法を覚えるメリットはと問われると。何と言うか、“汎用性”以外に答えが無いと言うのが現状だったり。
その辺は、自分のアバターの個性には違いないが、果たしてそんな言い訳が幼馴染みに通用するかは甚だ怪しい。京悟や美樹也達なら、笑い飛ばすだけで恐らくは文句は言って来ないだろう。
向こうは何故か、俺の事を過大評価するきらいがあるので勝手に深い思惑があると思ってくれるのだ。実はそんなモノなど無いと知れば、一体どんな表情をするんだろうね?
色々と考える事は多いが、その辺は夢の中まで持ち込むつもりもない。4倍速のゲーム世界を堪能して、ついでに学業をこなして脳も疲れ切っている事だろう。
適時な睡眠時間をとって、大いに休ませてあげなきゃね。
――そんな訳で、俺はベッドに潜り込んで今日と言う日を終えるのだった。




