11剥き目・説明の昼下がり
グーテンタック!ユーリだ。
奇しくも前世と同じ5歳で人殺しになったり、親のいない寂しさに涙したりしたあの日からおよそ3年。
8歳になりやした。まあ体が大きくなったくらいで特に変わることも・・・あるね。
身体能力がだんだんと人の道から外れてきてる気がする。特に筋力とかがおかしい。
普通8歳の子供は素手で木を殴り倒したりできない。まあ本気で殴って、大木ではない普通の木を、という程度ではあるけど、充分化物に両足の脛まで浸かった状態な気がする。
最近のアナライズでは人間?だったのが人間??になってたり、補足に[毘沙門天使]という二番煎じなのが加わったりと、その変化を俺に知らせてくれるしな。
一応自分の意志でコントロールはできてるからニーナの双丘が握りつぶされるような事にはなってないけど、これから先どんどん強くなっていったらどうなるかはわからない。
なにせまだ8歳だ。精通も迎えていないのである。心配でたまらないのである。
まあ感情にも影響されるみたいだし、今のところ詳細を調査中って感じだな。
「ユーリ様、お食事の用意ができました」
ニーナがそう言って、テーブルに座った。
テーブルは6人くらいが悠々と座れそうなほど広いけど、今はまだ2人しかいないのが寂しく感じる。
テーブルの上には見るからに美味しそうな――この3年度大きな進歩を遂げたニーナの手料理が並んでいた。
最初は酷かったんだ。なにせ俺が指導するレベルだったからな。
初めてニーナの料理を食った時は危うく気絶しそうになる程の刺激的な味がした。
カカオ99%チョコレートに酢をぶっかけてタバスコを垂らしたような味だったと記憶している。ちなみに卵焼きである。
二人で何故か並んで号泣しながら特訓したのは今では良くも苦い思い出といったところか。
とにかくニーナの料理の腕は劇的に成長し、今やそのへんのシェフにも負けず劣らずの腕だと評価している。
「待って、あと一匹だから」
そんな俺は窓を開けて――開けたところは外と繋がる不思議仕様――左目を瞑っている。別にウィンクとかキモいことしてるわけでは断じてない。
今、仕事中なのだ。
俺は、体に似合わないとかそういうのも飛び越えてしまったようなサイズの銃を抱えている。対物ライフルの中でもアンチタンクとか物騒な名前がつく大型ライフルである。弾のサイズは、ギャグか?!ってくらいにデカイ。
ベースはアンツィオのMAG-FEDで、二脚を窓の淵に乗せて固定している。
反動が、生身で撃ったら肩が壊れるレベルなので身体強化は欠かせない。
スコープの中にゴブリンが映った。距離は大体2キロ程。
正直言ってチートな肉体と身体強化のいろいろな補正が無いと当たる気がしない距離。
だが裏を返せばそうすれば当たるわけで、仕事中にあくびが出るほどには安全な距離だ。
呼吸を整え、しっかりと狙いを定めてから引き金を引いた。
銃口は窓の外に飛び出しているため少しはマシになっているだろうが、それでもこいつの銃声は五月蝿い。まあ前世の戦場で近場にRPGが落ちた時ほどではないか。
スコープ越しに見たゴブリンは胴体だけが無くなって、四肢と頭は花火のように吹き飛んだ。
「ストライーく」
どちらかというとボーリングの方かな。
まあこれで久しぶりの仕事は終わりだ。
ぶっちゃけ働かなくても金は十分あるし、節約もしているから何も問題ないんだけど・・・除名されると面倒だからね。
「おめでとうございます。食事にしましょう」
窓を閉めて銃をしまう。
「そうだな。手洗ってくる」
んで何から除名されるって、冒険者ギルドだ。
一攫千金夢見て山へ洞窟へと旅に出る、そんなロマン溢れる職業、それが冒険者。まあ現実はもちろんそんな簡単じゃないが、金に興味ない俺にはちょうどいい職場だったりする。
半年に1回依頼を受けてれば特に何も言われない放任主義的な管理制度のおかげである。
「今日のランチは何ですか?」
「今日はカレーです」
でも働かないと暇なんだ。娯楽なんて殆どないからな。音楽やら美術やら舞踊やらそんな高尚な趣味は前世から持ち合わせていなかった俺は、とにかく魔法と銃とニーナで生きてきた。
特にニーナがいなかったらとっくに今生を放棄していたに違いない。ちょうどいいサイズに詰まった夢と希望が俺の心を掴んで離さない。
俺も掴んだ手を離しはしない。
「いただきます」
「いただきます」
ああ話がずれたな。
冒険者ギルド、名前の通り冒険者の為のギルドで、国に属さないのに国からの運営金は出るというなんかグレーな組織だが、どの国にもあって重宝されている。
入会するのはとっても簡単。銀貨3枚払って、割とてきとーな個人情報を紙に記入していけば次の日にはパスポートに似た薄い冊子が会員証としてもらえる。それで晴れて冒険者である。
このギルドカルテがかなり便利で、身分証明に銀行通帳、場所によってはクレジットカードの役割まで果たしてくれるという優れもの。カルテ同士なら商取引もできちゃう。
それだけでなく、依頼の詳細も魔法で浮かび上がる素敵仕様。何でもギルド内の魔道具と繋がっていて、情報の送受信ができるらしい。これで依頼の報酬も自動振込にしたり、自動で引き落とされたりする。引き出すのも魔力認証が必要なので防犯もばっちりである。ただ紛失すると金貨1枚を取られる恐ろしい品でもある。これで破産した冒険者も少なからずいるらしい。
ただ一般人には広まってるわけではないので、普段使うのはやっぱり現金だったり。商人とかとの巨額の取引ではやり取りが楽になるんだろう。
ちなみにこの世界のお金は、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、王金貨となっていて、100枚毎に一つ上の硬貨1枚という計算。銅貨1枚は大体10円から20円くらいか。まあそんな感じ。
で、登録された冒険者にはランクがあって、ランク1からランク9までの9段階。ランク9の冒険者は今のところ3人だったか4人だったか・・・とにかく少ないらしい。
まあこれにも理由はあって、依頼される仕事自体も同じようにランクで分かれているんだけど、8ランク以上の依頼なんてのは早々出ないのだ。
そしてランクを上げるには昇格試験として自分のランクより1ランク上の依頼を受けるか、自分のランクの依頼をいくつもこなしてギルドに認められるかしないといけない。
つまりは8ランク9ランクに匹敵する冒険者は意外といるだろうということ。でも冒険者達は意外とランクに固執するから困ったものだ。
と、それは置いといて、俺のランクは現在2で、名が売れていたり、盗賊から王族を助けたり、突発的な強力モンスター襲来から街を救ったりもしていない。
俺は「働いて金を稼ぐ」より、「趣味がてら仕事にしてみた」くらいの感覚で前世を送っていたので、どうも働くということに苦手意識が強い。
戦闘なら大歓迎なのだが、ランク1の依頼の殆どは採取。そして報酬は多くて銀貨1枚。
信じられるか?一日中駆けずり回って土を掘り返し、雑草まがいの草を集めて千円だぜ?やってられねーよ。
で、なんでそんなやる気のない俺がランク2に上がったのかというと、ニーナが勝手に俺とパーティ組んで仕事してたから。
パーティは確か6人まででひと組、もう少し大規模なものでクランてのもあった気がするけど俺には関係ないかな。
パーティを組むのは申請して許可が下りればなれる。依頼を受けるときにパーティで受けると言えば、例え一人で全てこなしてもパーティでの依頼達成になるわけだ。
それでニーナがせっせと採取の仕事をこなして、いつの間にかギルドカルテがランク2になっていたのである。
ニーナ、恐ろしい子!
なんか話し聞いてみたら、「ユーリ様はすごいのですからすごくなければいけません!」みたいなことを大層不満気に小一時間ほど語られてトラウマになった。
どうも俺にやる気が見られなかったり、周りが俺をただのガキだと思ってるのが嫌だったらしい。
いいけど俺の自慢を俺にするのはやめてほしいね。恥ずかしくて死にたくなるから。
まあ晴れてランク2になったので、討伐系の依頼が増えた。というわけでこれからは仕事増やそうと思った次第だ。そして今日の依頼――ゴブリン5匹の討伐だったわけだ。
昼食を食べ終わったら、わざわざ耳を回収しに行かないといけないが、ゴブリンを食うような魔物は近くにはいなかったので、食事の間くらい放置していても大丈夫だろう。
『転移』を使えば距離の問題は無いに等しいし、今日の午後からはのんびりしよう、ニーナの胸の上で!
「ごちそうさん」
「お粗末さまです」
あ・・・あのひょこひょこ動く耳も捨てがたいなぁ・・・。
説明でここまで埋まってしまうとは思わなかった・・・
いつの間にやらお気に入りが40件超えてたり、もう少しで1万pv行きそうだったりで、ほぇ~っとなってます。
これからもどうぞよろしく




