第1話 LEVEL1
ここは、アフレド大陸北部にある小さな農村
普段は穏やかな農村がここ数ヶ月お祭り騒ぎになっている
――勇者祭
なんの変哲もない小さな農村に訪れた勇者様
女神イシスの信託と加護を受け、この世界に生まれた奇跡
その左手甲には勇者紋が現れ、髪の毛は黄金に輝き、眼差しは清く透き通り、大地の精霊に愛されしその肉体は想像を絶する生命力を持つとされる
そして、どんな困難にも挫けぬ強靭な意思
――悪魔の誘惑にも屈しない強い精神
――助けを求める人々を見過ごせない優しき慈愛の心
それこそが、勇者
そんな勇者の魔王討伐に必要な武具が眠るとされる、超難関洞窟へと挑むため逗留しているのが、この小さな農村「コジマリ村」だ
「うわぁ――勇者様だ!カッコイイ!」「俺も大きくなったら、アザル様の仲間にしてもらうんだ!」「私はアザル様のお嫁さん!」
この村の子供は数こそ少ないが、その全員が勇者アザルに憧れていた。
「やぁ元気かい?」
黄金に輝く髪の毛と青い瞳を持つ青年が笑顔で軽く子供らに手を振ると
「うわぁぁぁぁ!」「やったぁ!俺に声かけてくれた!」「キャァァァ――アザル様ぁぁぁ!」
子供だけでなく村中の男も、女も全て勇者アザルに歓声を上げる
この村の人々は皆アザルに夢中だった
そのアザルは、手にリンゴを持ち子供らに近寄ると
ポ――ンと軽く宙に放りなげ
カチャ
腰に下げた剣の柄に手をかけた
「・・・・・・・」
柄から手を放し先ほど放り投げたリンゴを手で受けると
パカッと綺麗に4つに割れた
「さぁ君たち一つずつどうぞ」
アザルは笑顔で子供たちに手の上にある4等分のリンゴを差し出した
「すっげ―――!」「アザル様の剣技、俺全然見えなかった!」「あれが女神の加護を受けた聖剣エクスカバ!?」
感動する子供らの背後で、村人たちは大歓声と拍手でアザルを称える
「フフフ、皆さんお恥ずかしい、こんなの大道芸ですよ――それでは、僕はこれで」
恥ずかしそうに顔を赤くし頭を掻きながら、この村で唯一の宿屋の中へと入っていくアザル
「ア、アザル様、本日はどちらに?」
顔を赤くし瞳を潤ましながらオズオズとそう尋ねる宿屋の看板娘…中々の美人だ
「本日も北の魔の森で魔物退治をしてました。超難関洞窟へ挑むため、もう少しレベルアップしたいので…」
キラッ!
磨き上げた白い歯を見せ笑顔でそう答えると、宿屋の娘はゆでタコの様に顔から湯気を上げその場でヘナヘナとへたり込んだ。
ガチャ
宿屋の2階、一番奥の一番大きな部屋が勇者アザルの宿泊先である…
アザルはその大きめのドアを開け部屋の中に入ると
「あぁ―――ダリィ――」
アザルはベッドへ頭からタイブした
腰に刺した剣をベルトごと外すと、部屋の隅に放り投げる
「でも、勇者ってだけでタダで宿にとまれて、タダで飯が食えて、女にモテて、村人にチヤホヤされんだからな―――」
「これだから偽勇者はやめれねぇ―――アハハハハ」
―――そう、この勇者は、まっかな偽物
女神の信託と加護の証だと、自ら焼きごてで付けた左手甲の「勇者紋」紛いを使って、各地の小さな村々を転々としながら無銭飲食と無銭宿泊を繰り返してる小悪党
幸いにして瞳の色は伝承と同じで青かったが、元々茶色いかった地毛を怪しい行商から購入した「金ピカ液※人体に使用しないで下さい」というメッキ剤で染め
これまた怪しい武器屋で購入した、刃こぼれしてる中古ブロードソードを聖剣エクスカバだと風潮して回ってるこの男
勇者アザルを名乗ってるが、本名はロキという
なぜ偽名かと言うと、理由は単純
勇者の名前に最も共通するのは、カタカナ三文字でなおかつ最初に「ア」が来て最後に「ル」がくる名前が多いから。
まぁ「アベル」とか「アドル」とか「アイル」とか…アイルはちょっと違うか。
――本当にただそれだけの理由
先程見せたリンゴを切った技も、最初から切っておいたリンゴを米粒で貼り合わせていただけ
剣技も魔法もてんでダメなロキだが、ペテン(詐欺)スキルには自信があった
「田舎のガキ共は都会のクソガキ共と違って、擦れて無いからな―――騙しやすいぜ!」
「ん?」
ロキの宿泊する宿屋に向って先ほどの子供たちが両手を振っているのが見えた
――その奥で他の村人とは明らかに違う濁った視線
この村の村長であるソンチョ
中年太りした頭はハゲあがり、そのくせヒゲ面と強面の男
「この村もそろそろ潮時かな…」
――遡ること数刻前
「アザル様、本日も北の魔の森付近通過しようとしていた行商の馬車が魔物に襲われまして…」
この村の南部は険しい山岳に囲まれており、南方にある街と交易にはその険しい山岳を超えるか、北部の街道を使い迂回する必要がある
当然だが岩肌が剥き出しの険しい山岳は、徒歩であれば超える事は難しく無いが、馬車を使うには無理がある
となれば、距離は遠回りになったとしても北の街道を迂回するルートが一般的
しかし、先の通りここ数十年、北の森は魔性が強まり、魔性で強化された魔物があふれる魔の森へと変わってしまった。
今までは冒険者ギルドへ依頼し、ハンターを派遣してもらうなどで対応していたが…
当然ながらその報酬は、村が全額負担することになる
農作物しか収入源の無い小さな農村には、頻繁に冒険者ギルドへ依頼出来るような資金力はない
そこに現れたのが勇者アザル
当然ながら村人は歓喜…勇者とは、助けを求める人々を見過ごせない優しき慈愛の心の持ち主
勇者アザルは村人の期待に応え、北の魔の森の魔物討伐をかって出てくれた
――だが、いっこうに魔物の被害は無くならない
当然疑念を持つ者が現れる…
「アザル様が連日のように北の魔の森に魔物を狩りに出向かれておられるのに…これは…」
村長はハッキリとは口にしないが、本心は誰でもわかる
(本当は勇者アザルは、北の森で何もしてないんじゃないか?)…と
そして、それは――
(まぁそうだよね――、だって俺、魔の森で終日、隠密スキルを使って木の上で寝てるだけだもんねーー)
「それは、私の力不足です!申し訳ない…不甲斐ない自分が呪わしい…クッ、こんな事では魔王討伐など夢のまた夢」
「かくなる上は、この村を出てさらに強力な魔物が生息するという東部の村に向うしか…」
ロキがそう口にすると、村長は慌てて取り繕う
「お、お待ちください、今勇者様に出て行かれたらこの村に冒険者を雇うお金は御座いません、どうか!」
「クッ…このような菲才の身に過分な期待を…分かりました、今度かさらに森の奥へと潜りましょう!」
「おぉぉぉ!女神よーーー感謝します、我らに勇者アザル様をお使わしになられたこと!」
(クククク……はぁーーチョロイチョロイ、もう暫くこの村でチヤホヤ接待して貰ってから、東の村へ流れるかぁーーー)
――ロキは部屋のカーテンを閉める
「これは、身バレするのも時間の問題だな…せめて、この中古のブロードソードと金髪に使った禁忌薬の金を回収したかったんだがな……」
「早急にこの村とおさらばするか」




