第十五話『止まった街の気配』
人が集まる場所には、必ず空気がある。
笑い、声、匂い――それらが重なり、その土地の“日常”を作る。
だが、その日常が、もし静かに崩れていたとしたら。
人は、それに気づけるのだろうか。
船がゆっくりと港に着いた。
目の前に広がるのは、坂の町――尾道。
海と山に囲まれたその街は、どこか懐かしい静けさを持っていた。
ララが少し笑う。
「……きれい」
ナンドが伸びをする。
「やっと飯だな」
レニもため息をつく。
「さすがに腹減った……」
レオンは周囲を見渡す。
「少し休もう。ここで情報も集められる」
ジラは何も言わず、街を見ていた。
――どこか、違和感がある。
彼らは小さな食堂に入った。
木の匂いが残る店内。
温かい空気が迎える。
店主が笑顔で迎えた。
「いらっしゃい。観光かい?」
ララが頷く。
「はい。おすすめはありますか?」
店主は嬉しそうに言う。
「尾道ラーメンだよ。うちの自慢さ」
しばらくして、料理が運ばれてくる。
醤油ベースのスープ。
背脂が浮かび、深い香りが広がる。
ナンドが目を輝かせる。
「うまそうだな……!」
レニも箸を持つ。
「いただきます」
一口。
全員の表情が緩む。
ララが微笑む。
「おいしい……」
レオンも静かに頷く。
「落ち着く味だ」
その時――
ジラの手が止まった。
視線が、外へ向く。
店の前を、一人の男が通る。
ゆっくりとした歩き方。
だが、その目が――
一瞬、店の中を見た。
その視線が、ジラと合う。
ジラの背筋に冷たいものが走る。
「……今の」
ナンドが振り向く。
「どうした?」
ジラは小さく首を振る。
「気のせい……じゃない」
レオンが外を見る。
人通りは普通だ。
だが――
どこか、妙に静かだった。
レニが呟く。
「さっきの奴……なんか変じゃなかったか?」
その時、別の客が立ち上がる。
何も言わず、外へ出ていく。
そして、また一人。
また一人。
ジラの目が鋭くなる。
「……おかしい」
ララが不安そうに言う。
「何が……?」
ジラの声は低い。
「人の流れが……同じ」
沈黙。
レオンが立ち上がる。
「外に出る」
全員が店を出る。
――街。
夕暮れのはずだった。
だが。
風が止まっている。
人々が、ゆっくりと歩いている。
全員が同じ方向へ。
そして――
一斉に止まった。
空気が凍る。
ララが息を呑む。
「……動かない」
ナンドが拳を握る。
「なんだこれ……」
ジラが一歩前に出る。
「……支配されてる」
その瞬間。
全員の顔が、ゆっくりとこちらを向く。
無表情。
だが――
目だけが、黒く染まっている。
レニの炎が揺れる。
「……来るぞ」
レオンは静かに前に出る。
「全員、下がれ」
空が暗くなる。
街の音が消える。
完全な静寂。
そして――
時間が、止まった。
ジラの声が響く。
「……始まる」
レオンが剣に手をかける。
その目は、すでに戦いの覚悟を決めていた。
第十五話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は尾道という実在の街を舞台に、
「日常の中に潜む異変」をテーマに描きました。
食事という安心できる時間から、徐々に違和感へと変わる流れを意識しています。
また、ジラの観察力がより重要になり、
敵の影響が“人”にまで広がっていることが明らかになりました。
次回は、止まった街での戦闘が本格的に始まります。




