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ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第12章 ミュラ達がんばる!
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第89話

 俺たちは食堂に戻り、入り口の扉を開けて中に入った。


「ねぇねぇ、どうせならもっとおおきくしようよ! それなら、もっとのせれるよ!?」


「いやいや、でっかいのとは言ったが、流石にそれはでかすぎだろ……」


「ミュラちゃん、そんなの食べきれないよ」


『……まだ、やってたよ……』


 俺たちが中に入ってきても、3人は夢中になっていて気付いていない。

 不用心にもほどがあるぞ。

 コヨミの方を見ると、その視線に気付いたコヨミが軽く肩をすくめた。


「ただいまっス」


 コヨミの声で、3人の手が止まり、顔を俺たちの方へと向けた。


「あっ! おかえり! ナナちゃんのパパとママはどうだった?」


 ミュラの質問に、コヨミが頷く。


「問題ないっスよ」


 それを聞いた3人が笑顔で両手をあげ、同時に歓声をあげる。


「「「やった~!」」」


 そして、ミュラは紙を手にして、コヨミの方へと走ってきた。


「じゃあ、これつくれるね!」


 紙をぐいっとコヨミに突き出す。

 コヨミはしゃがんで受け取り、俺は横からのぞき込んだ。


『……』

「……」


 紙にはでかい丸があり、その上に小さい丸が無雑作に描かれ、棒が8本描かれている。

 そして、紙の右上には文字らしきものが書いてあった。


「このケーキ、どうかな?」


 どうかなと言われても……ナナが8歳になったんだなという事しかわからん。

 コヨミも同じことを思っている様で、困った顔をしていた。


「え、え~と…………お、おいしそうっスね! これならナナも喜ぶと思うっス!」


 そう言って、紙をミュラに戻した。

 言葉を濁して逃げたよ。


「じゃあ、さっそくつくろう!」


 ミュラはそう言うと、厨房の方へと駆け出した。


「あ、待て」


「へっ?」


 俺が止めると、ミュラが不思議そうな顔をして首を捻った。


「なんで止めるんだ? 問題ないんだろ?」


 ターンが椅子から降り、眉をひそめて近づいてくる。

 カルもその後に着いてくる。


「いや、ここで 作ら ない」


 そう言うと、一瞬食堂の空気が止まるのを感じた。


「……え? ゴブ、なにそれ!」


「おい、どういう事だよ!?」


「僕たちに教えてくれるって言ったじゃん!」


 3人が一斉に俺の方へと視線を向けた。

 ……まずい、言い方を間違えた。

 視線がめちゃくちゃ痛いぞ。


「まぁまぁ、落ち着くっス」


 コヨミが手を軽く出して、3人の視線を切った。


「作らないわけじゃないっス。ちゃんとしたケーキが作れる場所に、行くだけっスよ」


「ちゃんとした、ばしょ?」


「何だそれ? どこだよ?」


 その言葉にミュラが目を丸くし、ターンが首を傾げた。


「ここより道具が揃っている場所っス。どこかは~後のお楽しみっスよ」


 そう言って、コヨミは人差し指を唇に当て、片目をつむった。


「おお! コヨミおねえちゃんすごい!」


「どこなんだろ! 流石は姉ちゃんだ!」


「うん! 楽しみだね!」


 俺の時とは違い、コヨミに集まる3人の視線がキラキラと輝いているのが見える。


『……なんか、納得いかないな……』


 これだと、俺は何もしてないみたいだ。

 いや、交渉はコヨミがやってたし……何もしてないのと変わらないか。


「じゃあ! さっそくそこにいこうよ!」


「その場所が使えるのは夜だけなんっスよ」


「え~……いまはだめなの?」


 ミュラが口を尖らせる。


「じゃあ、それまでまた会議?」


 カルがミュラの持っている紙を見る。


「いや、今のうちに材料を揃えるっスよ」


「おかいものってこと?」


 ミュラの言葉にコヨミが頷く。


「そうっス。器具は借りれても、材料は揃えないといけないっスから」


「そっか、わかった!」


 ミュラが厨房から俺たちの方へと歩いてくる。


「で? 何が必要なんだ?」


 ターンの質問には俺が答えないとな。


「えと 小麦粉、砂糖、卵、バター、あとは……」


「くだもの!」


 ミュラが右手をあげて、紙をブンブンと振った。

 それを見てカルが指を立てる。


「絶対に必要だよね」


「だな」


 同意するようにターンも力強く頷いた。


「了解っス。じゃあ、みんな行くっスよ」


 コヨミの言葉に、俺たちは買い出しへと向かった。




「まずどこいくの?」


 先頭を歩いていたミュラが振り向く。

 コヨミが少し考える。


「ん~……とりあえず、近いとこから回るっスかね」


「わかった~」


 そう言いつつミュラは正面を向く。

 と同時にコヨミが目を細めながら口をひらいた。


「ちなみに寄り道はなしっスよ」


「――っ!」


 その言葉にミュラがビクリと体を震わせた。


「も、もちろんだよ~……なにをいっているのかな~あははは……」


 あの様子だと、買い食いを考えていたな。

 全く……ミュラの奴め。



 コヨミの宣言通り、無駄な寄り道はせず、俺たちは材料をそろえていった。

 そして、最後に向かったのは……。


「わ~! どれもおいしそう!」


 様々な果物が並べられた果物屋。

 果物の甘い匂いがたまらない。


「で? どれにするよ?」


「……そういえば、果物をのせるとは決めたけど、何をのせるか決めてなかったね……」


 ターンとカルのやり取りに、俺は力が抜けてしまった。

 おいおい、なんでそんな重要な事を決めていないんだよ。


「そんなの、ナナの好きな果物をのせるのがいいに決まってるっスよ」


 コヨミのアドバイスに、ターンとカルが同時に同じ果物の名前を口にした。


「「イチゴだ」」


 こっちの世界のイチゴ。

 赤色でサイズも同じくらいだが、形がある意味ですごい。

 何せ、でこぼこの無い綺麗な円錐だからだ。

 まさに小さなクラッカーと言ってもいいだろう。


「じゃあ、早速イチゴを……って、なんだ? あれ?」


 ターンが何かを見つけ、果物屋の奥へと入っていく。


「……っ! おお! すげぇ! みんな! これを見てくれよ!」


 1個の箱を手に取り戻って来た。

 俺たちは、その箱の中身を見て驚きの声を上げてしまう。


『マジかよ……』


「すっごくおっきい!」


「こんなの、初めて見たっス」


「大きすぎでしょ!」


 中に入っていたのは1個のイチゴ。

 しかし、その大きさは500mlのペットボトルくらいある。

 これはもう凶器レベルだぞ。


「なぁなぁ! これにしないか? ナナの奴驚くぞ!」


 まぁ確かに驚くだろうが……。

 俺はちらりと値段を見て、そちらの方にも驚いた。


『……高い……』


 イチゴの大きさもそうだが、値段の方もヤバい。

 何せ1個800ゴルドもする。

 普通のイチゴは10個入りで400ゴルドだ。

 なのに1個でこの値段。

 本当に適正な値段なのかも怪しいくらいだぞ。


「た、確かに驚くだろうけど……ターン、値段見た?」


「ん? 値段? ……1、10、100……はっ800ゴルド!?」


 ターンは値段を知った瞬間、すぐに台の上に置いた。


「……たかいね」


 ミュラが小さく言う。

 ターンが腕を組む。


「ああ……高いな……」


 カルがポケットを探り、財布を取り出す。

 そして中身を確認した。


「僕、今120ゴルド……」


「えーと……オレは……80ゴルドだ」


「ミュラ、100ゴルド……」


 3人合わせても全く足りないな。


「「「はあぁ……」」」


 3人は大きなため息をつき、ガッカリした様子で肩を落とした。

 それを見ていたコヨミが少し考え、口を開いた。


「これ、欲しいんスか?」


「……うん、ナナちゃん、ぜったいよろこぶとおもう」


「だな」


「絶対、喜ぶよね」


「そっか、じゃあ、ウチがお金を――」


「それはだめ!」


 ミュラがすぐにコヨミの言葉を遮る。

 ターンも強く頷く。


「それは嫌だ」


 カルも首を振った。


「買うなら、僕たちのお金で買いたい」


 3人の言葉にコヨミは目を細めて少し笑う。

 こう言ってくると思ってたな。


「そっか。じゃあ、みんなでお小遣いを貯めるっスね」


「おこづかいを、ためる?」


「そうっス。みんなで家のお手伝いをして、お小遣いをもらうっスよ。ウチも子供のころはそうやってお金を貯めたっス」


「お手伝い……か」


「母ちゃん、それで小遣いくれるかな……」


 ターンが不安そうに頭を下げる。


「そこはウチが事情を説明して、説得するっスよ」


 コヨミの言葉に、ターンが頭を上げる。


「……ほんとか!? だったら、やる! オレ、家の手伝いするよ」


「僕も!」


「ミュラも、がんばる!」


「よし、3人で絶対このイチゴを買うぞ!」


 ターンの掛け声に、ミュラとカルが右手を高く上げた。


「「おおおお!!」」


 そして、大きな声を上げるのだった。

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