第六十一話 触手の林が見える、見えるぞ!
出口から一歩踏み出した瞬間、サーバルキャットが襲ってくる。だが、反射による八咫の速射で事なきを得た。
「知覚範囲外から一気に来たんですヨ!まだオレの技量が足りてないかぁ。精進しねぇとなぁ」
「サーチャーもまだまだですね。高速移動に対応できませんでしたから」
愚痴を零しつつも、それの速度が異様に速過ぎただけである。今現在、八咫の感知能力範囲は百メートル前後近くあり、それより遠くから来たのである。チーター並みの速度で迫るのが通常でないと信じたいところだ。出る前から気づいていたとしても、異常な感知精度が際立ってしまう。
次にエンカウントしてしまったのは、チーター。しかし、格好が普通のそれとは違っていた。爪や毛皮に、青光りしている電気のようなものが見えているからだ。追撃にと毒々しい色と液体を滴らせているサーバルキャットも襲う。お替りどうぞ、と言わんばかりに次々と襲ってくる。
「私の敵をそして何もかも 全てを斬り伏せなさい!〝ウェイクアップ・マイナイト〟、石塔の兵よ 壁として防ぎなさい!〝クリエイト・タワーゴーレム〟ッ!」
「白き力は群れとならん!【召喚術・召喚:白の武者】」
二人の詠唱により、白銀の騎士と塔型のゴーレムが作られ、〔白の武者〕が二十体ほど召喚された。これにより、一定の攻撃は防がれたが相手も甘くは無い。連撃による連撃で数が減らされていく。鴉狐達も勿論応戦はしているが、成果は芳しくない。八咫の速連射やサーチャーによる自律射撃、鴉狐の雷と触手で数は減る。このままではジリ貧であろう。一気に片付けられれば良いのだが、そこまで話は上手くない。
「足元、気を付けてよぉ〈震脚〉!〈インパクトハンマー〉ッ!」
揺れる、それも地割れと地面からの槍を伴って。この攻撃でも数はそこまで減らせなかった。追撃にと、鴉狐の触手がうねる。敵の影、草の影、影と言う概念のいたる所から、黒く長い極槍が現れ刺し貫く。
「もう一度行くわよぉ〈震脚〉!」
また新たなる影の登場により、殲滅速度が跳ね上がる。残りの数が少なくなってきたところで、八咫が矢を放つ。それが最後の魔物を倒したところで、戦闘は一旦の終わりが見えた。
「何でこんなに増えたんですかねぇ。特に音は出してない筈ですシ?」
「周辺感知能力の差だよね」
「グフゥ」
「索敵能力…かしらぁ?」
「ガハッ!」
「八咫さんのライフが、もう少しで一桁行きますよ?」
「まだまだ大丈夫ってことだよね?それ」
「ええ、はい。そうですけど?」
「ひ、ひでえ。そりゃひでえヨ。ルクハの旦那」
八咫にダメージを与える雑談―――もっとも冗談で話しているし、当の本人もそのつもりである―――を挟みながら、反省会を行う。それに加えて、簡易的な整備なども。
何とも言い難いが、力のある装備やスキル、魔術を持っていながらも、それに振り回されている感が否めない。本人たちも振り回されるのではなく、振り回す側になろうと努力はしているが。まだまだであろう。
小休憩が終わったところで、移動を開始する。さっそく索敵に反応したのはネコ科の群れ、ライオンであった。オスメス両方が居る群れで襲う。奇襲なんざ糞くらえ!と言うほどの猪突猛進ぶりである。大きさも通常のそれとは大きく違い、その重量で襲われては堪らない。ただ、アルマジロの一見があり初見では無いものの、迫力の種類が違う。咆哮を放ちながら、前進する姿は恐怖を覚える。
しかし、やはりアオナガさんの方が幾倍も危険である。この群れはただただ、体格を大きくしただけの魔物だったようで、現実よりも身体能力が高く武器もある一行に刈り取られた。個体の強さは有れど、お替りもあるぞ!状態のあれの厄介さよりはマシである。
サーバルに見つかる前にサッサと片づけをし、駆け足を始めるが生産職のルクハは追いつけない。そのため、東雲を召き出す。
「東雲!駆けて!」
念話は召喚者しか聞こえないので、傍から見れば動物に声を掛けている人でしかない。日常でも偶にいるので奇妙ではないが、違和感は無きにしも非ずである。
東雲の駆ける音で感づかれたのか、サーバルが襲う。しかし数匹しか居なかったのか、脅威には足り得ない。速い的を狙うが如く八咫が撃ち落とし、サーチャーの拡張装置のアームで回収されていく。
数が少なければなんてことは無い。だが、咆哮を一つ相手が上げると状況が一変する。通常の生態系なぞ無視するように、多種多様な肉食動物が襲ってくる。中には二足歩行のサーバルキャットや、筋肉が膨張し過ぎて最早奇形の域に達したチーター、今までに見た肉食系のごった煮合成獣、美しさすら感じる洗練された体形のヒョウ等であった。
鴉狐等の攻撃方法は特には変わっていないが、戦闘をしている内に成長を続け殲滅速度が上がっている。一部で苦しい場面も見られたが、他の面々がサポートをし危機から脱した。見どころと言えば、触手の攻撃が多彩且つ滑らかになっており、生き物に見える点であろうか。本音を言えば気持ち悪いと言う言葉が浮かぶであろうが、言わぬが花である。