仔竜よ君の名は
何と言うべきか……諸事情あって、従者キャラが一匹増えてしまった。しかも鈍重だったその動きも、精霊ラマウカーンの助言に従って風の水晶玉を食べさせてやると。
“風の性質”を受け取った仔竜が、未熟だった翼を広げて軽やかに空中旋回を披露し始めた。うおおっ、水晶玉ってこんな使い方もあったんだ!
それは知らなかったな、今まで割と無造作に使い過ぎていたかも。そんな内心の葛藤と後悔は、今のこの状況では割とどうでも良い。
ラマウカーンに色々と、仔竜の使役方法とか成長のさせ方を熱心に学んでいる際中なのだ。それによると、8つの属性はそれぞれのステータスに関連があるらしい。
それを与える事によって、自分の好みの能力に従者を仕上げて行けるそうで。フムフム、その辺はまるで知らなかった情報でとっても為になる。
それによると、炎⇒筋力、水⇒精神、雷⇒器用、土⇒体力、氷⇒知力、風⇒敏捷、光⇒HP&スタミナ、闇⇒魔力&SPとの割り振りがなされているらしい。
なるほど、実に為になるな……ちなみにレベルを上げたければ魔石を食べさせれば良いとの事。それによってもステータスは上がるし、場合によっては特殊スキルも覚えるそう。
逆に言うと、従者は戦闘で得る経験値は微少らしい。
従者に経験値がほとんど流れないって事は、戦闘での経験値は全部こちらに来るって意味だ。だからそれは良いとして、仔竜のレベル上げは必須だな。
しかも俺の鞄の中には、結構な量の魔石が貯め込まれているのだ。合成にも使うそうだが、今はまだそっちに使う予定もないので問題ない。
小さな体躯の仔竜でも、戦闘参加は全然平気とのお墨付きは貰ったがちょっと不安ではある。こちらの好みで育成が可能なら、尖った性質に傾くよりはバランスタイプに育てたいかな。
そこら辺は、色々と精霊ラマウカーンにも相談してみる事に。
「赤ん坊とはいえ、腐っても竜の系譜だからのぅ……そこいらの雑魚よりは確実に強いし、属性のブレスだって吐けるぞ?
それには、属性水晶の欠片が必要だった筈だけどな」
「えっ、それを食べさせればいいの……? 水晶を燃料にブレス吐くんだ、凄いね」
とにかく契約は成立してしまった訳だし、ここは積極的に新しい戦力を強化していこう。戦闘に巻き込まれた挙句に、死んでしまったら可哀想だし。
鞄をチェックしたところ、魔石(小)が10個と魔石(中)が5個も入ってた。レア種を乱獲して来たからなぁ、いや好きで遭遇してる訳でも無いんだけど。
ともかくこれらが役に立ちそうで良かった、貯め込んでいても仕方ないし。ちょっと実験で、仔竜のステを見ながら小と中を1個ずつ与えて見る事に。
何故かそれに齧り付く仔竜、丸呑みして合計レベルは0⇒4となった。ふむっ、どうやら小で+1、中で+3されるらしいね。
心なしか鱗の艶も良くなってるし、サイズも少しだけ立派になって来てる。ここは一気に魔石(中)をもう2つ追加、レベル10まで上げてしまおうか。
それから風の水晶玉を2つ、土を1つ食べさせよう。
本当に食べているのかは不明だが、能力に還元されたのは確かみたい。これでどの程度強くなったんだろう、レベル10と言えば俺の半分くらいって事だ。
ラマウカーンの話だと、ここら辺の雑魚が相手では敵無しらしい。ってか、従者と言えばファーもそのカテゴリーに属する筈なんだけど。
とは言え、間違っても戦闘要員ではないよね、彼女は? とても役に立ってるけど、それは主に収集系や探知系に限っての話である。
いや確かに、気配察知や乙姫へのおちょくりも酷……凄かったけど。
「いやいや確かに、彼女は戦闘種族ではないからな……今は従者とは名ばかりの、装備扱いにしておるのだよ。でないと、戦闘に巻き込まれただけで命を落としてしまうからの。
本人はやる気はあるようじゃが、せめて妖精用の戦闘職にチェンジしてからでないと危険じゃからな」
「そうだったんだ……ってか、妖精用の戦闘職ってのもあるんだ。じゃあアレは何だったのかな、竜宮城で乙姫とバトルっぽい事になっちゃってさ。
挙句の果てには、その勝負に勝ってたみたいなんだけど……?」
精霊ラマウカーンの話によると、精霊同士は決して傷付け合う事が出来ないらしい。それは神様同士も同じ事……それじゃあどうするかと言えば、格を落として肉体を得るか、代わりに配下を戦わせるらしい。
代理戦争はどの時代にもあったらしく、それは地上に住む信仰を持つ種族全体が対象になり得るとの事。そしてこのファンタジー世界では、竜族が加担するのも珍しくないそう。
なるほどな……割と悲惨な戦争の歴史を、この世界も抱えているんだなぁ。そんな竜族の子供を、ひょんな事から従者に迎えてしまった俺だけど。
果たして上手く折り合いをつけていけるのか、結構扱いも大変そうな仔竜のネムである。ラマウカーンに聞いた話では、性別は女の子らしい。
取り敢えず名前も決定したし、魔石と水晶玉でステ強化もある程度出来たと思う。後はそうだな、俺とのコンビ狩りが出来ないと話にならない。
仔ドラゴンの操縦は、やっぱりファーママに頼むのが良策かな? 水晶玉の範囲攻撃に仲間への巻き込みダメージは無いが、戦闘中に味方が邪魔だってのはある話。
俺の攻撃範囲に居据わられて、手が出せませんでしたじゃ笑い話にもなりゃしない。動きのパターンを幾つか決めておいて、ファーに覚えてもらうのが良い気がする。
もちろん仔竜に、そこまでの知能があればの話だけど。
そんな事を考えていたら、段々とトリオでの戦闘行為が楽しみになって来た。お礼にラマウカーンの祠の前に、お酒を注いだコップを置いてあげる。
すると精霊ラマウカーンは、みるみる嬉しそうなダラケた顔に豹変して行った。どうやらお酒には、俺のまだ知らない魔力が存在するらしい。
一気にそれを煽って、お代わりを望む素振りの鴉モドキ。別にそれは構わないけど、仔竜について聞きそびれた事は無いかな?
う~ん、特にもう無いような気もするな……仔竜の普段の食事だが、その辺は自分たちと同じモノで全然構わないそうで一安心である。
ただしネムの命は1つきりらしく、死なせず大事に育てるように言い渡された。つまり俺たちプレーヤーのように、気軽に復活は無理らしい。
いやまぁ、この限定イベントではアバターの復活も1週間待たなきゃだけど。従者に関しては、そんな復活も許されてはいないとの話。
ゲームと言えども、命の重さに偏見などない。ちなみにファーの処遇も再確認されたけど、ここで戦闘参加を頼むと本気で命の心配が2倍になってしまう。
今まで通りで良いとの返事に、精霊は重々しく頷いたのだった。
そんな会話を経て、今俺たちは北東の海岸の端っこにいる。精霊ラマウカーンから、最後の最後に特別依頼を貰った時には驚いたけど。
それは一応、果実取りの後に取り掛かるって事で落ち着いた次第。
彼の話では、この森に新たな澱みが広がっているそう。どうも西の断崖周辺に、大きくて不穏な存在がうろついているらしい。
えっ、それって巨大キメラじゃないよねとの俺の質問に。強過ぎる敵ならば、無理に倒さずに追い払ってくれたら報酬を払ってくれるとの返答だった。
それも無理難題っぽいけど、最悪確認するだけでも良いそうな。そんな訳で仕方なく引き受けたが、難易度が高そうな依頼には違いない。
本当に人間使いの荒い精霊だなと、内心で思ったりもしたけれど。この鴉モドキは、支払いに関してはとっても太っ腹なんだよね。
そんな事より、新戦力のネムとのフォーメーションの確認が何より大事。頑張って訓練、そして根気強く教え込んだ結果、何とかファーは3つの作戦を覚える事に成功した。
それより何より、新戦力のネムはとっても強かった。この付近のフナ虫や飛び魚、それからクラゲなどは全く相手にならない無双振りを発揮してくれた。
試しに森に引き返してコボルトを狩るも、ほぼ一撃で蹴散らす剛腕振り。いや、メインの戦法としては、強烈な尻尾での一撃を駆使してるんだけどね。
飛行能力も何気に凄い、敵をまずスピードで翻弄する戦闘技能も侮れない。本当に産まれ立てなのか疑うレベル、俺より試合巧者かも?
ってか、これでレベル10って嘘みたいだ、他のモンスターのそれと比較すら可哀想な程である。うん、レア種って考えればステは軽く2倍で考えても足りないくらいか。
凄いなドラゴン、バリバリの戦闘エリート種族である。
ブレスの効果も試してみたが、どうも欠片3つ程度が適正の量みたい。それ以下だと威力が範囲にならないし、多いと大変な事になりそうな雰囲気。
これも例えば、欠片が炎の水晶のそれだと『炎のブレス』と属性を選べるっぽい優秀さ。敵の弱点属性が分かれば、ますます有利でそこを突ける訳だ。
いいねぇ、ファーに各属性の欠片水晶を渡しておこう。
「ネム、頑張ったらご褒美あげるからな。しっかりファーママの言うこと聞いて、向かってくる敵を倒すんだぞ?
でも向かってこない敵や、やたらと強い奴は頑張りすぎちゃダメだぞ?」
コミュニケーションは大事なので、たとえ相手の返事がなくても語り掛けに手抜きはしない。戦闘意識が強いのか、この仔は獲物を見掛けたら飛び掛かる習性がある。
それを好きにさせるのはいかにも不味い、ファーの手綱締めもまだまだ慣れているとは言い難いし。そして何より不味いのが、自分の実力を把握せず強い敵と対峙する事。
たった1つの小さな命、無駄に散らせるわけにはいかない。とは言え本人がイケイケの性格だから、放っておけば事故率は少なくない気もする。
そこは何とか周りとの協力プレイと手綱取りで、引き締めていく所存である。ファーも割とイケイケだから、心配は尽きないんだけどね。
だからと言って急速に魔石を使ってのレベル上げは、あまりやりたくない手法ではある。だって協力プレイの大事さも、ちゃんと知って欲しいし。
何より単独無双プレイは、俺の存在意義がなくなってしまう。
そんな訳で、チームプレイのために教えた合図は全部で3つ。それを踏まえての戦闘訓練は、北の森のコボルト君達に相手を願った。
もちろん最初は全く上手く行かなかったが、仔竜のネムも決して莫迦ではない。段々と要領を飲み込んで、背中に跨るママの言いたい事が分かって来た様子。
そこからは犬の躾と一緒、上手く出来たら食べ物をあげる的な。ファーも時々、そのご褒美を摘み食いしてるけどまぁ問題ないか。
そこは仕方が無いと言うか、彼女の個性でもある。しかし仔竜のネムの食欲は妖精の比ではないな……まさに底無しで、出されたモノをガツガツ食い散らかしている。
そんな30分程度の苦労が実って、インから既に2時間が経過。いま俺達がいる場所は、北東の海岸沿いのごつごつした岩場である。
師匠からの情報では、ここにも虹色の果実があるそうな。
――それを回収してから、ラマウカーンの依頼に取り組む予定。




