第79話
日差しが気持ちいいお昼。
俺たちは、港町の大通りをのんびりと歩いていた。
大通りの両側には店がずらりと並び、大声で客を呼び込んでいる。
『今日も大通りは賑やかだな……』
まぁ、それがこの港町の良いところでもあるんだがな。
しばらく歩いたところで、ミュラがぼやいた。
「……へった~……」
その声に俺とコヨミはミュラの方を見る。
「どうしたっスか?」
コヨミが聞くと、ミュラはお腹を押さえた。
「おなか……へった~」
その瞬間、ミュラのお腹からグゥ~と音が鳴った。
いつもの聞き慣れた音だ。
「もう、そんな 時間か」
ミュラの腹の虫が鳴いた……という事は、もうお昼時というわけか。
そう思うと、俺も腹が減ってきたな。
「食堂 帰る? どこか 適当な店 探す?」
俺が問いかけると、コヨミは腕を組んで少し考え込んだ。
「ん~…………あっ」
コヨミが何かを思い出したように顔を上げる。
「そういえば最近、新しいレストランできたって聞いたっスよ」
「新しい……レス トラン?」
俺の言葉に、コヨミが頷く。
「そうっス、この近くにできたらしいっスよ。結構おいしいって噂だし、そこ行ってみるっスか?」
コヨミはそう言いながら、俺たちを見た。
ミュラはおいしいという言葉に、表情がぱっと明るくなる。
「いく!」
安定の即答。
「おいしいごはん、たべたい!」
『新しいレストランか……』
それは、かなり興味をそそられる話だな。
一体どんな料理が出てくるのか楽しみだ。
「行こう」
「決まりっスね」
コヨミは軽く手を叩いた。
「じゃあ、レストランに向かうっス」
コヨミが先頭を歩き、その後を俺たちはついて行った。
そして通りを曲がり、港の方へと歩き始めた。
しばらく歩くと、木造の建物が見えてきた。
入口の上には新しい看板が掲げられている。
そして、その店の前には行列ができていた。
「ここっス」
コヨミが指をさす。
レストランを見たミュラが目を輝かせた。
「わぁ……!」
レストランからいい匂いが漂ってきている。
この行列に、この匂い……これは期待が高まるな。
「それじゃあ、並ぶっス」
「うん!」
「ああ」
数十分後、俺たちの番が回ってきた。
コヨミが扉を開けると、カランと小さな鈴の音が鳴った。
レストランの中は……思っていたより広いな。
「いらっしゃいませ~」
穏やかな声で女性の店員がすぐに、こちらへ歩いてくる。
「3名様ですか?」
「はいっス」
「では、こちらへどうぞ」
店員に案内され、俺たちは窓際の席に座った。
椅子に腰を下ろすと、ミュラは周囲をきょろきょろと見まわした。
「きれいなおみせだねぇ」
「ほんとっスね」
コヨミも頷いた。
「こちら、メニューになります」
俺たちはメニューを受け取り開いた。
「んー……」
新しい店だと、何を食べるか迷うな。
肉……魚……どれにしよう。
「ん~……悩むっスね」
「ぜんぶ、たべたい!」
ミュラの奴、とんでもないことを言ってる。
そんな量を食べられるわけがないぞ。
「無理 だ」
「え~」
「えー……じゃ ない。おすすめ……聞く?」
俺の言葉に、コヨミは頷いた。
「そっスね。すみませんっス、このレストランのおすすめって何っスか?」
「そうですね……」
店員は少し考え、コヨミのメニューの1つに指をさした。
「当店のおすすめは、やっぱりこの麺料理ですね」
「麺料理っスか?」
コヨミが首を傾げた。
「はい。他の麺料理と違い、うちの麺は特別なんですよ」
店員の言葉に、ミュラが目を丸くさせた。
「とくべつ……?」
『ふむ……』
麺料理か。
この世界にも麺はある。
基本的に小麦粉と水を練って作るものだ。
現世界でいう、うどんのようなものだ。
特別になると、太さやコシがあるって事なんだろうか。
「どうするっス?」
コヨミは俺たちの方を見る。
その問いかけに、ミュラが右手を挙げた。
「ミュラ! それたべたい!」
俺も頷く。
「同じ 物、頼む」
「じゃあ、その麺料理を3つお願いしますっス」
「かしこまりました」
店員は軽く頭を下げ、厨房へと戻っていった。
三人で料理を待つ。
その間、ミュラはお腹を押さえながらそわそわしていた。
「まだかなぁ、まだかなぁ」
「もう少しで来るっスよ」
コヨミが苦笑しながら、ミュラをなだめる。
そして、しばらくしてから店員が3つの器を運んできた。
「お待たせしました」
湯気が立ち上る料理が、俺たちテーブルの上に置かれた。
それを見て、ミュラが思わず身を乗り出す。
「わぁ~!」
器の中には、たっぷりのスープ。
そして、その中には太い麺。
見た目だけなら、まさに太いうどんだな。
この太さなら、この世界では普通の部類だ。
スープも海鮮のいい匂いはするが……特に変わった感じはない。
中身を見て、コヨミは眉を上げた。
「パッと見は……普通の麺料理っスね」
「そう……だな」
俺はフォークを手に取り、麺を巻いた。
そして、麺を持ち上げてみる。
『…………ん?』
麺の色が白色じゃなくて黄色だ。
これが特別という事なのだろうか。
俺は、その麺を口へと入れた。
「もぐ……――っ!」
麺を噛んだその瞬間、俺の目が見開かれた。
この世界の麺は、小麦粉と水で作る。
だから食感はどうしても、うどんに近くなる。
だが、この麺は……違う。
この弾力。
このしなやかなコシ。
この食感は……。
『間違いない! これは……ラーメンだっ!』
見た目は太いうどんなのに、食感は完全にラーメンだ。
あの独特の風味とコシは、錯覚なんかじゃない。
『……』
俺は無言のまま、持ち上げた麺を見つめた。
「……? ゴブ、どうしたの?」
「ゴブくん? 口に合わなかったっスか?」
まさか、この世界で……ラーメンに出会えるなんて思いもしなかった。




