第二十話『届いた声と選択の意味』
絶望は、外から来るものではない。
それは、静かに心の中に入り込み、
やがて“真実”のように語り始める。
その声に従うか。
それとも、抗うか。
選ぶのは――いつも自分だ。
夜の静けさが、再び寺を包んでいた。
レオンたちは、もう一度その場所へ戻っていた。
昼間と変わらぬ風景。
だが――空気は明らかに重い。
僧は静かに彼らを迎える。
「……戻られましたか」
ララが一歩前に出る。
「はい。少し話を聞かせてください」
僧はゆっくりと頷く。
その表情は、さらに疲れていた。
「……今夜も、来ました」
沈黙。
ナンドが腕を組む。
「影か?」
僧は首を振る。
「いいえ……今回は違います」
その声は低かった。
「“声”です」
全員の視線が集まる。
「姿は見えません。ただ、頭の中に直接……語りかけてくるのです」
レニが眉をひそめる。
「なんて言ってやがる」
僧は目を閉じる。
そして、ゆっくりと言葉を再現する。
「……“抗うな”と」
空気が冷たくなる。
「“これは避けられぬ流れ”だと」
ララの手がわずかに震える。
「……それだけじゃありませんよね」
僧は頷く。
そして、最も重い言葉を口にした。
「“創造主は、この地を再び手放した”と」
沈黙。
風の音すら消える。
ナンドが低く呟く。
「……なんだそれ」
僧の声が震える。
「“もはや、子ですら救えぬ”と……」
レオンの目が細くなる。
「……言わせてるな」
ジラが静かに前へ出る。
その目は冷静だった。
「これは……侵食」
全員が彼女を見る。
「心に語りかけてる。恐怖じゃなく、“諦め”を植え付けてる」
レニが舌打ちする。
「洗脳ってことか」
ジラは首を横に振る。
「もっと厄介」
その声は低い。
「自分の意思だと思わせる」
沈黙。
ララが小さく言う。
「じゃあ……」
ジラは続ける。
「腐った心ほど、強く反応する」
ナンドが理解する。
「……そこに入り込むのか」
「そう」
ジラの目が鋭くなる。
「ポセイドンは、“器”を選んでる」
レオンが静かに言う。
「……力を集めてる」
僧が不安そうに問いかける。
「では……本当に、もう救いは……」
その言葉を、レオンが遮る。
「ある」
一言。
強く。
「俺たちが来た意味が、それだ」
沈黙。
僧の目に、わずかな光が戻る。
ララが優しく続ける。
「諦めなければ、終わりじゃありません」
ナンドが笑う。
「簡単に終わらせる気はねぇよ」
レニも小さく言う。
「……まだ燃えてる」
ジラは静かに考える。
そして――口を開く。
「……戻るべき場所がある」
全員が彼女を見る。
「橋の上で会った男」
レオンの目が鋭くなる。
「……ポセイドンが使った器」
ジラは頷く。
「あの人、まだ繋がってる」
ナンドが拳を鳴らす。
「つまり……手がかりってことか」
ララが言う。
「もしかしたら、他の人たちとも繋がってるかもしれない」
レニがニヤッとする。
「根っこ辿れるってわけだ」
レオンはゆっくり頷いた。
「……行くぞ」
空気が変わる。
迷いが消える。
僧が深く頭を下げる。
「どうか……この地を」
レオンは振り返らない。
ただ、静かに答える。
「終わらせる」
夜が深まる。
だが――
その中で、確かに“光”は動き始めていた。
第ニ十話を読んでいただき、ありがとうございます。
このエピソードでは、「絶望の声」と「選択の意味」をテーマに描きました。
敵は力だけではなく、人の心に直接干渉し、“諦め”を広げています。
そして物語は次の段階へ――
原因の核心へと迫っていきます。
作者より
本作は現在、瀬戸内地域を舞台とした特別編として展開されています。
コンテスト参加作品のため、この地域に焦点を当てた物語となっています。
より深い物語の全体像や結末については、
作者ページにて公開されている本編『Anjo Negro』をご覧ください。
物語の本格的な展開は第7シーズンから大きく動きますが、
キャラクターの背景や関係性をより深く理解するためには、
ぜひ最初からのご覧をおすすめします。
引き続き、応援よろしくお願いいたします。




