巨大な影と妖魔の饗宴
どっこい骨キメラのお返しの《乱撃》も、どうやら範囲攻撃で酷い有り様。ネムまで巻き込まれて、あわやたった一撃で事故を起こす所だった。
《硬化》の魔法はなかなかに凄いな、強力な敵の《乱撃》の威力をかなり抑えてくれていた。そして指輪の反射効果で、骨キメラにも少なくない反射ダメージが。
逆にネムはかなり不味い、俺は慌てて駆け寄って回復してやる。目晦ましの《フラッシュ》も効果アリ、これでこちらに行動の自由が出来た。
相手は案の定、すごいパワーを有しているレア種みたいだ。恐らく夜中に遭遇したら、この上なく厄介な敵には違い無いのだろう。
ただし今は陽光が味方して、こうしている間にも骨キメラは弱って行っていると言う。ちなみにファーは、あの特殊技が来る前に戦線を離脱していた様子。
何よりの朗報だ、戦闘力の無い彼女だと直撃しなくてもお陀仏だったかも。とにかくネムと自分に《ヒール》を掛けて、俺は単身骨野郎へと向き直る。
改めて近くで見ると、何て大きさだと呆れるばかりの巨体のレア種である。こちらの攻撃に関しては、両手棍でさえ脛まで届くのが精一杯。
これは接近戦でも、魔法での攻撃を織り交ぜないと不味いかも。
相手は痛覚も無いみたいだが、視覚には頼っているようだ。関係ないかもだが、腰の辺りにも何の生物か良く分からない頭蓋骨が埋め込まれていたりする。
取り敢えずは、攻撃の届く脛辺りを殴っての相手のHPの減り方の確認など。そちらに関しては、ダメージはちゃんと入って思わずホッと胸を撫で下ろす。
他の注意点だが、さっきみたいな相手の範囲攻撃には要注意だ。レア種だけに、他にも良く分からない特殊技を持ってる可能性は充分にある。
例えば腰の辺りの頭蓋骨が、何やら詠唱を始めている気配。そしていきなり視界が真っ暗に、何と骨キメラの目潰し魔法を喰らってしまった。
やっぱりね、あの骨の並びには何かあると思っていたんだよ。目薬は右側のベルトポーチに入れていた筈、素早く取り出して顔に掛けてやる。
それと同時に、上空から凄い圧迫感が舞い降りて来ていた。俺の視界はまだ真っ暗だが、敵の攻撃なら直撃を喰らう訳には行かない。
思わず前へと転がるように、武器を手にして回避行動を取る。幸いそれで何とかなった様子、目も見えるようになったけど腰の骸骨群は厄介だな。
先に詠唱持ちの頭蓋骨を潰したいが、武器が届かないのが地味に痛い。いや、今は俺にはさっき取得した光魔法があるじゃないか!
そんな訳で《ライトアロー》を叩き込んでやったら、それで腰の骸骨は呆気なく潰れてしまった。これで正解だったのか、1発で引き当てたのはデカいな。
それじゃあ腐肉から出現中のゾンビの群れも、同じ手で良いのかな? 本体からボトボトと落ちて行く腐肉だが、何とそこから奴の手下の死霊が発生中なのだ。
ってか、そいつ等も既に陽光に焼かれてダメージを負っている。ついでに腰の辺りから数体が、同じようにして腐肉と小骨を媒体に地面へと生まれ落ちてる途中。
そこへさっきのお返しとばかり、ネムが飛び掛かって《光のブレス》攻撃!
そしてファーの操縦で、さっと安全圏へと逃げて行く潔さ。ナイス判断と心の中で賛辞を送りつつ、SP貯めにと大槌で雑魚のとどめを順繰りに刺して行く。
そして貯まったSPで、本体に《撃ち上げ花火》を喰らわせる。うん、あまり効いてないな……このユニーク種、直接攻撃への耐性は強いようだ。
単純に、弱点属性の魔法攻撃の方が追い込みに適してるのは間違いない。ってか、ゾンビ産みでも体力を使った骨キメラ、残りHPは残り僅か。
つくづく思う、コイツは生まれる時を間違えたなと。
色々と酷いな……こちらも4時間過ぎたら、あんな継続ダメージを貰うのかと思うとゾッとする。つまりは、同情などしてる余裕はこっちにも無い。
再び振るわれた、奴の巨大な両手棍の攻撃を躱すのも結構大変だ。お返しの詠唱は、長くなるのを覚悟して《キャノンB》を選択する。
邪魔されるかなと思ったけど、骨キメラは本当に鈍かった。ただしこの期に及んで、通常攻撃ではなく何か特殊技を敢行しようとしている気配が。
腹の辺りの腐肉がぞわぞわしてたので、再度の産み落としか何かだったのかも知れない。それもこちらの呪文の完成が生憎と先で、派手な炎が巨体を包み込んで行く。
その範囲魔法ダメージで、さすがの巨体も崩れ落ちて行った。
奴の近くにいたせいで、危うくその崩壊に巻き込まれそうになったのはご愛敬。何とか難を逃れて、腐臭を放つその死霊の最期を見守る。
陽光に溶けて行く大半の澱みと、何故か残った感じの消えない大骨の部位たち……あれっ、この辺りのレア種って死骸は消えないルールでもあるの?
俺は呆然とした表情で、何となく腑に落ちないままそれを眺める。するとネムを連れて、ファーが呑気な笑顔で飛んで合流して来た。
おっと、そうだった……愚図々々していられない事情が、こちらにはあるんだっけ。時間がない、限定イベントの4時間縛りはもうすぐそこだ。
そんな訳で、仲間との合流を果たしながら素早く現状の整理など。何と言うか、今の戦闘で俺のレベルが20へと上がってしまった。
初心者の限界レベルなのか、素早い転職をアナウンスに勧められる。あらら、こんな僻地でとうとう選択を迫られる破目になっちゃったよ。
とは言っても、現状持っているのは『妖精使い』と、レベルアップ時に新たに増えた『初級八属性魔術師』『竜宮の遣い』『竜使い』の全部で4つのみ。
そして転職を執り行なってくれると言う、神官だか巫女さんがご近所にいない現状。俺の一存ではどうし様も無いのに、そんな急かされてもって思う。
単純な問題として、ちょっとこの森に長居し過ぎたこちらの過ちは素直に認めよう。まぁいいや、その辺は後で時間を取って考えるとして。
今日のインでの活動時間が、本格的に不味い所まで来ている。これはもう、全力で駆けても安全地帯まで戻るのは完全に不可能である。
不本意だが、洞窟に避難して香炉を焚いて落ちようか。
取り敢えず、ネムと自分の体力の全回復と、相棒達に労りの言葉を掛けるのだけは忘れない。こう言うのは、信頼関係の積み重ねが大事だからね。
例えNPCの従者と言えども、道具のように扱うつもりは俺には無い。しかし参ったな、あんなに注意してたのにネムを死なせ掛けちゃったよ。
仔竜は宙も飛べるし、体力も割と高いので撃たれ強くはあるんだけどね。如何せん、その攻撃手段はほとんどが近接攻撃しかない。
ブレスも条件が整えば使えるが、属性&範囲攻撃の手段である。要するに、雑魚戦では割と無敵に振る舞えるけど、レア種戦にはまだ早いって事かな。
まだ子供だし、ネムに関してはじっくり育てて行こうと思ってたんだけど。俺のレア種遭遇率は、どうも幸運値のせいか人より断然高いらしい。
つまりさっきみたいな危険はこの先も訪れそうで、現状の相棒のステータスじゃ厳しい。何か対策を立てないと、いつか取り返しのつかない事態になるかも。
他の感想としては、新装備の腕輪の“反射効果”は雑魚戦では余り目立たない。ただし、骨キメラの特殊技を喰らった際には、反射ダメージが凄い事になっていた。
ついでに言うと、竜宮城で貰った補正スキルの《集中》スキルも良かった。詠唱中断率の低下と同時に、詠唱速度が上がる効果もあるのかも知れない。
さっき《キャノンB》を唱えた時に、以前より早く呪文が完成したように感じたのだ。色々と考えたけど、この新スキル以外に他に思い当たる節が無い。
集中するって、色々と役に立つのは確かな模様……特に、呪文完成までの全般で役に立つのかも。そう思って間違いないみたい、良いスキルを貰ってしまった。
それより、今回もちゃんとレア種ドロップは存在した。良かった、半分は陽光での自壊で倒れたから、報酬あるかなと心配していたのだ。
ちなみにユニーク種らしく、スキルPは2Pと少なかったのは良しとしよう。
肝心のドロップ品だが、魔石(中)から始まって、『皆伝の書:補正』と『魔力の葉』が1個ずつ。それから『還元の札』が1枚と、『魔力の大骨』と『魔力の核』と言う謎素材が1つずつ。
後は装備品として、今回は『理力の杖』と『暗塊の杖』と言う名前の、長さの違う2種類の杖がドロップしてくれた。
性能からして、後衛用の魔力アップ系の武器みたいだけど俺には不要だな。そんなのが、何故に同時に報酬品で出たのかは全くの不明である。
まぁ、ドロップ品が偏る事って間々あるのかも知れない。その点は残念だが、琴音と合流したら欲しがるかもなので売らずに取っておくのもアリだ。
そんな感じで、ユニーク種のドロップ確認も慌ただしく終わらせて。その後すかさず、相棒たちと洞窟に向けて移動を始めようと思ったその時。
時間が残り3分とかで、普段ならとっくに落ちているまさにその時。不意に、誰もいなかった筈の背後から大声を掛けられてしまった。
「……あ~~~~っ!!!」
――それはまさに女の子の声で、批難がましく叫ばれてしまった。




