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白龍伝説 ~転生した俺は白き龍となり世界を救う~  作者: 鳥之羽
第一章 冒険都市アドミレス編
18/25

第十七話 第二次開戦


 Side ボロス


 アイルベット大森林、その浅いところに建てられた監視小屋。本来はアドミレスの冒険者が森に異変が無いか監視する目的のその小屋は、今魔物達に乗っ取られ、逆に街を監視する役目を担っている。


 とはいえ、監視しているのは魔物では無い。それは今回の魔物は正確には仲間同士では無いためだ。


 そもそも一部の種を除き集団行動は基本的にはしない魔物達。それが曲りなりにも一つの集団としてアドミレスを襲ったのは魔人『樹妖精(ドライアド)』の『魔紛』と呼ばれる技能のお陰だった。


 魔物とは生物ではなく、現象である。そこに心情などは存在しないが、逆に言えば自然現象だからこその傾向は存在する。その習性ともいうべきものはたくさんあるが、樹妖精が利用したのは『好みの魔素が存在する。』という習性だった。


 基本的に魔素を原材料、もとい食料としている魔物達は魔素の濃いところを好む。しかし一口に魔素と言っても、そこには種類がいくつかあり、つまるところ好みも存在するのだ。


 そこで樹妖精(ドライアド)は『魔紛』と呼ばれる花粉の魔素バージョンを分泌。魔物達の好みの魔素をばらまくことで移動を制御したに過ぎないのだ。


 簡単に言えば現在魔物達は『あ、おいしそうな匂いがするー』とフラフラとついてきている状態である。その匂いの先に人がいたから、じゃあ噛みつこうという、ただそれだけの関係でしかないのだ。


 樹妖精の真の意味での配下はギガントモールだけだった。そのギガントモールも現在、ハルにやられた傷を癒すため眠りについている。


 と、ここまで説明して何が言いたいのかというと監視に当たっているのは魔物達ではなく、そして面倒くさがりな樹妖精(ドライアド)本人でもなく――黒髪黒目の狼少年、ボロス・ロークだった。


(チッ。あの雑草。人を顎で使いやがって。)


 監視小屋の屋根の上。ボロスは槍を片手につい昨日まで暮らしていた街を睨みつけていた。……そこに少しの感慨、そして多くの罪悪感を抱きながら。

 あの街に何か恨みがあった訳では無かった。むしろはぐれ者である自分を受け入れ、妹の治療まで引き受けてくれたあの街には感謝の念しかない。もし自分の命を捧げることであの街の人達が救われるというのなら、躊躇なく差し出すことが出来るくらいには、あの街には思い入れがあった。


 ………それでも、その街を裏切ってでも、ボロスには救わねばならないものがあった。


(夜明けまで、あと一時間といったところか………。)


 少しずつ明度をあげて来た夜の闇を眺めながら、ボロスは開戦までの時間を考える。


 別にアドミレス側と開戦時間を示し合わせている訳ではない。ただ、当然のこととして開戦は夜明けと共に行われる思われた。

 何故なら、暗闇の中での戦闘は魔物が圧倒的に優位だからだ。暗闇の中では同士討ちが怖くて大規模魔術を行使出来ない上に、人間特有の群れとしての力も発揮しづらい。その条件で今だ1万以上残る魔物を殲滅する戦力は今のアドミレスにはない。


 唯一、あの高位結界を作った人間の魔力が朝まで持つかどうかだけが懸念点だが、まぁ、それぐらいは何とかするだろう。


 ――と、思っていたのが命取りになった。


「見つけた。」

「ッ!?」


 全くの知覚外。背後から聞こえた声に心臓が跳ねる。慌てて振り向いたボロスの視界に写ったのは――


「《氷の棺(アイスコフィン)》」


 ただ『白』一色だった。


Side ユキ


 「《氷の棺(アイスコフィン)》」


 ボロスの姿を発見すると同時にユキは術を発動させる。その声に応えるように冷気が一斉にボロスへと纏わりつくと、一瞬で氷の棺へと変わる。

 しかしそこで安心するユキではない。


「《氷の鎖(アイスチェーン)》」


 更に生成するのは大量の氷の鎖。それらは棺へと纏わりつき、その動きをより厳重に封じる。


「あの、ユキさん。ここまでやる必要あるんですか?」


 ユキに疑問を投げかけたのはテミスレーナだ。彼女はこれ以上ないほど氷漬けにされたボロスを見て、顔を青くしていた。恐らく彼女は中のボロスが生きているのかどうかが心配なのだろう。


 全く優しいことだ。しかし心配は無用である。


「そうだな。ぶっちゃけあんまり意味はないかもな。」

「で、ですよね!少しくらい拘束を弱めても――」

「こんなものなんの意味も無いから。」

「―――――――え?」


 そう。もしギルマス達に聞いたボロス・ロークの固有能力(ユニークスキル)が本当だとしたら、こんな拘束意味をなさないのだ。


「な、なにあれ………」


 疑問に首を傾げていたテミスレーナだったが、次の瞬間見たものに驚愕、そして恐怖の念の籠った声をあげる。


 そこに広がっていたのは『(あざ)』。

 黒い痣が氷の棺、そして氷の鎖に伝播していき、どんどんとその範囲を拡大していく光景だった。

 その禍々しさはユキをして顔をしかめさせるものだった。


 ――そして『痣』が全てに行き渡った時、氷全てが砕け散った。


「おはよう、ボロス・ローク。いい夢は見られたか?」

「あぁ、おかげさまでな。次はお前に夢を見せてやるよ。永遠のな。」


 そこにいたのは黒い痣を全身に纏った、無傷のボロス・ロークだった。


 そして衝突は一瞬だった。


「《咎痣》黒一筋」

「天元流 三之型 雪道」


 ボロスの槍とユキの刀が交差する。その衝撃波は周囲の木々をなぎ倒し、監視用の小屋を吹き飛ばし、誤魔化し切れない気配を持って、


――開戦の合図となった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 Side 樹妖精(ドライアド)


 辺り一帯に鳴り響いた衝突音。その音は近くで蕾の状態になっていた樹妖精にもしっかりと伝わっていた。


「ふわぁ、もうっ。一体なにごと?」

「いつまで寝ている愚図が。敵襲だ。」


 蕾が開き、中から出来て来た樹妖精に重厚な男の声が届く。その姿は相変わらず見えなかったが、いつものことだ。樹妖精(ドライアド)は特に気にしなかった。


「敵襲ぅ~?はぁ、あの犬、本当に使えないわね。レディの快適な睡眠すら守ることができないのかしら。」

「御託はいい。早くしなければ手遅れになるぞ。」

「そうは言ってもねぇ。あの厄介な結界がある限り私には手が出せないし、見たところ攻めてきてるのは一人なんでしょう?そんなもん犬に任しときゃいいのよ。」


 樹妖精(ドライアド)の視界に広がるのは、相も変わらず存在している憎き結界。昨日、あの手この手で破壊してみようと試みたものの、どうやら魔術そのものを妨害しているらしく、傷一つつけることが出来なかった。

 王手をかけたところで待ったをされたかのようで、心底腹が立ったがあと少しでそれも終わりかと思うと気分がよかった。


 あの街の人間達はどうしてやろうか。魔力が高い奴らは生きた肥料として一生生命力を吸い上げてやろうか、とかその他の人間は一人ずつ魔物共の餌にしてやろう、とかそんな自らの輝かしい未来を夢見て、樹妖精はうっとりする。


 自分達が先手を取られているという事実には気づかず。


「愚か者がッ!いい加減、夢から覚めろ!()()()()()()()()

「………………………………は?」


 頭に響く男の声を樹妖精(ドライアド)は最初理解出来なかった。いや、単純に認めたく無かっただけかも知れない。

 なにせ樹妖精(ドライアド)といえば魔術のエキスパートとも言われる魔物の一角。魔力抵抗が高い自分が人間の幻術にかかる訳が―――いや、そう言えば昨日、ギガントモールを吹き飛ばした、あの小さな影は確か――


 と、言う気づきが最後のトリガーとなった。


 パリン!

 目の前の光景がひび割れて、全く違う情景が樹妖精の視界に写る。


「「「三重詠唱『極炎球』!」」」

「ギュァァァァァァ!」

「前線、上がりすぎるなよっ!あくまで足止めに徹しろ!」

「おいっ!右翼にうち漏らし多いぞ!もっとしっかり狙えよ。」

「うっさいわねっ!暗がりでの魔術の使用は難しいのよ!」

「こっち殲滅終わったぞー。そっちのフォロー行く」

「助かるっ!おらよっ。死ね!」

「ゴォォォォォ。」


 そこには既に戦端を開いている魔物と人間達がいた。いや、戦闘というのはおこがましい表現かも知れない。そこにあったのは誰がどう見ても蹂躙でしかない。右往左往する魔物達を人間が一方的に殲滅していた。

 魔物達の動きが明らかに悪すぎる。指揮者である樹妖精の不在があるとは言え、ここまで一方的な戦いになる訳がない。その動きはまるで夢をみたまま動いているかのような……。


「おやおや。さすがにあなたの幻術は解けてしまいましたか。もう少しくらいは眠っててもらいたかったのですが――何か外から刺激でもありましたかね?」

「っ⁉」


 聞こえたのは重厚な男の声ではない。その正反対のような可愛らしい少女の声。しかし、その声には不思議と年期も感じさせる落ち着きがあった。


 声のした方に樹妖精(ドライアド)が振り向けば、そこにいたのは予想通り。


「『三大魔獣』の一角、《九尾》。」

「えぇえぇ。どうも初めまして。ハルと申します。冥途の土産にでも覚えて帰ってください。」


 手の平サイズの金色の狐、ハルは、その五本の尻尾をゆらゆらと揺らしながら機嫌良さげに樹妖精(ドライアド)に声をかけた。


【幻孤】夢幻演上

 ハルが樹妖精(ドライアド)、ならびに全ての魔物にかけた術である。範囲内にいる全ての敵対生物に強制的に夢をみさせる幻術。

 さすがに今回は対象が多すぎるので、ほとんどの魔物にかかっているのは意識が朦朧とする程度の効果だが、逆にそれだけの効果があれば、専門家である冒険者にはほとんどの魔物がただのカモでしかなくなる。


 一方で樹妖精(ドライアド)にかけていた夢幻演上は割と本気のものだったのだが、破られてしまった。

 とは言え別にハルは落ち込んでいない。むしろ大歓迎。樹妖精(ドライアド)が起きてくれるのを今か今かと待っていた側なのだから。


「やはり【幻孤】はダメですね。あなたのような魔力抵抗の高い人には簡単に解かれてしまいますし――何より性に合わない。」


 今回、ハルに任された任務は二つ。

 一つは魔物達の弱体化。もう一つは樹妖精(ドライアド)の足止め、そして出来る事なら討伐。そしてユキから直々にこの任務を果たすためなら全力の行使を許可されている。


 ハルがご機嫌なのも当然のことだろう。


 昨日から出会う人、出会う人。自分に対して有利な能力を持つものばかり。その上で主であるユキには怒られて、怒られて、怒られ続けて。全力も決して出すなと何度も念を押されて。


 つまるところストレスが溜まっていたのだ。どいつもこいつも魔獣の王たる自分を蔑ろにしすぎである。


 と、思っていたら、その主から『全力を出していい』と来たものだ。これで喜ばない奴は魔獣じゃない。


 思わずニヤけてしまうというものだ。


「全く、起きてしまったものはしょうがないですね。えぇ、本当にしょうがないことです。

あぁ、安心してください。私の魔力は昨日から連戦、特にあのゴキブリとの戦いで結構消費していまして。その上、この広大な範囲の魔物全ての幻術をかけ続けなければいけません。

つまるところ全然、全力では無いのですよ。だからもしかしたらあなたにも勝機があるかもしれませんよ?


じゃぁ、始めましょうか、樹妖精(格下)。私達の戦闘(あそび)を♪」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 Side ミレン・スウィー


「始まったか。」


 ミレンがいるのはアドミレス内部に設けられた作戦本部だった。現在、マザースライムのスライム生成能力が封じられているミレンの実力は普段の半分以下にまで落ち込んでいる。


 それでも尚、戦力的には一線級ではあるものの、シンクロスライムなどによって連絡網を構築しているミレンが万が一にも死ぬわけにはいかない為、前線からは離れたのだ。


 地面に擬態しているマザースライムの上であれば、ミレンのテリトリーだ。そこにいる人や魔物の数の把握は容易に出来る。現在のミレンの仕事は敵と味方の数を判別しながら、各所に連絡を入れる係だった。


 ちなみに元々この役目についていた冒険者がいたが、ミレンが交代したので仕事がなくなり最前線に送り込まれた。よって現在作戦本部にいるのはミレンだけだった。


 トントン

 しかし、戦闘が始まるとすぐに来客が現れた。


「ガハハハッ!吾輩、参上である!」

「失礼致します。スウィー様。」


 入って来たのはギランとテシラの二人組だった。

 ちなみにテシラは、予知により大体全て知っているので、当然今この場にいるのがスウィーではなく、ミレンであることも分かっているが、ギランの手前ちゃんと配慮していた。


「ギラン君………君、絶対安静じゃないの?」

「うむ。しかし【情熱】などという固有能力を持つ吾輩に静かにしていろとは、酷なことだとは思わんか?」

「その結果、死ぬのは君だけどね♪」

「間違いないな!しかし吾輩の命は吾輩のものである。その使い道も責任も吾輩のものだ。」

「………………あっそ。」


 入って来たギランの姿はお世辞にも無事と言えるものでは無かった。

 治癒魔術をもってしても、無くした左腕と左足は戻っていない。歩くことも困難なので車椅子に座り、それをテシラが押している状態だった。

 他の傷も決して治ってはいない。どうやら一時的に傷口を閉じることはできたようだが、なんの拍子にまた開くか分からない状態だろう。外からは見えないが内臓だってボロボロのはずである。


「で、なにしにきたの?」

「あの白い少年、ユキといったか?どうやら吾輩が彼を焚きつけてしまったようなのでな。その責任は取らねばならないだろう。」


 本当にいつ死んでもおかしくはない身体。それでも見届けなくてはならないのだ。

 ギランがユキに言った言葉に嘘はない。キースを助けたことに後悔はない。

 ただ、それはそれとして、万が一にも自分のせいで多くの若者が命を落とすようなことがあってはならない。そんなことになるくらいなら老い先短いこの命、自爆でもなんでもして使い切ってやろう、とギランは考えていた。


 だからこそ、スウィーの元に戦況を見に来たのだが――


「さっき自分の命は自分の責任って言ったじゃないか。ったく本当に子供に甘いね、君は。」

「それで、実際のところどうなのだ?勝てるのか?」

「彼の言葉を信じるならね。」

「ほう………珍しいな。」

「なにが?」

「いや………………なんでもない。」


 そこにいたスウィーの表情は穏やかなものだった。いや、半分スライムであるスウィーの表情は変幻自在で読み取るのは相当に難しいのだが、そこはギランだって長い付き合い。雰囲気が柔らかいことくらいは分かった。


 何より、あの疑り深いギルドマスターが言葉だけで人を信じたというのが信じがたい。それも精々が1日前にあったばかりの素性の知れない子供の言葉を、だ。


「ま、君の言いたいこともわかるよ。私も決して彼を完全に信用したわけじゃないしね。」

「ほう?」

「………ギラン君。君は、昨日ユキ君がこの街に来た時のことを覚えているかい?」

「? あぁ、突如大きな魔力が迫ってきたからな。お主が止めておらねば、吾輩が迎撃にでていた。」


 スウィーからの唐突な質問にギランは首を傾げつつ答える。

 つい昨日のことだ。忘れる筈もない。

 街の近辺にいきなり大きな魔力が現れたと思ったら、ものすごい勢いで迫って来たのだ。ギラン含め多くの冒険者が迎撃のために向かおうとしたが、そこをギルドマスターであるスウィーが止めたのだ。

 そう言えば、あの時止められた理由も聞けずじまいだったのだが…………。


「あの魔力の正体は、『三大魔獣』《九尾》であるハル君だった。でもね、彼女は問題じゃなかったんだ。彼女のことは最初からどうでもよかった。

 それよりも問題だったのは、ユキ君の方だよ。彼はこの街に来た時、氷の床を生成して滑ってきた。――――一切の魔力を使わずにね。」

「ッ⁉ バカな!魔力を使わぬ、魔術行使だと⁉」

「それどころか、彼自身から全く魔力を検知できなかった。そこにぽっかり穴が開いたみたいに、彼の身体のある部分だけ、魔力が存在してないんだ。」

「…………それは。」


 ありえないこと、とギランは考える。

 この世に魔力が存在しない場所は存在しない。魔力の濃淡、増減はあるが、無というのはありえない。更に言えば、そもそも人間は生命活動の維持に魔力が必要のはずだ。

 それを無レベルで隠蔽するなど、できるはずもないし、もっと言えばする意味もない。

 魔力隠蔽に魔力を使い、その魔力を隠すために魔力隠蔽をする。魔力隠蔽はどこまで行ってもいたちごっこな分野であり、結果的に薄めることはできても、無にすることは不可能なはずだ。


「彼は存在からして余りに異質だった。」

「それで、ボロス少年を先に送り込んだのか。試金石にするために。」

「怒らないでよ。一応、私は止めたよ。それでも飛び出していったのは彼自身だ。」

「飛び出していくのをわかったうえで、拘束もせず好きにさせたのはお主であろう。」

「………本当に君は子供に甘いなぁ。まぁ、でもそうだね。彼であれば、いい指標になるかもと思ったの事実だし、これに関しては責められてもしょうがないかな。

 でも、それこそ子供の喧嘩だと思ったんだ。異質とは言え、ユキ君はどう見てもまだ子供。私ならいつでも止められるし、だったら一回ぶつかっておいた方が、後々の為になるかなって。」


 スウィー・ミレンの二つ名は『万能軍隊』。どんな状況、どんな相手であっても、相性よく戦うことができるが故に『万能』。

 天才であるボロス・ローク、異質であるユキ。その二人を相手どってなお、『対応できる』と自信をもててこその『万能』だ。

 だが――――


「でも、ユキ君の異質さは私の想像を超えていた。」

「………そこまでか。」

「ボロス君とユキ君の戦闘。最後にユキ君は何らかの固有能力(ユニークスキル)を発動しようとしたんだ。何かはわからない。でも―――ダメだと感じた。」

「ダメ?」

「うん。ただの直感だけど、マザースライム含め、私の全神経が叫んだんだよ。―――あの能力を発動させてはいけない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――ってね。」

「世界を滅ぼす力…………。」


 固有能力(ユニークスキル)保持者は多くはないが、とは言え少なくもない。その中で、有用な能力を持つものは少ないし、更に強力な能力となるとほんの一握りになるが――――それでも、いない訳では無い。

 実際、世界を相手取って戦える個人というのは、この世界の歴史上何人か存在する。

 だが、事実として今も世界があるように、実際に滅ぼせた人物は存在しない。

 そんなことスウィーもわかりきっている。なんだったら一級冒険者かつ長寿であるスウィーはギラン以上に最高位の存在を見てきている。

 そのスウィーをして、発動前から『世界を滅ぼす力』と言わしめる能力とは…………。


「であれば、なおさら危険ではないか?」

「危険なのは百も承知だよ。でも、どんな力も結局は使いようだよ。彼に世界を滅ぼす力があるなら、それは世界を救う力を持っていることと同義なんだ。滅ぼすか、救うか、その力の使い方を見極めるべきだと考えたんだ。」

「何故、わざわざ今、ここでなのだ。奥の手を使えば、この街の役目を果たすことはできる。わざわざ賭けにでずとも…………。」

「それは…………。」


 ギランの懸念はもっともだとミレンは思う。彼の言うことは正しい。

 現状、ユキの力を借りずとも、最低限の目的は果たせるのであれば、イレギュラーな要素を入れるべきではない。

 それは本来、冒険都市の長ギルドマスターとしてミレンが下すべき合理的な判断だ。

 とは言え、一応反論もある。

 ここでユキの存在を無視して、彼の見極めを先送りにするのはどうなのか。

 果たして魔物の群れ以上に危険な可能性もあるユキを放置するのはギルマスとして責任放棄ではないか、などなど。


 だが、それは建前だ。嘘ではないし、正論ではあるけど、本心じゃない。

 今、この場にはギランとテシラしかいない。であれば、建前を使う意味はなく、つまるところ、ミレン・スウィー、そしてスウィー・ミレンの心をしては――――


「それは勿論。彼の言うハッピーエンドとやらを拝んでみたいからさ♪」




 大変長らくお待たせいたしました。

 本日から随時、更新を再開したいと考えています。

 中途半端な状態で長らく放置していたのにも関わらず、ブックマークをし続けてくれた方がいたことを大変うれしく思っています。これからもどうか本作を楽しんでいただきたいと考えています。


 また、これからは本作品以外の作品も制作していきたいと考えています。本作同様に拙作ではありますが、公開した際にはそちらも楽しんでいただけるととても嬉しいです。


 最後に改めて長い更新中止申し訳ありませんでした。

 最低でも現在の冒険都市編までは書き上げたいと考えているため、ユキ達の冒険に付き合っていただけると本当に嬉しいです。

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