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ミックスブラッドオンライン・リメイク  作者: 鳥井雫
始まりの森編

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森の最後の試練へ2



「よう、お(ぬし)……そこの南の空き地の果実を採取し忘れておったぞ。やれやれ、とんだ騒動を起こして去って行ったな、あの妖魔のヤンチャ娘め。

 まぁ、あの程度の被害で済んで良かったよ。あの空き地に居据わっていた軍人連中全て、最悪血祭りからの(よど)みに転落もあり得たしなぁ……」

「あれっ、ラマウカーン……ああっ、そう言えば騎士団のキャンプ地の空き地の果実! 気が動転してて、回収するの忘れてたっ!」

「おおっ、これが森の精霊ラマウカーン……」


 感動する師匠はともかく、慌てた俺に呼応するように大慌てで「あちゃー」って表情のファーはある意味まじめ。収集関係は、自分の役目と思っているのだろう。

 ネムに(またが)って、今から取ってきますのゼスチャーを送って来る。


 いやいや、すぐ近場だとは言え、小さな相棒コンビだけで行かせるのは少々危険度が高い気が。などと身内で慌てていたら、思わぬ助け舟が。

 それなら自分が同伴しようと、声も無く名乗り出たのは♂猫の着ぐるみNPCだった。何故君たちは、安全地帯から出て来ちゃったかな?


 その隣には、澄ました表情の♀猫メイドNPCもいたりして。そんな感じで現在は、この岩間の密室内はちょっとしたカオスな場となっている。

 しかしどうやって、彼らはこの場所に見当を付けたのだろうか。いや、精霊ラマウカーンの性能からすれば、見付かって当然なのかな。


 むしろどうして、安全地帯の着ぐるみNPCを同伴して来たのかが謎である。何か重大な用件を、彼ら彼女らが(にな)っている……なんて事は恐らく無い筈。

 などと考えている内に、相棒コンビは回収に出掛けて行ってしまった。


「ラマウカーン、それよりどうしてここに? まさか果実の回収忘れを指摘するために、わざわざこんな所まで来てくれたのか?」

「おいおい、お主……もっと大事なことを忘れておらぬかね? 儂はお主に、西の森に発生した(よど)みの撤去を頼んだのじゃ。

 それはちゃんとした依頼であって、遂行されれは報酬が発生するのじゃよ? ついでにこちらの者たちも、クエ依頼の清算があるかも知れんと言うのでな。

 それならと、一緒に連れて来た次第じゃ」


 あらら、何とも律儀な精霊だな……確かにこちらは、少々テン張って色々な事をスッポリ失念していたみたいだ。特に、肝心の報酬の受け取りを忘れるなんて。

 それに関しては、冒険者にあるまじき失態には違いない。


 ってか、今更そんなのはどうでも良かったのかも。あの時はとにかく、一刻も早く師匠の無事と今後の顛末の決定をしなくちゃと気が急いていたのだ。

 そのせいで、がむしゃらにこの『始まりの森』を終わらせる事ばかり考えてたよ。まだ始まってもいないのに、これは大いに反省しなくちゃ。




 ラマウカーンはとことんマイペースで、それでは報酬の受け渡しを始めようとその場を仕切る素振り。ファーとネムが戻って来るまでに、それらを完了させたいみたい。

 その方がこちらも都合が良いので、乗っかるのは(やぶさ)かではない。まずは♀猫NPCが進み出て、クリアしたクエの確認を勝手に始めてくれる。


 何かあったかな、西の断崖地帯のクエは終わってたっけ? 色々と横槍が入ったせいで、どんなクエ依頼を受けていたか忘れてしまった。

 ♀猫NPCによると、幾つかの毛皮と装備が交換可能らしい。それから大トカゲの討伐クエも、終わって報酬の受け取りが出来るそうな。


 討伐クエの報酬はともかく、今更俺には『丈夫』シリーズの装備なんていらない。代わりにマップ埋めクエに色を付けて、OK判定を甘くしてくれと提案した所。

 何故かそれがすんなり通って、結果全方位クリアの運びに。


 あれ程クリア難度の厳しかったクエだったのにと、釈然としないのは心に仕舞っておく。甘くして貰って文句を言うのも筋違い……結果、一度に結構な報酬を受け取る事が出来た。

 まずは経験値は1000exp×3回分、お金も同じく2万モネー×3回分。ステ果実も合計3つ、敏捷と体力、それから器用上昇が1個ずつ貰えてしまった。


 ここまではまぁ、前振り的な報酬の並びで嬉しいけど驚きはない。本番はここからで、前回も報酬に入ってた武器指南書が1枚ほど。

 それから『炎と雷の香木』と『光と風の香木』が1個ずつ。指南書は弓矢スキルに使うとして、香木は休憩の時に順に使って行くかな?


 それらも何気に贅沢な並びだったが、最後に大物の報酬が待っていた。冒険スキル『魔力温存』に、弓矢スキル《貫通撃》は驚きと共に衝撃を俺にもたらした。

 そして最後に、氷の宝玉《アイスランス》と言う大盤振る舞い。完全に報酬のインフレ状態、まぁ地図埋めはそれだけ高難易度クエだったのだろう。


 このマップ埋めクエ、4つ全部クリアした冒険者は果たして何人いるのやら……琴音や京悟みたいな、5日最短クリア組には絶対に無理だろうな。

 何せ、この始まりの森を隅々まで歩き回らないと条件を満たせないのだ。5日程度では頑張っても精々1つか2つかな、琴音は1個もダメだったと言ってた気がする。

 何にせよ豪華な報酬を前に、我知らずテンションの上がる俺。


「ほおっ、この弓矢スキルの《貫通撃》はかなり使えるぞ……相手の防御力を完全無視だから、硬い敵にも大ダメージが見込めるんだ。

 その代わりに、使う毎に弓矢の耐久値が減って行くから注意しろ」

「おおっ、防御力を丸々無視は強そうだなぁ。でも武器スロットがいっぱいで、どうやって組み込むべきか……そうだ、ラマウカーン!

 (よど)み除去の報酬に、何か良いの無いかなっ!?」

「ふむ、スロット整理の魔法は確かに存在するがなぁ……上級魔法だから、今のお主には覚えても容易に扱える代物では無いなぁ。

 他のお願いにしてくれ、私の叶えられる範疇(はんちゅう)で」


 それはガッカリ、まぁ何もかもが順当に手に入る訳は無いのは分かっているつもり。しかし弓矢スキルの補強は素直に嬉しい、例えスロットから(あふ)れてしまっても。

 氷の宝玉もすぐに使うとして、最後の突入前の戦力アップは整って行く。しかしラマウカーンには何を頼むかな、こうなると現状での不自由を並べて行くしかない。


 その中に、冒険スキルの未取得ってのがあるんだけどこれはオッケー? モノの試しに問うてみた所、精霊は何の事は無いよと答えてくれた。

 何とこの精霊は、教授の資格を持つ存在だとここで判明。これは嬉しい誤算である、冒険スキルもスロット制だった筈なのでスロット分教えて貰う事に。


 ついでに育て方も一緒に教えて貰えて、これは『冒険者の心得』の書で伸ばして行くらしい。4P毎に習得スキルっポイ感じで、出来る事も増えて行くみたい。

 これもやはり、自分の好みを1点伸ばしが有利との事。


 何を伸ばすか悩ましいが、現状だと『地図形成』か『隠密』が良さそう。ピンポイントに、潜入工作に役立つだろうと師匠からアドバイスを貰った。

 確かにそうだ、ここは優先的に2Pずつ割り振ろう。


 戦闘では、MP消費を抑えてくれる『魔力温存』が便利だぞとラマウカーンにも助言を貰った。それならと1Pを割り振って、これで心得の書は使い切った。

 ちなみに、特にポイントを振らなくても、冒険スキルはちゃんと効果を発揮するらしい。ただし派生はしないし、ポイントが高い方が効果も高いみたい。

 つまりは、便利なスキルは積極的に伸ばして行くべし。


 『交友』『遠見透声』『野外活動』と、まだまだ余った冒険スキルは鞄の中に存在する。これらは覚えてもスロットオーバーなので、予備に持っておく事に。

 使う日が来るのかも不明なので、売ってお金にする方が良いかも知れない。まぁいいや、それより前から覚えていた『野生』と『水中適正』をスルーしてしまった。

 そのうちに、意外と便利な『水中適正』の方は伸ばしてみたいと思っている。




 鞄がスッキリしたついでに、余っている装備を♀猫着ぐるみNPCに売る事にした。その代わり、パウダー系の薬品や闇や炎系のお酒なんかを補充する。

 ファーとネム用に、光や風の水晶玉も買い込んでおこうかな。これでさっきゴブの王様が落とした装備品の売値と、だいたいトントン程度になった筈。


 たくさんお金を持っているとは言え、無駄遣いは避けたいからね。ちなみに、大トカゲ討伐のクエ報酬はトカゲ肉の串焼きだった。

 これは素直に嬉しい、食糧に関しては既に保存食に頼るしかなくなっていたのだ。森の長期滞在の弊害とも言える、師匠の台所に頼るのも(はばか)られたし。


 そうこうしている内に、無事にファーとネムが戻って来てくれた。嬉しそうに虹色の果実を掲げる相棒に、心からありがとうとお礼を述べる。

 本当は、相棒たちの無事な姿が何よりの宝物だったりするのは内緒。恥ずかしいから声に出しては言わないが、それが俺の心からの本音ではある。


 だからと言って、危ないから彼女たちの活躍の場を奪う事もしたくはない。さじ加減は難しいが、要するに今後もずっと一緒に冒険したいって事だ。

 そんな訳で、ファーにご褒美の瓶入りジャムを献上する。同じくネムには、貰ったばかりの大トカゲの串焼きを報酬に差し出してあげる。


 彼女たちが喜んで間食に勤しんでいる間に、こちらは突入の最終チェックを行なう。師匠のアドバイスはさっき聞いて、脱出までのシナリオは完成済み。

 着ぐるみNPCとの売買や、クエ報酬のやり取りも無事終了した。ラマウカーンにもちゃんと報酬を貰って、その結果冒険スキルも最大の5つに増えて万々歳である。


 報酬で増えたスキルや魔法に関しては、ぶっつけ本番でチェックして行く方向で。それだけが心配な点だが、時間も無いので仕方が無い。

 恐らく師匠やラマウカーンとは、今後出逢う事は無いのだろう。いや、無事に砦を脱出したら、その時は別れを切り出す事も出来る筈。


 だから今は感傷的になるな、俺! 全てが手に入る訳では無いのだ……それは自分の生きて来た経験の中でも、分かり切った単純な事実に他ならない。

 人はその配られた手札の中で、上手くやり繰りして生きて行くのだ。





 ――人生は取捨選択の繰り返し、例えバーチャル世界でもそれは同じ事。








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