妹姫の宣言
主人公は優しすぎると妹にすら言われるという話。
大陸の北に位置するまあまあ大きな皇国。
サヴォア皇国。
その第二皇姫、エメロード・ツェーリエ・フェン・サヴォアには従妹がいる。
それがルシンディエタ・エリューシアナ・フィル=フェン・マリアナ=サヴォアだ。
皇国第一皇姫にして皇国首都ルルノイエのルルノイエ大聖堂の枢機卿(皇国一、大陸でも三指に入る権威の高い教会の最高権力者)であり、魔法使いとして最高の位階“白”を持つ、そして名前に付いた称号が示す通りに“光”の属性を持つ聖女の事だ。
皇家に近い血筋のない貴族を母親に持ち皇家特有の銀の髪、銀の瞳を持っている。
私はくすんだ茶色の髪に、緑の瞳しか持っていないのに。
私は皇王の直系であり、この色は亡き母上の色だ。
くすんだとはいえ、アッシュブラウンの髪は私は好きだし、緑の目は嫌いじゃないのに、
家臣供はぶつくさと皮肉と冷笑を浴びせる。
皇家の色をもっていない皇姫、と。
逆に従姉は、望んでいないことなのに銀の髪に銀の瞳を持って生まれてきた。
しかも、容姿は伯父上、もといライグーン皇太子殿下にそっくりだ。
従姉は、自らが欲しいとも思っていない礼賛を浴びる羽目になった。
どちらかが逆なら、どちらも疲れなかっただろうに。
私は皇位継承権が従姉よりもしたなのだ。
従姉の父親は私の叔父に当たるライグーン皇太子殿下。
戦争で死んでいなかったら皇王だった。
つまり、従姉の方が血筋の正当性がある。
故に現在の皇王の子供である私と兄上を差し置いて従姉は継承権が第一位なのだ。
本人は破棄しようとしているが、サヴォア皇家には皇族が少ないのでしようにもできないらしい。
そもそも、あの従姉の上に王冠なんて似合うわけがない。
物理的というか外見的にだったらこの上なく素晴らしく似合うだろうが、
私が言っているのは精神的な意味だ。
政治的に差支えが出るほど、優しすぎるのだ。
人を踏みつけ競争することを厭い、
争い事は苦手で、権力闘争に興味もなく、
天に近い血筋を持ち、庶民からすれば天上人にも値する身でありながら、
路傍の石ですら希望と未来を与えようとする。
そんな、従姉だ。
最初は性格の悪かった私にさえ、態度を変えず手を伸ばし続けた人だ。
陽だまりの様に暖かく柔らかな優しさを持つ人。
そんな従姉に性格悪でなければ勤まらない玉座なんて似合わない。
今までの様に教会で人の為に祈り、讃美歌を歌い、人を癒すのが似合う。
冷たい玉座も、王冠も、あの人にはまったく似合わない。
あの人は陽だまりの中ででも、微笑んでいるのが一番似合うの人だ。
だから、私は皇王になる。
あの優しい人を守る為に。
私は異母兄である兄上のように火の属性は持っていない。
魔術師としての才能もないが、兄も皇家の色は持っていないし、
軍事ならともかく治世能力はこちらの方が上だ。
戦時ならともかく天下泰平の今なら私が有利だ。
従姉の事は、気に食わないわけではないのだが、
陛下に文句を言わないで従っているのが気に食わない。
陛下はあの人を兄上の未来の皇妃にしようとしている。
本人達の意向は無視して。
しかも従姉に知らせず、あの優しい人をこの氷の玉座に縛りつけようとしている。
あんな優しい人はここにいるのは似合わない。
能力もあって、民の支持も厚くて、優しくて、誰よりも心が綺麗な人なのに。
陛下に甘んじて、籠の鳥になっている。
それだけが優しいあの人の中で激しく気に食わない。
幼かった私と兄がそれに気付いた時、同時に決めたことがある。
どちらかが皇王になり、従姉上をこんな冷たい豪華な籠から出す、と。
陛下には絶対に邪魔はさせない。
あの人にはこんな豪華な冷たい場所よりも、木漏れ日の当たる暖かな陽だまりが似合うのだ。
(だって、従姉上はあんなにもお優しい)
次回は、皇子を出したいです。