自分の分身と戦う
その滝の前に近寄って、初めて妙な点に気付いてしまった。滝の真正面の地面に、人間の両足のマークがくっきりと描かれている。
そして何故だか突破出来ない、ただの落水の筈の滝……アレッ、何で通れないんだろう? まるで壁のように、水のバリアがこちらの行く手を邪魔している。
何か仕掛けがあるとしたら、この足の裏のマークしかないよね? モノは試しだ、きちんと足を揃えてそのマークの上に立ってみようか。
これでてっきり、滝の流れが止まってくれる仕掛けかなとの、こちらの推測は大外れ。滝は段々と鏡のように、こちらの姿を映し込んで来た。
そして徐々にその精度は上がって来て、いつしかもう1人の俺のアバターが目の前に出現。そして手に持つ蛙のハンマーを、いきなり振りかぶって来た!
その一撃を、モロに浴びてしまったのは仕方のない事。だって、両足があのマークにくっ付いたまま、動いてくれないと言う極悪仕様。
酷いなこの仕掛け、しかももう1人の俺は本当にこちらの戦闘能力をコピーしているっぽい。そら来た《ブン回し》のスキル技、ってか相手は俺1人だけど何故範囲技を使って来る?
どうやらコイツ、そんなに頭は良くないらしい。
それなら遣り様はあるかな、コイツの名前は“ドッペルゲンガー”と言うらしい。こちらは短槍に交換するよ、餅つき大会などやってられるかって話だ。
しかし追撃がしつこいな、こっちは最初の攻撃で態勢を崩したままだってのに。それなら喰らえ《フラッシュ》……あれっ、思いの外効いてらっしゃる?
ひょっとして俺の分身のコイツ、闇属性だったりするのかな? とは言え、こちらの光魔法は今の1発のみなので余り関係ないけどね。
まずは強化魔法だ、敵の怯んだ隙に《炎テンション》と《風属性付与》を相次いで掛けて行く。そして体勢を整え、いざ反撃開始っとね。
とにかく突く、俺のコピー戦士の装備の薄い場所を突きまくる。何しろ自分の分身なのだ、薄い箇所は嫌と言う程分かっているってね。
短槍のダメージは上々で、形勢は一気に逆転の雰囲気の中。ところが敵もそんなに甘くない、ってか姿形はモロに俺のアバターなんだけど。
ソイツがいきなり見慣れないモーションから、《パワーハンマー》と言う両手棍の大技を繰り出して来た。手甲で受け損なった俺は、被害甚大の大ダメージ。
ちょっと狡くないですか、だって俺のコピーの筈なのにこっちが持ってない技を出すなんて。いやまぁ、確かに油断していたこちらも悪いけど。
あんな不意打ちってアリ、許せないんですけどっ!? ってか、いきなり3割もHPを持って行かれた、こちらの身にもなって下さいましっ。
うわっ、やっぱり強化魔法も使うんですね、よ~しこっちも今から本気出す! いやマジで、早目に倒さないとこの敵マジでヤバいっ!
とか思いつつ、今度は《Dタッチ》で体力のカツアゲを試みてみたり。あんまり効いて無い風なのは、やはりコイツが闇属性だからだろうか。
ってか、いきなり仕掛けて来た相手の《猪突》って特殊技はナニッ? 突進して来ての体当たりは、それなりの衝撃でダメージも喰らってしまった。
どうやら詠唱終わりを狙われたっぽい、スタンも喰らっていきなりピンチ。ついでに派手に弾き飛ばされて、危うく俺は水路に頭からダイブする破目に。
敵の体力はまた7割以上、コイツ予想以上に強いな。
再び突進して来るドッペルの足に突技、更に中腰になっての《二段突き》で巻き返しを計りつつ。《バグB》で再び相手の属性のお窺い……駄目だ、やっぱりそんなに効いて無い。
う~ん、属性付与付きの短槍で、相手の体力はそれなりに削れているとは言え。体力自慢の敵(俺の分身)には、やはり弱点を突かないと大変だな。
この戦いで1つ勉強になりました、まだ全然終わってないけどね。今は持ってるカードで、試行錯誤しつつ全力で相手をするのみだ。
何気に長期戦になりそうな雰囲気、こちらは再び《フラッシュ》からの念の為の《水中呼吸》を掛けておいてと。今気付いたけど、ここの水路は結構深い。
戦場では、ちょっとした不注意や状況判断ミスが命取りとなるのだ。そして地形を甘く見ていれば、いきなり流れが変わってしまう事にもなりかねない。
それにしてもドッペル君は、光魔法が本当に苦手っぽい。そんなに嫌がられては、こちらも是非とも使いたくなっちゃうな。
ところがお怒りの俺の分身は、いきなり闇魔法の《バーストタッチ》と言う大技を披露して来た。これもオリジナルの、俺の持っていない魔法だ、腹立つ!
まさに破裂させられた俺は、呆気無く弾き飛ばされて水の中へドボン。本当に《水中呼吸》を、念の為に掛けておいて良かったと思う。
しかしダメージは甚大で、俺の体力は既に半減以下の有り様。とは言えこちらは、水中でも何故か一息つけると言うね……本当に、魔法って偉大だな。
いやいや、何事も使い方次第って事なのかな。そしてドッペル君の追撃は、水中にまで及んで来る様子は無くてこの逃避行はマジで有り難い。
ふむぅ、それなら回復を挟むのも出来そうな気がするがどうだろう。例えば水中で、ポーション瓶を口に運んで飲む事は可能なのかな?
莫迦な考えではあるが、きっと誰も挑戦していない筈。試しに俺は、そっと口元で蓋を開いて、くいっと唇に瓶の飲み口を運んでの挑戦に及ぶ。
おおっと、ステ画面を見る限りではちゃんと回復しているみたい。これは大発見だなぁ、水面では何やらドッペル君が騒がしくしてる様だけど。
関係の無い俺は、2本目行っちゃいますか! おっと、今のはハンマーの先っぽですか。水の底にいる俺には、全く衝撃は届いて来ないけどね。
さてと、そろそろ戻らないとファーが心配してしまう。飛び出る場所を慎重に選んで、華麗に水上へと復活……とは、残念ながらならなかった。
なにせ水は透明で、こちらの動きは丸見えだったから敵をふり切れない。それでも連撃は許さずに、さっき見て覚えた特殊技のモーションも見逃さず対応。
とにかく大技は喰らわない方針で、そしてこちらは短槍でチマチマと削って行く。時折スキル技の《二段突き》で、なるべく装備の薄い場所を抉ってやる。
上空からはファーの応援が凄い、そう言えば敵のコピー野郎には妖精の付属品(?)がいないな。それだけでも、愛嬌ポイントで俺の圧倒的な勝ちだ。
ってか、これからその応援を力に変えて、勝利に邁進する気満々である。敵の体力はようやく半減、そしてやって来たハイパー化。
やっぱり俺の完全な分身と言うより、魔物が俺のアバターの姿をパクッたと言う認識で良いみたいだな。その証拠に、ドッペル君はハイパー化からの酷い技を繰り出して来た。
《呪い呪詛》と言う、あの死の商人も使っていたモロ闇系の呪い技だ。これを喰らって、俺はトラウマ級の悲惨な体験を背負い込む破目に。
もちろん今回も、避ける間もなく自由を奪われる俺のアバター。これってソロで対面したら、完全に詰んでしまうパターンなんじゃ?
だけど俺には、劣化コピー野郎と違って頼れる相棒がいる! それはすぐに証明された、空中からの聖水散布……って痛い、瓶まで落とさないでファーさん!
いやいや、悪かった……さすがに妖精のちっちゃなナリでは、宙で瓶の固定は難しいよね。とにかくこの素早い処置で、俺は即座に呪い状態から抜け出せた。
更に相棒、何を思ったか2瓶目をドッペル君目掛けて振り撒きに掛かる。そしてそれが物凄い効果、何と火傷した様に苦しみもがく俺の分身。
浴びた場所からは煙を発して、悪霊退散的なこのシチュエーション。
もちろんこの好機を逃す手は無い、突進しつつの《落とし突き》を体当たり気味に見舞ってやる。更に敵が怯んでいる隙に、こちらも手持ちの聖水をプレゼント♪
あとはイケイケ、何だこんな分かり易い弱点があったとは。ファー様サマだなぁ、ってか今頃に気付いたけど敵はレア種だったみたい。
そのまま無事にドッペル分身の討伐は終了して、そして貰えるスキル4P。他のドロップも秀逸で、思わずファーとハイタッチして喜ぶ運びに。
まずはドッペル君のドロップ報酬は、『風の術書』と『闇の術書』、両手棍スキルの《Pハンマー》に闇魔法の《Bタッチ》とまぁ凄い並び。
更に『投擲セット』と言う品に、何と魔石(中)に風の水晶玉が×4個。オマケに『混血の書』と言う、良く分からない本が1冊貰えた。
何だろうね、投擲セットはともかくとして正体不明のこの本は。一応琴音に後で訊くとして、取り敢えずスクショにでも撮っておこうかな。
投擲セットは、水晶玉が全種類1個ずつ入っていてとってもカラフルだった。他にもダーツ的な投擲武器が、何本かセットされていてお得感が満載。
ダーツの攻撃力の平均が5とかだから、手持ちの手斧より優秀って事になる。これはもっと、積極的に投擲スキルを伸ばせってお告げかな?
いやしかし、盾スキルとかも伸ばしたいしなぁ……。
他にも宝箱×2の回収も、何とか無事に済ませてご満悦。高台に設置されてた小さい方は、回収の際になかなかスリリングな気分を味わった。
オマケに鍵が掛かっていて、高い場所で一瞬目眩に襲われてしまった。その窮地だが、何とファーが鍵穴を覗き込んだと思ったら、彼女の指導で解錠に成功すると言う快挙を達成。
数分掛かったけどね、お陰でお宝ゲットの内容が増えました♪
その小さな宝箱からは、『霧の呼び笛』と『皆伝の書:冒険』と『硬質な木板』と言う見慣れないアイテムばかりを回収出来た。
『皆伝の書:冒険』は確か冒険スキルのスロット+1だったっけ。恐らくは大当たりの部類だろう、残りの2つはお助けアイテムと素材みたい。
『霧の呼び笛』は3回だけ使用可能の、霧を周囲に呼び出せる魔笛らしい。使い場所によっては、凄く効果的なのかも知れないね。
『硬質な木板』は木材で間違いない、割と大きな木切れだから色々と使えると思う。何に使うのが良いかな、盾とか家具とか思い悩むなぁ。
硬質って言うくらいだから、割と高価な木工素材に違いない。クライフ師匠に見せたら、何か知恵を貸してくれないかなぁ?
最後に滝の向こうにあった、一番大きな宝箱の中身の結果発表。これも凄かった、何しろ『宝珠:水魔法《パワーヒール》』が入っていたのだ。
使えば水魔法スキルも+4、余裕でスキル10超えである。凄いね、他では両手剣の『水切りの剣』と金のメダル、『水妖の呼び水』と装備品の『清水の指輪』をゲット。
両手剣は強いけど、自分にはスキル無し。指輪は毒状態緩和と、ヒール効果アップが付いていた。両手剣はともかく、指輪は何気に良いかも。
後はお金が5000モネーと、ポーション系の薬品が少々。経験値だけは良かったこのダンジョン、最後にドロップ品の帳尻も合わせてくれてニヤケ顔が止まらない。
イン時間の限界が迫っているので、脱出の事も考えないといけないんだけど。いつの間にやら、さっき戦闘中に落っこちた水路に謎のゴンドラが浮かんでいた。
近付くと、そこに転移用の魔法陣が浮かび上がった。
――お帰りはこちららしい、至れり尽くせりの水の神殿訪問であった。




