↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄ハーレム、崩壊記〜その娘が父の裏の顔を暴き、超えるまで〜  作者: 水戸直樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/71

第26話 矛先

「初日で銅等級って、そりゃあ、大したもんだなあ。冒険者って『三年で鉄、十年で銅』の世界だろ?」


 店主は笑った。


「ええ。ただ、話はこれからよ。待っていて、とだけ言っておくわね」


「そうかい。返事はいつでもいいさ」


 火を落としながら、店主は言った。


「こっちも、まだギルドに票一枚出せてねえんだからな」


 鉄板の上で、残り火が縮んでいく。


 水をかけると、白い湯気が屋台の屋根まで立ち上った。


 店主が天幕の紐を解きはじめる。


 二人は、その灯りを背にして歩き出した。


 包みの角から、油が滲みはじめていた。


 ◇


 夜の街を、馬車が進んでいく。


 窓の外を眺めながら、リリアはぽつりとつぶやいた。


「メイさん……。父の傭兵がグレンス商会と……また、みんなに迷惑を……」


 ほとんど揺れのない車内。


 目の前で、メイは持ち帰りのパイを食べていた。


 一口ごとに、目が閉じられる。頬が、ゆっくり動く。


「あの、メイさん?」


「え?」


「あの! わたし、屋台の護衛依頼、受けて大丈夫でしょうか? 父のツテなら、わたしにも関係が……」


 リリアは懐から、銅等級の徽章を取り出した。


 登録した日に、受付の奥から渡されたもの。


 親指の腹で、縁をなぞる。


 もらったときより、少しだけ重く感じた。


「リリア。屋台のご主人の話は本当だと思う。でも」


 包み紙の端をたたんだ。


「見極めが必要かもしれない。わたくしたちのように力を持つ者は、矛先を間違えてはいけないから」


「……はい」


「素直に守るのか、一気に攻めるのか。あなた自身の目で見て、その上で決めてほしい」


 それ以上は、返ってこなかった。


 メイは、もう一つの包みを開けている。


 油紙が割れて、匂いが上がった。頬が緩んでいく。目が、また閉じられた。


(メイさん、幸せそうに食べるなぁ……)


 リリアは、窓の外に視線を戻した。


 人通りは、ほとんどない。


 通りの先に、幌馬車が一台。


(立派な幌馬車。……珍しいな、こんな時間に)


 御者台の脇で、ランタンが揺れている。


 光が、幌の側面を撫でていった。


 刻まれていたのは、見覚えのある紋章。


(グレンス商会……!)


 車輪の向きが、変わる。


 向かう先は、港。


「メイさん! あれ! 先に行きます!」


 リリアは握っていた銅徽章を胸元に留めると、走行中の馬車の扉を押し開けた。


 パイ包みを口から離したメイが、頬を膨らませたまま応える。


「まぁえう ぁおぁあぃふぁ」


 ――任せる。あとから行くわ。


「任されました!」


 リリアは夜の風の中へと飛び出した。


 ◇


 着地の音は、しなかった。


 石畳を二歩で掴み、そのまま路地へ折れる。


 幌馬車は、表通りを大回りしていくはずだった。


 港へ下りる道なら、坂のほうが近い。


 納めの日に、荷車を押して上った道だ。


 継ぎ目の欠けた敷石も、途中で曲がる角も、足が覚えている。


 塀に手をかけて、屋根へ。


 瓦を鳴らさずに渡り、洗濯物のロープを跨いだ。


 眼下で、車輪の音が遠ざかっていく。


 追い越していた。


 風が、下から吹き上げてくる。


 潮の匂い。


 浮き家の灯りが、ひとつ、ふたつ。


 水の上で、揺れていた。


 リリアは、桟橋を見下ろす倉庫の陰に降りた。


 膝を落とし、息を整える。


 やがて、車輪の音が近づいてきた。


 幌馬車は、桟橋の手前で止まった。


 御者が飛び降り、後ろへ回る。


 幌が、はね上げられた。


 若い男と、女ばかり五人が出てきた。


 一人は、男の手を握っている。


 男は背後を振り返りながら、握られた手を引く。


「追手はいない。……浮き家の宿へ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。