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ミックスブラッドオンライン・リメイク  作者: 鳥井雫
始まりの森編

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森の最後の試練へ1



 ログインから既に1時間が経過しているが、そんな事は今はどうでも良い。師匠の所業(しょぎょう)が盗賊団にバレていて、どうやら懸賞金まで掛かっているらしいのだ。

 その状況を放置して、この『始まりの森』をクリアする選択肢など俺には無い。首を突っ込んだ事案は、何が何でも最後まで面倒を見るのが冒険者たる者の流儀。


 いや、そこまで信念として抱いている訳じゃ無いんだけどね。それでも師匠と仰いだ人物に、明らかに危機が迫っているのだから見逃せないのも事実。

 それを捨て置くのは、良心に反するってのは誰もが抱く心情の筈だ。別に聖人君子を気取るつもりもないが、俺はその窮地(きゅうち)を打破するアイテムを持っている。


 そう、それが一番大事な点である……手段は一応、まかりなりにも存在するのだ。無謀な取り組みなら、俺だって二の足を踏むとは思うけど。

 何はともあれ、そこら辺は師匠と相談してからの事だな。


 南の森での移動は、以前にもまして慎重を期した。当然だ、あの悪辣(あくらつ)な野盗共に後を付けられて、俺のせいで師匠の隠れ家がバレたら切腹モノである。

 本当は隠形とか、そっち系の冒険スキルがあれば是非とも欲しいんだけど。着ぐるみNPCが、習得に関して全く当てにならないので仕方ない。


 たくさんある冒険スキルの書も、大半が鞄の中に埋もれたままと言う悲しさ。実に勿体(もったい)無い話である、ヤスケのアバター強化も道半ばだね。

 そんな感じの不安も積載されているが、恩返しは可能な時にするのが信条。そんな事を考えつつ、いつもの倍の時間を掛けて南の森を忍びながら移動する。


 森の中では、ファーの探索能力が(こと)(ほか)有り難く感じる……彼女の報告では、後を付けて来る怪しい人影は皆無との事で良かった。

 仔竜のネムには大人しくして貰って、俺が抱えての南下中である。しばらく忍んで進んでいると、ようやく例の隠し階段の場所へと辿り着いた。



 そこから更に慎重に、階段を登って秘密の小屋へと隠密行動で進んで行く。ただし師匠には完全にバレていたようで、危うく弓矢の的にされる所だった。

 ファーの前もっての登場で事なきを得たが、冷や汗モノだったな。ただまぁ、確かに忍んで自分の家に近付く存在は怪しさ大爆発だ。


 丁寧に謝る時間も惜しく、俺は先ほどの顛末(てんまつ)を師匠に報告する。それから俺の盗賊の砦急襲(きゅうしゅう)案も、併せて提示して承諾を得る。

 それを聞いた師匠の反応だが、最初は無茶で無謀だと実行を渋っていた。ただし、俺の説得能力は地元では凄い威力だと評価が高いのも確か。


 これは日々、琴音や京悟みたいな難物をあしらって(つむ)ぎ上げた、リアルスキルだ。所持していたアイテムを見せながら、簡単な作戦をつらつらと説明する。

 蘇生アイテム×2個の存在に、召喚用の呼び鈴が鞄の中に幾つか。ついでに魔除けの香炉を使用しての、敵陣地内での安全確保術は恐らく敵もビックリの筈。

 (とど)めとばかりに、頼りになる俺の相棒コンビ等々。


 師匠も心配する通り、一度に全員と対峙するのはさすがに無茶には違いない。ただし、ひっそりと忍び込んでの各個撃破なら何とでもなるだろう。

 根拠こそないが、一応これはゲームで用意されたシナリオである。


 完全に無理なハードル設定のクエストなど、向こうは提示して来ないだろう。そんな妙なと言うか、メタな信頼からの潜入作戦の立案である。

 まかりなりにも10日間、このゲームをプレイしての率直な信頼感でもある。そんな感覚と言うか確信は存在するのだ、本当に妙な話ではあるが。




 そんな俺の、妙ちくりんな説得が功を奏したのだろうか。師匠は最後には、ある“条件”付きで砦への秘密の入り口を教えてくれると言ってくれた。

 厳密には、そこは秘密の砦の脱出口らしいが、まぁ同じ事だ。


 師匠の言う条件とは、簡単に言えば生きて砦を出て来いとの有り難い激励の言葉だった。どうやら秘密の入り口は、地下の抜け道を通って行くらしい。

 そこから頑張って、砦の屋上まで上り詰める事が出来れば占めたモノ。そうすれば、師匠が脱出の手伝いに、砦の表に潜んでいてくれるとの事。


 その有り難い申し出に、俺は百人の助っ人を得た思い。更に師匠は、盗賊の砦の攻略用に使えと秘蔵のアイテムを提供してくれた。

 これもほぼ盗賊の砦からの盗品なので、貰うのに遠慮はいらないらしい。


 なかなかにお茶目な人だな、クライフ師匠ってば……さすがに盗賊団が、怒り心頭なのは理解出来る気がして相手が少し気の毒だ。

 いやまぁ、その品も元は盗品だからいいのか。しかしその品揃えは『侵入ミッション』を後押ししますと言う、製作側の裏の本音が透けて見えそうな?


 やっぱりそうなのだろうか、それとも俺の考え過ぎかな。まずは装備品で、『忍びのブーツ《消音》』と言う防具だが、風魔法で足音や気配を消せる優れモノらしい。

 MPコストも8と低いし、潜入工作には持って来いな感じ。


 それから、消耗品の『武器指南書』や『土の術書』も普通に嬉しい。ついでに魔法の合鍵×3や撒き(ぴし)《麻痺毒》は、いかにも潜入ミッション用にあつらえた感じ。

 土魔法の《地駆けラット》も、どうやら待ち伏せ罠魔法の類いらしい。土魔法はほとんど伸ばして無いけど、術書も貰ったし伸ばすべきかな?


 こちらはMPコストが20とやや重いが、中級魔法にしてはまだマシな方だろう。前もって地面に仕掛ける罠タイプの魔法らしく、自分の持ってる魔法には無いタイプ。

 つまり詠唱の長さも、そんなに気にする程でも無いっぽい。


 魔法の合鍵は、使うと消滅するタイプらしい。その代わり、どんな鍵でも開錠可能なのだそうで……ファンタジー世界のセキュリティ、大丈夫なのかねぇ?

 いや多分、どんな鍵でも開かない錠前ってのも存在するんだろう。矛盾するとしても、そこはこんな最果ての地の冒険者が介入する余地など無い。


 俺は与えられたシステムの表層で、それに従って問題を解決して行くだけだ。そして今の一番の問題は、これから行う潜入ミッションに他ならない。

 そんな訳で残り時間を気にしつつも、師匠の案内に続いて南の森を再び進んで行く。さてさて、残り2時間とちょっとでこの難解なミッションをこなせるかな?


 取り敢えず、心の準備も荷物の支度も整って後は潜入を果たすだけ。そしてなるべく、盗賊団の連中に打撃を与えてやるつもりだ。

 そうすれば最悪、師匠への悪辣(あくらつ)なちょっかい掛けなど出来なくなる筈。



 それから、計画実行の際の打ち合わせも少々……師匠は俺を見送った後、付近に潜んで万が一の際の俺の逃亡に備えてくれると約束してくれた。

 ヤバくなったら屋上から飛び降りろだそうで、砦は3~4階の高さしかないとの事。そうしたら、砦からの追撃は師匠が何とかしてくれるっぽい。


 まかりなりにも作戦は整った、師匠の協力も取り付ける事に成功したし。中の野盗の人数だが、軽く30人以上はいるとの事……ちょっと多いな、仕方ないけど。

 元から各個撃破を狙っているから、階層ごとに攻略して行けばそう問題にならない筈。ゲームなので、倒した敵の死体が消えてくれるのが良い。


 もっとも、敵も仲間の消滅に気付く手だてがあるかもだが。こちらの残り時間も2時間程度しかないので、スピード攻略は大前提である。

 俺と師匠は慎重な足取りで、南の急な断崖沿いをしばらく進んで行く。


 その場所だが、てっきり滝の後ろに秘密の入り口が……なんて定番は無くちょっと残念。俺たちは、更にそこからもっと西側の断崖付近へと潜んで進んで行く。

 その辺りは断崖から転がり落ちた岩が、何となく迷路のように配置されていた。そこに入る前に、砦の方角を確認しておくように師匠に指示される。


 初めて砦を見たが、なるほど完璧に谷間の通路を(ふさ)ぐ形で造られてるな。こっそりと近くの茂みから覗いて見るが、意外と大きな建物な印象。

 確かに高さはそれ程無いが、谷間を塞ぐような横幅と厚みは印象的。これは騎士団も、間違っても前面強硬突破とか馬鹿な作戦は仕掛けられなかったろう。


 攻城兵器とかあれば別だけど、人力のみではちょっと無理な人工物である。果たしてソロで侵入作戦も、正気かどうかと問われれば微妙ではある。

 とは言え、行くと言ってしまった手前、ここは男だし当然引き下がれない。


 俺が位置を確認したのを見て、師匠は先頭で岩の隙間へと入り込む。後に続く俺と小さな相棒、何だか楽しそうなのは定期なので良しとしよう。

 ひょっとして俺だけなのか、こんなに心細いのって? 大見得(みえ)切ったけど、実際に成功率を考えると大きな博打には違いないんだよなぁ。




 進んで行った岩の迷路の突き当たりには、それらしき入り口などどこにも無かった。当然と言えば当然だけど、とても巧妙に隠されているみたい。

 師匠が苦労して、何とか大人が抱えられる大きさの岩の1つを横へずらした。そうすると、蔦のカーテンの奥に細い穴があるのが見えた。


 ここから奥へと入るらしいが、かなり狭いので侵入も一苦労である。師匠が先に入って行ったので、どうやらまだ先に空間があるみたい。

 ネムとファーのコンビが、興味深そうにそれに続いて奥へと入って行った。しんがりは俺が(にな)うのね、まぁそれは別にいいけどさ。


 入った場所は、ちょっとした小部屋で居心地良さそうな空間だった。天井の隙間から陽光が差し込んで来るので、そこまで薄暗くもない。

 大きさは6畳程度だろうか、苦労して入り込むと師匠が奥の岩を同じように動かしていた。漬物石くらいの大きさで、微妙に周囲のと色合いが違う。

 そしてやっぱり出て来る、今度は地面に空いた真っ暗な穴。


「ここから地下の断崖洞窟に降りられるが、意外に広いから迷わないようにしろ。一応地図は渡しておくが、暗闇の中で高低差もある地形だから当てにはならんかも知れん。

 最悪、迷ったら戻って来い。ここは開けておくから」

「分かりました、師匠……その地下の移動時間って、大体どのくらい掛かり……」


 最後の打ち合わせの最中に、不意にその来訪者は訪れた。しかも注意を払っていなかった、天井のわずかな隙間からの侵入である。

 最初に黒い小さな影、次いで怪しげな衣装の2つの人影が。


 当然ながら、慌てる師匠と俺……そして何故か呑気そうな、妖精と仔竜と言う図式の中。しまったな、こんな侵入工作ミッションの初っ(ぱな)早々にトラブルとは。

 まさか予期せぬ不意打ちを受けるなんて、森での移動が見付かってつけられていた? とか思ってたら、最初の小さな影が話し掛けて来た。





 ――その正体は、実は俺たちも良く知る人物だった。








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