第27話 緊迫中
「右翼の人はお断りです」
あー。やっぱりそうかー。
何となく、嫌な予感がしていた。そして、その嫌な予感は見事当たった。ああ、こいつもやばい奴だ。
しかも、今度はおそらく左翼だ。
右翼の人はお断りですという言葉と、その前に話していた平和を愛する。この2つの言葉から推測してみると左翼の人としか考えられない。
ああ、何でこのクラスは右翼が転校してきて、落ち着いたと思ったら左翼が転校してくるっていうクレイジーなクラスなのだろうか。
クラスメイトもやばい人が入ってきたということだけは察したようだ。
少し教室内がざわざわする。
しかし、どうして中園先生はこのような変な人物が入ってきても何とも言わないのだろうか。中園先生のその神経の図太さがとても気になっていた。
さて、転校生ナンバー2の福島がおそらくターゲットとしている相手は転校生ナンバー1の相崎だろう。
諠譁を売られた相崎。果たしてどのような行動をとるのか。
クラスメイトはこのクラスの右翼と言えばあいつだということを理解しているからかなり緊迫した空気となっていた。
この福島の言葉に相崎は反応するのか。
ごくり。
緊張のあまり思わずつばを飲み込んでしまった。
とてつもない緊迫した空気が教室に漂った。これが、高校の1教室の中の空気かと疑うぐらいものだった。
ガタッ
椅子から立ち上がる大きな音が緊迫した空気が漂い静かになっていた教室に響き渡った。
立ち上がった人物。それは、案の定相崎だった。
この2人の対決が始まろうとしている。初対面の2人。右翼と左翼はどのような行動に出るのだろうか。
「久しぶりね。福島さん。相変らずお花畑な脳内は変わっていないようね」
「ええ、相崎さん。あなたこそその頭の腐った武力主義はお持ちのようね。人を差別することしかできない右翼主義者は健在のようね」
バチバチ
2人の間に火花が散ったような気がした。
しかも、2人はどうやら知り合いだったらしい。
様子を見る限り険悪そうな中であるのは一目瞭然だった。
こんな仲の悪い2人がこの教室に入ることは俺達にとってとても不都合なのではないか。こんなクラスでやって行けるのかとても心配に思ってしまう。それは俺だけでなく他のクラスメイトも同じようなことを思っているはずだ。
「へえ、左翼風情が」
「ああ、右翼が偉そうに」
2人の会話は白熱し始めていた。
このままだと朝のHRが終わらない。
誰か、止めてくれないだろうか。俺らは思っていた。
そこに1人の男が立ち上がった。
「2人とも一回落ち着かないか。ここは、学級委員長の俺に免じておとなしくしような」
立ち上がったのは、学級委員長の渡辺だった。
このイケメン野郎と思ったが、タイミング的にはナイスだ。よくやった。俺の心の中では拍手大喝采だった。普段は気に食わないが。
他の男子も内心そうみたいで顔の表情を見ると何とも微妙だがうれしそうでそれでいてむかついているような相反するような感情を抱いているのが俺でもわかった。
せめて、ポーカーフェイスでいおうぜと俺は思ったが、まあ気持ちが分かるから何も言わないでおいてあげる。
「「うるさい」」
「は、はい……」」
しかし、渡辺は一瞬で説き伏せられた。
はい。とおとなしく渡辺は引き下がって席に座った。
おいおい、委員長。それでいいのかよ。
他のクラスメイト全員が委員長に向けて視線を向けるが、委員長は俺らに目線で「いやいや、あれは無理だよ。俺じゃあ無理だ」とアイコンタクトしてきた。
「ねえ、野田君」
「は、はいい」
相崎に急に呼ばれた。
俺はそれがとても急であったため声が裏返って返事をした。
「野田君からもこの女に言ってやってよ。左翼なんてとても下らないなんて」
「……」
ああ、どうやら俺はついにこの争いに巻き込まれることになってしまった。しかも、クラスメイトの前だぞ。
俺が、元右翼だとバレてしまうではないか。
俺がそれをとても気にしているということを相崎は知っているのだろうか。いや、知っているだろう。でも、この左翼少女の福島さんとヒートアップしているがゆえにそのことを忘れているに違いない。だから、俺のことをすっかり忘れているのだと思う。
じゃあ、俺はどうするか。
俺は、この後どのようにしてこの場を乗り切るか。
俺は、一生懸命考えてある一つの答えを出した。
その答えとは──




